「お~い! 行くよ~!」
「うん!」
ここは近所の公園。悟が蹴ったサッカーボールを足で止める。
「ほい」
そして、蹴り返す。こんな感じでボール蹴りをしてよく遊んだ。
(これって……)
夢。それはわかっている。きっと、過去の思い出だろう。だが、いつかはわからない。ありふれた日常だからだ。体つきからして5歳より下だろう。悟は俺の幼馴染なのだ。この頃からよく遊んでいた。
「うわっ!?」
急に強い風が俺と悟を襲う。悟は追い風だったからいいが俺は向かい風。驚いて目を瞑ってしまった。
(あれ?)
ここで俺は不思議に思う。いつもなら俺が公園の出口側で悟が入り口側。この公園は何故か入り口と出口がバラバラだ。閑話休題。でも、今の立ち位置は俺が入り口側で悟が出口側。
(何だ? この違和感)
偶然もあるだろう。たまたま、いつもと配置が違うと言う事もある。
(違う!)
この違和感は立ち位置に対してではない。その時、子供の俺はゆっくり目を開けた。
「え?」
目の前に広がっていたのはいつもの風景ではなく大自然だった。これが俺が感じていた違和感。
こんな体験をしているのに何も覚えてないのだ。
「……」
ここはどこだ?
まず初めにそう思った。今は布団の中。どこかの家らしい。レーザーを放出し力尽きた所までは覚えている。
(あの夢は?)
そこだ。あんな記憶あるはずない。目を開けたら大自然って不自然にも程がある。
「起きなきゃ……」
まだ体はだるいが布団から出て俺は襖を開けた。
「「ん?」」
部屋を出たところで少女と出会った。服装は紅白の巫女服。でも、腋の部分がばっくりと開いている。
(この服は……)
紫と戦った時にお世話になったコスプレだ。この服がなかったら俺はどうなっていたかわからない。
「目が覚めたようね」
「あ、ああ」
巫女が確認を取って来たので答える。
「ちょっと来なさい」
名前も知らない巫女は俺を睨んで廊下を歩き始める。
(なんだ?)
戸惑いながらついて行く事にする。
「「あ……」」
巫女について行った先にあの人形遣いがいた。急いでイヤホンを耳に装着しようとする。
「あれ?」
右腕にあるはずのPSPが入っているホルスターがなかった。
「お前の探し物はこれか?」
人形遣いの隣。またもや少女がいた。今度は白と黒の魔法使いのような服だ。
(これはさっきのか)
どうやら俺のコスプレはこの幻想郷に住んでいる人の衣装らしい。ミスティアにも紫にもなったから確信が持てる。
「それだ!」
魔法使いが持っていたのは俺のホルスターだった。
「返せ!」
「嫌だ!」
(何故に!?)
所有者は俺のはずなのに何故か断られた。
「説明してくれるまで返さねーよ」
魔法使いがそう言った。
「説明?」
一体、俺は何の説明をすればいいのだろう。
「お前とアリス――そこの人形遣いの戦いを見ててな。何故、私のスペルが使えたか説明しろって事だよ!」
「と、言うより勝手に貴女が神社に落ちてきたんだけどね」
「神社?」
「そう、ここは博麗神社よ」
どうやら、俺は人形の爆発で運よく目的地まで飛ばされたようだ。
「どうして魔理沙の格好をしていたのかも説明して頂戴」
魔理沙とはきっとこの魔法使いの名前だろう。
「……わかったよ」
俺は今まであった事を掻い摘んで話す。
「じゃあ、私にもなった事が?」
巫女が聞いてきた。
「今の所はお前とお前が1回」
巫女とアリスを指さしながら言う。
「そして……魔理沙が3回? だったかな?」
「な、なんでそんなに私の回数が多いんだ!?」
(俺だって聞きたいわ。)
「まぁ、いいじゃない。あ、私は博麗 霊夢よ。この神社の巫女をしているわ」
「私はアリス・マーガトロイド」
「そして、お前のお気に入りの霧雨 魔理沙だぜ!」
「気に入ってるわけじゃねーよ……俺は音無 響だ。よろしく、霊夢、アリス、魔理沙」
これで全員の自己紹介が終わった。
「音無……響?」
だが、霊夢が驚いた顔をして聞いてきた。
「ああ、そうだ」
「……まぁ、いいわ。貴方はこれからどうするの?」
「これから?」
「そう、外の世界に帰り「帰りたい!!!」
思わず叫んでしまった。
「そこまでか?」
魔理沙が怪訝な顔をして聞いてきた。
「そりゃそうだろう! ここに来てから戦い三昧だ! 俺の場合、PSPを使わなきゃ戦えない。その度にコスプレをするなんてもう嫌なんだ!」
男なのにスカートとか巫女服とかメイド服とかゴスロリとか……もう嫌だ。心の底からそう思う。
「PSPとコスプレが何かわからないけど貴方の気持ちはよくわかったわ。準備してくるからちょっと待ってて」
霊夢はそう言って部屋を出て行った。何故か寂しそうな顔をして――。
「?」
理由がわからず首を傾げる。
「しかし、よく紫と藍の弾幕から逃げられたな」
「運がよかったんだ」
それを言うなら全ての戦いがそうだ。俺はここまで運だけで生きて来られたようなものだ。
「準備出来たわよ」
本当に少しで霊夢が帰って来た。
「?」
「どうしたの?」
「いや、何でも」
もう霊夢の顔は寂しそうではない。俺の見間違いだったようだ。
「やっと、家に帰れる」
それより幻想の世界から現実の世界に帰れることを喜ぼう。
「着いてきて」
「おう!」
素直に霊夢の後を追う。
「ここを通るだけ?」
「そう、この鳥居を超えれば帰れるわ。結界を緩めたの」
(結界?)
「そうか。ありがと」
結界は何かわからないが俺は帰れるようだ。
「じゃあ、短い間だったけど世話になった」
「ほら、早く帰りなさい。結界が閉まるわ」
霊夢は興味がなさそうに言った。
「よかったらまた遊びに来いよ!」
魔理沙は笑顔だった。そんな易々とは来れないだろう。
「じゃあね」
アリスはもうどうでもよさそうだ。
「じゃあな」
もう一度、別れの挨拶をして鳥居を目指して歩き出す。
(これで帰れる)
能力は消えないだろうが曲を聞かなければいい話。聞けないのは少し残念だが仕方あるまい。そして、俺は鳥居を超えた。
「「「「……」」」」
後ろを振り返る。霊夢、アリス、魔理沙の3人がいる。
横を見る。鳥居を超えているのがわかる。
前を見る。大自然が広がっている。
「嘘だああああああああああああ!!!!!!」
俺は絶叫して地面に崩れ落ちた。まだ幻想の世界とはお別れ出来そうにないらしい。