妖怪少女と出会う1週間前、紅魔館。俺はレミリアとフランと一緒に平和的にウノで遊んでいた。
「スキップ!」
フランの出した赤のスキップにより、俺の番が飛ばされる。
「ドローツー、2枚ね」
レミリアが赤と黄色のドローツーを出す。
「ここでドローツー!」
フランがドローするのを回避。俺の番だ。
「させるか! ドローツー!」
しかし、俺もこの時の為に取って置いたドローツーを場に出す。
「はい、ドローフォー」
「私、ドローフォーもあるよ!」
「うおおおおおおおっ!?」
合計16枚のカードを山札から引く。絶望的だ。
「フラン、色」
レミリアが促す。
「あ。えっと……青!」
「……」
一枚も持っていなかった。手札が20枚あるのにも関わらず。持っていなかったのでドロー。青のドローツーだった。
「食らえ!」
場に叩き付けるように出す。
「「ドローツー」」
「うおおおおおおおおおおおっっ!?」
結局、26枚に増えました。
「しかも……フランが出したの青のドローツーだし」
山札から1枚、引く。赤のスキップ。
「はい、青の1」
俺の表情を見て、レミリアがカードを出した。
「あ! ウノ、ストップ!」
残り2枚だったフランが1を2枚出して上る。
「……」
また、フランが出したのは青の1だったのでドロー。青の5だった。手札に5はない。単体で出すしかない。
「ほい」
「はい、ウノ、ストップ」
レミリアは5を3枚、出して上った。
「……」
知っている。この戦いは仕組まれていると。レミリアが運命を操り、フランが1位。レミリアが2位。俺を3位にしているのだ。しかも毎回、面白い展開(俺が大量にドローする事)になるのでフランも気付いていない。
(……まぁ、楽しそうだからいいや)
「そう言えば、今日は帰るの遅いね」
「あ、ああ」
腕時計を見ると6時を回っていた。いつもなら晩飯を作っている最中。
「ちょっと用事があるんだ」
「用事?」
レミリアが聞いて来る。カードを集めている事からまだ、俺を処刑するつもりらしい。
「そう、用事」
「その用事も終わるわ」
その時、俺のすぐ横から紫が顔を出す。
「お? 終わったのか?」
「ええ。貴方の言う通り、機能も増やしておいたわよ」
そう言いながらPSPとスキホを手差し出して来た。今日、紫にPSPとスキホのメンテを頼んでいたのだ。
「マジで!? さんきゅ!」
「後で機能についてメールするから」
「わかった」
スキホを使ってPSPをスキマに転送し、立ち上る。
「そろそろ帰るよ。その前にトイレ、貸して」
「え~! お兄様、帰っちゃうの?」
フランが寂しそうな表情を浮かべ、聞いて来る。
「う……もう、少しいるよ」
俺はそういう顔に弱い。腰を降ろしてウノを配り始める。
「紫もやるか?」
「遠慮させていただくわ。そこの吸血鬼、イカサマしてるし」
「なっ!?」
紫の暴露に驚くレミリア。
「お姉様? どういう事?」
「ふ、フラン? どうして、そんなに目が据わってるのかしら?」
「私、言ったよね? 能力を使うなって……でも、お姉様は使っていたって言うじゃない? お兄様も気付いていたの?」
「ああ」
「ななっ!?」
再度、レミリアが驚く。
「そんな事より……3人、いや響とフランに話があるの」
「俺?」「私?」
紫の言葉に首を傾げる俺とフラン。
「ちょっと! どうして、私は入っていないの!?」
「響の能力についてね」
レミリアが文句を言うが紫は華麗にスルー。
「え? お前、俺の能力については誰にも言うなって」
「そうなんだけどね? 能力について少しわかったから協力して貰おうと思って」
「私に何か出来る事があるの?」
「今の所、貴女以外にはいないわね」
紫の発言を聞いてフランが目を輝かせる。
「私は何をすればいいの!?」
「お、落ち着きなさい……まずは説明しなくちゃね」
スキマから出て来てそこら辺にあった椅子に座る紫。
「響の能力は知ってる?」
「えっと……『曲を聴いて幻想郷の住人になる程度の能力』だっけ?」
違う。
「本当は『幻想の曲を聴いてその者の力を操る程度の能力』だ。今はな」
「今は?」
レミリアが目を細めて呟く。どうしたらいいか分からず、紫の方を見ると紫はこちらを見てウインクした。話してもいいそうだ。
「実はな。俺の能力は変わるんだ」
「変わる?」
不思議そうな顔をするフラン。
「ああ、今はさっき言った能力なんだけど、ある条件を満たした結果らしい」
「その条件は?」
「はい、それ以上は駄目~」
「っ!? う、うぅ~!!」
紫がレミリアの質問を一刀両断する。レミリアは拗ねて唸っていた。
「じゃあ、お兄様の本当の能力名は?」
「それも駄目」
「前から不思議に思ってたんだけど何でだ?」
今度は俺が紫に問いかける。
「貴方の能力を利用する輩もいるかもでしょ?」
「そんな簡単に利用出来る能力じゃねーけど……」
「万が一よ。万が一」
「それで? フランに何をさせようっての?」
レミリアが紫を促す。
「まずはこれをどうぞ」
そう言ってスキマを展開し、取り出したのは3枚の白紙のスペルカードだった。
「私の分も?」
「念のためにね」
レミリアの疑問に紫が手早く答え、カードを渡して来る。
「それに念を込めて」
紫の指示に戸惑う俺たち3人。お互いに頷き合い、目を閉じた。
「「「……」」」
何も起きない。目を開けて紫にそう言おうとした矢先――。
「「っ!?」」
俺とフランのカードが紅く光り輝いた。眩しくて目を開けられないほどに。
「な、何が……」
カードを離そうとしたが、体が言う事を聞かない。それどころか体に違和感を覚える。何かが入って来るような感覚だ。
「お、お兄様……」
薄く目を開けるとフランがこちらに手を伸ばして来ていた。どうやら、向こうも俺と同じ状況らしい。
「フラン!!」
無我夢中で俺も手を伸ばし、フランの手を握った。その瞬間、光が強くなる。そして、体に入って来る何かの正体がわかった。フランだ。俺の魂にフランの魂の一部が入って来る。逆も然り。俺の魂の一部もフランの魂に混ざって行く。
(一体、何がどうなって……)
困惑する中、紅い光の中でフランの手の温もりが確かにそこにあった。
「くっ……」
ゆっくりと意識が浮上する。だが、目がチカチカして開けるのもつらい。目を開けずに体を起こした。
「だ、大丈夫? フラン」
「な、何とか……」
近くでレミリアとフランの声が聞こえる。フランも気絶していたようだ。
「どうやら、成功みたいね」
「その声……紫?」
「ええ。大丈夫?」
「時間が経てば多分な」
だが、またフラフラだ。体がフワフワと宙に浮いているような感覚。
「ちょっと、八雲 紫! フランに何をしたの!? 急に2人共、倒れるし」
薄く目を開けるとフランに肩を貸したレミリアがこちらに近づきながら文句を言っていた。フランも目を開けられないらしく、閉じていた。そんな事より、レミリアの発言で気になる事があった。
「お、お前はあの光を浴びても大丈夫だったのか?」
狭い視界の中でもレミリアの目はパッチリと開いてるのが見えた。
「は? 光?」
キョトンとするレミリア。
「……紫」
「何?」
「何があった?」
「簡単よ。貴方とフランの魂を繋げたの。いや、繋がったの」
わざわざ、言い換えて紫はそう言った。
「何か違うの?」
レミリアが紫に質問する。
「私は何もしていないのよ。だた、きっかけを作っただけ。繋がったのは響とフランの魂が共鳴したから」
「きょ、共鳴?」
今度はフラン。その声は少し辛そうだ。それに対して、俺は目が開けられないだけでそれほど苦しくなかった。おそらく、魂の構造が普通とは違うからだろう。
「ええ、響はもう目を開けられるでしょ? 手に持っているスペルを見てみなさい」
「あ、ああ……」
ゆっくり、目を開く。まだ少し痛いが我慢出来るほどにまで回復した。紫の言う通りにスペルを確認する。
「……シンクロ『フランドール・スカーレット』?」
「レミリアはフランのスペルを」
「……わかった」
素直に従い、レミリアはフランのスペルを見た。
「何も書いてないわよ?」
「やっぱり……どうやら、そのスペルは響にしか使えないみたいね」
溜息を吐いて紫が呟いた。
「もう、そろそろ説明してもいいんじゃないか?」
俺は紫にそう言った。何やら、隠している
「そうね……そのスペルを使うと――」
「な、何よ……その姿」
目を開くと妖怪少女の戸惑った顔が見えた。
「成功か」
真紅のタキシード。その中に黒いワイシャツ。そして、黄色いネクタイ。頭には紅いシルクハット。背中にレミリアのような漆黒の翼が生えていた。だが、7本の枯れ木のような筋が両翼に走っており、その終わりにそれぞれ七色の結晶がぶら下がっていた。いや、全ての結晶が七色ではない。一番、端の結晶だけは帯電しており、黄色く光っていた。まるで、フランの服をモチーフにした男の服だ。
「さて……そこの妖怪さん」
「は、はい!」
急に口調が変わった俺に吃驚して返事をする妖怪少女。
「殺しに行くので覚悟しておいてください。この姿で手加減は難しいと思われますので」
俺はそう言うと翼を広げ、1枚のスペルを取り出して、唱えた。
「禁銃『クリスタルバレット』」