東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第427話 映像

「うわぁ!」

 始発の電車に乗って降りたことの駅に向かっている途中、車内に誰もいないので人形の姿のまま、桔梗は流れる外の景色を眺めていた。彼女は電車に乗るのは初めてだからか妙に楽しそうだった。

「マスター、とっても速いですね!」

「俺はあまり利用しないけど便利な交通機関だよ」

「……私の方が速いですし。外の世界でなければ空を飛ぶか、バイクで移動出来たのに」

 俺の返答に拗ねてしまったのか口を尖らせる桔梗。出発するまで桔梗【バイク】で向かうと思っていたようで電車で向かうと知るや否や肩を落として落ち込んでいた。

 滅多に争い事が起こらない外の世界で桔梗を使うとすれば桔梗【腕輪】か桔梗【バイク】くらいしか思いつかない。だが、一応、車の免許は持っているが桔梗【バイク】は明らかに大型バイク。つまり、桔梗【バイク】を使うなら大型バイクの免許が必要になる。さすがに大型バイクの免許は持っていないので今回ばかりは彼女に諦めてもらうしかなかった。

「……全部終わったら大型バイクの免許取りに行くよ。そしたら、どこかにドライブに行こうね」

「ッ! 約束ですよ!」

 機嫌を直してもらうために彼女と指切り(さすがに小指を絡めることはできないので俺の小指を桔梗は掴む形になったが)をした。事件を早く解決させて長期休暇を利用して桔梗と一緒に旅に出よう。今から楽しみになってきた。

「そろそろ降りる駅に着くから腕輪になってくれ」

「わかりました」

 桔梗が腕輪に変形し、俺の右手首に装着されるのを見届けた直後、電車が目的地に到着した。まだ通勤ラッシュ前だからか人気の少ない改札を抜け、駅の外に出た俺は周囲を見渡す。そして、近くの駐車場に停まっているワゴン車の傍で幹事さんと何か話している悟を見つけ、そちらへ向かう。

「悟」

「お、来たか。すまんな、急に呼び出したりなんかして」

「いや、別にいいんだが……」

 本来であれば悟の調査が終わり次第、望たちと一緒に手がかりを探す――今回の場合、笠崎の妹の死について実際に笠崎の妹が死んだ村へ調査しに行くつもりだった。しかし、昨日の夜に彼から調査の結果を伝えられると同時に映像の流出によって広まった噂をどうにかするために協力を求められたのだ。俺にしかできないことらしく、仕方なく望たちに笠崎の妹に関する調査を任せることにした。

「で、俺は何をやらされるんだ? 嫌な予感しかしないんだけど」

 昨日の電話で悟は申し訳なさそうな声で協力を求めた。つまり、彼にとって不本意なお願いか、もしくは俺が嫌がりそうなお願いということなのだろう。まぁ、俺に協力を仰ぐ前にリョウに何かを確認していたのも気になるが。

「……車の中で説明するからとりあえず、移動しよう」

 悟は言い辛そうに幹事さんと目を合わせ、そっとため息を吐いた後、彼は近くに停めていたワゴン車の後部座席へ乗り込んでしまう。そんな彼の様子を見て慌てたように助手席へ向かう幹事さん。チラッと運転席を覗くと執事服を着た老人がカーナビを操作していた。

(まぁ、しょうがないか)

 説明を聞かなければ断ることすらできない。それに例の噂によっていつ幻想郷が崩壊してもおかしくない現状、出来る限りのことはしておきたい。覚悟を決めて俺もワゴン車へ乗り、ほどなくしてワゴン車は発進した。

「さて……まずはこれを見て欲しい」

 悟はバッグからノートパソコンを取り出し、俺の方へ差し出す。受け取って画面を覗くとそこには10丁の改造狙撃銃を操り、無数の妖怪たちを吹き飛ばしている『魂共有』状態の(吸血鬼)の横顔が映っていた。

「これは……」

「例の映像だ。対策する前にいつでも見られるように保存しておいたんだよ」

 悟から例の噂について教えてもらった時はすでに公開されていた映像は全て削除されていた。そのため、実際に映像を見るのはこれが初めてになる。目を丸くしながら映像を見ていると場面が切り替わり、トールと『魂同調』した『魂共有』状態の(吸血鬼)が大量の剣を展開して妖怪たちを切り捨てていた。

 それから(吸血鬼)を中心に次から次へとシーンが切り替わり、最終的に反転した霊脈を破壊したところで映像は終わっている。もう一度、最初から映像を見直してノートパソコンを悟に返した。

「どうだった?」

「……どうして、(吸血鬼)ばかり映ってるんだ?」

 俺が黒いドームの中へ転移した時、きょーちゃん人形の効果(俺と話したいと願った時に俺に通信が入る電話のような機能と微弱な状態異常無効)を受けていたユリちゃん以外のお客さんは全員、種子によって眠らされていた。つまり、仮にお客さんの誰かがこの映像を流出したのなら俺の姿は映っているはずがないのである。

 それに映像の最初に改造狙撃銃を操っている『魂共有』状態の(吸血鬼)の横顔が映っていた。当時の(吸血鬼)は空を飛んでいたので(吸血鬼)の横顔を撮るには撮影した人も同じ高さまで飛ぶ、もしくはドローンのようなものを使用しなければならない。しかし、妖怪たちを殲滅するのに集中していたとはいえ空を飛んでいる人やドローンぐらい視界に入るだろう。

「でも、当時の響は気付かなかったってことは撮影した人、もしくは物は視界に映らない状態……透明化していた可能性があるな」

「いや、俺には魔眼がある。透明化していたとしても人なら気付けたはずだ。つまり、この映像を撮影したのはドローンのような機械……そして、透明化機能が付いているドローンを作れる奴は一人しかいない」

 そう、笠崎である。タイムマシンすら作ってしまう奴の技術力があれば透明化機能付きの高性能ドローンを作ることだって容易だろう。映像に俺ばかり映っていた理由は未だにわからないが笠崎がこの映像を流したのなら俺が映像に映っていたのも頷ける。それに笠崎ならば自動で映像をネットに流出することだってできるはず。

「で、それがどうかしたのか? そんな重要なことだとは思えないけど」

「いや、かなり重要だ。本当に笠崎が撮影して流出した映像なら実際に見た人はいない(・・・・・・・・・・)ことになる。つまり、誰もこの映像が本物だと証明できないんだ」

 確かに掲示板で流れている噂も『合成ではなく本物ではないか?』程度でしかなく、推測の域を超えていない。むしろ、ネットの住人の反応は願望に近かかった。そして、その『いて欲しい』(願望)が増えれば増えるほど幻想郷が崩壊する危険性が高まっていく。

「だから、俺たちもそこを突く。あの映像に映っていたものが作り物であると信じ込ませるんだ」

「……具体的な方法は?」

「映像には映像。響、お前には女優(・・)になってもらう」

「……は?」

 色々とツッコみたいが、とりあえず『女優』ではなく『俳優』だと思う。いや、『俳優』と言い直しても悟の発言の意味は理解出来ないけれど。

「長年、お前と一緒にいてずっと疑問に思ったんだよ。お前は顔も良ければ性格もいいからモテるのはわかる。だが、お前のモテ方は異常だ」

「お、おう……確かにな」

 少し前までの俺ならば悟の言葉を信じずにスルーしていただろう。しかし、実の母親が俺に施した封印に綻びができた今、その疑問を共有することができた。悟の言う通り、俺は異常に人に好かれやすい。よく綺麗と言われるので容姿が原因かと思っていたが顔がいいだけではあそこまで人に好かれることはないだろう。性格に関しては自分では何とも言えないので今回は無視する。

「でも、お前の過去とか聞いてやっとその理由がわかった」

「……その理由は?」

 先を促すと悟は一度、前部座席で運転している執事と幹事さんの方をチラッと一瞥し、俺の耳元へ顔を寄せる。彼らに聞かれるとまずい理由らしい。

 

 

 

 

 

 

「お前に流れる吸血鬼の血……それも、魅了の類だ。お前は常に周囲に魅了の魔法を撒き散らしてるんだよ」




響さんのモテる理由ですが、過去に書いた覚えはありませんがすでに出ていたら教えてください。私も可能な限り読み返しましたが見つからなかったので大丈夫だと思いますが……。

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