東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第449話 希望の連撃

 霊双『ツインダガーテール』

 

 

 

 

 スキホを操作し、博麗のリボンを取り出してそのまま自動的に髪型を二つ結びに変更された。幸い、『雷輪』はまだ機能しているので速度も出せる。『拳術』、『蹴術』で威力を高めた渾身の一撃を腕一本で防がれたのだ。今度は威力ではなく、手数で勝負する。

 二本の尻尾の先に小さな刃が生えたのを確認し、一瞬にして東の懐へ潜り込む。そのまま右手に持った『神鎌』を振り降ろした。

「……」

 それに対し、東はただ無表情で右手を払い、『神鎌』を粉々に破壊する。だが、その隙に『霊双』が左右から迂回するように彼の背中へと向かい、刃を突き立てる――が、体に当たった瞬間、バキンと音を立てて砕けてしまった。手数でも攻撃が通らなければ意味がない。

 

 

 

 

『ゾーン』

 

 

 

 

 意図的に意識を引き延ばして砕けゆく2つの刃と東の背中を吸血鬼の目を借りて観察する。やはりと言うべきか刃が当たった場所が若干揺らいでいるように見えた。つまり、この揺らぎを大きくすれば奴の防御を抜けるかもしれない。

(リョウ!)

『わかっている』

 『ゾーン』を解き、影に潜むリョウを呼ぶとすぐに『霊双』が付けた揺らぎへ俺の影が伸びた。それと同時に東の注目を集めるために今度は左手に出現させた『神剣』を突き出す。

「……さすがというべきか」

 『神剣』を左手で掴み、そのまま握り潰した東は背中に当たった影をチラ見した後、そう呟いた。俺たちの目的を見破ったらしい。

 だが、もう遅い。

 

 

 

 

 回界『五芒星円転結界』

 

 

 

 

 懐から何十枚もの博麗のお札をばら撒き、『五芒星結界』を組み上げ、それを高速回転させて東へと突っ込ませる。さすがにこれは無視できないと判断したのか初めて顔を歪めた彼はバックステップしながら迫る『回界』を両手で破壊していく。その間も俺とリョウは東の背中(揺らぎ)へ攻撃を仕掛ける。そのほとんどは体を捻られたり、足で踏み潰すように防がれてしまったが着実に揺らぎは大きくなっていた。

「くっ……」

 奴も背中の揺らぎを気にしたのか『回界』を無視し始め、背中への攻撃から身を守るようになっていく。しかし、リョウはともかく『雷輪』で高速移動し続けながら、『霊双』、『神鎌』、『神剣』、そして、無数の弾幕を張る俺の攻撃は肉体強化で強くなっている奴でも防ぎ切るのは至難の業だ。それどころか俺に集中あまり、奴の隙を突くように影を操作するリョウの攻撃も通るようになっていた。

(もう少し……もう少しだ)

 相変わらず、東に傷を負わせられないが背中の揺らぎは視認できるほど大きくなっている。この防御さえ突破すればやっと奴にダメージを与えられる。

「ちっ、なめるな!」

 しかし、東もいい加減ちまちまと攻撃する俺たちが煩わしくなったのか叫びながら地面を殴りつけた。その瞬間、東の足元が粉々に砕け散り、衝撃波が発生する。そのせいで俺は吹き飛ばされ、リョウの操る影も地面が割れた拍子に大きく形が変わってしまったため、消えてしまう。

「あら、そんな無防備でいいのかしら?」

 そこへ俺の魂から抜け出した吸血鬼が空中で狙撃銃を構えながらニヤリと笑った。そして、東が行動する前に何の躊躇いもなく、引き金を引く。狙撃銃から放たれた銃弾は寸分違わず東の背中へと直撃。背中の揺らぎが消えたのを感じ取った。今ならあそこへ攻撃が通じる。俺の直感が即座に根拠のない結論を弾き出した。切り札を使う前にダメージを与えられるチャンスを掴めるとは思わなかったが、好都合だ。

「吸血鬼かっ……だが!」

 もう一度、同じ場所へ銃弾を撃ち込もうとリロードする吸血鬼を睨んだ東は地面を蹴って俺たちから数メートルほど距離を取る。だが、それだけでは『雷輪』を装備している俺からは逃げられない。

(今度、こそっ!)

 一瞬にして東の背中へ回り込んだ俺は右手を握りしめ、全力で拳を突き出す。一般人に当てれば肉片に変えてしまうほどの威力を誇った一撃が無防備になった背中へ迫る。

「――ッ」

 しかし、彼も黙って攻撃を受けるつもりはないらしい。右腕を俺の拳の軌道上へ滑り込ませようと体を捩らせた。このままでは先ほどと同じように片腕で防がれてしまう。そう、このままでは(・・・・・・)

「なッ……」

『させると思うか?』

 東の右腕が突然、上へと僅かに跳ね上がった。リョウが俺の影を使って奴の腕を下から打ち上げたのである。リョウのアシストでも東の腕の位置は少ししか変わらなかったが、俺の拳の軌道上から外れたのは間違いない。

「いっけええええええええ!!」

 奴の腕と俺の拳が掠れるように交差し、そのまま吸い込まれるように無防備になった背中を捉えた。ゴキリ、と骨が砕ける音を聞きながらダメ押しでインパクトを放つ。

「ガッ」

 そのあまりの威力に東の体はまるで全速力で走っている車に轢かれたように吹き飛び、何度も地面をバウンドした。すぐに探知魔眼を発動して東を見るが相変わらず霊夢たちから集めた地力を纏っている。奴はまだ倒れていない。

「あの人、まだッ」

 俺と視界を共有していた吸血鬼はすぐに狙撃銃の銃口を遠くにいる東へ向けた。だが、引き金に指をかける前に彼女の横に東が突如として現れる。

「……え?」

 吸血鬼が顔を上げると同時に虫でも払いのけるように彼は右手を払う。その刹那、今度は吸血鬼の姿が消えた。いや、消えたのではない。東の腕力が化け物染みているあまり、彼女の体はバウンドすらせずに数百メートル以上離れている森の中まで吹き飛ばされたのである。

「吸血鬼ッ!」

「人の心配してる場合か?」

 森の中へ消えた吸血鬼の方へ顔を向けようとするがその前に東が目の前に現れ――視界が弾けた。そして、数秒遅れて襲う激痛と凄まじい衝撃。

(な、にが……)

 チカチカと迸る視界に映る曇天の空を見ながら俺は状況を飲み込もうと必死に思考回路を巡らせた。どうも、体の負傷具合からして顎を蹴り上げられたらしい。しかも、その拍子に顎と首の骨が砕け、ほとんどの歯が抜けたようだ。

『ちっ……』

 『超高速再生』によって負傷箇所が治る感覚を覚えながらリョウの操る影によって東から距離を離されているらしい。

「……」

 何とか体勢を立て直して東へ視線を送る。無傷とまではいかなかったようで彼は口の端から血を流し、くたびれていたスーツの背中部分はほとんど消し飛んでいた。

『どうなっている? 普通に死ぬレベルの攻撃を受けたんだぞ?』

(こっちが聞きたい……吸血鬼、無事か?)

『ええ……でも、ごめんなさい。ちょっとダメージ受けちゃってしばらく動けないかも』

 リョウの問いに首を振り、吸血鬼の容態を確かめる。吸血鬼は本来、肉体を持たない霊体のような存在。今では外で活動できるようになったが魂のみの存在であることには変わらない。そんな彼女が攻撃を受ければ肉体ではなく、魂がダメージを負うことになる。そうなってしまうとそのダメージが回復するまでの間、彼女は俺の魂の中で休息を取る必要がある。

「やっぱり……攻撃特化のお前ならこうなるか。とことん、面倒な存在になりやがって(・・・・・・)

 口元をスーツの裾で拭った東はスーツの上着を抜いてワイシャツ姿になった。やはり、ダメージを受けた様子ではあるが目立った外傷はない。骨が折れるどころか内臓が破裂するレベルの攻撃を受けたのにも拘らずに。

(何かカラクリがある、のか)

 背中は未だに無防備のままであるようだが、このまま攻撃したところでそのカラクリがわからなければ無駄に終わってしまう可能性が高い。切り札を使うのはもう少し様子を見てからの方がよさそうだ。

「……いいのか? そんな悠長なことをしていて」

 何とか体の修復も終わり、どうやって攻めようか考えているといつの間にか東の拳が目の前まで迫っていた。

「ゴッ」

「言っておくが……背中のシールドが剥がされた時点でお前らの負けは決まったようなもんだぞ」

 顔面を殴られ、地面に叩きつけられた俺の耳に滑り込んできたのはそんな東の言葉だった。


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