「逃げないでよ~!」
調子に乗った事を言った。俺はまだ『五芒星結界』を操り切れておらず、攻撃出来ないのだ。フランは炎の剣を振り回して俺の後を追って来る。
「くそ!」
逃げようにも地力が足りなくなって来て、スピードが出ない。後ろからどんどんフランが迫る。このまま、斬り殺されるかもしれない。
「させない!」
そこに雅が割り込んで来た。
「邪魔!」
フランが剣で雅に斬りかかる。それを翼で弾き飛ばし、別の翼を伸ばして攻撃した。だが、フランは華麗に躱すと一旦、離れていく。
「雅、すまん!」
「大丈夫! 私は響の式だもん!」
「仮だけどな」
雅がフランと戦っている間に俺は準備に取りかかった。
(まずは結界について知らないと……)
近くに浮いていた結界をよく観察する。何も分からなかった。
「ぶっつけ本番か……」
一応、どのような仕組みになっているかは理解しているつもりだ。ただ、霊力が足りるかが問題だ。
「これだけは使いたくなかったんだけどな。霊術『霊力ブースト』!」
スペルを発動した瞬間、体が赤いオーラに包まれた。
「きゃあっ!?」
丁度、その時雅がフランに吹き飛ばされ、地面に叩き付けられてしまう。勢いが凄まじく境内にクレーターが出来た。
「次はお兄様だよ!」
ニヤリと笑ったフランが上からこちらを見ている。
「くっ!」
急いで逃げようと体の向きを変えた。
「させないよ! 禁忌『カゴメカゴメ』!」
フランがスペルを唱える。そのせいで俺は弾幕の檻に閉じ込められてしまった。
「いっけぇ!」
間髪入れずに大玉を発射したフラン。大玉は檻に衝突し、次から次へと崩れ始めた。弾が無差別に移動し、俺に向かって来ている
「仕方ない!」
最後まで隠していたかったが、仕方ない。
「集合!」
俺の号令に従って茂みの中から9個の『五芒星結界』が俺の元にやって来た。
「嘘っ!?」
フランが目を見開いて吃驚する。10個の結界は俺を取り囲み、弾幕を完璧に防いだ。
「い、いつの間に!」
「お前は見てたのかな? 魔理沙と弾幕ごっこしてる時、茂みに入ったろ? あの時だ」
保険として用意していたのだ。まさか、こんな感じで役に立つとは思わなかったが。
「今度はこっちからだ!」
スペルを取り出して、『五芒星結界』の陣形を変える。少し、緊張して来た。
(とにかく、やってみよう!)
「霊転『五芒星転移結界』!」
スペルを宣言するとフランの周りを取り囲むように結界がくるくると回り出す。
「な、何?」
フランはキョロキョロと見渡して戸惑っていた。
「それ!」
指先から赤い小さな弾を結界の一つに撃ち込む。俺の思惑通り、スペルが働いてくれたらこの後、フランはとんでもない事になるはずだ。結界に赤い弾が入った瞬間、10個の結界から同時に同じような弾がフランに向かって発射された。
「うわっ!?」
反射的にフランは10個の弾を躱す。しかし、10個の赤い弾は10個の結界に吸い込まれた。そして、10個の結界からマシンガンのように10発の赤い弾が射出される。
「も、もしかして、これって!?」
また、フランは躱した。前と同じように結界に進入し、どんどん放出される弾が増えて行く。
「え? わっ! きゃっ! いやっ!?」
フランが悲鳴を上げながら逃げ回っている。しかし、10個の結界もフランの後を追っているので中心から逃れる事が出来ずにいた。
「ああ! もう! 禁忌『恋の迷路』!」
「あ! バカっ!!」
我慢出来ずにフランはスペルを発動してしまう。フランを中心にしてぐるぐると弾幕が何周もする。赤い弾幕とフランの弾幕がぶつかり合う。そして、フランの弾幕が勝ってしまった。
「よし、これで……」
フランが安心した束の間、フランの弾幕が10個の結界に吸収される。
「え?」
フランの目が点になるのを確認。その刹那、10個の結界からフランの弾幕が撃ち出された。
「きゃああああああああああああああっ!!」
どうする事出来ず、被弾してしまう。しかも、次から次へとフランに突進する弾幕。その度に煙が上がり、フランの姿が見えなくなった。
「だ、大丈夫か?」
スペルを解除してから思わず、声をかけてしまう。フランからの応答はない。心配になって来た。
「油断はいけないよっ!」
煙を突き破って少しだけ服が破れていたが元気な姿でフランが突っ込んで来る。かなりのスピードだ。このまま、タックルされてしまったら、骨が折れるじゃすまない。多分、普通の『五芒星結界』なら突き破られるだろう。
「鉄壁『二重五芒星結界』!」
「わぶっ!?」
しかし、フランはまたもや結界に阻まれ、後方に弾き飛ばされた。
俺の目の前に巨大な星が生まれている。そして、5つの頂点にそれぞれ『五芒星結界』が配置されていた。つまり、『五芒星結界』で大きな『五芒星結界』を作るスペルだ。その強度は普通の結界よりも何倍も勝っている。欠点は一つ作る為に5個の『五芒星結界』が必要な事だ。
「もう! 何なの!」
フランが文句を言いながらまた突進して来た。まだ、酔っているようだ。普通ならもっと、警戒していたはずである。何故なら――。
「終わりだ。フラン」
――俺の前にすでに『二重五芒星結界』がないからだ。
「まだまだ!」
フランがスペルを構えて発動しようと口を開く。その前に俺の準備は終わっていた。フランの上と下に『二重五芒星結界』を置いていたのだ。お互いに星を見せ合うように。
「あ、れ?」
その事に気付いたフランはその場に留まった。そこは丁度、『セーマン』の中心である。
「……ゴメン。霊神『五芒星雷神結界』!」
スペルを宣言。すると、『五芒星結界』が回り始める。それに続いて『二重五芒星結界』も回り出した。
「何? 何が起きるの?」
慌てたフランだったがもう、遅い。バチバチッ、と音を立てて結界の回転速度は上がって行く。その音はまるで、神が怒っているようだった。
「お、お兄様?」
少し、涙目になったフラン。俺は首を横に振って『諦めろ』と口パクで伝える。そして、上の結界から下の結界目掛けて巨大な雷が落ちた。範囲は『二重五芒星結界』の中。フランの断末魔が境内に響き渡る。
「うわ……」
自分で仕掛けておいて引いてしまった。しばらくすると雷が落ち着き、結界が消える。そして、灰色の煙を体から登らせ続けているフランの姿が見えた。ぐったりしており、すぐに頭から落ち始める。
「雅!」
「はいよっ!」
下にいた雅に指示を出して、フランを受け止めさせた。これで一安心だ。
「おっと……こっちもか」
急に体から力が抜けて飛べなくなってしまった。重力に従い、急降下を始めた俺の体。先ほど使った『霊力ブースト』のデメリットだ。このスペルは足りなくなった霊力を一時的に増幅させる事が出来る。しかし、効果が切れると丸一日、霊力が使えなくなってしまうのだ。俺は空に浮く為に霊力を使っている。その為、進行形で落ちているのだ。
「全く……境内、どうしてくれるのよ?」
地面までもう少しと言う所で霊夢が溜息を吐きながら抱き止めてくれた。霊夢の言う通り、境内には大きな穴がいくつも開いている。
「おおう……すまん」
「まぁ、いいわ。悪いのは魔理沙とフラン。それとフランにお酒を飲ませたあのバカだけだから」
「バカ?」
「氷精よ」
どうやら、チルノがフランの暴走の原因らしい。
「あまり、痛めつけるなよ? 特にフランは俺があれだけやったんだ」
「わかってるわよ。で? 今回は気絶しないの?」
「霊力だけが使えない状態だから気絶はしない……動けないけど」
体が動かなくなるのは急激な力の変動によるものだ。つまり、体がその変動に慣れてしまえば霊力がなくとも動けるようになる。
「響~! この子、どうするの?」
「永琳に預けてくれ」
霊夢が着陸した刹那、雅が質問して来た。『永琳?』と首を傾げる雅だったが、永琳の方から近づいて来ているので大丈夫だろう。
「貴方は?」
俺をおんぶした霊夢が問いかけて来た。
「少し、横になるわ」
「じゃあ、こっちに」
「さんきゅ」
雅が永琳にフランを預けたのを見て俺と霊夢は縁側に上る。
「ちょっと邪魔よ」
唖然としていた人たちを避けて歩き続ける霊夢。
「あ、ちょっとストップ。永琳!」
「何?」
フランをうさ耳の少女(何故かブレザーを着ている)に手渡ししていた永琳が俺の呼び声でこちらを向く。
「後で話がある。フランの手当てが終わったら俺の所に来てくれ」
「……わかったわ」
何かを感じ取ったのか永琳が少し怖い顔をしながら頷いた。
「あの……私は?」
その近くにいた雅が困った顔をしながら聞いて来る。
「雅はこっちに来なさい」
俺が答える前に紫に腕を捕まえられた。
「え?」
「お酒でも飲みながら式について教えるわ。まさか、杯を交わしたら仮契約になるとは思わなかったから前に言わなかった事もあるのよ」
「い、いや……お酒は」
「飲めないの?」
「いただきます……」
渋々、頷く雅。お酒が弱いのに大丈夫だろうか。
「話は終わったみたいね? じゃあ、行きましょ?」
「あ、ああ……」
霊夢に促されて再び、俺は歩き始めた。