東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第452話 総力戦

「ブースト、か」

 俺の体から迸った紅いオーラを見て東が小さな声で呟いた。

 『霊力ブースト』を含めた『ブースト』系のスペルは一時的に該当する地力を爆発的に増加させる。その代わり、『ブースト』が切れた瞬間、しばらくの間、その地力を使用できなくなってしまう諸刃の剣。

 今はなんとか『合力石』の恩恵で『超高速再生』に使用する霊力に他の地力を混ぜて凌いでいるがこのまま何もしなければ地力は底を尽きるだろう。だが、『ブースト』を使えばその『超高速再生』に使用する霊力を補充できる。

 しかし、『霊力ブースト』を目の当たりにした東に驚いた様子はないので『ブースト』のことはすでにばれている。これでは奴の意表を突けない。そもそも『ブースト』で強化したところで東の身体能力の前では焼け石に水。今だって奴の足から逃れようともがくがビクともしない。

(だからこそッ……)

 

 

 

 

 

 開力『一転爆破』

 

 

 

 

 切り札(ジョーカー)を切る前の布石として使用する。

 出鱈目に合成した地力を右手に集めて地面に叩きつけ、地面を爆破させた。どんなに強くてもいきなり足元が爆発すればバランスを崩す。東も例外ではなかったようで俺の背中から奴の右足が離れた。その隙に残っていた左手(・・・・・・・)に纏っていた妖力を噴出させ、転がるようにその場から退避する。

 もちろん、ゼロ距離で地面を爆破させたので俺はボロボロ。全身に火傷を負い、爆破させた右手は綺麗に消し飛んでいる。

「『神力ブースト』!」

 しかし、どうせこの傷も『超高速再生』で治る。とにかく今は少しでも時間を稼いで全ての『ブースト』を発動させることに集中させるべきだ。『ブースト』は重ねれば重ねるほど次の『ブースト』を使うための待機時間(キャストタイム)が伸びる。『ブースト』を使うのを躊躇っていたのはこの制限の存在が大きい。

「そんなもの使ったところで俺には通用しない!」

 案の定、東は紅白のオーラに包まれた俺を見てすぐに攻撃を仕掛けてきた。『ゾーン』を使って迫る東の姿を視認し、タイミングを見計らって猫に変身する(・・・・・・)

 魂の住人、猫の能力の一つ。『猫化』。その効果はその名の通り、俺の体を猫にする。もちろん、猫になったところで東には勝てない。だが、『猫化』の優れている点は当たり前の話だが俺の体が著しく小さくなること。そして、変身に使用する時間が一瞬であること。そのおかげで東の拳は体の小さくなった俺の頭上を通り過ぎた。

(ぐ、ぅ……)

 しかし、直撃は免れたが拳を振るった際に発生した風圧によって小柄な体は吹き飛ばされてしまう。人間の頃に比べ、猫の体は脆弱だからかそれだけで体のいたるところから骨の折れる音が響き、顔を歪めた。

「ちっ」

 攻撃を躱された東の舌打ちを聞きながら体を丸めて勢いをなるべき殺さないように地面を転がる。傍から見れば黒い毛玉がコロコロと転がるように見えるだろう。勢いがなくなってきたところで再び人間の姿に戻り、『猫化』した時に首輪にしていた紫特注のどんな服にでも変えられる仕事着を着こむ。これがなければ今頃、全裸で戦っていただろう。

 そんなことを考えている内にすでに東は俺の懐に潜り込んでいた。猫になったのは意外だったようで少しの間、動きを止めてくれていたがそう都合よく時間を浪費してくれないらしい。

 でも、空間倉庫からスキホを取り出す時間は稼ぐことができた。

 

 

 

 

 

 白壁『真っ白な壁』

 

 

 

 

 俺と東を分断するように真っ白な薄い壁が出現する。別にこんな壁1枚で奴の攻撃を防げるとは思っていない。今、大事なのは俺から東が、東から俺がその壁によって視認できなくなった。ただの一点。

 『白壁』が粉々に砕け、その向こうから東の拳が現れる。だが、その時点で俺は『超高速再生』によってすでに完治していた右手に握りしめていたスキホを開き、『5』を3回連続で押していた。奴の拳が俺に当たる寸前、『瞬間スキマ』が発動し、元いた場所から3歩だけ右にずれた場所に転移する。

 『瞬間スキマ』。雅と初めて戦った頃に紫に追加して貰ったスキホの機能の一つ。消費する地力の量は馬鹿にできないが、特に術式を組まずに半径10メートル範囲内のどこかにランダムで転移できる簡易的な転移術。この機能を使ったのは随分久しぶりだが上手く起動してよかった。まぁ、本音を言えばもう少し離れた場所に転移したかったのだが。

「ッ――」

 きっと、東も『瞬間スキマ』のことは知っていた。しかし、俺の使える技や術式、機能は100を越える。知っていたとしても即座に反応できるとは限らない。特に『瞬間スキマ』のような俺ですら(・・・・)使わなくなった使いづらい技に関してはほぼノーマークだったのだろう。

 東の攻撃を凌ぐためには中途半端に逃げても意味がない。追い付かれて追撃を受けるからだ。

 ならば東ですら追い付けない――どんなに速くても物理的に追撃不可能な回避をすればいい。それが一瞬にして自分の立ち位置を別の場所を変える移動手段、転移。

 だが、転移系の技は基本的に発動までに時間がかかるか、消費が激しい。『瞬間スキマ』でさえも『ブースト』によって爆発的に増えた地力をごっそり削った。何度も使用できるものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 だから、俺は2つ目に『神力ブースト』を使用した。

 

 

 

 

 

 

 

 『瞬間スキマ』を使ったことに驚いていた東だったが、すぐに3歩分だけしか転移できなかった俺へ攻撃しようと伸ばし切った右腕を裏拳のようにこちらへ振るう。その僅かな時間が次の一手に繋がった。

 

 

 

 

 神箱『ゴッドキューブ』

 

 

 

 

 『白壁』とは違い、お互いの姿は見える透明な板――箱が俺の周囲に現れ、東の拳と激突する。俺が何をしても問答無用で破壊した東の拳は確かにその箱に受け止められていた。

 そもそも『ブースト』の原理は霊力、魔力、神力、妖力それぞれが邪魔し合い、低くなっている出力を元の出力値に戻して供給量を増やしているだけに過ぎない。

 つまり、使用した『ブースト』に該当する地力の量が増えると同時にその地力を使用した技の威力も底上げされるのだ。そして、『ブースト』を重ね掛けした時に得られる相乗効果を考慮すれば『神箱』の頑丈さは計り知れないほどのものになっている。今なら幽香の本気のパンチですら易々と受け止められるだろう。

「ぉ、らぁ!!」

 しかし、出力が上がって頑丈になっているはずの『神箱』は東が力を込めただけで皹が走った。俺もこれだけで奴の攻撃を止められるとは思っていなかったので落ち着いて次の手を打つ。

 

 

 

 

 神撃『ゴッドハンズ』

 飛神『神の飛び出す手』

 

 

 

 

 少しでも東から距離を取るためにバックステップしながら両手から巨大な手を出現させ、ドン、ドンと時間差をつけて放つ。『神箱』が砕けるとほぼ同時に今度は東の拳と神力で創造した巨大な右拳がぶつかり、そこへ巨大な左拳が右拳を押すように連結する。

「こ、んな……もので止められると思うなぁああああああ!!」

 重なる『神撃』の向こうで東が叫び、巨大な右拳が粉々に砕け散った。だが、その後すぐに右拳を押していた左拳が東へ襲い掛かる。それすらも奴は簡単に破壊してしまった。

 『神力ブースト』により威力も耐久力も遥かに底上げされた『神撃』にさすがの東も破壊するまでに数秒ほどかかった。たかが数秒、それど数秒。俺はその数秒のために死に物狂いで耐え切ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『魔力ブースト』!!」

 

 

 

 

 

 

 俺の体から青いオーラが迸り、紅、白、青の光が俺を包み込む。残る『ブースト』は『妖力ブースト』のみ。次の『ブースト』を唱えられるまでの待機時間(キャストタイム)は今までのそれとは比べ物にはならない。

 

 

 

 

 

 

 さぁ、本番はここからだ。

 




思った以上に長くなったので一矢報いるのは次回か、その次回です。

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