東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第53話 分身と魂

「ショット」

 引き金を引き、貫通性のある銃弾を射出する。それに合わせて妖怪少女が10枚の翼を重ねるように地面に突き刺して盾を作った。エネルギー弾が盾に衝突すると紙をペンで突き破るように盾を貫いて行く。

「っ……」

 妖怪少女の小さな舌打ちが聞こえたと思ったら一際大きな盾が出現する。新しく作ったのだろう。さすがに10枚の翼に邪魔されたエネルギー弾は大きな盾にぶつかった瞬間、消滅してしまった。

「結晶を一つ、装填。ショット」

 すかさず、弾を撃ち出す。

「やっぱり」

 俺の銃弾を軽く躱し妖怪少女が呟いた。

「その結晶、残り7つしか使えないよね?」

「……はい」

 そう、右翼の結晶は全て、光を失っている。残りは左翼のみ。これを使い切る前に妖怪少女を倒さなくては俺の負けだ。

「禁弾『スターボウブレイク』!」

 いつの間にか右足に括り付けられていた銃専用のホルスターに拳銃を仕舞い、七色の矢を放つ。幸い、シンクロすると曲は関係なくなる。何故なら、フランの魂が俺の魂にいるから。吸血鬼や狂気から力を貰っているのと同じようにフランからも力を少し貰っていて、それを利用して変身している。つまり、制限時間がないのだ。時間をかけて的確に『クリスタルバレット』を打ち込めば大丈夫。

「なるほど。無駄な消費を避けるつもりなんだ。でも、それが命取りだよ!」

 七色の矢を簡単に翼で叩き落とし、こちらに突っ込んで来た。その間に翼を4枚だけ組み合わせ、ドリルを作る。その後に残った6枚を両側から3枚ずつ、伸ばした。ドリルを攻撃すれば両側から翼に貫かれ、両側の翼を攻撃するとドリルでミンチにされる。傍から見れば絶対絶命。

「……」

 だが、俺はニヤリと笑っただけで何もしなかった。いや、何もする必要がなかったのだ。何故なら――。

「残念でした♪」

 上空から聞き慣れた声が聞こえた刹那、10枚の翼が全て、爆発した。

「なっ!?」

 俺と妖怪少女が爆風にまきこまれ、お互いに後方に飛ばされる。そのせいで妖怪少女との距離が50メートルほど空いてしまった。

「な、何がどうなって……」

 妖怪少女は目をぱちくりさせて驚愕していた。それもそのはず、俺は何もしてないのに勝手に翼が爆発したのだから。

「いてて……もうちょっとどうにか出来なかったのか?」

 しかし、俺は違う。知っているのだ。誰がどうやって翼を爆発させたのかを。

「ご、ゴメン。でも、こうするしかなかったでしょ?」

「そうだけど……まぁ、助かったよ」

 目も合わせず、隣に降り立った少女と会話する。因みに敬語は面倒になったのでやめた。

「う、嘘……今まで、仲間なんて出て来なかったのに」

 立ち上がった妖怪少女はこちらを見て呟いた。

「ああ、確かに。お前の目には見えなかっただろうな?」

 律儀に俺は説明する。

「でも、この真紅のタキシードになってからずっと一緒だったんだぜ?」

「じゃ、じゃあ、どこに! どこにいたの!?」

 妖怪少女の問いかけに俺たちはニヤリと笑う。

「「魂だよ」」

 そう、俺を助けてくれたのは俺の魂にいるはずのフランだった。

「魂?」

「そう、魂。俺、さっき分身したろ? 本当なら本体も含めて4体になるはずだったんだけど。何故か、その内の1体がフランだったんだよ」

「響の分身に私の魂の一部を送り込んだの。そしたら、分身の代わりに私が出て来た。まぁ、全部の分身は無理だったけどね。でもこうやって、響を助けてあげられた」

 そう言って、フランが嬉しそうに笑う。

「そ、そんな事が出来るの?」

「出来るよ。だって、私の技だもん。これぐらい、ね?」

 実は俺も驚いた。急に目の前にフランが現れたのだから。訳を手短に聞き、相手の戦い方を見て貰う為に上空にいてもらったのだ。

「じゃあ、あの爆発も?」

「うん。私だよ。だって、シンクロすると響、能力が使えなくなるんだもん」

 これも『シンクロ』のデメリットだ。魂にフランを取り込む代償として能力を捨てなければいけないらしい。理屈は分からないけれど。

「ふん……でも、また直せばいいだけだし」

「それはどうかな?」

「っ!?」

 俺の言葉に妖怪少女が顔をしかめる。

「炭素を操るのに妖力、使うんだろ? そろそろ、限界が来てんじゃないのか?」

「……」

「図星か」

「……そうだよ。いつもなら一瞬で殺すのにこんな長期戦になるとは思わなかったの!」

 俺の霊力も底を尽きかけている。だが、妖怪少女も同じだったのだ。

「でも、何でわかったの?」

「翼を壊す度に直るスピードが遅くなっていくのに気付いてな。それに壁を作るのに少し、抵抗があったみたいだし」

 貫通性が備わったエネルギー弾を放った時、普通なら翼で守らずに壁を何枚も作るはず。そうすれば、防ぎ切った後にすぐに翼で攻撃出来る。やらなかったのは妖力の消費を抑える為。

「くっ……」

 妖怪少女が奥歯を噛んだ。どうやら、当たったらしい。

「お互い、ギリギリの戦いだな」

「そっちの方が有利でしょ! 仲間がいるんだから!」

「そうでもないよ? 普段の力の10分の1も発揮出来ないし」

 フランは肩を竦めながら溜息を吐く。

「それにこの戦いは俺とお前のだ。フランに決めさせるつもりはねー」

 ホルスターから銃を取り出してそう言った。

「何言ってるの? 私が勝つんだよ」

 妖怪少女の10枚の翼が再生。

「結晶を六つ。雷晶を一つ、装填」

 左翼の全ての結晶が光を失い、銃に吸い込まれていった。

「させない!!」

 10枚の翼を伸ばし、俺の邪魔をしようとする妖怪少女。

「禁忌『クランベリートラップ』!」

 隣にいたフランがスペルを発動し、魔方陣が大量に出現。そこから弾幕が飛び出す。

「くっ……」

 弾幕と翼が衝突し、その場に留まる。

「さんきゅ」

「いえいえ」

 フランにお礼を言ってから走り出す。さすがに50メートルは離れすぎている。

「このやろっ!!」

 叫んだ妖怪少女は思いっきり、地面を蹴りつける。すると、俺と妖怪少女の間に20枚もの分厚い板が現れた。

「フラン!!」

「禁忌『レーヴァテイン』!」

 俺が声をかけると同時に炎の剣を出すフラン。能力は本調子ではないので連続では使えないようだ。

「そいっ!」

 すぐにそれを投擲し、俺の真横を通り過ぎて板に突き刺さった。やはり、妖力が足りなくて硬度が低くなっているらしい。

(狙え……)

 銃を構えると炎の剣が消え、小さな皹だけが残った。あそこに――。

「ショット」

 引き金をゆっくり引いた。その刹那、銃口から雷を纏った極太レーザーが撃ち出される。そのレーザーは直進し、皹に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 板から20メートルほど離れた所で私はドキドキしていた。甲高い音が板の向こうから聞こえたので銃を使ったのは分かった。その銃でこの板を突破されないか不安だったのだ。

「っ!?」

 最後の板に亀裂が走った。急いで翼を元の長さまで戻し、もしもの時に備える。だが、板は壊れる事なく何とか踏み止まった。

「ふぅ……」

 まだ、倒していないがこれであの銃は使えない。女は最後に全ての結晶を使っていたからだ。安堵の溜息を吐いた時だった。

「チェストおおおおおおおっ!!」

 目の前に現れたのは最後の板をドロップキックで破壊した女。その後ろに紅いスカートの女の子も付いて来る。

「え?」

「お兄様! お願い!」

「フランドール・スカーレット――装填」

 二人が着地した瞬間に女の子が紅い光になって銃に吸い込まれた。

「これで――」

 私は微笑んだ女を見て本能的に翼を伸ばしていた。

 


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