東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第306話 影使い

 一度、地面に降りてリョウと睨み合う。向こうは口でも切れたのか口の端から血を流していた。すぐに拭って口の中にたまった血を地面に吐き出す。血が流れて来ないことから吸血鬼特有の治癒力ですでに傷は治っているのだろう。

『響……』

 その時、吸血鬼が言い辛そうに俺の名前を呼んだ。

(ああ、わかってる)

 先ほど『神手』と『拳術』、『飛拳』のコンボを試してみたが、想像以上に神力と妖力を使ってしまった。このまま戦ってもすぐにガス欠を起こす。

「神術『神力ブースト』!」

 神力を水増しする。俺の体が白いオーラに覆われたのを見てリョウも小さく言葉を紡ぎ、術式を完成させた。前に使った術式もそうだがリョウの使う術式は見たこともない。いや、ところどころ知っている箇所もあるのだが、ほとんどは知らない物ばかりだ。

「そんなに警戒しなくても普通の術式だっての。色々なのが混ざってるけどな」

「混ざってる?」

「お前にかけた呪いと同じだ。本に関してはあいつの友達に借りられたし」

 おそらくパチュリーのことを言っているのだろう。今思い出したがレミリアから聞いた話ではリョウはレミリアを外に連れ出すために色々勉強したそうだ。当時はまだ一緒に暮らしていなかったパチュリーのところへ行き、たくさんの本を借りていた。そして、完成したのが『影に干渉する程度の能力』。その副産物として彼女は様々な分野の技術を手に入れ、それらを組み合わせてより高度な術式を組み上げることができるようになった。

「妖術『妖力ブースト』!」

「――」

 俺が妖力を水増しする。それに合わせてリョウも別の術式を完成させた。お互いの地力が膨れ上がる。

「さてお喋りはこれぐらいにして……最低限の準備はできたんだろ?」

「……ああ」

「『影刀』」

 リョウは自分の影から刀を取り出して構えた。俺も『神手』の100を前に向けて腰を低くする。そして2人同時に駆け出した。

「『抜け影』」

 その途中でリョウの姿が消える。『魔眼』で周囲を確認するが反応はない。

「神波『神の波紋』」

 『神手』を全方向に広げて妖力を全力で放つ。すると上の方で妖力の波が歪んだ。いつの間にか俺の真上に移動していたらしい。200の手を真上に向ける。

「神砲『神々の咆哮』」

 真上に向けた200の手から神力と妖力が合成された極太レーザーが撃ち出された。

「『影跳び』」

 咄嗟に影刀を地面に向かって投げる。影刀が地面に刺さった瞬間、リョウの姿がまた消えた。地面に刺さった影刀に瞬間移動したのだ。

(あんなこともできるのかよ)

 心の中で悪態を吐きながら300の手で地面を殴った。生じた衝撃波が影刀を揺らす。

「ぐっ……」

 急いで影刀から出たリョウだったが、苦しそうに顔を歪めていた。衝撃波に神力と妖力を混ぜておいたのだ。

「霊術『霊力ブースト』!」

 更に地力を底上げして400の手を背後に向けてインパクト。一気にリョウに接近する。

「『飛沫影』」

 影刀を一振りして細かな影を飛ばすリョウ。その細かな影は小さな棘となり俺を襲う。すかさず200の手を前に広げて全ての棘を受け止めた。

「『影跳び』、『抜け影』」

 その時、受け止めた小さな影に跳んだリョウが『神手』をすり抜けて俺の懐に飛び込んだ。『抜け影』は自分の影に潜り込んだ後、影を縮小させて小さな隙間を通り抜ける技のようだ。前に使った時は影を小さくしてあたかも消えたかのように見せかけて凄まじいスピードで俺の真上に移動したのだろう。『魔眼』は周囲の反応を感知できるが真上はあまり得意ではない。そこを利用されたのだ。

「『影仕込み』」

 リョウを捕まえようと『神手』を操作するがその前に影刀が俺の腹部を貫いた。激痛で顔が歪む。反射的に『光撃』で影刀を消し、そのまま『神手』で彼女を突き飛ばす。

「『影打ち』」

 突き飛ばされたリョウはニヤリと笑った後、技を使う。その瞬間、俺の体から黒い棘が何本も生えた。

「ガッ……」

 目の前が真っ白になり、気絶しそうになるが気合で何とか持ち堪える。

 先ほどの『影仕込み』は影刀を相手の体に刺しこみ、影の一部を残す。その後、『影打ち』を発動させて体の内部に残っていた影を操作して攻撃する。俺は干渉系の能力は効かないが『影仕込み』はリョウの影を使っているので俺に干渉していない。俺の体の中に残っていた影もリョウの影だ。だからこそ、俺にも通用したのだ。

「『影縛り』」

 霊力で傷を回復させているとリョウの影が伸びて俺の体を縛り付ける。回復中で逃げることはできなかった。神力の刃を体中から生やして影を斬り、脱出するがその隙にリョウが影刀を投げる。影刀は目の前の地面に突き刺さった。

「『影跳び』」

「神撃『ゴッドハンズ』!」

 再び、俺の懐に潜り込んで来たリョウを大きくした右手で殴りつけた。『神手』は俺の背中から生えているため前に移動させるのに多少時間がかかる。その間にリョウの攻撃を受けてしまうので『神撃』を使ったのだ。

「『影潜り』」

 迫る『神撃』を躱すためにリョウは自分の影に潜る。そのせいで『神撃』は空ぶってしまった。影が地面を滑るように移動し、リョウが飛び出す。その手には影で出来た大きな鋏。

「『影鋏』」

「ッ――」

 大きな鋏を両手で持って俺の体を両断しようとする。霊力ですぐに回復できるとは言え、さすがに体を真っ二つにされるのはまずい。500の『神手』を真下に向けて妖力を放ち、逃走を図る。しかし――。

「なっ」

 右足が何かに捕まっていてそれはできなかった。あの時の『影縛り』だ。多分、俺が神力の刃で影を斬った時、ばれないように右足だけ再度、影を絡まらせていたのだろう。中途半端な高さで硬直していた俺の右足を『影鋏』が捉え、斬り落とされた。膝から下が地面に落ちると共に血が噴水のように溢れ出る。

「あ、ぐ……魔術『魔力ブースト』!!」

 激痛で目の前がぐにゃりと歪むが堪えて最後のブーストを使う。出鱈目に魔法を放ってリョウを遠ざけた。さすがの彼女も逃げるしかなかったようで舌打ちをしながら後退する。

「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしつつ、地面に落ちた右足を掴み、傷口にくっ付けた。

 やはりリョウは強い。『魂同調』とブースト系のスペルを全て使っているのに押されている。太陽も完全に沈み、夜になってしまったせいもあるが何よりリョウの戦闘技術が高いのだ。

(どうするかな……)

 このまま攻めても返り討ちに遭うだけだ。確実に攻撃を当てないといけない。だが、リョウのスピードはかなり速い上、『影跳び』や『影潜り』がある。どうにかしてリョウ自身を捕まえないと。空を飛んで戦うのも手だが、リョウが何も対策を立てていないなんてこともないだろう。

『1つ考えがあるわ』

 どうしようか悩んでいると吸血鬼がアイディアを出してくれた。

「『影跳び』、『影潜り』」

 しかし、それを聞いている途中でリョウがまた影刀を投げて消える。影刀が刺さったのは――俺の左の地面。そっちに向かって『神手』を伸ばすが影刀はすぐに消滅してしまった。

「しまっ――」

 『影跳び』と言ったがリョウはあえてそれを使わずに『影潜り』で自分の影に潜んだ後、地面を移動したのだ。急いで正面を見る。

「『影牢』」

 リョウの影が檻のように俺を囲み、閉じ込めた。『神手』で影の檻を殴って破壊しようとするも『神手』が当たる寸前にその場所が開いて『神手』を回避する。更に『神手』が外に飛び出した後、開いた場所が閉じて『神手』を捕まえた。一瞬の内に『神手』が封じられてしまった。

「『影杭』」

 どうにかして檻から脱出しようとした刹那、檻から何本もの杭が飛び出し俺の体を何度も貫いた。

「ッ――」

 声にならない悲鳴を上げて俺はその場に膝を付く。今までのダメージが蓄積したせいか『魂同調』が解除され、髪が黒に戻る。

「く、そ……」

 消えゆき意識の中、最後に見たのは歪んだ笑みを浮かべたリョウの顔だった。

 


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