超スピードで空を飛んでいる俺。このコスプレのおかげだ。
(これからどうするかな……)
この世界の情報は聞けず仕舞い。ここまでわかった事はここが異世界だと言う事。人間以外の生き物が存在している事。俺には音楽を聞いたらコスプレする変な能力がある事。
「ありえね~」
帰る方法もない。食べ物の在り処もわからない。そんな事を考えている内に曲が終わってしまった。
~月時計 ~ ルナ・ダイアル ~
頭の中に曲名が浮かび、服がメイド服に変わった。
「マジか……」
一旦、止まる。本格的なメイド服だ。実物を見るのは初めてだけどそれぐらいわかる。
「あれ?」
今、気付いたが空を飛んでいる。背中を確認したが翼は生えていない。それなのに落ちてない。
(さっきの曲に戻そう)
だが、スピードははるかに前の曲の方が上だ。確か風神少女という曲名だったはず。毎回、曲名がわかるのは嬉しい。早速、PSPのロックを解除しスタートボタンを押して曲を止める。
「……」
止まらない。連打しても止まらない。仕方ないので操作して風神少女を再生する。
「……」
再生されない。連打しても再生されない。ずっと月時計が再生されたままだ。Rボタンを押して曲を変更しようとしたが変わらない。
(どうしてだ? なんで?)
実験の時は変える事が出来た。その間にPSPが壊れてしまったようだ。
(仕方ないか……あんだけ乱暴に扱ったんだし)
これが紫が言っていた細工だとは全く気付かない俺だった。
「さて、どこに行こうか」
もう少しで夜明けだと言う事はわかっている。穴に落ちる前は午前2時。マヨヒガで2時間過ごしたからだいたい午前4時。
「ん?」
その時、下で何かが動いた。
(誰かいるのか?)
様子を見るために架空し始める。地面に降り立ち、動いた茂みを覗く。
「「……」」
そこには鳥のような翼を生やした少女がいた。向こうはジッとこちらを見ている。メイド服を着た男はさぞ珍しかろう。会話するためにイヤホンを外し、PSPをスリープモードにする。メイド服が光り、普段着に戻った。
「うわっ!? な、何? その服?」
俺の服が変わった事に驚いた少女。
「いや、服は関係ない。それよりここら辺の事、詳しい?」
「ここら辺? まぁ、詳しいよ」
よかった。どこか安全な所を教えてもらおう。
「ここら辺はね。妖怪が出るのよ」
質問しようとしたがピタッと動きを止める俺。
(妖怪? あの妖怪か?)
「あんたも命知らずね。その妖怪の前に出て来るなんて」
「ま、まさか……」
驚きながら急いでスリープモードを解除する。もうどんな答えが返ってくるか予想はついているからだ。
「そうよ。私はミスティア・ローレライ。とっても怖~い妖怪よ」
(いや、怖くはないけど……)
そう思ったが言わないでおいた。
「くそっ!」
イヤホンを付けて再生する。さっきは月時計だったはず。コスプレするのは嫌だが命の方が大事だ。
~亡き王女の為のセプテット~
服はピンクのワンピースで胸に大きなブローチが付いている。更に背中に蝙蝠のような翼が生えた。明らかにメイド服じゃない。曲も全然違う。スリープモードにしても曲は変わらないはずだ。これも壊れてしまったせいか?
「また服が変わった?」
音量はそれほどでもないのでミスティアの声が聞こえた。向こうが驚いている間に空を飛んで逃げる。
「あ! 待て! 私の朝ごはん!」
「そんな事言われて待つ奴いるか!」
ツッコミつつ速度を上げるがミスティアの負けじと追ってくる。
「もう怒った! 声符『梟の夜鳴声』!」
宣言したミスティアの周りから弾が飛び出る。それらは真っ直ぐ俺を狙っていた。
「くっ!」
何とか旋回し回避する。だが、その先にも弾があった。
(使うしかないか……)
お札を取り出し宣言。
「紅符『不夜城レッド』!」
俺の体から紅い霧が出て弾を消した。
「もう! 人間のくせに!」
ミスティアは腕をブンブンと振って怒っていた。
「あんたも鳥目にしてあげるわ!」
そして何故か歌い始めた。
(なんだ?)
不思議に思いながら逃げようとした。
「!!!」
その瞬間、周りが暗くなり何も見えなくなる。これでは身動きが取れない。俺はその場に留まった。
「これで動けない」
後ろからミスティアの声が聞こえた。向こうは俺の姿が見えているようだ。これではこちらが不利すぎる。
(どうする?)
ミスティアの歌声が響く中で思考を張り巡らせる。確か鳥目と言っていた。鳥目は暗闇だと見えなくなる目だったような気がする。
(歌?)
そこで俺は気付いた。ミスティアの歌を聞いてから鳥目になった。
「もしかして……」
PSPのロックを解除し音量を最大まで上げる。ミスティアの声は聞こえなくなり視界が明るくなる。
「終わりよ! 夜盲『夜雀の歌』!」
声は聞こえないがどうやら宣言したようだ。その証拠にたくさんの弾が溢れる。
(見えてるっての!)
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
一番、強そうな技を選び、宣言する。すると右手に紅い槍が出現した。
「これでも食らえやっ!」
思いっきり投擲する。槍は無数の弾を消滅させながら真っ直ぐ進んだ。
「え? え? え!?」
ミスティアは驚いているようだ。その間に槍はミスティアに直撃。そのまま墜落して行った。
「いってーな!」
イヤホンを引っこ抜く。音量がでかすぎて耳がキンキンする。ある事を忘れて――。
「あ……うおおおおお!!!」
コスプレは解除され俺も落ちた。そりゃそうだろう。曲のおかげで飛ぶ事が出来ているのだから。急いでPSPを操作しようとしたが手が動かない。
(力が……入らねー)
何も出来ずに落ち続ける。
「――ッ!?」
そのまま勢いよく地面に叩き付けられ気を失った。