東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第370話 桔梗【盾】の弱点

「マスター!」

 桔梗の声で僕は咄嗟に腰を低くして盾に変形した桔梗を構える。それとほぼ同時に凄まじい轟音が境内に響き渡り、桔梗【盾】が何かを弾いた。

「へぇ、あれを防ぐか……なかなか楽しめそうだな」

 盾から慎重に相手の様子を窺うと男は拳銃をこちらに向けながらニヤリと笑っていた。おそらくあの拳銃から放たれた銃弾を弾いたのだろう。

「何で攻撃するんですか! まずは話を――」

「――する必要はない」

 僕は慌てて男に向かって叫んだ。先ほど男は僕のことを『おとなし』と呼んでいた。人違いである可能性が高いのである。だからこそ話を聞こうとしたのだがその前に男が立ち上がってポケットから小さな機械を取り出した。

「まずはこれだな」

 そう言いながら機械を操作していた男の目の前に手の平サイズの箱がいくつも出現する。何だろうと思い様子を見ているといきなり全ての箱が変形し機械仕掛けの鳥になった。

「ッ! 翼!」

 桔梗【盾】では全ての鳥を捌けないと判断した僕は桔梗【翼】を装備して真上で飛ぶ。すぐに僕の後を鳥たちが追って来た。スピードはさほど速くない。このまま逃げ続ければ――。

「マスター、前!」

「ちょっ」

 桔梗の悲鳴を聞いて前を見ると前から数羽の鳥が迫っていた。後ろの鳥たちは囮で目の前にいる鳥たちが本命だったようだ。普通の鳥ならまだしも迫って来ているのは機械の鳥。鋭く尖った嘴と爪が光った。しかし、ここで止まったら後ろから迫る鳥たちに襲われる。

「ロール!」

 それならばと右翼を振動させてその場で左にスライド。その勢いを殺さずにもう一度右翼を振動させ、鳥たちを回避する。そのまま鳥たちが激突し合うかと思ったが彼らはぶつからずにすり抜けた。あれほどの速度でぶつからずにすり抜けられるとは思わず目を見開いてしまう。その間に旋回した2つの群れが再び向かって来た。

(……よし)

 翼が水平になるように姿勢を変えて一気に右の群れに突っ込んだ。そして懐から3枚のお札を前に投擲する。右の群れの前でお札が爆発し、群れがバラバラになり鳥たちにぶつからないようにバラバラになった群れの中へ突撃した。

「桔梗!」

「はい!」

 桔梗が返事をすると同時に両翼が仄かに輝く。それを確認した後、近くにいた鳥のすぐ右を通り過ぎる。鳥は左翼に当たり真っ二つに斬られた。その後も同じように可能な限り、鳥たちを翼で切り刻んでいく。全ての鳥を処理できなかったが再び群れを作るまで時間はかかるはずだ。

「これで――」

「マスター、下です!」

 群れを抜け、体勢を立て直そうとした矢先、下からもう一つの群れが迫っていた。チラリと壊滅させた群れを見て桔梗【翼】に手で触れる。桔梗を【盾】に変形させ下に――迫る群れに向けると僕の体は落下し始めた。

「衝撃波最大出力!」

 盾に先頭にいた鳥が接触する直前で叫ぶ。そして、ドン、と言う音と共に機械仕掛けの鳥たちは四方へ弾け飛んだ。衝撃波で粉々になってしまった鳥もいれば粉々になった鳥の破片にぶつかって墜落していく鳥もいる。襲って来る鳥がいないことを確認して再び桔梗【翼】を装備した。2つの群れに分かれていた鳥たちは男の元へ戻り、その後ろに控えるように羽ばたいている。

「ははは! さすがってところだな」

 ゆっくりと下降して境内に降り立つと男は愉快そうに笑った。僕を殺すと言っていた割に戦いを楽しんでいるようだ。桔梗【翼】から盾に変形させて構える。僕の手札は桔梗と博麗のお札のみ。鎌は神社の中にある。

「こいつらでどうにかできれば良かっただけど……まぁ、いい。次のステップに――ッ!」

 笑っていた男はいきなり目を鋭くさせて右腕を広げるように振るう。その動きに合わせて背後にいた鳥たちが男の右へ移動し、男に向けて飛来した何かを受け止めて弾け飛んだ。

「……邪魔すんなよ、博麗の巫女」

「巫女見習いよ。不法侵入しておいて何言ってるんだか」

 いつの間にか僕の隣に立っていた霊夢は男の言葉を聞いて呆れたように肩を竦めた。戦闘音を聞いて駆けつけてくれたようだ。

「はぁ……音無が意外にやるから邪魔な奴が来ちまったなぁ」

「……人違いじゃない? この子の苗字は時任よ?」

「それさっきやったっての……仕方ない、真面目にやるか」

 ため息交じりにそう呟いた男は小さな機械を操作して数羽しか残っていなかった鳥たちをその機械に収納する。そして、また箱が出て来た。今度は先ほどの箱よりも大きい。

「気を付けて。あれが武器になるから」

 翼を桔梗【盾】に変形させた後、霊夢を守るように前に出て桔梗【盾】を構えた。鎌がない今、気軽に攻めることはできない。博麗のお札は牽制ぐらいにしか使えないため、攻撃するには桔梗を攻撃力の高い武器に変形させる必要がある。もし、攻撃を防がれカウンターされた場合、僕に防ぐ手段はない。ならば博麗のお札でも十分戦える霊夢が攻撃に集中できるように守るべきだ。

「それの弱点は2つ」

 だが、そんな考えは変形し終えた彼の武器を見て吹き飛ぶ。あれはまずい。

「一つは範囲攻撃もしくは連携攻撃。盾は前方しか守れない。どれだけ強力な攻撃でも衝撃波で無効化にできる盾だとしても爆発の中心に音無がいれば自ずとダメージを入れることはできる。もちろん、音無自身が移動して爆発の中心から逃れられれば防げるだろう。連携攻撃にしてもそうだ。盾で守っている間に背後から迫る敵を音無が対処すればいい。だから俺はもう一つの弱点を突かせて貰う」

 そう言った男は手に持った武器――ガトリング砲を僕の後ろにいる霊夢に向けた。霊夢の結界術が強力なのは知っている。鎌で斬りつけても桔梗【拳】で殴りつけても傷すら入らなかったのを修行で何度も見たから。でも、彼女は言っていた。『結界は基本的に質量武器に弱い』と。

「霊夢!」

 これが相手の策略だということはわかっている。だが、いくら霊夢でもあのガトリング砲を防ぎ切れるとは思えない。だからこそ僕は桔梗【盾】を地面に叩きつけてしっかりと固定した。

「もう一つの弱点……連続攻撃。このガトリング砲の弾がなくなるのが早いか、それともその盾がオーバーヒートするのが早いか。見物だな」

(ッ!? なんで、オーバーヒートのことを)

 男の言葉に目を見開き驚愕しているとガトリング砲が火を噴いた。バリバリと耳を劈くような轟音と桔梗【盾】が銃弾を弾く甲高い音が境内に響く。

「うっ……」

 桔梗【盾】の特性である衝撃波のおかげで僕には一切衝撃は伝わらないものの桔梗はうめき声を漏らした。オーバーヒートを起こしそうになっているのだ。

「桔梗、どれくらい持つ?」

「すみません……長くは、持ちません」

「なら、早くあれを止めるわ」

 僕の後ろにいた霊夢は冷静にお札を真上に投げ、一斉に男の方へ飛んで行った。誘導弾である。しかし、誘導弾は男に当たる直前で全て破裂してしまった。

「遠距離攻撃対策してないわけないだろ」

 よく見れば男の足元に砲台が4つほど置いてある。あれで誘導弾を撃ち落としたのだろう。あれがある限り、生半可な遠距離攻撃は無効化されてしまう。近づいて直接破壊しなければならない。だが、ガトリング砲の攻撃が止むまで僕たちは動けない。このままでは――。

「大丈夫」

 冷や汗を掻いて思考を巡らせているとそんな声と共に銃弾を弾く時に響いていた甲高い音が聞えなくなる。

「確かに結界は質量武器にめっぽう弱い。でも、少しの間ぐらいなら防げるわ」

 振り返ると両手に数枚のお札を持った霊夢が笑っていた。桔梗【盾】をずらして前方の様子を窺うとガトリング砲の弾を結界が防いでいるのに気付く。すでにひび割れているが霊夢の言う通り、銃弾の雨から僕たちを守ってくれていた。

「選手交代よ、キョウ。攻撃お願いね」

 僕の前に移動した霊夢はひび割れていた結界を見た後、お札を結界に投げつける。すると結界は修復された。

「……うん、任された」

 頷いた僕は桔梗【盾】から桔梗【弓】に変形させて魔力で矢を生成する。僕なら確実にガトリング砲を破壊してくれると信じてくれている霊夢の期待に応えるために。

 


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