俺の手の中で光っている吸血鬼の狙撃銃。咄嗟に脇差をガードしてしまったせいで少しばかり傷ついてしまったが、ちゃんと持てるし金属特有の冷たさを感じる。つまり、これは幻などではなく実体がある、ということだ。だが、それはおかしい。この狙撃銃は吸血鬼のものだ。魂の中でしか扱えない。
(でも、狙撃銃はここにある)
謎が謎を呼ぶ、というのはこういうことだろう。そして、その謎を唯一解明できる吸血鬼は――。
『え、えっと……』
俺以上に狼狽えていた。試しにやってみたら出来てしまった時の反応である。吸血鬼もまさかできるとは思わなかったのだろう。そのおかげで助かったのだが。
「まぁ、いい」
いきなり狙撃銃が現れ、警戒していたぬらりひょんだったが再び脇差を片手に突っ込んで来る。慌てて狙撃銃を構えた。しかし、脇差が狙撃銃に当たる直前で彼女の姿が消え、背後にぬらりひょんの反応が現れる。防御は間に合わない。
『狙撃銃を送れたなら!』
そんな吸血鬼の声と共に銃声が2つ。すると、背後の反応が途絶えた。また吸血鬼が何かしたらしい。おそらく、“魂の中で撃った銃弾をこちらに送ってぬらりひょんの幻影を潰した”のだろう。
(おい、吸血鬼!)
『私もわかんない! わかんないけど……今は私を信じて!』
魂の中でしか扱えないはずの狙撃銃。魂からの援護。そんなあり得ない現象が立て続けに起きている。きっと、吸血鬼も混乱しているはずだ。だが、何となくわかる。伝わって来る。ちぐはぐだった何かが、やっと――一つになる。あるべき形に戻りつつあるのを感じる。
「ちっ」
幻影を潰されたからか俺の前に姿を現したぬらりひょんは舌打ちをした。吸血鬼の援護があるとしてもまだ具体的な作戦を思い付いたわけではない。翠炎を確実に当てる方法さえ思い付けばこちらの勝ちなのだ。しかし、翠炎を発動している間、コスプレや魂同調はできない。素の俺でぬらりひょんを捉えなければ――。
「ッ……」
思考回路を巡らせているといきなり右側にぬらりひょんが現れる。しかし、それは吸血鬼の援護射撃に射抜かれ、消え失せた。実体のある幻影は必ず、姿が見える。それを吸血鬼は第三者目線で俺たちを見ることができるのだ。精密射撃と反射神経のいい吸血鬼にとって突然現れたぬらりひょんの幻影を撃ち抜くことなど造作もない。吸血鬼が時間を稼いでくれている間に対策を考えよう。
(何か……何かないか?)
今、俺にできることはいつもの技とコスプレ、魂同調。だが、ぬらりひょんにいつもの技は通用しなかったし、コスプレや魂同調は翠炎を使う時に解除されてしまう。他に武器があるとするなら俺の手の中にある狙撃銃ぐらいか。
(狙撃銃?)
吸血鬼は自分の狙撃銃を俺に、魂の中で撃った弾丸をこちら側に送った。じゃあ、もしかしてあれも?
『……できる、と思う。でも、それもぬらりひょんに当てる方法を見つけないと』
そう、翠炎を当てるための布石を当てるためにまた何か手を加えなければならない。でも、翠炎じゃなければ――。
「ぬらりひょん」
「……何だ?」
いきなり話しかけられたので彼女は訝しげ表情を浮かべる。その間にスキホを取り出してとある番号を打ち込む。はっきり言ってこれが上手くいかなければ俺にもう打つ手がない。最後の賭け。だから、無茶もできる。
「運試しだ。俺の運がいいか、お前の運がいいか」
「何を……まさか!」
ぬらりひょんも俺の両腕に装着された2つのPSPと赤と黒のヘッドフォンを見て察したのだろう。俺は腕を交差させながらそれぞれのPSPの画面に指を添えて――一気にスライドさせた。それと同時に吸血鬼との繋がりをより強化する。
「『ダブルコスプレ』!」
俺の前に2枚のスペルカードが出現する。それを掴んで大声で宣言した。
「亡き王女の為のセプテット『レミリア・スカーレット』! U.N.オーエンは彼女なのか?『フランドール・スカーレット』!」
俺の服が輝きフランの服になった。しかし、色は赤ではなくピンク。更にレミリアのブローチが黄色いタイの代わりに付いている。背中にはレミリアの漆黒の羽とフランの独特な羽。最後に両側に大きなリボンの付いた彼女たちの帽子。まさにレミリアとフランの服を足して2で割ったような姿だ。
『ダブルコスプレ』は完全にランダム、というわけではない。何か要因となるものがあればそれに引っ張られるようにして曲が決まる。今回の場合、俺は吸血鬼と今まで以上に強い繋がりを持っていた。それが要因となり、同じ吸血鬼であるレミリアとフランの曲を引き当てた。だが、これだけでは終わらない。終わってはいけない。『ダブルコスプレ』はギャンブルだ。曲が決まってもどのような技を使えるか実際に戦ってみないとわからないのである。ぬらりひょん本体を補足できるような技が使えないかもしれない。だから、できるだけ強化しておきたい。ぬらりひょんに対抗できるほどの強い力が欲しい。
『まぁ、リョウの件で借りもあることだし……別に構わないわ』
『お兄様の助けになるなら頑張るよ!』
頭の中で響く2人の声を聞いて思わず、破顔してしまう。本当に俺は運がいい。前々から考えていたことを“同時に2つも”試せるのだから。
「ッ……させるか!」
『ダブルコスプレ』を前に呆然としていたぬらりひょんが数え切れないほどの幻影を作り出し、攻撃して来た。だが、その幻影たちは虚空から現れた弾丸に次々と撃ち抜かれていく。
『こっちだって負けてないんだから』
吸血鬼が何度も引き金を引きながら静かに呟く。今がチャンスだ。
「行くぞ、レミリア、フラン!」
『ええ』
『行っちゃえ!』
レミリアは優雅に、フランは楽しそうに頷いた。
「俺はお前たちを受け入れる! だから、お前たちも俺を受け入れろ! 『ダブルシンクロ』!」
服装は――変わらない。だが、レミリアとフランの魂が俺の魂に入って来た瞬間、一気に力が溢れた。これが試したかったこと。『ダブルコスプレ』をした時、もしその2曲とも『シンクロ』できる相手だった場合、2人同時に『シンクロ』できるのかどうか。結果は成功。しかし、これは長くは持たない。普通の『シンクロ』ならば曲を固定できるが、『ダブルシンクロ』は体に大きな負担をかけるようでせいぜい数分が限度だ。それ以上は体がもたない。だが、まだ終わらない。終わらせない。
「トール!」
『うむ』
そして、もう1つ。『シンクロ』中に『魂同調』をした場合、どうなるのか。正直言って『シンクロ』と『魂同調』は相いれない技である。何故ならば俺を含めた3人の魂波長を合わせなければならないからだ。俺とトールたちが『魂同調』できるのはトールたちが俺の魂に住んでいるからであってそう簡単にできるようなことではない。ただでさえそうなのに外部から引き寄せた魂の波長を変えることなど不可能に近い。
だが、これには1つだけ抜け道がある。それは引き寄せた魂とトールたちに何か“共通点”があれば俺がどうにかできる、というものだ。『式神憑依』の応用である。『式神憑依』は何かきっかけがあれば式神の力をこの身に纏い、式神の力を一時的に使用可能とする技だ。逆に言ってしまえば式神だったとしてもきっかけがなければ『式神憑依』はできない。
それと同じ原理である。『式神憑依』がきっかけを必要とするならば、『シンクロ』と『魂同調』の同時発動は共通点が必要となる。魂波長を合わせる基準をその共通点に設定すればいいのだから。
そして、レミリアとフラン、トールの共通点は――北欧神話の武器を使うこと。
レミリアは『グングニル』。
フランは『レーヴァテイン』。
トールは『ミョルニル』。
この共通点が今回の鍵となる。
この3つの技が本物でないことはわかっている。レミリアの『グングニル』とフラン『レーヴァテイン』はただの技名で、トールは人工的に創られた魂だ。だが、“その技名が俺にとって大事”なのだ。いや、俺の本能力を使用しても上記の3つは技名の域から超えないし、本物そっくりな力を発揮できると言うわけではない。ただ、『北欧神話に出て来る武器』という概念を持たせるだけ。今回はそれだけで十分だ。目を閉じて本能力を初めて意図的に発動する。すると、レミリアとフラン、トールとの間にパスができたのを感じ取った。
「魂同調『トール』!」
俺の髪が紅くなり、背丈が若干ながら伸びる。それに合わせて『ダブルコスプレ』の衣装もサイズが変わった。
「『フルシンクロ』!」
続けてトールと『フルシンクロ』をして背中から純白の翼が生える。さぁ、準備は整った。『シンクロ』と『魂同調』を同時に発動させ、そこから更に派生するこの技の名前は――。
「――『シンクロ同調』!」
その瞬間、俺たち4人の魂波長がピッタリと重なり合い、目の前にスペルカードが現れた。
色々設定が出て来ましたが……まぁ、読んだ通りです。
シンクロと魂同調を同時に使いたい
↓
しかし、魂波長を合わせるのが難しい
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じゃあ、『式神憑依』みたいに共通点があれば可能(響さんの本能力――『音無 響』の『響』という字から派生した能力のおかげ)
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他の人では無理だが、レミリアとフラン、トールって北欧神話の武器を使ってる。
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しかし、ただの技名。レミリアの場合は”グングニルという名前の付いた槍”、フランの場合は”レーヴァテインという名前の付いた炎の剣”と言ったようにただの槍と剣なのでこの段階では不可能。トールは人工の魂だが、一応、クリアはしている。
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響さんの本能力を使用してレミリアの槍、フランの剣に『北欧神話に出て来る武器』という概念を持たせる。イメージ的には『北欧神話』という属性を付加する感じ。
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レミリアの槍、フランの剣、トールの槌に『北欧神話』という属性が付加されているので共通点が成立。
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その共通点を基に魂波長を重ねて『シンクロ同調』発動
と、言った流れとなります。
……これで、大丈夫ですかね……我ながら色々無茶なこと言っているとは思うのですが、納得して頂けたのなら幸いです。