「で? 話って?」
霊夢が用意してくれた部屋で横になっていると永琳が酒とおつまみを持ってやって来た。
「ズバリ、半吸血鬼化についてだ」
「ああ、満月の日の?」
永琳は俺の布団の横で正座し、そう言いながらおつまみを食べ始める。医者としての自覚はないのだろうか。いや、薬師か。
「そうそう。今は11月末だろ? で、最初に半吸血鬼化したのが9月。今の所、3回だ」
「そうなるわね。でも、それのどこが悪いの? 私はちゃんと忠告はしたけど」
少し、不思議そうにする永琳。
「実は……半吸血鬼化の他にも俺の体に変化が起きてるんだよ。今まで、3回とも」
「変化?」
首を傾げながら永琳は酒が入ったコップを傾ける。
「女になる」
「ぶぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
思い切り、永琳が酒を吹いた。それほど、意外だったらしい。
「うおっ!? 汚っ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい……女?」
「そう、女。ガール」
「英語に直さなくてもいいわよ……それにしても、どうして?」
近くにあったタオル(俺の汗を拭う為に霊夢が用意してくれた)で吹いた酒を拭きながら問いかけて来た。
「わからんからこうやって質問してるんだろ?」
「そうでしょうね。でも、女体化か」
永琳の目が光ったような気がした。
「ねぇ? 今度の満月の日。こっちに来られない? いつも、満月の日だけ休むでしょ?」
因みに永琳は俺が外から来ている事を知っている。
「能力が変化して変身出来ない」
「あら……それは残念」
もし、こちらに来られたら何をしようとしていたのだろうか。聞きたかったが嫌な予感しかいないのでやめておいた。
「折角、解剖しようとしたのに」
「だと思ったら聞かないで置いたのに!!」
横になりながら全力でツッコむ。
「それで? 体の方は大丈夫なの?」
「あ、ああ……一晩したら自由に動けるだろ。それより、フランは?」
「よく寝てるわ。多分、朝まで起きないわね。他には魔理沙が軽傷を負ったのと氷精が消滅したぐらいかしら?」
霊夢にやられたらしい。
「チルノ……永久に」
合掌して友達の死を悲しむ。これぐらいなら動ける。
「まぁ、すぐに復活するけどね」
「まぁ、知ってたからこうやってんだけどね」
10月に俺も消滅させた事があった。あの時は焦った記憶がある。
「それにしても……貴方。本当に強くなったわね」
「へ?」
「魔理沙とフランとの戦いよ。吃驚したわ」
コップに酒を注ぎつつ、そう言った。
「……強くなんかないよ」
「あら? 謙虚ね」
「本当だって……俺は自分の力だけで戦ってない。いや、戦えないからね。皆の力を合わせる事しか……」
コスプレだって幻想郷がなかったら使えないし、指輪だって魂に吸血鬼たちがいるから使える。
「そうかしら?」
だが、永琳は笑顔で否定する。
「皆の力を合わせるって相当、難しい事よ? ましてや、貴方の能力ってランダム性が高い。それなのに使えている。更にあの指輪。あれって霊力、魔力、妖力、神力を合成してるんでしょ? どの力をどれくらいの割合で合わせるか。それを一瞬にして判断し使っているの。それって普通は無理だと思うけど?」
「そうか? 俺、適当に戦ってるだけだけど……」
「それなら貴方は天才よ。貴方の強さは能力でもその指輪でもない。高いバトルセンスと観察眼、勘の良さと強運ね」
「う、う~ん……」
そう言われても実感が湧かない。
「でも、いずれ死ぬわよ?」
「おおう……いきなり、ズバッと来たね」
「何よ? あのむちゃくちゃな戦い方。筋肉を破裂させたり霊力を暴走させたり……」
「うっ……」
永琳が目を鋭くしてそう指摘する。自分でもそう思っていたので顔を引き攣らせる事ぐらいしか出来なかった。
「だからね? 八雲紫と話し合って決めたの。貴方にリミッターをかけるわ」
「り、リミッター?」
「普段は自分の体を破壊しない程度の力しか出せないようにするの」
つまり、『雷輪』と『ブースト』系は全て使えなくなってしまう。
「ま、マジか?」
「ええ、もう決定した事よ。諦めなさい」
「でも、どうやってリミッターを? 確か、俺には紫の能力は通用しないって」
「こうするのよ」
いきなり、襖が開いて紫が入って来た。その後ろにベロベロに酔った雅とそれを支える藍の姿が見える。紫はすぐに俺の右手を布団から出し、指輪に手を翳した。
「あ、なるほど。指輪に制限をかけるってか?」
「そう言う事。はい、終わったわ。多分、全体的に威力が下がる事になるけど……痛いのよりはマシよね?」
「まぁな」
正直言ってこれ以上筋肉を破裂させたくない。
「あれ? リミッターって事は外せるんだよな?」
「もちろんよ。外し方は後でスキホに送るわ」
「う~い」
「そんな事より……あの子、お酒弱すぎ。一杯、飲んだだけであれよ? 式について説明出来なかったじゃない」
「いや、俺に言われても……」
少し、ムッとしている紫。俺にどうしろと。
「あ~! きょ~だ~!」
やっと、雅が俺の存在に気付いた。目はもちろん、据わっている。
「きょ~!」
藍を突き飛ばして俺に向かってダイブする雅。
「え!? ぐはっ!?」
動けない俺にはどうする事も出来ず、鳩尾に雅は落ちた。息が出来ない。
「ちょ、おまっ……」
「響~。早く、私を本物の式にしてよ~!」
呼吸困難になりながらも何とか声を出すが雅は全く気にしないで顔を近づけて来た。
「ゆ、紫! 助けて!!」
「式に襲われる主人って……簡単よ。雅との繋がりを切ればいい」
扇子で口元を隠しながら紫が教えてくれる。きっと、笑っているのだろう。
「き、切るって? こう?」
わずかに残った魔力を左目に集めて、魔眼を開眼する。そして、雅との間に見えた光の糸を切った。すると、雅の体にノイズが走り、消えてしまう。
「み、雅!?」
「大丈夫よ。外の世界に帰っただけだから」
「そ、そうなのか?」
「そうよ。全く、貴方も早く式の扱い方を学びなさい」
そこまで言うとピシャリと扇を閉じた紫はスキマを開いた。
「どこかに行くのですか?」
すぐさま、後ろで待機していた藍が質問する。
「ええ、少し用事があるの。貴女はここで響の看病でもしていて頂戴」
「かしこまりました」
「響? これが主人と式の会話よ。じゃあ、また」
紫は一つ、ウインクしてスキマに潜り込んだ。
「式、ね……」
思わず、呟いてしまった。あまり、雅が俺の式とは思えないのだ。
「じゃあ、何かあったら呼んでくれ。ああ、もう一つ言う事があった」
藍は襖を開けた時に何か思い出したらしく、こちらに顔を向けた。
「紫様は冬になると冬眠する。その間、私が社長代理だからよろしく頼むよ」
「と、冬眠?」
「そう。春になるまで目を覚まさないのだ。少し、忙しくなるかもしれないから覚悟しておいてくれ」
それだけ言うと藍は部屋を出て行った。辺りを見ると永琳の姿はない。いつの間にか部屋を出て行ったらしい。
「忙しくなるのか」
これから受験なのに大丈夫なのだろうか。少し、不安になる俺だった。
「へぇ~。それは面白い子だね」
「でしょ? どう、出来そう?」
「そうだね。もう少し、話を聞かせてくれたら出来そうだ。今はまだイメージが湧かないんだよ」
「でも、あの子は最近になってこっちに来たの。だから、あまり話す事はないわ」
「そうか……それは残念だ」
「また面白い話が出来たら話してあげる。だから、お願い出来る?」
「それはもちろん。君の頼みだからね。時間はかかるかもしれないけどきっと、完成させるよ」
「さすが、頼もしいわ」
「そりゃどうも。どうだい? 一緒に飲む?」
「いえ、これから宴会の続きなの」
「宴会か。一度、そっちに行ってみたいよ」
「まだ貴方が来るには早いと思うわ。仕事がなくなったら来なさい」
「それは勘弁して欲しいかな……おっと、もうこんな時間か。じゃあ、帰るよ」
「ええ、話を聞いてくれてありがとう」
「こちらこそ、毎度毎度ありがとう」
「じゃあ、また」
「ああ、また」
これにて第2章は完結となります。
この後投稿されるあとがきでも言いますが、東方楽曲伝は第3章から始まります。
今までのはプロローグ、みたいな感じですね。
では、第3章でお会いしましょう!