東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第33話 女の抵抗

「そうかよ……そう言う事だったのかよ!」

 映像は終わり、その場で叫ぶ。

「くそ……ふざけんなよ」

 女や狂気が何故、俺の中にいたのかやっと分かった。他にも色々と理解した。知りたくなかった事も――。

「ん?」

 映像が消えたと思ったが今度は違う風景が見える。真っ赤な廊下だ。女が言っていた狂気が見ている景色なのかもしれない。

 少し離れた所にこちらに背を向けた大きな漆黒の翼を生やした小さい女の子と魔理沙、早苗、メイドさん。逆にこちらを見ている霊夢に射命丸。更に映像の中で見た図書館にいた人――パチュリーさんだったはずだ。小さい頃の俺はそう呼んでいた。ならば、あの小さい女の子はレミリアかもしれない。

『次は誰だ?』

 俺の声で狂気がしゃべった。

(次? 女が言うにはフランドールが戦っていたはずだ。でも、フランドールの姿はない。もしかして……)

 悔しそうにレミリアが振り返った。やはり、フランドールはやられてしまったようだ。

『私が相手だ!』

 魔理沙が名乗りを上げた。

『やめなさい。八卦炉なしじゃ無理よ』

 だが、霊夢がそれを阻止する。

(八卦炉? あの極太レーザーを出すあれか?)

 どうやら、魔理沙は八卦炉を紛失してしまったらしい。

『やっぱり、私が行くしかないわ』

 お祓い棒を握って前に出る霊夢。

『そもそも人間がどうにか出来る相手じゃない。パチェ、手伝って』

『まぁ、来てよかったみたいね』

 しかし、今度は霊夢を押しのけて魔導書を開きながらパチュリーがレミリアの隣に移動する。レミリアも魔力を放出し始めた。

『咲夜はフランをお願い』

『は、はい!』

 咲夜と呼ばれたメイドさんが先ほどまでレミリアが見ていた方向へ飛んで行った。

『……』

 狂気は黙って跳躍し、レミリアとパチュリーの元へ突進する。

『レミィ? 大丈夫?』

『休んだからね。あいつを殺したくてたまらないわ』

 レミリアの目が鋭くなったと思ったら視界から消えた。それを追うように視界が横にずれる。

「狂気には見えてるってのか?」

 その証拠に視界にレミリアが飛び込んで来た。片手に真紅の槍を構え、先端をこちらに向けている。

『禁忌『レーヴァテイン』』

 フランドールのスペルを発動し、炎の剣を左手に持つ。その炎の剣を伸ばし、横に薙ぎ払った。

『くっ!?』

 それを槍で受け止めたがレミリアは壁まで吹き飛ばされる。

『水符『プリンセスウンディネ』!』

 その隙を突いてパチュリーがスペルを唱え、大玉とレーザーを撃って来る。狂気は剣でそれを弾く。

『っ!?』

 その瞬間、水蒸気が大量に発生した。パチュリーは水の魔法を使っていたらしく、炎の剣で水が一瞬にして蒸発したようだ。一瞬、怯んだ狂気だったが翼を大きく羽ばたき、水蒸気を吹き飛ばす。そして、槍を持って全力で突っ込んで来るレミリアを発見した。パチュリーが水蒸気を発生させ、狂気の視界が悪くなっている内に攻撃を仕掛ける。パチュリーとレミリアのコンビネーションアタックだ。この距離では狂気も躱せまい。

『愚かなり』

「っ! まずい!」

 狂気の背中には4枚の翼がある。その内、先ほど羽ばたいたのは漆黒の翼――女の翼だ。つまり、まだフランドールの翼が残っている。

『ぐっ!』

 左翼で槍を叩き、槍の軌道を少し右寄りにずらす。更に右翼で槍を掴んで思いっきり右に引っ張った。すると槍は狂気を捉える事もなく狂気の右側を通り過ぎてしまい、勢い余ったレミリアはそのまま壁に激突した。

『れ、レミィ!』

『人の心配か?』

『しまっ――』

 狂気が高速移動でパチュリーの背後に回り、裏拳を放つ。パチュリーは何も出来ずにレミリアが突っ込んで行った方へ飛ばされる。そのまま壁から抜け出したレミリアにぶつかった。その衝撃で壁が崩れ、レミリアたちの上へ降り注ぐ。あれでは身動きが取れない。

『さて……後は人間だけか』

『まだ私がいますよ?』

 射命丸がカメラを仕舞って前へ出る。

『天狗か……』

「そうはさせないわよ?」

≪っ!?≫

 狂気も含め、全員が目を見開いた。

『きゅ、吸血鬼!?』

「貴女の自由にはさせない」

 同じ口から口調が違う言葉が漏れる。

『お、おい? どうしたんだ?』

『あれじゃまるで響ちゃんの口を使って狂気と誰かさんが言い争ってるみたいです』

 魔理沙と早苗は目をぱちくりさせている。

『今の内よ! 早苗! レミリアたちを引っ張り出さないと!』

 霊夢は狂気の横を通り過ぎて瓦礫に埋まったレミリアたちを助けに行った。慌てたように早苗もついて行く。

『く、くそ! 邪魔をするな!』

「響! 聞きなさい!」

「っ!?」

 急に声をかけられ肩をビクッと震わせる。

『な、何をするつもりだ!?』

「貴女は黙ってて! 空間を壊したら私と狂気を同じ空間に閉じ込めなさい!」

「ど、どういう事だよ!」

 虚空に向けて叫ぶ。だが、俺の言葉は女には聞こえていないようで続けた。

「そうすれば一生、私と狂気に会う事もない! 私が責任を持って封印するから!」

『霊夢さん、あれは一体?』

『きっと、狂気が取り込んだ何かね。元々、響の中にいたんじゃないかしら?』

 会話しながら気を失ったレミリアとパチュリーを背負って霊夢と早苗は飛び去った。

『射命丸! 逃げるぞ!』

『あやややや~! でも、どこへ?』

『図書館だ!』

 魔理沙は箒に乗って射命丸に指示する。

「そこの魔女!」

『私は魔法使いだ!』

「何でもいいからパス!」

 女はポケットから俺の携帯を魔理沙に投げ渡した。

『な、何なんだ? これ』

「いいから! 行きなさい! 抑えられるのも限界があるの!」

『……わかった。行くぞ!』

『はい!』

 魔理沙と射命丸も図書館に向かって飛んで行った。途中で咲夜とフランドールも合流する。

『くそ野郎が……』

 獲物を逃がしてしまったので顔を歪ませる狂気。

「最後に響。貴方は今、私と狂気と繋がっているの。それを断ち切るわ」

「え?」

 女とは繋がっているのは知っていたが狂気とも繋がっているなんて思わなかった。

『ば、馬鹿! やめろ!』

 狂気が初めて焦った。

「そうすれば貴方が狂気に勝った時、魂の奥底に封印しやすくなるはず。その時に私も封印しなさい。そうすれば、晴れて貴方は人間よ」

『吸血鬼! お前も封印されるんだぞ! それでもいいのか!?』

「じゃあ、さよならね。短い間だったけど楽しかったわ」

 狂気を無視して女――吸血鬼が別れを告げる。

「お、おい! 待てよ!」

 俺の叫びも空しく映像が途切れた。

 

 

 

 

 

 

「よくもやってくれたな」

「まぁ、ね。これで貴女の力が弱まったわ。全く、魂逆転のどさくさに紛れて響にパイプを繋げてんじゃないわよ」

「そのおかげで随分、助かったけどな。でも、惜しかったな。残ったのは人間と天狗のみ。天狗なら今の私でも勝てる」

「頑張りなさい。そして、一緒に封印されましょ?」

「やなこった。お前は黙ってろ」

 狂気と吸血鬼の言い争いはここで終わった。狂気が吸血鬼を封じ込めたのだ。

「確か、図書館だったな」

 狂気は4枚の翼を動かし、飛翔した。

 


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