感想で的中させましたので消去せざるを得ませんでした。しかも、匿名投稿だったのでメッセージを送ることも出来ず……申し訳ありません。
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吸血鬼の文献には様々な種類があり、記述されている内容も文献によって差異が生じる。だが、たった一つだけ全ての文献に共通して書かれていることがある。それは『吸血鬼は定期的に人間の血を飲まなければ衰弱、もしくは死んでしまう』ことだ。それほど吸血鬼にとって血は大切な存在なのだ。
しかし、血を分けてくれる協力的な人間はほとんどいない。むしろ、小説などの創作物の中では化け物扱いされることが多かった。そのため、基本的には人間を襲って血を吸うしかない。そして、人間から血を奪いやすくするために“魅了”が使えると記述されていることがある。
「俺は魅了なんか使えないぞ」
俺は吸血鬼の血が流れているとはいえ、少量なので普段は半吸血鬼ですらない。だからこそ、太陽の光を浴びても死ぬになることはないし、流水も吸血鬼の血が活発になる満月の日以外、無害である。吸血鬼にとって命の源である血を飲まなくても平気だ。
だが、反対に満月の日であってもレミリアやフランのように蝙蝠に変身することはできない。
つまり、吸血鬼の血が薄いため、弱点はないが吸血鬼の能力を存分に発揮できないのである。もちろん、魅了の類も扱えないし、魔法適正を調べた時に確認済みだ。
「だろうな。それに使えたとしてもお前の性格的に乱用しないだろう。じゃあ、無意識で使っていたとしたら?」
「……いや、使えないんだから無意識でも使えないだろ」
「
「そりゃ……そうだけど。俺の能力が関係しているなら魅了だけ発現するのはおかしくないか?」
悟の推測が正しければニンニクに苦手意識を持っていたり、日焼けしやすくなっているなど認識できる程度には吸血鬼の性質が発現していなければならない。だが、半吸血鬼になる満月の日以外、俺は普通の人間。他の吸血鬼の性質は発現していないのに魅了だけ無意識に使っているとは思えないのである。
「俺も思いついた時はすぐに違うって思って頭の隅に置いておいたんだけど、昨日、調査の結果を伝えた時に思い出して念のためにリョウに確認したんだよ」
「あの時、リョウと話してたのはそれだったのか」
「そうそう……で、リョウもさすがに魅了はないって言ってたんだが、急に黙り込んじゃってさ。そしたら、いきなり『あり得る』って答えたんだ」
「はぁ?」
完全な吸血鬼である上、俺の能力を知っているリョウが『あり得る』と答えるとは思わず、眉間に皺を寄せてしまった。
「理由は聞いたか?」
「あー……俺も聞いたんだけど詳しい話はしてくれなくて。でも、吸血鬼とは別の要因が絡んでくるらしい。その要因も“人に好かれやすくなる”性質があるみたいでその性質が吸血鬼の血と上手い具合に噛み合って魅了だけが発現した、ってのがリョウの推測」
おそらく要因について全く触れなかったことから悟もリョウから聞かされていないのだろう。リョウは俺よりも
だが、そんな彼女でも一つだけ頑なに教えようとしないことがある。そう、俺の実母だ。つまり、魅了が発現した要因は実母に関係している可能性が高い。今、リョウに電話して問い詰めても教えてくれないだろう。
「もちろん、響が魅了の魔法を撒き散らしてるか確認してもらったら、相当集中して観察しなければ気付かないほど微弱な魅了を感知したみたいだ」
「……そうか」
ここまで言われてしまっては否定することはできない。だからこそ、ため息交じりに言葉を漏らしながら背中を背もたれに預けた。
無意識であっても俺は魅了の魔法で人々を惑わしてしまった。もしかしたら、俺に魅了されて人生を狂わされてしまった人もいるかもしれない。そう思うと罪悪感で顔を顰めてしまった。
「まぁ、そう気落ちするなよ。さっきも言ったが魅了は本当に脆弱なものらしい。魅了といっても第一印象がよくなる程度だってさ。ここまで皆に愛されたのはお前の魅力あってのものだ……まぁ、お前の魅了は何か特殊みたいで一定以上の好意を持てばどんどん好きになってしまう泥沼タイプらしいけど」
「じゃあ、俺にファンクラブができたのは……」
「いや、ファンクラブに介入するぐらいじゃ泥沼には嵌らないみたいだ」
『だから、安心しろ』と笑う悟だったが素直に喜べない。とにかく、俺が好かれやすい体質なのは理解した。だが、それが女優と何の関係があるのだろう。
「あの掲示板では妖怪やロボットの話題と同じぐらいお前に関する書き込みが多かっただろ」
「……まぁ、そうだな」
「だから、お前が女優だと掲示板の住人が知ればあの映像もお前が出演したPVだと思うはずだ」
悟が考え付いたのは俺が
「理屈はわかった。じゃあ、俺は具体的に何をすればいいんだ?」
「……引き受けてくれるのか?」
「そりゃ、じょ……俳優として働くだけで例の噂をどうにかできるなら喜んでやるさ。あんまり無茶なのは無理だけど、お前がそんなこと言うわけないしな」
俺が素直に引き受けるとは思わなかったのか目を丸くする悟。確かに俺は目立つのが得意ではない。ファンクラブもなし崩しに認めてしまったが可能であれば今すぐ解体して欲しいと思っている。
でも、そんなちっぽけな羞恥心よりも幻想郷の方が大切だ。少しぐらい目立つことになってもそれで幻想郷を救えるのなら構わない。
「……ありがとう。それじゃ、幹事さん、スタジオに連絡をお願い」
「わかりました。それにしても会長、よかったですね。響様が了承してくれて」
携帯を操作しながらこちらに顔を向けた幹事さんはくすくすと笑っていた。それを見た悟が気まずそうに顔を背ける。彼の反応を見て首を傾げていると幹事さんが嬉しそうに口を開けた。
「響様も知ってると思いますがファンクラブはもちろん、O&Kも響様でお金儲けはしないと決めているんですよ。ですが、今回ばかりは響様の力を借りなければ厳しいらしくて……O&Kの会社の皆さんは結構前から『響様に助けを求めては?』と意見が出ていたみたいなんですけど会長だけは昨日までずっと反対していて」
「ちょ、幹事さん止めて! 恥ずかしいから!」
「いいじゃないですか。良い話なんですから」
珍しく慌てる悟に対し、『では、電話しまーす』と逃げてしまう幹事さん。さすがに電話の邪魔はできないのか悟は悔しそうに顔を歪め、すぐに俺の視線に気付いた。
「ま、まぁ……自分で決めたことを曲げるのは嫌だったし。お前はあっちの方に集中して欲しかったら」
「わかった、わかったから詳しい話を頼むよ」
「……はぁ。さっきも言ったけどお前には女優……簡単に言ってしまえばO&Kが開発してるVRゲームのイメージキャラクターになって欲しい。そうすれば例の映像もVRゲームのPVだと思われる可能性もあるし」
「イメージキャラクター、か。でも、演技とかあんまり自信ないぞ」
昔、俺、望、雅、悟、奏楽の5人でTRPGをした時に俺の大根役者っぷりを弄られたことがあり、少しだけトラウマになっているのだ。あの時は俺のキャラを俺自身だとイメージして何とかなったが、VRゲームのイメージキャラクターともなれば何かしらの設定があるはずだ。
「ああ、その点に関しては大丈夫。お前は普段通り、暴れるだけでいい。もちろん、桔梗ちゃんにも協力して貰うからね」
「へ? 私もですか?」
幹事さんたちに聞こえないように小さな声で問いかけた桔梗に笑ってみせた悟はそのまま俺が持っていたノートパソコンを操作し始める。
「あの映像に映っていたのはお前だ。俺たちが勝手に決めたイメージキャラクターはお前じゃない。だから、イメージキャラクターを演じるんじゃなくて、響自身がイメージキャラクターになるんだよ」
「現場に到着しました」
悟の言葉の真意を確かめる前に運転していた執事さんがよく通りそうな低い声で目的に着いたことを告げる。窓から外を見ると車は丁度、立派な建物の駐車場に入ったところだった。