『吸血鬼の弱点は何か?』という問いに『日光』と答える人が多いのではないだろうか。驚異的な身体能力と回復力を誇る吸血鬼だが、日中は夜間よりもグッと弱体化してしまう。日光を浴びた瞬間、灰になるシーンは創作物の中でも度々登場している。
他にもニンニクや十字架、流水など不老不死と呼ばれているにも関わらず彼らには数多くの弱点が存在していた。
もちろん、上記の弱点は完全な吸血鬼だった場合であり、中途半端な存在――例えば、半吸血鬼であれば身体能力は完全な吸血鬼に劣るが弱体化を抑えられる。
つまり、吸血鬼化が進行しているキョウはまだ完全な吸血鬼ではないため、弱点を突いたところで効果は薄い。しかし、だからと言ってこのままでは霊力の針で体をズタズタにされる。
「ハハ」
すでに盾は霊力の針によってボロボロにされていた。数分で破壊されてしまうだろう。追い詰められているはずなのに盾の後ろで男は笑った。彼の声が聞こえたのか霊力の針を飛ばし続けていたキョウが不思議そうに首を傾げる。
「なんだ、警戒して損した」
盾の後ろから少しだけ顔を覗かせた男がニヤリと口元を歪ませながら呟く。傍から見れば彼は絶体絶命である。もちろん、男自身もそんなことわかっていた。いつ盾が砕け、体が針鼠にされるかわからないのだから。
「霊力の針を飛ばされた時はどうなるかと思ったが……盾で防げるほどの威力なら別に気にするほどでもないな」
それでも男の戯言は止まらない。止めてはならない。キョウの表情を見ながらひたすら言葉を紡ぐ。勝つために虚勢を張る。
「こんなことなら鎧を起動しなくてもよかったかもな。遊びで作ったガラクタで十分だったか。あの巫女見習いみたいに」
「――ッ」
(来たッ!)
男が霊夢たちの話をした途端、霊力の針の勢いが増した。その拍子に盾に大きな皹が走る。だが、彼は絶望していおらず、引き攣っていた頬が勝利を確信したかのように緩んだ。
「あ? なんだ? あの巫女見習いたちがどうかしたのか?」
男は盾から顔を出して霊夢たちが倒れている方向を見ながら話を続ける。その表情から彼女たちを馬鹿にしていることがわかる。
「ぁ、あ……あああああああああああ!」
理性を失っているキョウもそれを理解したのかどんなに自分のことを言われていても反応を示さなかった彼が吠える。大気すら震えるほどの声量で吠えたからかいつ壊れてもおかしくなかった盾がとうとう音を立てて粉々に砕け散った。それでも彼の笑みは消えない。消す理由がないのだから。
「ハッ! なんだよ、弱い奴らを馬鹿にしちゃ駄目なのか? 事実だろ? あんな玩具であそこまでボロボロにされてる奴らなんか雑魚だよ、雑魚」
砕けた盾を踏み砕きながら男は彼女たちを鼻で笑った。それを見て顔を歪ませるキョウ。それに応えるように彼を覆っていた赤黒い霊力も増幅する。いつしか彼の周囲に浮遊していた霊力の弾もなくなっていた。怒りのあまり細かいコントロールが効かなくなってしまったのだろう。予想以上の成果に男はほくそ笑む。
「ほら、かかって来いよ化け物。そんなに俺が憎いなら怒りに身を任せて襲って来い」
「ガァ、あああああああああああああ!!」
そんな男の安い挑発に乗った小さな化け物は赤黒い霊力を翼のように変形させて男に向かって飛翔した。己の体に起きている変化に気付かずに。
各地へ散らばった5体の分身。その内、最も早く目的地に到着したのは奏楽に向かった分身だった。
「おにー、ちゃん?」
「奏楽、いいか?」
「うん、いいよ」
奏楽の了承を得た
『では、始めましょう』
そんな彼らを黙って見ていた麒麟がそう言うと笑っていた奏楽の体が仄かに輝き出し、白い粒子となる。そして、少しの間、
「四神憑依」
奏楽の粒子が完全に
「四神憑依『奏楽―麒麟―』」
『……やはりと言うべきでしょうか。四神憑依をした途端、地力が底上げされましたね』
『四神憑依』が完了し、小さな声で
『それでおねにーちゃん、この後どうするの? 戦うの?』
「いや、戦わない」
『四神憑依』したことで今の
『ならば、どうして『四神憑依』を?』
「前線は『魂同調』した分身だけで何とかなるからな。
『どーやって?』
校舎の屋上にある霊脈と東西南北に設置されている4つの霊脈。これらは繋がっており、一つ破壊しただけでは問題は解決しないどころか、霊力爆破が発生し、黒いドーム内にいる人々は仲良く吹き飛ばされてしまう。だからこそ、霊奈は必死になって屋上の霊脈を解体しているのだ。
「翠炎を使う。そのためにここで術式を組むんだよ」
『術式、ですか』
「ああ、四神にはそれぞれ司る方角がある。そして、麒麟は中央……つまり、ここにいる時が一番力を発揮するだろう?」
青竜は東、白虎は西、朱雀は南、玄武は北、麒麟は中央を司っている。だからこそ、悟たちが作戦を立てた時も青竜を宿した弥生は東に、白虎を宿したリーマは西に、朱雀を宿した雅は南に、玄武を宿した霙は北に向かった。
『それはそうですが……』
「だからこそ、中央であるここで
『では、他の四神のところにも分身が向かっていると?』
「そうだ。そろそろ――」
その時、
『あれは、まさか……』
未だ衰える様子のない火柱を目の当たりにして麒麟は言葉を失う。四神の中で火を司っている神は1柱しかいない。だが、“相性100%の奏楽と麒麟”の次に相性のいい彼女たちは力を扱い切れていなかった。いなかったはずだった。
「あいつの力はあんなもんじゃない。だって、
そんな