東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

4 / 543
第4話 夜明け前に響く歌声

 超スピードで空を飛んでいる俺。このコスプレのおかげだ。

(これからどうするかな……)

 この世界の情報は聞けず仕舞い。ここまでわかった事はここが異世界だと言う事。人間以外の生き物が存在している事。俺には音楽を聞いたらコスプレする変な能力がある事。

「ありえね~」

 帰る方法もない。食べ物の在り処もわからない。そんな事を考えている内に曲が終わってしまった。

 

 

 

~月時計 ~ ルナ・ダイアル ~

 

 

 

 頭の中に曲名が浮かび、服がメイド服に変わった。

「マジか……」

 一旦、止まる。本格的なメイド服だ。実物を見るのは初めてだけどそれぐらいわかる。

「あれ?」

 今、気付いたが空を飛んでいる。背中を確認したが翼は生えていない。それなのに落ちてない。

(さっきの曲に戻そう)

 だが、スピードははるかに前の曲の方が上だ。確か風神少女という曲名だったはず。毎回、曲名がわかるのは嬉しい。早速、PSPのロックを解除しスタートボタンを押して曲を止める。

「……」

 止まらない。連打しても止まらない。仕方ないので操作して風神少女を再生する。

「……」

 再生されない。連打しても再生されない。ずっと月時計が再生されたままだ。Rボタンを押して曲を変更しようとしたが変わらない。

(どうしてだ? なんで?)

 実験の時は変える事が出来た。その間にPSPが壊れてしまったようだ。

(仕方ないか……あんだけ乱暴に扱ったんだし)

 これが紫が言っていた細工だとは全く気付かない俺だった。

「さて、どこに行こうか」

 もう少しで夜明けだと言う事はわかっている。穴に落ちる前は午前2時。マヨヒガで2時間過ごしたからだいたい午前4時。

「ん?」

 その時、下で何かが動いた。

(誰かいるのか?)

 様子を見るために架空し始める。地面に降り立ち、動いた茂みを覗く。

「「……」」

 そこには鳥のような翼を生やした少女がいた。向こうはジッとこちらを見ている。メイド服を着た男はさぞ珍しかろう。会話するためにイヤホンを外し、PSPをスリープモードにする。メイド服が光り、普段着に戻った。

「うわっ!? な、何? その服?」

 俺の服が変わった事に驚いた少女。

「いや、服は関係ない。それよりここら辺の事、詳しい?」

「ここら辺? まぁ、詳しいよ」

 よかった。どこか安全な所を教えてもらおう。

「ここら辺はね。妖怪が出るのよ」

 質問しようとしたがピタッと動きを止める俺。

(妖怪? あの妖怪か?)

「あんたも命知らずね。その妖怪の前に出て来るなんて」

「ま、まさか……」

 驚きながら急いでスリープモードを解除する。もうどんな答えが返ってくるか予想はついているからだ。

「そうよ。私はミスティア・ローレライ。とっても怖~い妖怪よ」

(いや、怖くはないけど……)

 そう思ったが言わないでおいた。

「くそっ!」

 イヤホンを付けて再生する。さっきは月時計だったはず。コスプレするのは嫌だが命の方が大事だ。

 

 

 

~亡き王女の為のセプテット~

 

 

 

 服はピンクのワンピースで胸に大きなブローチが付いている。更に背中に蝙蝠のような翼が生えた。明らかにメイド服じゃない。曲も全然違う。スリープモードにしても曲は変わらないはずだ。これも壊れてしまったせいか?

「また服が変わった?」

 音量はそれほどでもないのでミスティアの声が聞こえた。向こうが驚いている間に空を飛んで逃げる。

「あ! 待て! 私の朝ごはん!」

「そんな事言われて待つ奴いるか!」

 ツッコミつつ速度を上げるがミスティアの負けじと追ってくる。

「もう怒った! 声符『梟の夜鳴声』!」

 宣言したミスティアの周りから弾が飛び出る。それらは真っ直ぐ俺を狙っていた。

「くっ!」

 何とか旋回し回避する。だが、その先にも弾があった。

(使うしかないか……)

 お札を取り出し宣言。

「紅符『不夜城レッド』!」

 俺の体から紅い霧が出て弾を消した。

「もう! 人間のくせに!」

 ミスティアは腕をブンブンと振って怒っていた。

「あんたも鳥目にしてあげるわ!」

 そして何故か歌い始めた。

(なんだ?)

 不思議に思いながら逃げようとした。

「!!!」

 その瞬間、周りが暗くなり何も見えなくなる。これでは身動きが取れない。俺はその場に留まった。

「これで動けない」

 後ろからミスティアの声が聞こえた。向こうは俺の姿が見えているようだ。これではこちらが不利すぎる。

(どうする?)

 ミスティアの歌声が響く中で思考を張り巡らせる。確か鳥目と言っていた。鳥目は暗闇だと見えなくなる目だったような気がする。

(歌?)

 そこで俺は気付いた。ミスティアの歌を聞いてから鳥目になった。

「もしかして……」

 PSPのロックを解除し音量を最大まで上げる。ミスティアの声は聞こえなくなり視界が明るくなる。

「終わりよ! 夜盲『夜雀の歌』!」

 声は聞こえないがどうやら宣言したようだ。その証拠にたくさんの弾が溢れる。

(見えてるっての!)

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

 一番、強そうな技を選び、宣言する。すると右手に紅い槍が出現した。

「これでも食らえやっ!」

 思いっきり投擲する。槍は無数の弾を消滅させながら真っ直ぐ進んだ。

「え? え? え!?」

 ミスティアは驚いているようだ。その間に槍はミスティアに直撃。そのまま墜落して行った。

「いってーな!」

 イヤホンを引っこ抜く。音量がでかすぎて耳がキンキンする。ある事を忘れて――。

「あ……うおおおおお!!!」

 コスプレは解除され俺も落ちた。そりゃそうだろう。曲のおかげで飛ぶ事が出来ているのだから。急いでPSPを操作しようとしたが手が動かない。

(力が……入らねー)

 何も出来ずに落ち続ける。

「――ッ!?」

 そのまま勢いよく地面に叩き付けられ気を失った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。