東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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Cパート:1話


第316話 運命の出会い

「つまり、ここはマスターが住んでいた世界……幻想郷から見て外の世界ということですか?」

 飛行機を目撃して混乱していた僕だったが、心配そうにしていた桔梗を見てすぐに混乱していた理由を話した。それを聞いた桔梗は目を丸くして驚く。

「うん……でも、どうして外の世界に来ちゃったんだろ? 今までそんなことなかったのに……」

「少なくとも幻想郷内でしたよね? そもそもマスターの時空移動に法則性を見受けられません」

「それさえわかれば色々助かるんだけど……」

 いつも唐突過ぎるのだ。はた迷惑な能力だと思う反面、この能力がなければ桔梗や今まで出会って来た人たちと会うこともなかったのだと能力に感謝している気持ちもある。もうちょっと融通を利かせてくれたら、とは思うが。

「ん?」

 そっとため息を吐いていると不意に桔梗が後ろを振り返った。

「どうしたの?」

「いえ……何か音がしたような気がしまして」

「音?」

 それを聞いて僕も耳を澄ませてみる。すると、何か聞こえた。これは水の音だ。

「水、みたいだね」

「そのようです。水の周囲には人が集まるとも言いますし、そちらに向かってみてはどうでしょう?」

「そうだね。今のところ、行く当てもないし。外の世界だから迂闊に空を飛ぶわけにもいかないもんね」

 もし空を飛んでいるところを見られたら大変だ。下手したら研究所に連れて行かれて解剖されてしまうかもしれない。

「【バイク】で行きますか?」

「……ううん、やめておこう。音大きいし」

 わかりました、と桔梗が頷いたのを見て僕たちは歩いて(桔梗は浮いて)水の音が聞こえた方向へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

「川ですね」

 歩き始めてから少し経って僕たちの目の前に綺麗な川が現れた。太陽の光を水が反射してキラキラと光っている。

「綺麗な川だね。飲めるかな?」

「ちょっと待っていてください」

 こいしさんと出会った時代で薬草を多く食べた桔梗は毒素を探知できるようになっていた。そのため、飲めそうな水を見つけた時には桔梗に飲めるかどうか判断して貰っている。

「……毒素は含まれていません。飲めます」

 川に手を入れた桔梗はすぐに頷く。それを見て僕は手で川の水をすくって飲む。冷たくて美味しい。この時代に来る直前まで森近さんの店で仕事をしていたせいで喉が渇いていたのだ。

「ふぅ……生き返ったー」

「ですが、人の気配はありませんね。外の世界の話はマスターから何度か聞いていましたのでもっと騒がしい世界なのかと思っていました」

「んー、そのはずなんだけど」

 僕たちの頭上を飛行機が通り過ぎたからそこまで辺鄙な土地ではないはずだ。それなのにここまで静かだと本当に外の世界なのか疑ってしまう。

「あ、丁度いい機会だから体、洗っちゃおうかな。この先、綺麗な水があるとは限らないし」

 今までも何度か野宿をして来たので川などで体を洗うことはあった。お風呂のようにお湯を使えないから不便だが下手するとしばらく体を洗えないから綺麗な水源を見つけた時には積極的に水浴びをしている。

「ま、マスター、水浴びをするのですか!? ごくっ……」

 その度に桔梗がちょっとおかしくなるけど。何だか身の危険を感じる。

「えっと……桔梗、出来れば乾いた木を探して来てくれないかな? 太陽もそろそろ沈みそうだし。今日はここで野宿しようかなって」

「へ? あ、はい! 桔梗、マスターのために乾いた木をたくさん集めて来ます!」

 敬礼をした後、ものすごい勢いで桔梗は飛んで行ってしまった。

「外の世界だから見つからないようにねー……って、聞こえてるのかな?」

 まぁ、桔梗のことだからそんなヘマはしないだろう。服を脱いで近くの枝に引っ掛ける。もちろん、尖った部分で服が傷つかないようにした。裸になった僕はゆっくりと川の中へ入る。水の冷たさに驚いて小さく悲鳴を上げてしまったが、次第にそれにも慣れて体の汚れを落とすように体を擦った。石鹸などがあればいいがそんな贅沢は言っていられない。それに前、テレビで石鹸などの化学製品をそのまま川に流すのは駄目だと見たことがある。ここに石鹸があったとしても使わないだろう。

「よっと」

 ある程度体を擦ったら今度は髪だ。少し前までは鬱陶しいと感じていたこの長い髪も今では当たり前になってしまった。髪一本一本を洗うようにゆっくり丁寧に水で洗う。シャンプーがない分、こうやって丁寧に洗わなければボサボサになってしまうのだ。何だか女の子みたい。

(そう言えば……)

 森近さんの店に来た人たちに、『女みたいな髪だな』と言われたことがある。つまり、僕のことを男だとわかっていたのだろう。髪が長くなって改めて鏡を見たら女の子に見えたのだが、大人の人からしたら男に見えるのだろうか。そんなことを考えている内に髪を洗い終わった。後は桔梗が帰って来るまで水に浸かって――。

「そこに誰かいるの?」

 その時、対岸の草むらから僕と同じくらいの少女が顔を覗かせた。自然と目が合う。あまりにも唐突だったので体が硬直してしまった。

「「……」」

 しばらく無言のまま、僕と少女は見つめ合う。裸の僕と草むらにいたからか頭に葉っぱを付けている少女。傍から見たらとてもシュールな光景だろう。

「え、えっと……とりあえず、服着ていい?」

「あ、うん。いいよ」

 僕は少女に見守られながら急いで服を着る。体に付着していた水は手で払い落したが急いでいたため、落とし切れなかったらしく少しだけ気持ち悪かった。桔梗がいれば丁寧に落としてくれたのだが。何故か鼻息荒くして。

「ごめん。待たせちゃったかな」

「それはいいんだけど……話し辛くない?」

 まぁ、川を挟んで話しているから当たり前だ。でも、もう一度服を脱いで対岸に行くわけにもいかない。それに――。

「というより何で草むらから出て来ないの?」

 ――僕と話している少女は草むらから出て来る気配がなかった。まるで、警戒しているかのように。

「……だって、ここに人がいるわけないから」

「え? それってどういう――」

「マスター! 乾いた木、たっくさん持って来ましたよー!」

 詳しい話を聞こうとした時、桔梗が戻って来てしまったらしい。少女は草むらの中にいるので桔梗から見えなかったのだろう。振り返ると乾いた木をこれでもかと持った(片手を【拳】に変形させて巨大化させていた)桔梗が満面の笑みを浮かべてこちらに向かって来ていた。

「あーあ……」

「あれ? マスター、どうしたんで……あ」

「に、人形が……空飛んで、話して」

 面倒なことになりそうだ。自分の失敗を理解して大慌ててしている桔梗とそんな桔梗を見て目をグルグルと回して混乱している少女を見て僕はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大体の話はわかったけど、信じられないよ。時空を移動してるなんて」

「まぁ、そりゃそうだよね」

 桔梗【翼】で対岸に移動した後、僕は未だ草むらに隠れている少女に全てを話した。あのまま誤魔化しても意味ないと“何となく”そう思ったからだ。

「でも、人形は話すし、変形するし……信じるしかないんだよね」

「信じてくれるの?」

「うん。これでも一応、そっち側の話は他の人より詳しい自覚あるから」

「小さいのにすごいね」

「貴方も私と同じくらいだよ?」

 そう言えば僕って5歳だった。何年も経っていると錯覚してしまうほど濃い時間を過ごして来たからすっかり忘れていた。

「これで貴方がここにいる理由がわかった。そりゃ、内側にワープされたら防ぎようないもん」

「内側? 防ぐ?」

「ここは貴方の言ったように外の世界。だけど、私が住んでいる周囲には結界が張ってあるの」

「あー……その結界の内側に僕たちが出て来ちゃったのか」

「そう言うこと」

 少女はくすくすと楽しそうに笑った。どこに笑う要素があったのかわからなくて首を傾げてしまう。

「ごめんね。こうやって男の子と話したの久しぶりだったから。それに」

 そこまで言って彼女は僕の右隣を指さした。そちらを見る。

「むぅ……」

 そこには僕の袖を引っ張って不機嫌そうに浮かんでいる桔梗の姿があった。少女との話に夢中で放っておいたから拗ねているのだろう。

「ゴメンゴメン。忘れてたわけじゃないよ」

「マスターはすぐ女の子と仲良くなります! もうちょっと気を付けてください!」

「気を付ける? 何を?」

「知りませんッ!」

「ふふ、愛されてるんだね」

 そっぽを向いた桔梗を見て不思議に思っていると嬉しそうに笑う少女。

「あ、そう言えば名前言ってなかったね。僕の名前はキョウ。で、こっちが桔梗だよ」

「……桔梗です。よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。キョウ、桔梗」

 まだ拗ねている桔梗の頭を撫でた(草むらから手を伸ばした)彼女はやっと草むらから出て来る。僕の目に飛び込んで来たのは彼女の服装だった。

「巫女服?」

 そう、彼女が来ていたのは巫女服だったのだ。まさかそのような格好をしているとは思わず、驚いてしまう。

「それじゃ私も自己紹介するね。私の名前は霊夢。博麗 霊夢。ここ、博麗神社の巫女見習いをしてるの」

 

 

 

 

 

 これが、僕――『時任 響』と少女――『博麗 霊夢』の出会いだった。

 




Cパート:キョウ

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