東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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前回のお話の感想で本能力とは違いますが、ちょっとばらしたくないネタバレがあり、事情を説明して削除していただきました。
感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、そういったネタバレを書かれてしまうと
感想欄を覗いた人にそれがばれてしまいます。
なので、可能な限りでいいので、感想を書く方もネタバレに関して意識していただけると幸いです。


また、わざわざ感想を削除してくださった方、本当にありがとうございました。そして、感想を削除させてしまい、申し訳ありません。


今後とも、『東方楽曲伝』をよろしくお願いします。


第489話 背負うべき義務

『師匠……』

 誰もが言葉を失う中、魂状態である霊夢が小さくそう零した。

 結界には主に3つの使い方がある。

 頑丈な結界を張り、攻撃を防ぐ『守りの結界』。

 鋭く尖らせたり、刃のように薄く展開した結界で攻撃する『攻めの結界』。

 そして、身体能力の強化や治療など様々な効果を発揮する結界で援護する『援護の結界』。

 霊夢と霊奈はそれぞれ『守りの結界』と『攻めの結界』が得意であり、幼い頃は自分の得意な結界ばかり練習していたらしい。

 しかし、彼女たちの師匠は『援護の結界』の使い手であったと聞く。

 その師匠が今、目の前に立っている『レマ』――いや、俺の母親である『博麗 霊魔』。

「さて、色々聞きたいことはあると思います。ですが、時間がありません。事情は霊夢から聞けば大方理解できるでしょう。では、ご武運を」

 こちらを見ずに彼女は懐から新しく博麗のお札を数枚ほど取り出し、地面に向かって投げる。お札はいくつかの小さな星型の結界を作り、地面に張り付くように展開された。一見、『五芒星結界』のように見えるがあれは『守りの結界』である。ああやって地面に展開しても意味はない。

 そう思った矢先、レマは一歩だけ足を踏み出し、一番近い星型の結界を踏みつけて破壊する。その刹那、彼女の姿が消えた。いや、いきなり速度が上がり、目では追いつけなくなったのである。それから遅れること1秒後、展開されていた全ての星型の結界がほぼ同時に粉々に砕け散った。

「ちっ……」

 混乱していたせいで集中力が途切れていたのか、俺はレマを見失ってしまったが東はきちんとレマの姿を捉えていたらしく、彼女が投擲したお札を体を捻って回避した。その時には何とかレマの速度に俺の目も慣れ、凄まじい速度で移動しながらお札を投げる彼女の姿を見つける。

「何が、起きて……」

『……あれが『援護の結界』。まぁ、あんな使い方をできるのは師匠だけなんでしょうけど』

 俺の呟きに答えたのは俺の隣で浮遊している霊夢だった。星型の結界を踏んで破壊することで発動する『援護の結界』。おそらく、踏んで破壊した者の身体能力を上げるなどの効果が付与させている結界なのだろう。だからこそ、一つ目の結界を破壊した瞬間、彼女は忽然と姿を眩ましたと錯覚してしまうほどの速度を手に入れた。どうやったらそんな術式を組み上げられるのか、今の俺には思いつかない。

 そういえばレマが東に攻撃を仕掛ける前に霊夢に事情を聞けと言っていた。『援護の結界』も気になるがとにかく、今は状況を整理しよう。そうしなければ今後、どのように動けばいいのか決めるに決められない。

『ずっと不思議ではあったの。どうして、響は博麗のお札を使えるのか』

 しかし、質問する前に霊夢は独り言を言うようにぼそりと零したが、それからまた口を噤んでしまう。どう言えばいいのか、言葉を選んでいるようにも見えた。

『覚えてないでしょうけど……あなたは小さい頃、博麗神社の蔵で『博麗の歴史』という家系図と歴代の博麗の巫女が作り上げた奥義が載っている『博麗奥義集』という本を見つけたわ。それらは博麗の巫女かその関係者にしか読めないように細工がしてあったの。でも、あなたには普通に読めた。もちろん、“ななさん”だった頃のあなたもね』

「……」

『あの頃から博麗のお札は使えたからきっと博麗の巫女の末裔で……先祖返りが起きたのだと思ってたわ。まさか、師匠の息子が、あなただったなんて』

 『博麗の歴史』という単語には覚えはないが、『博麗奥義集』には心当たりがある。それこそ俺が『時空を飛び越える程度の能力』をコントロールするために何とか完成させた『夢想転身』だ。あの時、桔梗は『自分は読んでいない』と言っていたので誰かから『夢想転身』について聞いたと思っていたが、『博麗の巫女の関係者』ではない桔梗は読めず、先々代巫女の息子であるキョウとななさん(俺たち)は読めたのだろう。

「でも、なんでレマは俺の中に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――響ちゃんの能力はきちんと封印しておいたから……って。だから大丈夫だよ。響ちゃんは今もあの子に守られてるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢に質問している途中、ふと母さんの言葉が脳裏に蘇った。

 俺は『時空を飛び越える程度の能力』を持っているが、今でさえ碌にコントロールできていない。幼い頃の俺はまさにその能力によって幻想郷へと飛ばされた。

 また、俺には干渉系の能力は一切、通用しない。母さん自身、封印は一度、弾かれてしまったと言っていた。

 じゃあ、どうやって俺の能力を封印したのか。外から干渉して弾かれてしまうのなら内側から封印するしかない。俺がリョウに呪いをかけられた時も錠剤を使って体の内側から呪いをかけられた。それと同じ要領である。

 つまり、レマは――俺の実の母親は俺を助けるために体を手放し、自分の存在を俺の心に押し込め、ずっと能力が暴走しないように守ってくれていた。

 しかし、母さんの口ぶりからするに俺の能力を封印した後、顔を合わせている。その時点でレマは俺の心の中にいるはずなのに。別の協力者がいる、ということなのだろうか。

『……きっと、師匠は全部わかってたんだと思う』

「わかってた、だって?」

『ええ……『博麗の巫女』は勘が鋭いのはあなたも知ってるでしょうけど、師匠は別格。彼女の直感は未来予知と言っても過言ではないわ』

「未来予知……だから、キョウ君の魂に移動した後、色々と教えてくれたのかな」

 霊夢の言葉に咲さんはどこか納得したように声を漏らした。そういえば咲さんと再会した時に俺について誰かに聞いたと言っていた。それがレマだったのだろう。

「……」

 先々代博麗の巫女、鋭すぎる直感による疑似的な未来予知、俺の母親。そして、先ほどの言葉。

 ああ、わかった。彼女の言うとおり、俺は全てを理解した。理解してしまった。だからこそ、レマは東を足止めするように戦っている。時間を稼いでいる。少しずつ、後退(・・)している。

「……霊夢、色々ありがとう。助かった」

『……気をしっかり持ちなさい』

「わかってる。『博麗霊夢』、保留(ストック)

 心配そうに俺を見つめる霊夢をスペルカードに格納し、俺は数歩だけ下がった(・・・・)後、右腕のPSPに左手の人差し指を置き、一気にスライドさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「運命のダークサイド『鍵山 雛』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 心から魂へと移動したレマは現在進行形で東と戦っている。俺の能力を封印するために体を失ったレマが外で霊力をまき散らしながら足止めしている。そんな状態の彼女が外で活動していれば――。

 それを含めて全てを理解した。理解してしまった。だから、俺は必ず東を救わなければならない。この世界線を越えた残酷な復讐劇を終わらせなければならない。それが力が及ばず取り返しのつかない犠牲を出してしまった俺が背負うべき義務である。








第311話、第337話、第346話、第420話、参照

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