東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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お詫びのもう1話です。


第319話 巫女見習い2人

「それじゃ霊夢は博麗神社の巫女になるために修行してるんだ」

「うん。まぁ、あまり乗り気じゃないけど」

 そう言いながら霊夢は邪魔な草を腕で払って進んでいく。その後ろを僕と桔梗はキョロキョロと辺りを見渡ながら追う。そろそろ日が沈む時間なのに行く当てがなかった僕たちを霊夢が神社まで案内してくれることになった。実際には『泊まって行けば?』と言ってくれたのだが素直に頷くことはできなかった。やはりこういうのは保護者の許可を得ないといけない。そう言った結果、とりあえず神社まで行くことになったのだ。

「乗り気じゃない? 何で?」

「だって面倒。修行って言っても瞑想したり、お札を投げたり、結界を張ったりするだけだから」

「本当に修行って感じだね。でも、修行しなきゃ巫女にはなれないんでしょ?」

「別に他にも候補はいるからその子になると思うけど」

 どうやら、巫女見習いは霊夢以外にもいるようだ。競争相手を作って相手に負けないように努力させようとしたのかもしれない。まぁ、霊夢本人はやる気がないから意味なかったようだけど。

「霊夢さんは巫女になりたくないんですか?」

 俺の肩の上に座っている桔梗が問いかける。

「興味ない」

「でも、もう1人の見習いの子は本気なんでしょ?」

「そうね。あれを本気って言わなかったらおかしいぐらい本気。博麗神社の巫女になることが自分の使命だって思ってるみたい」

 博麗神社の巫女になることがどれほど名誉あることなのかわからないが少なくとももう1人の巫女見習いは本気らしい。

(ただ……)

 気になるのは霊夢の態度である。本当に興味がないのだろう。心底どうでもよさそうに話していた。

「そんなことよりキョウのこと教えてよ」

「僕のこと?」

「だって今まで色々な時代に跳んでたんでしょ? なら、私なんかよりずっと面白い話を聞かせてくれるはずよね?」

「なんでハードルあげるかなぁ……そうだね。前、青い怪鳥に襲われたことがあったんだけど」

 それから僕は経験して来た冒険を霊夢に語る。最初の話題として『青い怪鳥との戦い』を選んだのがよかったのかいつしか霊夢は僕の隣に並んで歩いて話を聞いていた。

「へぇ、だから鎌を背負ってるのね」

「うん。こまち先生から貰った大切な物だし、背負ってなかったらその時代に置いて行っちゃうから時空跳躍の時にいつもヒヤヒヤするんだ」

 さすがに森近さんのところで仕事していた時は背負えなかったが。それでもいつでも手を伸ばせる距離に置いていた。

「キョウって本当に色々な経験してるのね……」

「まぁね。いい思い出ばかりじゃないけど」

 思い出すのは咲さんのことだ。もっと僕に力があれば咲さんを死なせずに済んだのではないか。そればかり考えてしまう。でも、もうそれは過ぎてしまったこと。アリスさんの言葉を借りるなら『歴史』になってしまった。僕が時空跳躍して咲さんを助けたら化け物がこの世界を滅ぼしてしまう。それだけは駄目だ。

「ふーん」

 僕の顔を覗き込んで何か察したのか霊夢はそれ以上、何も聞いて来なかった。少しだけ空気が重くなってしまったため、僕たちは無言で歩き続ける。だが、不思議と嫌ではなかった。その理由はわからない。

「あ、見えた」

 疑問に思っていると不意に霊夢が声を漏らした。彼女の視線の先を見れば木々の隙間から見覚えのある神社が見える。

(この神社……)

 そう、よく悟と遊んでいた神社。そして、アリスさんと出会ったあの神社だ。まさか霊夢の言っていた神社がこの神社だとは思わなかった。桔梗も驚いたのか僕の肩から落ちる。地面に激突する前に浮遊してすぐ僕の肩に戻ったが。

「どうしたの?」

 驚きのあまり、歩みを止めていた僕を見て首を傾げる霊夢。

「う、ううん。何でもない……」

 答えるわけにもいかず誤魔化した。もし答えて『歴史』が変わってしまったら化け物が出て来てしまう。

(もしかしたらここ、僕が住んでた場所に近いのかも)

 しかし、問題は悟と遊んだ時もアリスさんに会った時も霊夢の言っていた結界などなかったことだ。そもそもアリスさんと会った場所は幻想郷である。何もかもが噛み合わない。結界の有無。神社の場所。外の世界と幻想郷。この3つが僕を混乱させた。

「あ、そうだ」

 その時、霊夢が僕の方を振り返る。

「ようこそ、博麗神社へ。歓迎するわ」

 そして、微笑みながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通り、神社を案内してくれた後、僕たちは母屋の居間で休憩することにした。

「どうだった?」

「んー……なんか趣があるね」

「古いって言っていいのよ。実際古いし」

 せっかく言葉を選んだのにはっきり霊夢が言ってしまった。まぁ、確かに古いけど僕からしたらこの古さを知っていたのでそこまで気にしていない。

「それにしてもどこに行ったんだろ? キョウの話したかったのに」

 霊夢が淹れてくれたお茶を飲んでいると彼女はボソッと呟いた。

「あ、さっき言ってた巫女見習いの子?」

「ううん、師匠の方。キョウを泊めてもいいか聞きたくて。そうしないと泊まってくれないんでしょ?」

「出来れば泊まりたいけどさすがに、ね。でも、何でそんなに僕を泊めたがるの?」

 気になったことを聞いてみる。僕と彼女が出会ってから1時間も経っていない。普通ならば泊めようと思わないだろう。

「何となく」

 しかし、彼女の返答はあまりにも簡素で納得のできないものだった。

「何となくって……」

「キョウをここに泊めた方がいいって思っただけ。理由まではわからない」

「いや、そんなことって――」

「――あー! 霊夢!」

 僕の言葉を遮るように誰かが叫んだ。声がした方を見ると霊夢と同じ巫女服を着た少女が縁側に両手を突いていた。それを見たのか咄嗟に桔梗は体を硬直させて人形の振りをする。

「霊奈、うるさい」

「だって、修行をサボったくせに男の子とまったりしてるんだもん! お師匠様に言いつけてやる!」

 鬱陶しそうな霊夢を見て更に声を荒げる少女――霊奈。この子が他の巫女見習いのようだ。霊奈は興奮していてこちらの話を聞こうとしていない。少し落ち着かせないと。そのためにも――。

「こんにちは」

 ――挨拶をした。霊夢と違ってまだ幼さが残っているから別の話をすればいくらか落ち着くだろう。

(霊奈が子供っぽいんじゃなくて僕と霊夢が子供っぽくないだけか)

「あ、こんにちはー!」

 苦笑していると僕の挨拶が聞えたのか笑顔を浮かべた霊奈が挨拶を返してくれた。

「僕の名前はキョウ。君は?」

「霊奈は霊奈だよ!」

「霊奈ね。よろしく」

「よろしく!」

 お互いに名前を言い合ったところで霊奈は履物を脱いで縁側から僕たちのいる居間に移動して来た。

「はい、お茶」

「ありがとー」

 流れるような動きで霊奈にお茶を差し出す霊夢。僕が霊奈の気を引いている内に淹れておいたのだろう。

「実はね。僕、今日行くところがなくてどうしようか悩んでたら霊夢に会ってここまで連れて来てくれたんだ。だから、あまり霊夢を怒らないであげて」

「え……キョウ、捨てられたの?」

 霊夢を庇おうとしたが変な勘違いをされてしまったようだ。

「違う違う。僕はちょっと事情があって旅をしてるんだよ。ただちょっと色々あってこの神社に迷い込んじゃって」

「そうなんだ、よかったー。あれ? でも結界は?」

「僕もよくわからないけどなんか入れちゃった」

「ふーん」

 納得したのかしていないのかよくわからないが霊奈はそれ以上何も聞いて来なかった。僕の事情より今はお茶の方が大事らしい。美味しそうにお茶を飲んでまったりしている。

「霊奈、師匠は? キョウを泊めてあげたいからその許可を貰いたいんだけど」

「お師匠様ならお出かけするって言ってどっか行っちゃったよ? しばらく戻って来ないって」

「「……」」

 なんとタイミングの悪い人だ。僕と霊夢は顔を見合わせた後、ため息を吐いた。さて、どうしようか。

「あ、それとキョウ。お師匠様から伝言」

「……僕に?」

「お師匠様が帰って来るまでここにいいって」

「ちょ、ちょっと待って! 何で霊夢たちの師匠が僕のこと知ってるの!?」

 僕がここに来て会ったのは霊夢と霊奈の2人だけだ。なのに師匠は僕の存在を知っていた。どこかで見ていたのだろうか。

「えっとね。お師匠様が『今日、ここに人が来るからその人に伝えて』って言ってたから多分、キョウのことだと思って」

 霊奈の説明には肝心の『師匠が僕の存在を知っていた理由』が含まれておらず、はてなマークが浮かぶばかりだった。

「……私たちの師匠ってものすごく勘がいいのよ。そのせいだと思うわ」

「か、勘って……」

 もはや予言とも言える。

「博麗の巫女って勘がいいの。私も霊奈もまだ未熟だけど他の人よりは勘はいいはず。キョウを見つけたのも何となく川の方が気になったからだし」

「そ、そうだったんだ……」

 そう言えば、僕を泊めようとしていたのも勘だった。霊夢の話は本当のことらしい。

「とにかく、師匠のお許しも出たし。しばらくよろしくね、キョウ」

「うん、こちらこそよろしく。霊夢、霊奈」

「わーい! 楽しくなりそー!」

 こうして僕は彼女たちの師匠が帰って来るまで博麗神社に住むことになった。


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