東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第305話 魂同調の真骨頂

 リョウの影刀が俺の頬を掠める。少しだけ血が出たが気にせず右の『回界』を振るう。それを彼女は左の影刀で受け止めた。甲高い音が響き、火花が散る。硬直状態が続くもツインテールを操作してリョウの背中を狙う。

「『柵影』」

 だが、彼女の影が伸びて柵となって俺のツインテールを防いだ。

「さっきからそんなぬるい攻撃ばっかでいいのか?」

 顔を歪ませながら言うリョウ。でも、俺はそれを無視して左の『回界』を上に投げた。そして、急降下させる。

「『影潜り』」

 俺の攻撃を影に潜って回避した。今、俺たちは空中にいるのだが、リョウの影は地面にある。つまり――。

「『影針』」

「ッ!」

 地上から伸びて来た影の針を右手の『回界』で防御する。しかし、その影の針に潜り込んでいたのか影の針から飛び出したリョウが『回界』を迂回して俺の眉間に影刀を伸ばした。

「光撃『眩い光』!」

 咄嗟に『光撃』を放って影を変える。リョウの弱点は急激に影を変えられると伸ばしていた影がリセットされてしまうことだ。『光撃』は強い光を放つ技。この技があったから今までほぼ無傷でやり過ごせていた。まぁ、俺の攻撃もことごとく無効化されているのだが。

 そのまま左手から妖力を飛ばして後退した。

「……はぁ。本当にそれ厄介だ」

 攻撃が不発に終わり、リョウはため息を吐くが押されているのは俺だ。『光撃』で何とか致命傷を受けていないだけで何度も背筋が凍りつく場面があった。雅たちに力を借りようにも影に干渉されて攻撃されてしまうし、干渉系の能力が効かないのは俺だけなので翠炎が出て来ても同じことが起きてしまう。それに今回の作戦で翠炎が鍵となる。無闇に手札を見せるべきではない。

「なんでわざわざ技名を言うんだ?」

 時間稼ぎ目的で気になった事を質問する。スペルカードでもないし、そもそもこれは弾幕ごっこではない。なので、技名を言わなくてもいいのだ。俺の場合、スペルカードを使えば技を使う時の処理が通常よりも少なくなるから使うこともあるが。

「……お前に精神を壊されたせいでまだ不安定なんだよ。技名言わないと安定しない」

 前、リョウと戦った時に使った技のせいで彼女は精神が壊れた。その後遺症が残っているらしい。

「よくそこまで立ち直ったな。どうやった?」

「お前には関係ない。それよりそろそろ夕方になるけど……いいのか? このままダラダラと戦ってて。夜になれば影も増えて更に手数が増えるぞ」

 影刀を影から引っ張り出しながら問いかけるリョウ。戦闘が始まってすでに数時間ほど経っている。太陽は沈みかけていて地面にある俺たちの影は最初の頃よりずいぶんと伸びた。このまま戦っていても余計不利になるだけ。それに俺の地力もかなり消費している。

(潮時か……)

 出来る限り時間稼ぎをしたかったが、無理をしてやられてしまったら意味がない。

(吸血鬼、どうだ?)

 魂の中にいる吸血鬼に声をかけるが帰って来たのは唸り声だった。

『……ごめん、無理そう。今回は諦めるわ』

(そうか……トール、行くぞ)

『うむ』

 今まで吸血鬼と『魂同調』したことがなかった。なので、この数日間、何度も吸血鬼と『魂同調』しようとしたができなかった。その原因は不明。今もできそうか聞いたが無理そうだった。仕方ない。今回は諦めよう。

「魂同調『トール』!」

 俺を覆うように電撃が迸り、トールと『魂同調』する。髪は紅く染まり身長も少しだけ伸びた。

「やっと使って来たか」

 俺が『魂同調』を使って来ると予想していたのかリョウは一息吐いて目を閉じる。そして、何かブツブツと言葉を紡ぎ出した。

『響! 何か術式を使おうとしてるわ!』

 いち早く察知した吸血鬼の声を聞いて右の『回界』に雷を纏わせてリョウに向かって飛ばした。普段は『回界』にどんな力を纏わせてもその回転の速さのせいですぐに吹き飛ばしてしまうのだが、『魂同調』をしている今なら『回界』にも纏わせることができる。

「――」

 『回界』が当たる直前、目を開けたリョウの体が白く光った。そのまま、『回界』を左手で掴んだ。どうやら、術式が完成してしまったらしい。舌打ちしていると握力だけで『回界』を粉々にされた。肉体強化系の術式のようだ。

「確かに『魂同調』は強力な技だ……でも、一度でも解除させてしまえば魂に捕らわれて身動きができなくなる」

 ニヤリと笑うリョウだったが、俺はそれを聞いて内心ホッとしていた。まだ彼女は翠炎の効果を知らないのだ。翠炎は一度だけ俺の体を戦う前の状態に戻す――白紙効果がある。それを使えば『魂同調』のデメリットを一度だけだがなかったことにできる。

(でも、リョウは今、さっきよりも強くなった……)

 これも翠炎を使えば無効化は可能だろう。だが、翠炎を使おうとすれば『魂同調』が解除されてしまう。白紙効果は戦う前の状態に戻すのだが、白紙効果を使わずとも翠炎に触れた瞬間、肉体強化や弱体化、呪いなどは全てなくなってしまう。その中に『魂同調』も含まれる。もし、翠炎に触れて『魂同調』が解除されてしまえばデメリットのみが残るのだ。

 それに翠炎は燃費が悪く、白紙効果は1日に1回。しかも、翠炎をあまり使わなかった場合、使える。先ほどの術式はそこまで力を消費するようなものじゃないようなのでそれを使われる度に翠炎で解除していたら白紙効果は使えなくなってしまう。『魂同調』では到底倒せるとは思えないから翠炎は慎重に使うべきだ。すなわち、リョウの強化術式を解除せずに戦う。

「すぅ……はぁ……」

 リョウは今、俺の出方を見ている。今の内に『フルシンクロ』状態に入ろう。深呼吸してトールと魂波長を合わせる。すると、俺の背中から純白の翼が生えた。綺麗な羽が風に乗って飛んで行く。

「はぁっ!」

 それを見たリョウが一気に突っ込んで来た。彼女の両手には影刀。そして、地面の影から黒い棘が飛び出す。強化されたリョウは目で追うのがやっとなほど速い。それに影刀や黒い棘に込められた力も相当なものだ。普通に防いでも突破されてしまうかもしれない。

『じゃが、我らも強くなっている。そうじゃろう、響?』

(ああ、そうだ)

 地底でリョウたちと戦った頃からまだ数か月しか経っていないが、俺もその中で成長している。『フルシンクロ』状態でも魂波長を合わせた相手と会話できるようになった。ドッペルゲンガーを吸収したことにより地力はもちろん、力のコントロールもしやすくなった。だからこそ、この技が使える。

 

 

 

 

「神手『千手観音』!」

 

 

 

 

 スペルカードを使い、背中に神力で創られた手が何本も出現する。その数は千。手そのものは小さいが数が数なのでかなり神力を消費する。ドッペルゲンガーを吸収しなかったら使うことすらできなかった技だ。更に――。

「拳術『ショットガンフォース』! 飛拳『インパクトジェット』!」

 『拳術』と『飛拳』は自分の手に妖力を纏わせ、一気に放出する技。つまり、『神手』と一緒に使えば『神手』にもその効果が付与される。ただ、猫の妖力(狂気は翠炎になってしまったので妖力を持っているのは猫だけになってしまった)だけでは足りないので闇の力を借りて俺の霊力と吸血鬼の魔力を一度、闇に変換した後、妖力にしてそれを使っている。普段なら青竜の霊力と神力も使うのだが、『四神憑依』でかなり消費したので今回は力の供給に参加しなかった。

「おらっ!!」

 千の内、200の手を右に、もう200を下に向けてインパクト。俺の体は左へスライドして黒い棘を回避しつつ、体をぐるりと横回転させる。それを見てリョウが目を丸くする。そのまま300を真後ろへ向けてインパクトして前進する。そして、残った300の手を一箇所に集めて俺の体が回転したことにより生まれた遠心力を乗せながら一気に振り降ろす。

「ぐっ……」

 慌てて影を集めてガードするリョウだったが、いとも簡単に300の手に影の壁を破壊されて直撃する。インパクトは影の壁を破壊する時に使ったのでリョウ本人にはインパクトできなかったがそれでも300の手に殴られた彼女は凄まじい勢いで地面に叩き付けられた。その威力に地面が陥没し、割れる。

「『魂同調』は切り札だ。使うタイミングを間違えれば死ぬだろう。だからこそ、本気で行く。死なないために――いや、生き残るために」

 割れた地面から這い出てくるリョウに向かって告げた。それと同時に太陽が沈み、もうすぐ夜が来る。リョウは吸血鬼だ。たとえ、影に干渉する能力を得て太陽の下を歩けるようになったとしても夜の方が強くなる。ここからが本番だ。

 


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