東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第66話 授業とお店とお誘い

「ちわーす」

 スキマから顔を出して図書館の様子を伺う。

「いらっしゃい」

 いつも通りにパチュリーは椅子に座って魔導書を読んでいた。

「あ、いらっしゃいませ。響さん」

「こんにちは、小悪魔」

 スキマから抜け出し、ヘッドフォンを簡易スキマに仕舞った所で小悪魔に挨拶される。

「はい。本、ありがと」

 スキホに番号を入力し、数冊の魔導書を取り出した。

「……便利ね」

「まぁな。今日もよろしく頼むよ」

「ええ、まかせておいて」

 パチュリーは魔導書を閉じ、立ち上った。これから週に3回、行われるパチュリーの魔法授業が始まる。

「まず、この前の復習から……」

「うい」

 右手を伸ばし、5本の指の先に雷を纏わせる。その雷を5センチほど真上に伸ばす。これだけでもかなり、きつい。

「……まぁ、制御は出来てるようね。次にこの魔導書を読んで。新しい事を試してみるから」

「新しい事?」

 今までは雷の性質や今のように制御のやり方、魔方陣を使った魔法ぐらいだ。

「今日は魔眼よ」

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 パチュリー曰く「貴方の魂には3人の別の魂がある。雷魔法もトールと吸血鬼のおかげで制御出来ているの。だったら、魔眼のような特別、属性を持っていない魔法を操れるのか試したい」との事だ。こちらからしたらいい迷惑である。

「……はい」

「ん」

 読み終わった俺は頭の中で情報を整理しながらパチュリーに魔導書を返した。

「どう? 理解出来た?」

「だいたい」

(途中で吸血鬼に解説して貰ったけど……)

 因みに吸血鬼にも俺が魔眼を使えるかどうかわからないらしい。

「じゃあ、早速やってみせて」

「……」

 出来るのだろうか。魔眼にはいくつか、種類がある。『魅了』、『直死』。有名なメデューサのように目を合わせると相手を石にする。こう言った能力を全て、魔眼と言う。

「まぁ……やってみるか」

 指輪に力を込め、合成。主な主成分は『魔力』。合成した魔力を両目に集める。

「くっ……」

 しかし、上手く集められない。まだ、魔力を上手に操る事が出来ないのだ。

(なら)

 魔力を左目だけに集中する。

「っ!?」

 その直後に目に激痛が走った。あまりの痛みに体がフラフラと揺れてしまう。

「だ、大丈夫?」

 パチュリーが慌てて声をかけて来たが、返事をする前に左目に何か違和感を覚えた。

「フラン! ストップ!」

「きゃあっ!?」

 急に自分の名前を呼ばれた事に吃驚したのか後ろでフランが悲鳴を上げる。

「言っただろ? 後ろから来るなって!」

 振り返って胸を押さえているフランを叱った。

「ご、ごめんなさい……って! どうして、私の事がわかったの?」

「……あれ?」

 自分でも分からない。突然、頭にフランの姿が映し出された。いや、後ろにフランの気配を感じ取ったとでも言うのだろうか。

「ぱ、パチュリー? これって」

「成功のようね。その証拠に貴方の左目、青くなってる」

「ま、マジで!?」

 急いでスキホから鏡を取り出し、見てみる。確かに青かった。

「あ! もしかしてお兄様、魔眼持ちになったの!?」

「……みたいだな」

 どんどん、人間から遠ざかって行く。

「で? その魔眼の効果は?」

 パチュリーが興味深そうに問いかけて来た。その目はキラキラと輝いている。

「多分、『探知』だと思う。今も空気の流れやお前たちの体から発せられている微弱な魔力も見えてるし。魔導書に書いてあったのを試したけどあやふやだったから別の魔法になってるかも」

「貴方、それがどれだけ危険かわかってる?」

 呆れた様子でパチュリーが聞いて来た。

「仕方ないだろ? 出来るとは思ってなかったんだから」

「……まぁ、いいわ。今日はとことんその魔眼について調べましょう」

「うーい」

 こうして、俺は魔眼を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 紅魔館を後にして、いくつかの仕事を熟した後、俺はある一軒の店に寄った。

「あ、いらっしゃ~……って、貴女は!?」

 そこには高校生ぐらいに成長していたリーマがいた。

「久しぶり。上手くやってるみたいだな」

「お客じゃないなら帰ってくれる? 私だって暇じゃないの」

 リーマが開いた店はその名も『成長屋』。彼女の能力を活かしたお店だ。

「どんな客が来るんだ?」

 この店が出来たと射命丸から聞いて俺は訪れてみたが内容までは知らない。

「そうね……例えば、まだ芽すら出てない花を咲かせたり、将来の自分の姿を見たいって人の体を成長させたり、とか?」

「そりゃ、お前にしか出来ない仕事だな」

「まぁね。でも、貴女の用事ってそれだけじゃないんじゃない?」

「えっと……雅って知ってるか?」

 雅は前、リーマは友達だと言っていた。その真相を確かめるのも今日、ここに来た用事でもある。

「雅? 懐かしいね~。もしかして、戦った?」

「ああ、死ぬかと思ったよ」

 本当である。

「じゃあ、雅も倒されちゃったんだ……彼女もここに?」

「いや、幻想郷には来てない。俺の家で居候」

「へ~! 居候ね~……はぁっ!?」

 目を見開いたリーマ。それほど驚いたらしい。

「何か、俺の式神になりたいんだとよ……いい迷惑だ」

「あの子……寂しがり屋だから。私が北海道にいた時もべったりだったし」

「え? お前、北海道にいたの?」

 驚きの真実だ。

「昔、失敗しちゃって正体がばれそうになって逃げたの。その先であったのが雅」

「そ、そうだったのか」

 リーマにも辛い経験があった事に驚く。何故なら、今のリーマを見ても全くそう言った事を感じ取れないからだ。

「今度、ここに連れて来てくれる? 会いたいな」

「それはそこのポストに依頼状を入れてくれれば」

「お金がないの」

 そう言って、リーマは店の奥に引っ込んでしまった。まぁ、仕方ないから連れて来てやろう。そう思いながら、俺は次の依頼主がいる所に通じるスキマを開いた。

 

 

 

 

 

「宴会、やるから来なさい」

「は?」

「は、じゃないの。宴会。わかる?」

 仕事が終わり、博麗神社でお茶を飲んでいたら霊夢が隣でそんな事を言って来た。

「いや、言葉は知ってるけど……お前、未成年だろ?」

「幻想郷じゃ20歳以下でもお酒を飲んでいいのよ。法律なんてないんだから」

「た、確かに……でも、俺は酒、飲まないぞ?」

 この前の『雅泥酔事件』でお酒はこりごりなのだ。

「別にいいわ。とにかく貴方が来てくれないと始まらないのよ」

 腰に手を当てて溜息交じりに教えてくれる霊夢。

「どうして?」

「異変の後には必ず、宴会をしているのは知ってるわよね?」

「あ、ああ……」

 阿求の家にあった本で読んだ事がある。

「実は狂気異変の宴会をしてないのよ」

「そう言えばそうだね。でも、何で今更? 今、11月だよ?」

 狂気異変は8月に起きた。もう3か月は経っている。

「貴方の仕事が落ち着くのを待ったの」

「え? 俺の?」

 確かに最近、依頼の数は減って来ている。最初の頃は珍しさから人里の皆は依頼を出していたらしい。

「そう、だから今やるの」

「それで? いつ?」

「明日」

 即答する。

「きゅ、急だな……」

 でも、明日は土曜日。満月の日でもないから大丈夫だ。

「わかった。じゃあ、明日な」

 そろそろ帰ろうと思い、立ち上がりながら俺は頷く。

「ええ、助かるわ。あ、それとこれ、あげるわ」

 そう言って、霊夢は懐からある物を差し出して来た。

 


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