東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

5 / 543
第5話 弾幕ごっこ

「うぅ……」

 背中が痛む。どこかに強く打ったようだ。うめき声を上げなから体を起こす。感触的にベッドの上だとわかった。

 その事を疑問に思いながら視線を横にずらす。

「「……」」

 ベッドの横からミスティアがこちらを見ていた。お互い、何も言わずに見つめ合う。

「うわっ!?」

 ワンテンポ遅れて驚く。その拍子に頭を壁にぶつけた。ここはミスティアの家らしい。

「――ッ!」

 声にならない悲鳴を上げる。

「だ、大丈夫?」

 ミスティアは慌てた様子で聞いてきた。

「な、なんとか……」

 悶えながら答える。困惑していた。何故、俺はここにいるのか。何故、ミスティアは俺の事を食べなかったのか。ただただ不思議である。

「ほら! 朝ごはんだよ!」

 笑顔でお盆を渡してきた。お盆の上には鰻の蒲焼とご飯が乗っていた。

「あ、ありがとう……」

 戸惑いながら受け取り箸を掴む。

「「……」」

 ミスティアはじーっとこちらを観察している。俺はその眼差しを避けるように蒲焼を口に運んだ。

「……美味い」

「ありがとう」

 俺が感想を述べると満面の笑みを浮かべる。

「あのさ?」

「ん? 何?」

「何で俺の事、食べないの?」

 今、一番気になっている事を聞いた。

「弾幕ごっこで負けたから」

 当たり前でしょと言ったようにミスティアは答えた。

「それだけ?」

「それだけ」

 どうやら俺は一命を取り留めたようだ。

「しかし、本当に美味いな。これ」

「でしょ~! 自信作なの!」

 それから蒲焼を食べながら雑談する。妖怪と言ってもこんな奴もいるんだなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで弾幕ごっこって何?」

 蒲焼を食べ終わった頃になって思い出した。そもそも弾幕とは何なのかわからない。

「え? 知らないで戦ってたの?」

「ああ」

 俺の言葉にミスティアは驚愕しているようだ。

「じゃあ、説明するね。弾幕ごっこは――」

 その後、皿洗いをしながら講義を受けた。この幻想郷ではスペルカードルールと言うものがあり、そのルールに基づいた戦いが弾幕ごっこらしい。このルールが出来たおかげで種族に関係なく戦えるそうだ。

「まぁ、これぐらいかな?」

「ありがと。わかりやすかったよ」

(あのお札はスペルカードだったのか……)

 知らないのに使えたのに驚きだ。

「そういえば、PSPは?」

 ミスティアに聞いてみる。

「ああ、あのからくり? それならそこに」

 そう言いながらテーブルを指さす。そこにはPSPがあった。急いで手に取り、故障はないか確認する。あの高さから落ちたのだ。完全に壊れていてもおかしくない。イヤホンを耳に装着するが音が聞こえない。落ちた拍子に止まったようだ。電源を付けると正常に稼働した。スタートボタンを押すと何故か曲が再生された。選曲すら出来ないらしい。

 

 

 

~千年幻想郷 ~ History of the Moon ~

 

 

 

 服が光り、青と赤のアメリカの国旗のような服に変わる。ナース帽もかぶっている。

(やべ……イヤホンが壊れてる。)

 左耳の方から音が聞こえない。だが、肝心のPSPは壊れていなかったのはよかった。片耳だけでもちゃんとコスプレ出来るようだ。耳からイヤホンを引っこ抜く。

「……」

 ミスティアはまたじ~っとこちらを見ていた。

「どうした?」

「いや、変な能力だな~っと」

「俺も思うよ。男なのにあんな恰好させられるなんて……」

「え!? 男なの!?」

 俺の発言に驚くミスティア。

「当たり前だろ!? お前、俺を女だと思ってたのか!?」

「そうよ! だって顔も女っぽいし髪だって黒くて綺麗だし後ろで1本にまとめてるじゃない!」

 そう、俺の髪型はポニーテールだ。理由は簡単。切りに行くのが面倒くさかったから。その結果、ポニーテールに落ち着いたのだ。

「そうだけど口調とかでわかるだろ……普通」

「あんたのような口調の女なんて珍しくもないよ!」

 確かによく女に間違えられる。それは事実だ。

「俺は男だ! いいな!?」

「う、うん……わかった」

 ミスティアは戸惑いながら頷く。俺はため息を吐きながらズボンのポケットにPSPを突っ込んだ。

「あれ? それ、弾幕ごっこの時は手に持ってなかった?」

「ああ、戦う時の服にはポケットがないんだ。だから仕方なく手に持ってる」

 はっきり言って邪魔だ。

「なら、いい物があるよ!」

 ミスティアは笑顔でそう言うと別の部屋に行ってしまった。

いい物とは一体、何なのだろう。

「はい、お待たせ!」

 少しして戻って来た。ミスティアの手にはたくさんのホルスターが握られている。だが、ところどころ破けているが縫い合わせればPSP用のホルスターも出来るだろう。

「裁縫道具あるか?」

 疑問には思ったがさほど重要でもないのでスルーする事にした。

「うん。でも、縫えるの?革製だけど」

「何とかなるだろう」

 それからミスティアに裁縫道具を借りてホルスターを縫い合わせる作業に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「……よし。これで大丈夫だ」

 1時間ほどで完成。

「すご~い! よく縫えるね」

「普段からやってるからな」

 母は不器用で何か縫おうとすると必ず血だらけになり、服をダメにしてしまう。そこで俺が代わりに縫っていたのだ。ホルスターを右腕に装備する。足だとイヤホンのコードが届かないから仕方ない。そこにPSPを入れる。少しきついが落ちにくくなったはずだ。

「ありがとな。それに飯まで貰っちゃって……」

「いいの! 私がしたいようにしただけだから」

「そうか? それならいいけど……」

 そう言いながら席を立つ。

「もう行くの?」

 少し寂しそうな顔をしたような気がした。

「早く帰りたいからな。帰れる所とか知らないか?」

「それなら博麗神社に行けばいいよ! ちょっと来て!」

 手を掴まれ、外に出た。

「えっと……」

 空を飛んだミスティア。どうやら博麗神社がある方角を確認しているようだ。俺は空を飛ぶためにホルスターから伸びたイヤホンを装着。PSPを操作し曲を再生する。

 

 

 

~もう歌しか聞こえない~

 

 

 

 服が光る。飛べるのがデフォだとわかっているので気にせず空を飛ぶ。

「どうだ?」

 隣まで移動し話しかける。

「……」

 だが、ミスティアは引きつった顔で俺の姿を凝視していた。

 どうやら服を見ているらしい。気になって確認した。茶色を基調としたスカート。帽子は天辺に鳥の翼のような装飾が施されている。背中には淡いピンク色の翼が生えていた。

「これって……」

 完全にミスティアの服と一緒。何もかもが同じだ。

「な、なんであんたは私の服を着てるの!?」

 腕をぶんぶんと振って怒鳴って来た。

「知らねーよ! こっちだって聞きたいわ!?」

 負けじと叫ぶ。

「ほら! あっちに行けば着くからとっとと行け!?」

 ミスティアは顔を背けながら指をある方向に向ける。どうも俺の姿を見たくないらしい。

「わ、わかった。ありがと!」

 俺はミスティアのコスプレをしたまま、その方向に向けて移動を始める。

(やっと、帰れるぜ……)

 ため息を吐きながら空を飛び続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は空を飛ぶ彼の姿を見つめていた。

「う~ん」

 彼を初めて見た時から気になっている事があった。

 

 

 

「どこかで見た事があるような……」

 

 

 

 それはいつだったかどのような状況だったかわからない。けど、そう感じてしまう。

「まぁ、いいか~」

 考えても思い出せなかったので気にしない事にした。私は屋台の準備をするために自分の家に入る。

 




響さん、男の娘です。
ちゃんと理由がありますので、それはまた別のお話しで(290話でもまだ書けていませんが)。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。