東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第73話 依頼の内容

「後はまかせた。魂神『トール』!」

 ガンッ!

 スペルを唱えた響ちゃんはそのまま卓袱台に頭を打ち付けた。

「きょ、響ちゃん!?」

「早苗! ちょっと待ちな!」

 私が思わず、手を伸ばしたがそれを神奈子様が止める。

「か、神奈子様?」

「諏訪子? これは一体……」

「私にもわからないけど……明らかに力が変わったね」

(力?)

 私も落ち着いて響ちゃんを観察した。すると、今まで響ちゃんから感じていた力とは全く別の力――純粋な神力に変わっているではないか。

「何がどうなって……」

 目を見開く私。しかし次の瞬間、響ちゃんの体が光り輝いた。

「きゃあっ!?」「ぐっ……」「よっと」

 私と神奈子様は眩しくて腕で目を庇ってしまう。諏訪子様だけは帽子でガード。しばらくすると光は消えた。

「きょ、響ちゃん! だいじょう――ッ!?」

 目を庇っていた腕を退かしながら声をかけるが、驚愕して言葉が続かなかった。

「う、うぅ……」

 何故なら、響ちゃんの黒髪が真っ赤に染まっているからだ。それに身長も伸びているようだ。神奈子様も諏訪子様も驚きを隠せないでいた。

「……うむ。成功したようじゃな」

 しかし、響ちゃんはこちらを一切見ておらず体の調子をうかがっている。

「きょ、響……ちゃん?」

「む? 我は響ではないぞ? トールじゃ。よろしく頼むぞ」

「一から説明してくれないか? 意味がわからない」

 眉間を指でマッサージしながら神奈子様がお願いした。

「簡単じゃよ。響の魂には吸血鬼、狂気と我の合計、3つの魂が存在しておってな? 一時的に我がこの体の所有権を得たってわけじゃ」

 腕組みをしながら響ちゃん改めトールさんが説明してくれた。

「つまり……人格を入れ替えたって事?」

 諏訪子様は首を傾げながら要約する。

「まぁ、だいたい合っておる。それで? 質問はなんじゃったか?」

「あ、響ちゃんはどうして神力を持っているのかです。後、急に操れるようになったのもお願いします」

「うむ。わかった」

 トールさんは笑顔で頷いた。

「まず、響の魂構成について説明しようか」

「魂構成?」

 神奈子様が繰り返す。

「ん。響の魂は特別でな? 外の世界で言うアパートみたいなもんじゃ」

「あ、アパート……ですか?」

 コンクリートの塊を頭に思い浮かべながら問いかけた。あまりにも近代的過ぎで魂との繋がりがわからない。

「例えじゃ、例え。響がアパートの大家さん。それで我と吸血鬼、狂気がそのアパートを借りている住人だと思っていい」

「なんか、面白い例えだね」

 ニヤニヤしながら諏訪子様が感想を述べた。

「一番、わかりやすかったからの。で、住人である我らは響に家賃を支払わなければいけないのじゃ」

「家賃? お金か?」

 はてな顔で神奈子様が質問した。

「いや、お金の代わりに我らの力を少しあげる。吸血鬼は魔力、狂気は妖力、我は神力じゃな」

「じゃあ、響ちゃんにはその3つの力があるんですか?」

「響自身も霊力を持っておるから4種類」

 私の言葉を訂正してからトールさんが湯呑を傾けた。

「それはすごいな……体とかに影響はないのか? それだけ力が混在していては何かあるだろ」

 神奈子様もお茶を啜り、問いかける。

「うむ。響には元々、霊力があるって言ったじゃろ? 体の中には霊力が流れている道があるんじゃ。しかし、その道を魔力、妖力、神力が邪魔して外に出せる霊力の量が減ってしまった。他の力も同様にな」

「え? それじゃどうして魔理沙さんとフランさんの時のあれは?」

 結界を貼ったり、鎌を創り出したり、妖力を撒き散らしたり、魔力で作った雷を放ったりしていた。

「ああ、これを使ってたんじゃ」

 そう言うと、トールさんは右手を卓袱台に置く。右手の中指には指輪がはめられていた。

「それは?」

「合力石と呼ばれる鉱石を使った指輪じゃよ。これを使って響は霊力、魔力、妖力、神力を合成しておる」

「合成、ねー……後、博麗のお札を使ってたのは?」

「わからん。何故か使えたんじゃ」

 諏訪子様の質問に首を傾げるトールさん。

「それも含めて今、見せて貰えないか? もう一回、見てみたいんだ」

「無理じゃ」

 トールさんは神奈子様のお願いを一蹴する。

「なんでですか?」

「響なら出来るんじゃが今は我になっておるからな。能力が変わってしまっているんじゃ」

 トールさんの言葉に今度は私たちが同時に首を傾げた。

「の、能力が変わる……ですか?」

「そうじゃ。響の能力のせいでな。今は『物を創造する程度の能力』じゃ。我は神じゃからの」

「物を創造する!? 何だ、その能力は!」

 神奈子様がそう言いながら、卓袱台に手を叩き付けて立ち上がった。確かにその能力は神と言えどもあまりにぶっ飛んでいる。

「まぁ、落ち着け。聞くが、お主らの能力は?」

「神奈子様が『乾を創造する程度の能力』。諏訪子様は『坤を創造する程度の能力』で私が『奇跡を起こす程度の能力』です」

 テキパキとトールさんに説明する私。

「早苗……じゃったかな? お主は現人神じゃろう?」

「は、はい」

 話した覚えはなかったので、吃驚してしまった。

「きっと、普通の神のような『創造』する能力ではないのじゃろう。神奈子と諏訪子は創造出来る範囲が少ない。でも、その分強力なはずじゃ」

「何だい? じゃあ、あんたの能力は弱いって事かい?」

「そうじゃ。まぁ、例えばの……」

 そう言ってトールさんはキョロキョロと辺りを見渡し、卓袱台の上にあった急須に目を付ける。

「ちょっと、それを取ってくれぬか?」

「はい」

 諏訪子様が急須をトールさんに手渡した。

「どれ」

 急須を左手に持ってその場で傾ける。もちろん、中身はお茶だ。そして、世界には重力と言う力が存在する。一歩、急須からお茶が出てしまえばその力に囚われる。

「ちょっ!?」

 このままでは畳の上にお茶が注がれてしまう。慌てて私は自分の湯呑を引っ掴み、お茶の着陸ポイントまで腕を伸ばす。しかし、お茶は私の湯呑に注がれる事はなかった。

「……成功じゃ」

 何故なら、トールさんの右手に握られた真っ白に光る湯呑に注がれているからだ。

「つまり、我の能力はこうやって『神力で物を形作る』って事なのじゃ」

 そう言って、真っ白な湯呑を傾ける。

「そ、そうですか……」

 伸ばした腕を引っ込めて私は溜息交じりに答えた。脱力してしまったのだ。

「他にも武器を創造したり、かの?」

「はいはーい! しつもーん!」

 お茶を飲み干し、湯呑を消したトールさんに向かって諏訪子様が手を挙げて叫んだ。

「ん? なんじゃ?」

「響も白い鎌を創造してたと思うけど何か違うの?」

「ああ、それはな。うむ、見せた方が早いじゃろう」

 そう言うとトールさんは立ち上がり、縁側に出た。私たちも付いて行く。

「すまんな、響。靴下、汚れるぞ」

 トールさんは呟きつつ、靴下のまま縁側を降りた。

「まず、お主ら、拳銃はわかるか?」

「ああ、私たち数年前まで外の世界にいたからな」

「ほう。なら、話が早い。拳銃と言うのは火薬を爆発させて小さな弾を猛スピードで放つ武器じゃ。もし、響がこれを創造するとしよう。じゃが、響は人間。そこまで神力を扱えないのじゃ。だから――」

 そこまで説明してトールさんは右手に真っ白な銃を創造する。それを目の前に立っている木に向かって突き出す。

「こうなる」

 そして、引き金を引く。すると、拳銃から小さな弾ではなく一本の白いレーザーが撃ち出され、木を粉砕した。

「す、すごい……」

 その威力に私は唖然としてしまう。

「今、この体は神じゃから本来はもう少し、威力は低いがの」

「で? お前が創造した場合、どうなるんだ?」

 神奈子様が目を細めながら促す。

「うむ。我が創造するとこうなる」

 一度、拳銃を消してから新たに拳銃を創造したトールさんはすぐに別の木に標準を合わせ、引き金を引いた。先ほどはレーザーだったが、今度は一瞬にして木に穴が開く。その穴はまるで、銃痕だった。

「見ての通り、我の方が創造した物の再現率が高いのじゃ」

 少し胸を張ってトールさんが言い放つ。

「なるほど……じゃあ、最後に響の能力名は?」

「ああ、それは『し――」

 そこまで言ってトールさんが急にその場に倒れた。

「と、トールさん!?」

 縁側を降りて助け起こそうとしたが、またもや光り輝いて私の目を直撃した。たまらず、その場で呻き声を上げながら蹲る。

「はぁ……はぁ……」

 光が弱まり、息を荒くしたトールさん――いや、髪が黒くなっているから響ちゃんがいた。

「と、トール! それは禁句だ!」

 虚空に叫ぶ響ちゃん。

「きょ、響ちゃん?」

「あ、すまん……紫に口止めされてるんだ」

 ようやく、私に気付いた響ちゃんは申し訳なさそうにそう謝った。

「そ、そう……」

 目がチカチカするのを我慢して答える。

「そんな事より、体は大丈夫ですか? 苦しそうですが……」

「だ、大丈夫。慣れない事したのと最後の強制的に魂交換しただけだから」

 そう言いつつも響ちゃんは肩で息をしていた。

「ゴメン。今日は帰るよ」

「あ、はい。本当にありがとうございました。お代の方は?」

「いや、今度で良い。じゃな」

 響ちゃんは手を振りながらスペルを宣言、スキマを開いてどこかへ行ってしまった。

「大丈夫でしょうか?」

 隣にいた神奈子様に問いかける。

「さぁな。でも、聞きたい事はだいたい聞けたし」

「……」

 気になっている事が一つだけある。

(『し』。これが響ちゃんの能力名の一文字目)

 そこまではわかったがその後が一切、想像できない。

「早苗?」

「あ、はい! 今、戻ります!」

 諏訪子様に声をかけられ、私は慌てて母屋に戻った。

 


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