ちょっと読みづらいかもしれません。ご了承ください。
「そう……わかったわ」
俺の考えは変わらないとわかったのかレミリアはそっとため息を吐いて椅子の背もたれに背中を預けた。
「そうね。何から話そうかしら。うん。まずは彼との出会いから話しましょうか。あれは何年前だったかな……幻想郷に来たばかりの私は人間を見つけては食い散らかしてた。手当たり次第にね。その1人にいたのよ、彼が。普通私を見た人間は恐怖し震えてた。でも、彼は違った。私を見た時、なんて言ったと思う?」
当時のことを思い出しているのか彼女は微笑みながら紅茶の入ったカップを傾ける。
「『美しい』だって。思わず、殺そうとした手を止めてしまったわ。しばらく見つめ合っていたら急に彼は私に手を伸ばして『好きです』と告白して来た」
「それはまた……突然だな」
「元々変人だったのよ。当時の私もそんなこと言われるとは思わなかったから……何を思ったのかそいつを生かしたまま、自分の家に連れて行っちゃったわ」
「お持ち帰りって奴?」
隣でクッキーを食べながら呟いたフランの脳天に軽くチョップする。『あでっ』と涙目になってフランは俺に抗議の視線を送って来るが無視。
「それからは……適当に暮らしたわね。私が人間を食って帰って来たらおかえりって迎えてくれた。今でも不思議よ。こんな私のどこに惚れたのか」
「……でも、お前もそいつのことが好きだったんじゃないか?」
さとりの能力でリョウの過去を覗いた時のレミリアの顔はとても幸せそうだった。
「ええ。そうね。私もいつの間にか彼を愛していた。ずっと傍にいたいと思った……そして、提案したの。『吸血鬼にならないか』って」
「……あ。そう言えば、あの本の話」
フランの呟きで俺も思い出した。子供の頃、フランに読み聞かせしたあの本はレミリアの話だった。そして、その本の結末だけ変えた。
「その様子だとパチェから何か聞いてるようね」
「ああ。あの本はレミリアの話で結末だけ変えたって」
「ええ、その通り。私はあえて物語の結末を変えて欲しいってお願いした。フランに後悔して欲しくなかったから」
カップに入っていた紅茶を飲み干して一息つくレミリア。
「……彼が死にそうになった時、私は血を飲ませた。無断で、ね」
「……それで、どうなったんだ?」
「彼は息を吹き返したわ。しかも、若返った。それで気付いたんでしょうね。自分の体内に吸血鬼の血が混じってしまったと。私が飲ませた血の量は少なかったからすぐに吸血鬼にならなかったけど、いずれ吸血鬼になってしまうと。それからは想像出来ると思うけど、私たちはすれ違ってしまった。いつの間にか彼は私の前から消えたわ」
「そうか」
リョウはレミリアの提案を断っていた。それなのにレミリアに吸血鬼にされてしまった。怒るのも無理はない。人間から人外にされてしまったのだから。
「とりあえず、私とリョウの関係は元恋人……みたいな感じかしらね」
「質問いいか?」
「どうぞ」
「今のリョウはお前やフランぐらいの女の子だ。でも、リョウは男だった。女になった原因はわかるか?」
「多分、吸血鬼の血のせいね。吸血鬼は人間を襲いやすいように美しい外見を持っていることが多いわ。でも、リョウは……私の血の影響を受け過ぎちゃったのね。染色体が汚染され、性別が女になってしまった」
そう言えば、昔ここで読んだ吸血鬼について書かれた本に『吸血鬼の血は人間の血を喰い、汚染する』と書かれていた。それに俺自身も吸血鬼の血が少しだけ混じっている。今はまだ人間だが、いずれ吸血鬼になると言われた。リョウも吸血鬼の血に人間の血を食い殺されてしまい、吸血鬼になってしまったのだろう。
「……んー」
その時、フランが腕を組みながら唸った。
「どうした?」
「あ、いや……リョウが女の子になった理由ってお姉様の血が強かったからだよね?」
「ええ、そうよ」
「吸血鬼の血ってすごいなーって。男から女になるなんて。それに……」
何故かフランは言葉を区切る。何か言いにくそうに。
「言ってみろよ」
「響って私の血を飲んじゃったでしょ? だから、いずれ女の子になっちゃうのかなって」
「まさかそんなわけ……ッ」
待て。思い出せ。俺が読んだ吸血鬼の本にはなんて書いてあった。そして、俺は思い立ってしまう。
「響、何か気付いたの?」
「……ありえない」
「言ってみなさいよ」
「嫌だ。絶対言わない」
言ってしまったら認めてしまいそうだったから。だが、それだけは嫌だった。
「ここでおさらいといきましょう。フラン、吸血鬼について教えてくれる?」
「え? 吸血鬼?」
「そう。吸血鬼について」
「えっと……吸血鬼は人間の血を飲む。身体能力が高い。でも、太陽や流水が苦手で蝙蝠になったりできる人もいる。あとは、自分の眷属……まぁ、下僕みたいな存在を作ることができて匂いで眷属がどこにいるのかだいたいわかる。あとはさっき言ったように吸血鬼の血を飲まされた人間は拒絶反応を起こして死ぬか、生きててもいずれ吸血鬼になっちゃう。それと子供ができない」
「そこまででいいわ」
レミリアは無表情のまま、俺を見つめる。
「響……もうわかってるんでしょ?」
「……」
「私の考えも貴方の考えも結局のところ推測……でも、私は当たってる気がする。貴方だって当たってると思うからこそ黙ってるのでしょう?」
「ね、ねぇ! さっきから私だけのけ者にして! どういう事なの!?」
我慢できなくなったのかフランが大声を上げて抗議して来た。でも、俺は答える気などない。
「……ずっと前から気になってた。どうして、フランの血を飲む前から吸血鬼の血が混ざっていたのか。どうして、フランの血をすんなりと受け入れたのか。どうして、何年も経っているのに吸血鬼化がほとんど進んでいないのか。どうして、リョウは貴方を狙うのか。どうして――貴方の顔は“女顔”なのか」
「ッ……」
「全ては繋がっていた。簡単なことだったのよ。リョウは――」
「黙れッ!」
叫びながら右拳をテーブルに叩き付けた。テーブルは粉々に砕け、俺の右拳に木片が突き刺さり、紅い血が漏れる。
「リョウは私を憎んでいる。吸血鬼にさせられ、女の子にされたから。そして、貴方を見つけた。匂いでわかったのよ」
「やめろ……」
「貴方を見つけたリョウはすぐに殺すことを決意した。そりゃそうでしょうね」
「やめろおおおおおおおおお!!」
「だって、憎んでいる私の血が混じっている自分の血を受け継いだ息子なんだもの」
「……」
言ってしまった。レミリアは俺が考えた最悪のケースを口に出してしまった。
「え、ええ? リョウがお兄様の親? どういう事?」
「フラン。さっき貴女が言った中に答えがあるわ」
「へ?」
混乱しているのかフランは首を傾げて呻く。
「……眷属ってのは主人の血を自分の体内に入れて作られる。つまり、吸血鬼が眷属の匂いがわかるのは“自分の血の匂い”がするからだ。眷属から漏れる自分の血の匂いで判断してる」
「あら、説明する気になったの?」
「もう、誤魔化せないだろ……」
リョウは俺から漏れる自分の血の匂いでわかったのだろう。リョウ自身、吸血鬼になることは望んでいなかった。眷属など作らないはずだ。憎んでいる女の血を受け継ぐ奴なんか増やしたくないに決まっているから。それに言っていた。
――お前はあたしにとって汚点なんだよ。お前が生きてたらあたしはずっと、縛られたままなんだ。
「もし、リョウが俺の親なら全て納得できる。俺の血に最初から吸血鬼の血が混じってたのは吸血鬼の血が混じっていたリョウの息子だから。フランの血を受け入れられたのはレミリアの血が俺の体内にあったから。お前たちは姉妹だからな。他の奴の血よりも受け入れやすいだろう。吸血鬼化がほとんど進んでいないのは俺の体が吸血鬼の血に慣れているから。リョウが俺を狙うのはレミリアが言った通り。そして、俺が女顔なのはレミリアの血の影響が出ているから。ほら……全て辻褄が合う」
「……本当に世間って狭いわね。リョウに血を飲ませた私の前に響がいるって」
ため息を吐くレミリアはどこか悲しげだった。
「お前は、いつから気付いてた?」
「そうね……少なくとも望がここに初めて来た時には何となくそうかもって」
数年前の話だ。もうその頃からレミリアは勘付いていた。
「それで、どうするの? 自分の親かもしれない相手だってわかったけど」
「……決まってる。戦って真相を確かめる」
「……言っておくけど、リョウは強いわよ? まだ仲がよかった頃、私を外に出したいからって色々な術式を学んで『影に干渉する程度の能力』を手に入れたんだから。今じゃ本当の吸血鬼になったリョウでもその能力のおかげで太陽の下を歩けるし、色々な術式を組み合わせた術を使って来る。何が起こるかわからないわ」
それでもやらなくてはならない。相手が親かもしれなくても俺を殺しに来ているのには変わらない。黙って殺されるわけにはいかないのだ。
「今日は帰る」
「……響」
席を立った俺にレミリアは静かに声をかけた。返事せずに視線だけを送る。
「使いなさい」
そう言って1枚のスペルカードを投げて来た。それは『シンクロ』。いつの間にか発現していたようだ。
「いいのか?」
「私だってリョウに文句があるのよ。黙って消えたことを後悔させてあげるわ」
『今更恋人にはなりたくないけどね』と呟くレミリアの口元は微笑んでいた。
「……そうだな。一緒に倒すか」
「ええ。そうしましょう」
「それじゃ、よろしく」
「よろしく」
後日、リョウを倒すための作戦を練る約束をし、俺は紅魔館を後にした。
響さんが男の娘だった理由が明らかになりました。
なお、吸血鬼の設定はとある小説を参考にさせていただいています。
その小説に関してはいずれお話しするとして……この時点でその小説が何かわかった人、いますかね?
次回、リョウとの戦闘……前の会話です。