東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

428 / 543
明けましておめでとうございます。
今年も東方楽曲伝をよろしくお願いします。


第418話 封筒と遺書

 屋敷の探索から帰ってきた響たちだったが『1人にさせてくれ』と言って響はすぐ部屋に閉じこもってしまった。敵の襲撃に備えて警戒していたせいで『式神通信』を使っていなかった私は慌ててリーマと弥生に話を聞くと彼女たちは彼から預かっていた一つの封筒をテーブルの上に置いた後、屋敷で起きたことを説明してくれた。

「それがその人の遺書か?」

 話を聞き終え、最初に口を開いたのはリョウだった。ここにいるのは私、望、リーマ、弥生、霊奈、リョウ、ドグの7人。響の様子がおかしいことにいち早く気付いた奏楽も話を聞きたがったが子供に聞かせるような内容ではなかったようで霙に引っ張られるように部屋を出て行き、静さんはまだ眠り続けている西さんの付き添いだ。

「そうよ。動揺してる間に響から奪うように貰っておいたの。あの様子じゃ何するかわからなかったし」

 リーマがため息交じりにそう言った後、テーブルの上に置いていた封筒を手に取り、中身を取り出す。中から出てきたのは話にあったようにところどころに血が付いた便箋だった。それを受け取ったリョウは遺書を読み、すぐに面倒臭そうな表情を浮かべる。その後、隣に座っていたドグに遺書を渡した。

「……はっ。これはひでぇな。ほれ」

 遺書を読み終えたドグは鼻で笑った後、私に遺書を差し出す。受け取って遺書に目を通し、気になる点をいくつか見つけた。だが、今は遺書の情報を共有することが先決だ。頭のメモに気になる点を刻み込み、望に遺書を回す。

(……まぁ、気持ちはわかるかな)

 望と霊奈が遺書を読み終えるのを待つ間、私は響が部屋に閉じこもってしまった気持ちを理解していた。彼の罪は彼だけのものじゃないから。

 響が部屋に引きこもってしまったのは救えたはずの命を見捨ててしまったせいだ。だが、彼がすぐに屋敷を離れたのは私のせいでもある。つまり、この罪は私の罪でもあるのだ。

 だが、正直な話、フランを誘拐して殺そうとしたのは向こうだ。響だってフランに手を出されなければ人を殺めることはしなかっただろうし、遺書を読んでわかったことだがこの人は死にたがっていたように見えた。

 確かに地下2階から脱出する前に周囲を見渡せばこの人の命を救えたかもしれない。しかし、だからといってこの人自身を救えたとは到底思えないのだ。むしろ、『どうして助けた』と文句を言われた可能性だってある。なら――。

「……雅ちゃん?」

「へ?」

「どうしたの? ぼーっとしてたけど」

 望に声をかけられ、顔を上げると6人の視線が私に集中していた。考え事に夢中になっている間に霊奈も遺書を読み終えたのかテーブルの上に遺書が置いてある。

「ごめんごめん。ちょっと考え事してただけ」

「そう? えっと……じゃあ、とりあえず気になったことでも話し合う? お兄ちゃん、部屋から出て来ないし」

「ああ、そうだな」

 望の提案にリョウが頷き、自然と全員の視線が遺書に注がれた。念のために響に『式神通信』を繋いで会議の様子を中継する。返事には期待していない。会議を聞いて少しでも気が紛れればいい程度だ。

「それじゃあ、私が司会しようかな。弥生ちゃん、書記お願い」

「うん、わかった」

 頷いた弥生は固定電話の近くに常備されているメモ帳数枚とペンを取りに向かった。彼女が戻って来るまで頭のメモに書いておいた気になる点を整理する。それからほどなくして弥生が戻ってきたので『コホン』と望が一つ咳払いをした。

「まぁ、皆気になる点があると思うし順番に気になる点を言って、それについて議論しよっか。まずは霊奈さんから」

「んー、確か兵士って雇ってたんだよね? でも、この人は自分から志願したのかな」

 霊奈が指摘したのは兵士に関することだった。大切な人を思い出すために走馬灯を見ようとしていたが代表――兵士の日記に書いていた雇い主は思い出せる可能性が低いことを知っていたらしい。それでも兵士になってまで思い出そうとするほどこの人にとって忘れてしまった人は大切だったのだろう。

「おそらくな。だが、こいつみたいに志願して兵士になった奴は少ないだろう」

「どうして言い切れるのよ?」

「代表って奴の話を信じるなら走馬灯という確実に起こるとは思えない現象に縋りつかなければならないほど記憶を消されたのはこいつだけだ。それに兵士の数が揃っていれば別の場所から兵士を雇うわけがない」

 リョウの言葉に思わず『あー』と声を漏らして納得してしまった。西さんの話では研究所に勤めている研究員の数は相当なものだったらしい。だが、その代わり、兵士が足りず、雇うしかなかった。走馬灯を見るという目的があったこの人が例外だったのだろう。

「じゃあ、兵士は基本的に雇われた人ってことでいいかな。雅ちゃんは何か気になるところあった?」

「……そもそもどうしてこの人は記憶を消されたの? 他にも消された人いるみたいだけど」

「それはこの遺書からじゃわからなくね? 記憶が消されてるんだから。それにこいつの大切な人は存在そのものが抹消されたらしいし、どこにも痕跡は残ってないんだろうよ」

 私の疑問を一蹴するドグ。確かに彼の言う通り、記憶を消されたのならその理由もわからない上、消された方法や誰に消されたのかさえ覚えていないだろう。

「待て……ドグ、今なんて言った?」

 だが、彼の発言に反応したのはその隣で腕を組んでいたリョウだった。その表情は険しい。何かわかったのだろうか。

「は? いや、痕跡は残ってないって言っただけだけど」

「ああ、そうだ。痕跡は残っていない……じゃあ、何でこいつは“記憶を消された”ことを覚えている? 存在そのものを抹消したのならこいつだって覚えていないはずだ」

 リョウの言葉に私たちは顔を見合わせてしまう。存在を抹消されたはずなのにいたことを覚えていること自体がおかしいのだ。存在を抹消できるほどの力を持っているならばいたことすら忘れられるようにできるはず。でも、この人は覚えていた。それほどこの人たちの絆が強かったのか。それとも誰かの手によって少しだけ記憶が戻ったのか。

「……おそらく今の手札ではわからないだろう。これは後回しだ。ほら、司会。次だ次」

「う、うん。じゃあ、リーマちゃんはどう?」

「え!? あー、そうね。この人も含めて異能力者がいるっぽいこととか?」

 誰も答えに行きつくことができず、無言になってしまう。これ以上考えても話は進まないと判断したのかリョウが議題を変えるために望に話しかけた。望に質問されたリーマは慌てた様子で答える。組織は異能力者を集めて研究していると響が教えてくれた。それこそフランが誘拐された時にボイスチェンジャーを使って話すリーダー――代表から聞いたのだ。

「遺書を読んだ時点でこの人を含めてすでに2人いるから他にいてもおかしくない……けど、さっきも言ってたけど兵士にはなってないよね?」

「遺書に出てきた能力者は記憶系だったし戦闘系の能力を持ってる人がいなかったんじゃない? もしいたらどこかで戦ってるだろうし」

 ペンを動かしながら弥生が周囲を窺うように聞くとすぐに霊奈が頷いた。他の皆も弥生の意見に賛成だったようで特に反論はしない。

「別に他に能力者がいてもいなくても今は関係ない。それよりもこっちの方が問題だ」

 そう言いながらリョウがテーブルの上に置いてあった遺書と遺書が入っていた封筒を私たちに見えるように持ち上げた。それを見て何だろうと首を傾げる弥生以外の全員が顔を顰める。

「……1人だけ気付いていなかったみたいだな」

「この子、結構疎いのよ」

 呆れた様子で弥生を見るリョウにリーマが弥生の肩に手を置いてため息交じりに言う。そういえば昔、一緒に住んでいた頃から時々、変なことをやらかす子だった。

「え? ええ? 何? 封筒と遺書がどうしたの?」

「ほら、よく見てよ。遺書には血が付いているのに封筒には全く血が付いてないでしょ?」

「それに封筒の中を覗き込んだが中にも血は付いていなかったし、遺書も中途半端なところで書き終わっていた。途中で力尽いたんだろうな」

「あ、ホントだ……って、途中で力尽いちゃったならどうやって封筒に遺書を入れたの?」

 不思議そうにしている弥生に説明する望とそれを補足するドグ。それでやっと封筒と遺書の矛盾に気付いた弥生が更に問いかけてくる。その疑問が浮かんだ時点で答えは出たようなものだが今は時間が惜しいのですぐに答えを言ってしまおう。

 

 

 

 

 

 

「つまりね、遺書に付いた血が乾いた後に封筒に遺書を入れた別の人がいるってこと」

 







とうとう、響さんの本能力名を突き止めた読者様が現れました。
投稿し始めて6年で初めてです。
とりあえず、今の段階でも響さんの本能力はわかると実感できて一安心しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。