「これからどうするんです? 響ちゃんの中にいた人が抑えててくれても少しの間だと思いますけど」
レミリアさん、フランさん、パチュリーさんを図書館にあったソファに寝かせた後、図書館にいる全員に質問する。
「やっぱり、私たちで何とかするしかないな」
魔理沙さんが腕を組みながら呟いた。
「でも、強いわよ?」
霊夢さんが椅子に座って言う。
「せめて、八卦炉があればな。マスパをブチ込んでやるのに」
「マスパ……魔理沙、早苗。ちょっといい?」
「何でしょう?」「何だ?」
「試したい事があるんだけど」
「あ、おかえりなさい……っ!? どうしたんですか!?」
霊夢さんから詳しい話を聞こうとした矢先、小悪魔さんが違うソファの影から顔を出して驚く。
「それがですね――」
文さんが今までにあった事を伝えようとしたらどこからか携帯の着信音が鳴り響く。だが、幻想郷に携帯などない。
「な、何だ!?」
魔理沙さんが叫びながら帽子から携帯を取り出す。バイブレーション機能に驚いたらしい。
「ま、魔理沙さん! それをどこで!?」
携帯を摘まんでおろおろしている魔理沙さんに問いかける。
「ど、どこって響から……」
「ちょっと貸してください!」
乱暴に携帯を受け取って、通話ボタンを押した。
「もしもし!」
『……早苗か?』
「きょ、響ちゃん!?」
「どうしたんだ? 独り言か?」
「違います! これは携帯と言って遠くにいる人と会話が出来る機械です」
早口で魔理沙さんに説明し、携帯の向こうにいる響ちゃんに集中する。
『大丈夫か?』
「はい、今は」
『そうか……なぁ、フランドールは?』
「フランさん? フランさんはまだ気を失っています」
チラッと横目で確認し、伝える。
『あ、皆に聞こえるようにしてくれないか?』
「了解です」
携帯を操作する。響ちゃんの声が大きくなる。それを聞いて霊夢さんたちが目を見開くのが見えた。やはり、こういうのには慣れていないようだ。
『あとな……』
「はい、何でしょう?」
『これ、ビデオ電話だ』
(ビデオ電話?)
「も、もしかして?」
『ずっと、お前の耳が映ってる』
「……ごめんなさい」
謝りながら響ちゃんの携帯を耳から離し、画面を見る。すると、フランさんの服を着た苦笑いをしている響ちゃんの姿があった。恥ずかしくて顔が赤くなるのがわかった。
『いや、別に……』
「『……』」
しばらく、沈黙が流れる。
『……フランドールを起こしてくれないか?』
先ほどの事は一先ず、置いておく事にしたらしい響ちゃんが真剣な顔で頼んで来た。
「で、でも……下手に動かすのは」
「だ、大丈夫だよ? 私は」
ソファから顔を引きつらせたフランさんが顔を出す。文さんに支えて貰っている事からかなりダメージを受けているのがわかる。
『フランドール』
画面越しからフランさんが見えたのか響ちゃんが呼びかける。
「小さい人だね? しかも、平面だ。あれ? さっきの敵と似てる?」
『頼みがある』
フランさんの言葉を無視してそう続けた。
「……それって私にしか出来ない事?」
『ああ、俺とお前にしか出来ない事だ』
「なら、貴女がやればいいじゃん?」
『少し言い方を間違えたな。俺とお前、一緒じゃないと出来ないんだ。頼む。狂気を倒したいんだ』
「……詳しく話して」
『じゃあ、二人で』
「わかった」
フランさんは私から携帯を奪って図書館の奥へ飛んで行った。
「ちょ、ちょっと!」
追いかける為に飛ぼうとするが霊夢さんに肩を掴まれる。
「早苗、貴女はこっち」
「……大丈夫でしょうか?」
「きっと大丈夫よ。私たちに出来る事をしましょ?」
「は、はい」
「で? 頼みごとって?」
小さな箱のような物の中にいる私と同じ服を着た女に質問する。
『まぁ、待て。まずは自己紹介でもしようじゃないか』
「? まぁ、いいけど。私はフランドール・スカーレット。吸血鬼だよ」
『俺は音無 響。えっと……人間?』
響は首を傾げながら言った。名前を聞いて一瞬、あの男の子を思い出す。
(でも、あり得ないし……)
「いや、私に聞かれても……」
名前が同じだけだと自己解決した。
『なんか不安定なんだよ。俺の存在ってさ。さっき、知ったし』
「不安定?」
今度は私が首を傾げる。よく意味が分からなかったのだ。
『お前、人間が吸血鬼の血を飲むとどうなるか知ってるよな?』
「う、うん……」
『どうやら、俺も小さい頃、飲んだらしい』
「え?」
『俺は一切、記憶にないけど俺の中にいた吸血鬼に記憶を貰った。いや、記憶のコピーを俺の頭に張り付けたとでも言うのかな?』
顎に手を当てて悩み始める響。
「ちょ、ちょっと待って! 意味が分からないんだけど!」
『まぁ……何だ? 俺はお前の血を飲んだ。きっと、お前も覚えてると思うけど……ね? フランさん?』
「あ、あり得ない!」
小さな箱を掴む手に力が籠り、ひび割れた。
『ば、馬鹿! 壊れたらどうすんだ!』
「響はキョウだって言うの!? ふざけないで! そんなのあり得ないんだから!」
『幻想郷では常識に囚われてはいけないんじゃないのか?』
「だって……だって! あれは60年以上前の話だよ!? キョウには少ししか血を飲ませてないから完全に吸血鬼化はしなかった。だから、人間と同じように年を取るはずだよ!」
叫んだ拍子に箱に唾が飛ぶ。それほど私は動揺しているのだ。
『え? そうなの?』
「貴女がそう言ったんじゃない!」
『年代までは知らないんだよ! 言ったろ! 俺の見た記憶はコピーだからきちんと年代がわかる物が記憶に残ってないと判断出来ねーんだよ!』
歯をむき出しにして威嚇し合う。
『……覚えてるか? 人間と吸血鬼の恋の物語』
「っ!?」
『まさか、あれがレミリアの昔話だとは思わなかったよな』
「ど、どうしてそれを?」
咲夜さえ知らない事を知っているのだ。驚くに決まっている。
『だから言ったろ? キョウだって。さて、フラン。協力してくれるか?』
「……」
まだ分からない事だらけだ。だが、もし響の言っている事が本当で響がキョウならば今回の事件は――。
「全部、私のせい……」
キョウに血を飲ませた時に私の中にいた狂気が移った。そうとしか考えられない。私があの時、狂気に飲み込まれなかったらキョウに血を飲ませる事もなかった。
『それは違う!』
しかし、響は即座に否定した。
「え?」
『どうしてフランの部屋に行かなくなったか知ってるか?』
「……」
知らない。お姉様に聞きもしなかった。黙っていると響は続きを話す。
『それはレミリアに止められたからだ』
「お姉様に?」
『ああ、フランに関わるなと言われて従ってしまった。怖かったんだ。従わなければ殺されると思った』
「普通そうでしょ?」
人間が吸血鬼に恐怖心を抱かない方が不自然だ。
『……実は俺、あれから何回もお前の部屋の前に行ってるんだよ。本を持って』
「嘘……」
驚愕で手が震えた。箱を落としそうになり、慌てて掴み直す。
『ノックしようと手を動かした瞬間、体が震えた。レミリアの紅い目を思い出したんだ。何回も挑戦した。でも……駄目だった』
「き、気付かなかった……」
『お前が図書館に来た時も持って行く本を決めていた。だから、俺のせいでもある。自分を責めるのはやめろ』
「……私は、何をすればいい?」
気が付くとそう聞いていた。
『え?』
「頼み事。教えて? 私は何が出来る?」
『……さんきゅ。じゃあ、説明するぞ』
響は自分がいる空間を破壊したい。だが、『目』は二つあり同時に破壊しないといけない。響の能力はコピーなので私より劣っているらしく、操れる『目』は1つだけとの事だ。
『どうだ? 二つ同時に破壊できるか?』
「やった事ないけど……やってみる。『目』はどこ?」
『今、映す』
箱の中にいる響が見えなくなり、代わりに『目』を見る事が出来た。
「集めたよ。もう一つは?」
『ああ、待ってろ』
また景色が変わり、『目』が現れる。集めようとするが上手く右手に収まらない。
「う~ん……二つ同時は無理かも? なんかいつもと勝手が違うからかな?」
『やっぱりか……でも、一つは集められたんだろ?』
「それは大丈夫……本当だ。壊れない」
手を握って見るが空間は壊れた様子はない。
『よし、俺も集めるから同時に行くぞ』
「オーケー」
先ほど集められなかった『目』が響の右手に集められる。
『3……2……1!』
響の合図で右手を握る。