東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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今週から通常通り週1更新しますのでよろしくお願いします。


第376話 決死の衝撃波

 霊夢のお札は桔梗【盾】でも防ぐのに相当な衝撃波を放たなければならないほど強力なものだ。しかし、その直撃を受けたのにも関わらず鈍い光を放つ男の腕には全くと言っていいほど傷は付いていなかった。

「さてと……さすがに遊びすぎたみたいだし。そろそろ真面目にやろうかね」

 むき出しになった甲鉄に覆われた腕を動かし辛そうにグルグルと回す男。動きが悪かったのはあの甲鉄のせいだったらしく、腕だけでなく体全体を覆っているかもしれない。つまり、霊夢のお札でさえ傷を付けられないほど頑丈な甲鉄の鎧を着込んでいることになる。そうなるとあいつを倒すには鎧に覆われていない部分――頭部か霊夢のお札以上の威力を持つ攻撃をぶつけるしかない。だが、頭部への攻撃は機械や腕でガードされる可能性が高く、後者に至っては至近距離で桔梗【弓】を当てるぐらいしか思いつかない。桔梗【盾】でもダメージは通るかもしれないが桔梗【盾】の攻撃は面。威力が分散してしまうのだ。

「次はこいつだ」

 桔梗【盾】に変形させ、どう攻撃しようか悩んでいる内に男の手に新たな機械仕掛けの箱が現れる。そして、その箱はどんどん形を変え、筒になった。男はそれを地面に置き、僕たちの方を見てにやりと笑う。

「そばにいると危ないぜ?」

「――っ!」

 嫌な予感がして地面に桔梗【盾】を叩き付けて衝撃波を発生させ、上空へ避難すると筒から兎の顔が描かれたミサイルが飛び出し、霊夢を無視して僕の方へ向かって来た。桔梗【盾】で防御しようと構えるがすぐに桔梗を桔梗【翼】に変形させる。もし、あのミサイルが何かに接触した時、爆破するとしたら桔梗【盾】では完全に防ぐことができないからだ。幸い、ミサイルの速度はさほど早くないため、桔梗【翼】でも十分逃げられるはず。

(しつこいっ……)

 何度か方向転換してミサイルを撒こうとするが追尾性能は高いせいで上手くいかない。仕方なく懐から1枚のお札を取り出して背後に投げた。お札がミサイルに当たり、爆発する。僕が予想していたよりも遥かに上回るほどの爆風を起こしながら。

「うっ……」

 爆風に煽られ、バランスを崩しそうになるが何とか耐えられた。だが、問題はここからだ。あの兎のミサイルは速度はそこまで速くないものの高い追尾性能と凄まじい爆発を起こす。1つだけなら遠いところから的確に破壊すればいいが――。

「ほれ、追加だ」

 ――そんな簡単に行くわけがないことぐらいわかっていた。

 いつの間にか筒は3つに増えており、次から次へと兎のミサイルは吐き出している。霊夢は咄嗟にお札を投げようとするが先ほどの爆発を思い出したのか悔しそうに動きを止めた。筒から飛び出したばかりのミサイルを破壊してしまうと筒の中に残っているミサイルに誘爆してしまうかもしれないからだ。数秒ほどお札を構えていた彼女だったがすぐにお札を仕舞い、目を閉じて詠唱を始めた。何か策でも思いついたのかもしれない。なら――。

(それまで耐える!)

 桔梗【翼】を操作して迫るミサイルから逃げる。だが、すぐに僕は動きを止めてしまった。背後だけでなく、前からもミサイルが迫っていたからだ。

「マスター!」

 どうしようか一瞬だけ悩んだが桔梗の声で体を下に向けて左右の翼を振動させて急上昇した。迷っている暇はない。ミサイルに距離を詰められたら爆風のみならず爆破に巻き込まれてしまう。迫っていたミサイルは僕が急上昇したからか軌道が上に修正した。だが、いきなり真上に進めるだけではなかったようで前後から迫っていたミサイル同士が軽く接触してしまう。そして――爆破。更に誘爆。先ほどとは比べ物にはならないほどの爆風が巻き起こった。

「桔梗!!」

 咄嗟に翼を体の前で交差させて防御する。もちろん、振動も忘れない。しかし、それでも完全に防ぐことができず、僕たちは爆風に煽られてもみくちゃに回転しながら真上に吹き飛ばされてしまった。

「うっ、ぁ……あああああ!」

 軋む体に鞭を打って交差させていた翼を大きく広げて空気抵抗を大きくする。振動すると僕の体がバラバラになってしまう可能性があるので自然に回転が止まるのを待つ。

「ま、すたぁ……まだ、来てます!」

 翼を細かく操作して回転を止めようとしてくれているようで桔梗は辛そうにしながら叫んだ。グルグルと回る視界でもミサイルを捉えることができた。

「ッ――」

 やっと回転が止まった頃にはすぐそこまでいくつものミサイルが迫っており、すぐに加速してミサイルから離れる。

「マスター、駄目です! 逃げられません!」

「わかってる!」

 どうする? どうすればいい? 何か、あのミサイルをどうにかできる策はないの?

 ――キョウ! 前!

「ッ!?」

 頭の中で女性の声が響き、先ほどと同じように前からミサイルが僕たちに向かって飛んで来ているのが見えた。駄目だ。この速度では避けられない。なら、さっきと同じように上に――。

(あ……)

 そして、気付いてしまった。兎のミサイルが上からも迫っていることに。逃げ場は下にかない。だが、下に逃げたら。

(でも、やるしかない!)

 体をぐるりと回転させ、真上を見る。そのまま全力で振動。僕の体は急降下し、ミサイルも僕の後を追って激突した。

 ――キョウ!

 翼を交差させて爆風から身を守ると同時に僕の体が一瞬だけ青く輝き、凄まじい衝撃が僕を襲う。どうやら、爆風に煽られたせいで翼を広げる間もなく地面に叩きつけられてしまったようだ。何故か痛みはないが地面が陥没してしまうほどの勢いで叩きつけられたせいですぐに体を動かせない。霞む視界の中でも地面に倒れている僕に向かってミサイルたちが突っ込んで来るのがわかった。

「マスター! 逃げて……逃げてください!」

 桔梗が僕の名前を叫んでいる。わかってはいるのだ。早く逃げなければ死んでしまうことぐらい。でも、もう間に合わ――。

 

 

 

 

 

 

 

「防いで!」

 

 

 

 

 

 

 その声が聞こえた瞬間、僕は桔梗を盾に変形させて体を覆うように展開させた。その後すぐに凄まじい轟音が響き渡る。どうやら傍でミサイルが爆破したらしい。しかも、誘爆しているようで轟音は何度も轟いている。桔梗【盾】でも防ぎ切れないかもしれない。

「絶対に――」

 のん気にそんなことを考えていると衝撃波を放って僕を守ってくれている桔梗の声が聞こえた。本来であれば轟音のせいで聞こえるはずないのに自然と彼女の声は耳に届いたのだ。

「絶対に……守り切ります!!」

 絶叫した桔梗は連続で衝撃波を放ち始める。爆風に押し切られそうになった衝撃波ごと吹き飛ばすように。

(桔梗……)

 衝撃波を連続で放つということはそれだけ桔梗の体が熱くなり、オーバーヒートを起こしてしまう可能性が高くなる。そして何より桔梗にとってオーバーヒートを起こすということはとても辛いらしい。特にオーバーヒートを起こす直前は体が動かなくなっていく恐怖と虚無感で悲鳴を上げてしまいそうになると言っていた。

 しかし、彼女はオーバーヒートを起こしてしまうかもしれないのに衝撃波を放ち続けている。僕を守るために。まだ桔梗は諦めていないのだ。なら、僕だってまだ諦めるわけにはいかない。魔力を溜めた両手を桔梗【盾】に当てて全力で桔梗に魔力を注ぐ。少しでもオーバーヒートを抑えるためだ。森近さんの店を手伝っていた頃、どうやってオーバーヒートを抑えることができるか色々実験した時に見つけた方法である。

「はぁ……はぁ……」

 実際には数秒の出来事なのだろう。でも、僕には何時間も経ったような気がした。いつの間にか轟音は止み、息を荒くした桔梗は人形の姿に戻って僕のお腹の上に背中からぽすっと落ちた。服越しに感じる彼女の体温はとても熱い。オーバーヒートしていてもおかしくないほどの熱量だった。でも、桔梗は気合いで意識を繋ぎ止めてくれたのだろう。僕を守るために。

「ありがとう、桔梗」

「いえ……ご無事でなによりです」

 体を起こした後、ギュッと桔梗を抱きしめる。すると、彼女は顔を上げて嬉しそうに笑った。

「キョウ、大丈夫!?」

 その時、両手両足に鉤爪型の結界を展開させている霊奈が僕の隣に着地して顔を覗き込んで来る。『防いで』と言ったのか彼女だったようだ。ここから霊奈が修行している広場までそれなりに離れているが騒ぎに気付いて助けに来てくれたのだろう。

「な、何とか――」

「――霊奈さん!」

「は、はい!」

 霊奈に無事を伝えようとするが僕の言葉を遮るように桔梗が叫んだ。霊奈は肩をビクッと震わせる。

「大丈夫じゃありませんよ! もう少しでマスターが怪我するところだったじゃないですか!? 助けてくれたことには感謝していますがもっと他にやり方があったんじゃないですか!?」

「ご、ごめん」

「まぁまぁ。あそこでミサイルを破壊してくれなかったら怪我じゃすまなかったんだし」

「もう……マスターは優し過ぎます」

 僕の胸の中で怒る桔梗を宥めるが納得していないのかそっぽを向いた。そう言えば追加のミサイルが飛んで来ない。気になってミサイルの発射台が置いてある方を見てすぐに目を見開いた。

「あれ、は……」

 3つの発射台を囲むように箱型の結界が展開されていたのだ。あれではミサイルを発射した瞬間、結界にぶつかって爆発し、発射台を破壊してしまう。普通の結界であればあのミサイルの爆発に耐え切れずに破壊されてしまうだろうけど術者が霊夢であれば話は別だ。男もそれがわかっているのだろう。発射台を遠隔操作してミサイルを発射しないようにしているようだ。

「桔梗、体大丈夫?」

「はい、ある程度休みましたのですぐにオーバーヒートを起こすことはないと思います」

 睨み合っている霊夢と男から視線を外し、桔梗の具合を確かめるが大丈夫そうだったのでホッと安堵のため息を吐く。

「そう言えば霊奈、ななさんは?」

 確かななさんは午後から霊奈の修行に付き合うと言っていた。彼女がここにいると言うことはななさんも一緒に来ているはずだが姿が見えなかったのだ。

「ななさんは――」

「キョウ君!」

 霊奈の言葉を遮るように男の後ろ――神社の方からななさんの声が響く。どうやら僕の鎌を取りに行ってくれていたようで丁度紅い鎌を抱えたななさんが境内に出て来るところだった。

「……おいおい」

 その時、不意に男が霊夢から視線を外し、ななさんを見て声を漏らす。ななさんも男の視線に気付いて動きを止める。

「何で……」

「え?」

「お前がここにいるんだよ!!」

 今までどれだけ機械を破壊されても余裕そうだった男は切羽詰ったように絶叫した。それに対してななさんは戸惑った表情を浮かべている。

(まさか……)

 ななさんと男は知り合い?

 


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