――時間は少し、遡る。
「くっ……」
極太レーザーは板に阻まれ、妖怪少女まで届いていない。やっと、10枚目に達したところだ。
「お兄様」
そこへフランが近づいて来る。
「な、何?」
銃を支えるのに必死でフランの方を見ずに返事をする。
「多分、これじゃ敵まで届かないよね?」
「……」
わかっていた。妖怪少女以上に俺は限界だ。足もがくがくしている。
「でも、どうすれば……」
「私を装填して」
「は?」
フランの言っている意味が分からず、聞き返してしまった。
「私を装填するの」
「聞こえてるって……そんな事、出来んのか?」
「出来るよ。だって、この技は私とお兄様の技だもん」
説得力のない事を言う。
「じゃあ、お前はどうなんだよ」
「消えるよ?」
「なっ!?」
「安心して。分身が消えるだけだから。私の魂の大部分はお兄様の魂にいるから魂そのものは消えないよ」
フランの説明を聞いてほっとする。
「わざと最後の板を壊さずに敵が安心したところに私をブチ込むの」
「……本当にお前に害はないんだな」
「ないってば。どうして、そんなに心配するの?」
苦笑しながらフランが聞いて来る。銃から出ているレーザーの出力が落ちて来て横を見る余裕が出来たのだ。
「当たり前だろ? 妹なんだから」
「へ?」
「いや、普通そうだろ? 兄が妹の心配するのって……いや、年齢的に姉の心配か? でも、フランは妹って感じなんだよな。ん? どうした?」
「何でもない……ありがと」
俯いていたフランに声をかける。最初は顔を背けたがその後少し、もじもじしてお礼を言った。
「まぁ、こっちこそありがとな。お前が居なかったら今頃、死んでたし」
「死ぬとか簡単に言わないでよ」
「はいはい。さて、そろそろやめるか」
レーザーを止めて、板の様子を伺う。どうやら、1枚だけ残す事に成功したようだ。
「問題はあれをどうやって壊すか……」
最後の1枚は皹すら入っていない。
「まかせて! 今なら完全に壊す事は出来ないけど亀裂を入れるぐらいなら出来るよ」
右手を翳してフランが笑う。
「……よし! 最後はまかせろ!」
俺も笑い、同時に走り出す。
「えいっ!」
フランが右手を握り、板に皹が入る。
「ついて来い!」
「うん!」
重心を低くし、思い切り地面を蹴った。そして、空中で態勢を変え、足を板に向かって突き出す。
「チェストおおおおおおおっ!!」
「え?」
板の向こうにいたのはこちらを見て呆けた表情を浮かべている妖怪少女だった。
「お兄様! お願い!」
着地した瞬間、フランが叫ぶ。
「フランドール・スカーレット――装填」
宣言してからフランの方を見ると微笑んでいた。だが、すぐに紅い光に変わり銃に吸い込まれていく。
「これで――」
引き金を引けば終わり。そう言いたかった。だが、俺は言葉を詰まらせる。それからすぐに微笑んでしまった。妖怪少女が顔を引き攣らせ、翼を伸ばして来る。しかし、今の俺には全く、無意味なものだった。
(フラン……それがお前の魂の叫びか)
銃からフランの声が聞こえる。多分、本人も知らない自分の本音だ。それが嬉しくて笑ってしまう。
「お前の声、確かに聞こえた!」
銃口を妖怪少女に向け、引き金に指をかけてから目の前に現れた1枚のスぺカを左手で掴み取る。
――私は495年間、地下室で暮らしてた。自分の能力が危険なのも知ってたし、それを操り切れないのも知ってた。だから、お姉様の指示に従って、地下で暮らしてたの。最初の頃は全然、平気だった。仕方ないから。運命だからって。でも、60年前にキョウと出会って地下で暮らすのが苦しくなった。人間と言う存在を知ってしまったから。恋、してしまったから。だから、最後の60年は苦しくて辛くて寂しかった。そんな時、霊夢と魔理沙と出会ったの。少し見栄を張って人間に会った事ないって言ってしまったけど……弾幕ごっこはとても楽しかった。私の世界は四角だった。窓もなく、ドアは固く閉ざされた四角。でも、それから世界が広がった。それが嬉しかった。それだけじゃない。響と再会、出来た。最初はあり得ないって思ってたけど今は違う。運命がそうしたんだって。そう思えた。495年間……。とても、とても長い年月が流れた。でも、私は後悔してないし誰も恨んでない。何故なら――
「狂喜『495年後の光』!!」
――今、とっても幸せだから!
スペルを唱えて引き金を引く。すると、銃口から一発の紅い弾が射出し、真っ直ぐ飛んで行った。途中で翼が妨害に入ったが一瞬で貫通。勢いは一切、衰えていない。
「う……そ」
それを見て目を見開いた妖怪少女。そして、紅い銃弾は妖怪少女の胸に突き刺さった。
「……え?」
確か、女の銃弾は私の心臓を貫いたはず。しかし、私は死んでいない。それだけではない。先ほどまで夜の森にいたはずだ。それなのに今は真っ白な空間の中。
「どこ? ここ」
私の問いかけは虚空に消える。試しに周りから炭素を集めてみるがここには存在していないようで何も集まらなかった。
「私たちの世界へようこそ」
「は?」
その時、目の前に女が現れた。
(……あれ?)
だが、少し違う。目は紅く、八重歯は生えている。更に背中から大きな漆黒の翼。
「全く、あの小娘は……」
その右隣にも同じ女。いや、これもまた違う。今度は髪を降ろしていた。
「いいじゃろうに。フランドールも無闇に破壊する事をやめたみたいじゃしの」
最初の女の左隣。顔は全く同じだが、髪が真っ赤だった。
「ふん。仕事を私たちに押し付けてる時点でまだ、子供だ」
髪を降ろした女が不機嫌そうに文句を言う。
「はいはい、そう言う事は本人に言ってね。あの子だって慣れない魂の中でよく分身に自分の魂を送ったのよ? そこは褒めるべきよね」
「そうじゃそうじゃ」
「……けっ。まぁ、いい。おい。そこの炭素」
余計、不機嫌になった女が私を呼ぶ。
「な、何?」
戸惑いながら返事をする。
「トール? どう思う?」
「……本当は響を殺すつもりなんてなかったみたいじゃの」
「え!?」
言い当てられて驚いてしまった。
「リーマを倒した相手を見てみたい……これが、本音ね」
「ど、どうして……」
「フランドールが教えてくれたんじゃ。『殺すつもりはないみたいだよ?』って」
フランドール――きっと、あの紅いスカートの女の子だ。
「あの小娘は狂気に敏感だからな。特に狂気異変の後から」
「……」
何やら嫌な予感がする。
「相手の強さを見てみたいって理由だけで響を瀕死にした。少し、お灸を据える必要があるみたいだな?」
「――」
恐怖。だた、それだけが私の中に存在していた。もう、ここがどこなのか気にならない。目の前の3人が怖くて仕方なかった。
「大丈夫。ここは魂の中。例え、お前の肉体が死んでも一瞬にして復活するから安心しろ」
「え、えっと……つまり、あんたたちは私を許すまで殺し続けると?」
「私たちじゃないわよ。狂気がね」
「……ふん」
狂気と呼ばれた女が顔を背ける。
「もう……響の体を内側から引き裂いたの気にしてるくせに」
「なっ!?」
「ああ、吸血鬼からそう言う話を聞いたの。何じゃ? 張り切ってるのはそのせいか?」
「そうなのよ。トール。そう言う事なのよ」
「う、うるせー!! お前らだってイラつくだろ!?」
「「別にー」」
「くぅ~……」
狂気が真っ赤に顔を染めた。どうやら、紅い目をした女は吸血鬼で赤髪はトールと言うらしい。
「ああ! 全部、お前のせいだ!! 殺してやる! 殺してやるうぅぅぅぅ!!」
しかも、全部私のせいにされた。
「ちょ、ちょっと待って?」
「待たん!」
「えええええええええええええっ!?」
狂気がものすごい形相で突進して来た。その後に溜息を吐きながら吸血鬼とトールも向かって来る。
「い、いや……やめて……ああああああああああああああっ!!」