東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第322話 神社の暮らし

 博麗神社。外の世界と幻想郷の狭間に存在する神社である。そのため、博麗神社は外の世界にも幻想郷にもあるらしい。僕がアリスさんと出会ったのは幻想郷の博麗神社だったのだ。そして、博麗の巫女は代々、幻想郷を覆う博麗大結界を管理している。

「ちょっと違うかな」

「え? そう?」

 博麗神社に泊まることになったが何もやることがなかったため、博麗神社について霊夢に聞いてまとめてみたのだが、ちょっとだけ違う箇所があったようだ。

「博麗神社はここと幻想郷の境界になるんだけどどっちにもあってどっちにもないの」

「……どういうこと?」

「つまり、どっちにも属してないってこと。私もあまり理解してないんだけど師匠がそう言ってたから。外の世界の常識を持ってる人は外の博麗神社に、幻想郷の常識を持ってる人は幻想郷の博麗神社にしか行けないんだって」

「そうなんだ……あれ?」

 じゃあ、何で僕は両方の博麗神社に行けたのだろうか。外の世界で育った僕は外の世界の博麗神社――今、僕たちがいる博麗神社に行ったはずなのに。

「多分、時空を移動したからじゃない? 時空を跳ぶとか非常識だし」

「ひ、非常識って……」

 確かに時空を移動するとかあり得ない話だけど。僕自身、なんでできるのかわからない。

「まぁ、博麗神社についてはこれぐらいかしら。他に聞きたいことは?」

「んー……特にないかな? 外の世界に博麗神社があるのかって疑問は解決したし」

「そう。なら、手伝って」

「手伝う? 何を?」

「色々よ。師匠がいないんだから家事は私たちでやらなきゃ駄目なの。霊奈は基本的にポンコツだから私1人でやる羽目になるのよ……」

 そもそも5歳児に家事をさせる方が無謀だと思う。僕と霊夢が規格外なだけだ。

「私もお手伝いしますよー!」

 両手を挙げながらアピールする桔梗。そう言えばまだ霊奈に桔梗が自律していることを伝えていない。桔梗を紹介する前に修行に行ってしまったからだ。

(晩御飯の時にでも紹介しよっと)

「家事は何が残ってるの?」

「だいたい残ってるわ。料理とかお風呂掃除とか洗濯物とか」

「……手分けしてやろっか」

「そうね」

 話し合いの結果、僕が晩御飯作り、霊夢が洗濯物、桔梗がお風呂掃除になった。その後、修行を終えてお風呂に入ろうとした霊奈とお風呂掃除をしていた桔梗が鉢合わせ、霊奈の絶叫が神社に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「へー、桔梗はお人形さんなのに生きてるんだね」

 目をキラキラさせて霊奈が桔梗に質問する。

「はい、マスターのお役に立つために生まれて来ました!」

 桔梗は胸を張って自慢した後、僕が作ったうどんをちゅるりと啜った。桔梗の体は小さいので食べやすいように短めに麺を切ってある。僕の魔力で動いている彼女だが、食べることによって自分でも魔力を補充することができるのだ。

「最初、キョウの隣にお人形さんが置いてあったのを見てそう言うのが好きなのかなって思ったけど違ったんだね!」

「……さすがにお人形遊びはしないよ」

 5歳でも僕はれっきとした男の子だ。桔梗のことは大好きだけど、だからと言ってお人形が好きということではない。

「ほら、お喋りばかりしてないで早く食べちゃいなさい。麺が伸びるわよ」

「はーい」

 ずっと話していた霊奈に霊夢が注意する。確かに霊夢のうどんはもう無くなっているのに対し、霊奈のうどんは全くと言っていいほど減っていなかった。せっかく作ったのに麺が伸びてしまうのはちょっと悲しい。

「っ! れ、霊奈さん! 早く食べてください!」

「え? あ、うん」

 僕の顔を見た桔梗は慌てて霊奈を急かした。目を丸くしたまま、うどんを啜り美味しそうに微笑む霊奈。よかった。口に合ったらしい。

「マスターのうどん、美味しいですね!」

「うん!」

「……はぁ」

 桔梗と霊奈たちが笑い合っているのを見て霊夢は呆れたようにため息を吐く。まぁ、桔梗はいつもこんな感じなので大目に見て欲しい。僕も止められないから。

「それにしてもキョウって料理上手いのね」

 ちゅるちゅるとうどんを食べている2人を放置することにしたのか僕に話しかけて来る霊夢。

「昔から作ってたからね。慣れかな」

「キョウって5歳よね? 昔って……」

「それ以上は言わないで……」

 僕だって今の発言のおかしさに気付いているのだ。視線を霊夢から逸らす。

「ホントにどんな暮らしして来たのよ。旅をしてるって言ってたけど」

「だから僕だって気付かない内に幻想郷に来ちゃったんだよ。その前までは普通に……普通に?」

 両親が常にいない家って普通なのか? でも、僕の家はそれが普通だし。両親が帰って来ないって言っても静さんはよく来る。“普通”って何だろう?

「キョウ、聞いてる?」

「え、あ、ゴメン。ちょっと考え事してた」

「考え事してる暇あったら桔梗を助けてあげたら?」

「桔梗を?」

 そう言われて桔梗の方を見ると頭からうどんが入っている器にダイブしていた。自分では抜け出せないのか足をじたばたしている。飛べば簡単に脱出できるだろうけどそうするとうどんのおつゆがちゃぶ台に飛び散ってしまうため、何とか飛ばずに脱出しようとしているらしい。

「き、桔梗!? なんでこんなことに!?」

「桔梗ね、うどんのおつゆを飲み干そうとしたんだけどバランス崩しちゃってドボンってしちゃったの」

「もう……桔梗、ジッとしてて今引き上げるから」

 その後、僕はうどんのおつゆまみれになってしまった桔梗と一緒にお風呂に入った。そう言えば桔梗の服って1着しかないから新しく縫わないと。因みにこいしさんたちと旅をしていた時に破けてしまった衣服や毛布を縫っていたからお裁縫もできるようになっている。今のメイド服より少し落ち着いた感じにしようかな。

「ま、マスター……こんな私のために! ありがとうございます!」

 お風呂に入りながら桔梗に相談すると嬉しかったのか涙を流しながらお礼を言われた。

 

 

 

 

 

 

「キョウ、そろそろ寝ましょ?」

 桔梗の新しい服を縫って(霊夢からいらない布を貰った)いると寝間着に着替えた霊夢に声をかけられる。

「あれ、もうそんな時間?」

「もう日付が変わりそうよ」

 時間が経つのを忘れるほど夢中になって縫っていたらしい。見ればちゃぶ台の上で桔梗が布の切れ端に頭を突っ込んで寝ていた。僕を黙って待っていたようだが寝落ちしてしまい、寝惚けて近くの布に潜り込んだのだろう。その光景を見て思わず、微笑んでしまう。「本当に桔梗のことが大切なのね」

 いつの間にか僕の隣に座っていた霊夢が散らばっていた布を集めながら言った。片づけを手伝ってくれるみたいだ。

「桔梗が生まれてからずっと一緒にいたからね。今じゃ僕の家族だよ」

 桔梗がいなければ僕はすでに死んでいただろう。幻想郷はただの人間が簡単に生き残れるほど甘くない。桔梗がいてくれたからこそ僕は今、ここにいる。

「……家族、ね」

「霊夢?」

「何でもないわ。ほら、早く片付けちゃいましょう?」

「う、うん」

 一瞬だけ霊夢の顔が曇ったが聞く前に誤魔化されてしまった。聞かれたくないことなのだろうと思い、僕も作業を再開させた。霊夢が僕と桔梗を羨ましそうな目で見ていることにも気づかずに。


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