東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第65話 大団円

「禁忌『フォーオブアカインド』!」

 迫り来る紅い槍を見ながら俺は4人に分身した。

「「「「禁忌『レーヴァテイン』!」」」」

 すぐに4人それぞれが炎の剣を持ち、同時に剣を下から上へ振り上げる。紅い槍は剣の威力に負け打ち上げられ、真上に飛んで行った。そのまま雲を突き抜けて、消える。会場が一瞬にして静寂に包まれた。

「よーし! チャンバラだ!」

 そんな事は気にせず、おどけた感じでそう言い、分身との距離を取る。

「行くぞ!」

 剣を構え、分身に向かって直進。一人目が剣を振り上げ、一気に降ろす。それを躱し、横に剣を払う。剣先が分身の腹を切り裂き、消滅した。

「次!」

 そう叫ぶと今度は2人同時に迫って来る分身たち。更に一方は横に振り、一方は剣先を下に向けて来ている。薙ぎ払いと斬り上げだ。

「キュッとしてドカーン!」

 剣を左手に持ち直し、右手を握って横に薙ぎ払った方の剣を壊す。斬り上げてきた方は左手の剣で受け止める。すぐに剣を失った分身の首に蹴りを入れ、消す。

「はぁっ!!」

 残った分身を右手で殴り、チャンバラが終わる。ここで唖然としていたお客さんから初めての拍手を貰う。

「ルーネイトエルフ」

 曲が変わり、大ちゃんのコスプレに変わる。確か、この子にはスペルカードはなかったと記憶していた。

(なら……)

「よっと」

 でも、チルノと遊んでいるのを見ていたらテレポートしていた。俺も例外なく出来るようで適当なお客さんの前に瞬間移動する。

「きゃあっ!?」

 吃驚して悲鳴を上げる若い女性客。周りの人も目を見開いている。

「来てくれてありがとう! 今日は楽しんで行ってね!」

 ニッコリ笑ってお礼を言う。

「は、はい。ありがとう、ございます……」

 女性客は顔を真っ赤にし、俯いてしまった。

「本当にありがとう!」

 少し浮上してぐるりと回って会場にいる全員に頭を下げる。

「クラスの皆! 楽しんでるかあああああ!!」

≪おおー!!≫

 最後に後ろの方にいた皆に声をかけると大きな返事が返って来た。

「恋色マスタースパーク」

 衣装は魔理沙になり、懐から八卦炉を取り出す。

「では、皆さん。衝撃に気を付けてください! 大きな花火を打ち上げます!!」

 箒の上で立ち、八卦炉を真上に向ける。

「恋符『マスタースパーク』!」

 八卦炉から七色の極太レーザーが撃ち出された。衝撃が下にいるお客さんにまで届いたのがわかる。1分ほど、射出し続けて次の曲が再生される。

「人形裁判 ~ 人の形弄びし少女」

 アリスに変わり、俺はニヤリと笑った。今日は運が良い。

「さて……そろそろ、この手品も終わりに近づいて来ました」

 ステージに戻り、ヘッドフォンの横の赤いボタンを押してループモードに切り替える。今回に限り、紫に付けて貰ったのだ。

「どうだったでしょうか? 少し、驚かせ過ぎました?」

 そこで悟が俺の姿を見て気付いたのか大きな籠を持ってステージにやって来た。籠を俺の横に置いて素早くステージを去る。定位置に着くにこちらに向かってサムズアップ。それに一つだけ頷いて答えた。

「最後にクラスメイト全員で作った人形をプレゼントしたいと思います!」

 これは悟のアイデアだ。お客さんにこの日の事をずっと、覚えていてほしいそうだ。だが、何故かモデルは俺。意味が分からなかったが皆は乗り気だったので反論出来なかった。

「ですが、普通に渡すには時間がかかってしまいます。そこで――」

 スカートを少し摘まんで上げる。

「この子たちに配って頂きましょう」

 すると、大量の人形が出て来た。もちろん、俺が操っている。量が多いのでコントロールが難しい。

「なお、人形には触れないようにしてください。触れようとしたり捕まえて持って帰ろうとした人にはこちらに浮いている上海と蓬莱から処罰が下されます」

 俺の両脇にいる人形が槍と剣を構えた。もちろん、脅すだけだ。

「数の問題で配り切れないかもしれません。最初に謝っておきます。じゃあ、行っておいで」

 優しく声をかけると人形たちは俺たちが作った人形を持って客席に飛んで行く。

「ありがとう!」

 小さな女の子に渡した人形の頭を下げさせた。お辞儀しているように見えたようで女の子が嬉しそうに笑顔になる。他の所でも同じようにした。お客さんは皆、楽しそうで良かった。

「……配り終わったみたいですね」

 ヘッドフォンの赤いボタンをもう一度、押してループを解除した。

「長い時間、ご視聴頂きありがとうございました! これで3年C組の発表を終わります! ネクロファンタジア」

 頭を下げてからヘッドフォンの赤いボタンの下にある緑のボタンを押す。すると、紫のコスプレに早変わり。

「それでは、ごきげんよう」

 スキマを開き、潜り抜ける前に客席にウインク。少し、恥ずかしかったがこれぐらいしても大丈夫だろう。お客さんからの大喝采を耳にして自然と笑顔になる。そして、俺はステージを後にした。

「……ふぅ」

 スキマから出た所は屋上だ。ヘッドフォンを外して、元の制服に戻してから溜息を吐いた。ここからならグラウンドが見える。まだ、拍手が鳴り止んでいなかった。

「お疲れ様」

「おう」

 隣にスキマが開き、紫が出て来る。

「見てたのか?」

「まぁね。それなりに楽しめたわ」

「さんきゅ……ん?」

 そこで違和感を覚えた。気になり、グラウンドの方を見た。

≪アンコール! アンコール!≫

「……」

 唖然とした。観客が声を合わせてそう叫んでいたのだ。

「ふふ♪ 良かったじゃない」

 嬉しそうに笑う紫。

『すみません。こちらのステージではアンコールは一切、受け付けて……』

「よっしゃ!」

 アナウンスがそこまで言った所で俺はヘッドフォンを頭に装着。

「悟! やるぞ!」

 大声で悟に声をかける。俺が屋上にいるとわかったお客さんが更に盛り上がった。

「おう!」

 袖から出て来て会場を見ていた悟が頷き、スクリーンを操作する為に戻る。

「じゃあ、行って来る」

「行ってらっしゃい」

 俺は紫を置いて屋上に柵を飛び越えた。

「少女綺想曲 ~ Dream Battle」

 霊夢の服に変わり、空を飛んでステージに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「乾杯!」

≪かんぱ~い!≫

 場所は家庭科室。午後9時を過ぎていたが俺の作った料理を前に皆で乾杯していた。

「いや~! 大成功だったな!」

 俺の隣でコップに入っていたジュースを飲み干した悟が嬉しそうに言う。

「ああ、そうだな!」

 俺も頷いてジュースを飲む。ステージは大成功。だが、それだけではなかった。毎年、俺の学校の文化祭ではどのクラスの出し物が一番だったか一般客の投票で決めている。何と俺たちのクラスが断トツで一位だったのだ。

「これも響のおかげだな! なぁ! 皆!」

 俺の料理を美味しそうに食べていたクラスメイト全員が頷く。

「俺だけじゃないって! 皆が頑張ってくれたからだよ」

 照れくさくなり、そう反論する。そこで壁にかかっている時計を見た。帰る頃には10時を超えてしまうだろう。

「すまん。俺、帰るわ」

 家で望と雅が待っている。あの二人も俺たちのステージを見ていてお祝いしたいそうだ。

「おう! 家族サービスは大事だもんな!」

「料理、美味しいよ! ありがとう!」

「今日はありがとな!」

 途中で抜けるのは気が引けたが悟やクラスメイト達は元気よく送り出してくれた。

「じゃあ、また明日!」

 鞄を乱暴に掴んで俺は家庭科室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 響が去った家庭科室で『響ファンクラブ』の緊急会議が開かれていた。

「さて……皆、今日はどうだった?」

≪最高でした!!≫

 会長である悟の問いかけに会員たちは声を揃えて叫ぶ。

「そうだろう! 俺だってそうだ! 確かにコスプレ姿を見れたのは嬉しかった。だが、一番良かったのは響が本当に楽しそうにしていた事! 違うか!?」

≪全くのその通りです!!≫

「今年の文化祭は本当に最高だった! それにこうやって響の作った料理も食べられる。今日ほど幸せな日はあったか!?」

≪ないです!!≫

 悟の顔には笑顔が浮かんでいた。会員たちの顔も同じだ。こうして、家庭科室での大騒ぎは深夜過ぎまで行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

「「おかえりなさい!!」」

 家に帰ると望と雅が笑顔で迎えてくれた。

「お兄ちゃん! あれ、どうやったの!?」

「それは最初に言った通り、企業秘密だ」

 目をキラキラさせて望が俺に尋ねて来たが一蹴。

「え~! 家族なんだから教えてくれても~!」

「駄目なものは駄目だ」

 靴を脱いで階段を上る。部屋に着くと鞄を置いて部屋着に着替えた。

「それより! 今日は珍しく私が料理を作りました!」

 居間に戻って来ると望が嬉しそうに報告してくれる。

「雅、冷蔵庫の中身は?」

 それを聞いて雅に問いかけた。

「全て使われてしまいました!」

 敬礼をして雅。

「じゃあ買い物、行って来る」

 部屋着では外に出るわけには行かないので再び、着替える為に部屋に戻ろうとする。

「ちょ、ちょっと! どうして!?」

 だが、居間を出る前に望に捕まってしまった。

「だって……な?」

「うん」

 そう、望の料理は破壊神。壊れるのは主に胃だが。雅も食べた事があり、それからは望の料理に恐怖を抱いているらしい。

「こんな時間じゃどこの店も開いてないって!」

「う、確かにそうだけど……あ」

 そう言えば、スキホにまだ食材が残っていたはずだ。急いで携帯を開き、簡易スキマの中を確認すると俺は雅にサムズアップした。

「よし!」

 雅はガッツポーズをして、喜んだ。

「……」

「じゃ、じゃあ望の料理は俺が食べる。望たちは俺が作った料理を食べろ」

 涙目になっていた望を放っておけなくなり、フォローする。俺は小さい頃から望の料理を食べているので耐性があるのだ。

「お、お兄ちゃん……」

「ほら、今日は祝ってくれるんだろ? コップとか用意してくれないか?」

 ポンポン、と望の頭を撫でて指示を出す。

「うん!」

 元気になった望は準備をする為にキッチンに向かった。

「俺も作らねーと」

 望の後に続いてキッチンに移動する。

「じゃあ、私はジュースでも出しておこっと」

 俺の後を追って雅がキッチンに入って来た。

「てか、狭いわ!!」

 キッチンに全員居ては窮屈でたまらない。コップとジュースを持った望と雅は急いでキッチンを出て行く。

「全く……」

 溜息を吐いて俺はスキホから食材を取り出した。その口元は緩んでいただろう。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん! お疲れ様~!」

「お疲れ様~!」

 望の声に続けて雅が言う。

「ありがと」

 時間は11時。晩御飯にしては遅いが俺たちはそんな事、気にしてなかった。

「「「かんぱ~い!」」」

 コップを突き出して乾杯する。最初に雅のコップに当たり、それから望のコップに当たった。そして、3人同時にジュースを飲む。

「っ!? こ、これ酒じゃねーか!?」

 だが、コップの中身はチューハイだった。すぐにコップから口を離す。

「あ、あれ!? 今日買ったんだけど、間違えちゃった!?」

 慌てた望。こいつが犯人らしい。ジュースだと思って間違って買って来てしまったようだ。

「あはは~! 望はドジだな~!」

「「……え?」」

 コップを空にした雅が顔を紅くして大笑いしていた。

「あ、二人とも飲まないなら私が飲む!」

 そう言って、俺たちのコップを奪い取り、両方ともごくごくと飲み干してしまう。

「こ、こいつ! 酔ってる!」

「う、嘘!? あれだけで!?」

「あれ~? もう、ジュースないの~?」

 そう呟いた直後には目が据わったまま、雅はキッチンにある冷蔵庫に向かった。

「「もう飲むなっ!!」」

 俺と望の叫び声が家中に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、響の部屋。机の上に置かれていた紫から貰った白紙のスペルカードの一枚が光り輝いていた。もちろん、響はそんな事に気付かず、雅の暴走を止めるのに必死だった。

 


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