「紫……だと?」
「きっと、そうよ」
ここは博麗神社の縁側。外界に帰れなかった理由を霊夢に聞いたらあのスキマ妖怪のせいだと言われた。
「貴方の話を聞くに相当、気に入ってるから帰したくないようね」
「じゃあ、俺は?」
「帰れないわね」
一番、受け入れたくない現実をアリスが呟いた。
「これで響も幻想の仲間入りだな!」
魔理沙が笑顔で俺に言い放つ。
「はぁ~……」
どうしてこうなってしまったのだろう。
「で、どうやって過ごすの?」
「過ごすって?」
霊夢の言っている意味がわからず、聞き返す。
「仕事よ、仕事。暮らすんだったらお金が必要でしょ?」
確かに霊夢の言うとおりだ。家も探さなくちゃいけない。
「どうすっかな~」
「一先ず、人里に行ったら?」
そこでアリスからアドバイスを貰う。
「人里?」
「そう。人間たちが暮らしてる所よ。あそこなら仕事も家も見つかるでしょう」
「案内してくれ」
早速、向かう事にした。
「即答ね」
霊夢が呆れたように言った。
「きっと、安全なんだろ? その人里って」
「基本的にはな」
俺の質問に魔理沙が答える。
「基本的には?」
「ほら! 私が連れてってやるから表に出ろ」
俺は聞き返したが魔理沙は無視し箒を持って部屋を出る。
「乗れよ」
「あ、ああ……」
きちんとホルスターを右腕に装備し箒に跨ろうとした。
「いや、待てよ?」
「どうした?」
だが、魔理沙は何かを思いついたらしい。
「お前、飛べるじゃん。自分で飛べよ」
「はぁ!?」
「そのからくりを使えばいいだろ?」
「……わかったよ」
仕方なく、PSPを起動。右耳にイヤホンを差し曲を流す。
~亡き王女の為のセプテット~
服が輝き、ピンクのワンピースに早変わり。背中からも漆黒の翼が生える。これはミスティアの時のコスプレだ。
「ん? ……ぎゃああああああああ!!!」
(熱い! 体中が熱い!)
突然、体から煙が上がったと思ったら全身に凄まじいほどの激痛と熱を感じた。耐え切れず地面を転がる。
「お、おい! 大丈夫か!?」
魔理沙の声が聞こえたが目を閉じて気を失った。
「うぅ~……」
あれから3時間。まだ頭がガンガンと痛む。
「バカね」
「うるせ~……」
霊夢の言葉を力なく押しのける。
「まさかレミリアになるとは思わなくてな! ゴメン! ゴメン!」
笑顔で魔理沙が謝ってきた。
「笑いごとじゃねーよ!」
飛び起きて叫ぶ。魔理沙はまた笑顔で謝ってきた。
「……で、俺に何が起きたんだ?」
自分自身でよく理解していなかった。
「さっきお前が変身したのはレミリア・スカーレットといって吸血鬼だ」
ああ、なるほど。
「日光か」
「そう言う事だ」
吸血鬼は日光に弱い。少しでも当たれば命に関わるほどだ。
(それを全身に……)
よく生きていたなと思う。
「まぁ、すぐその紐を引っこ抜いたら何ともなかったけどな!」
どうやら俺は魔理沙のおかげで助かったようだ。元凶も同一人物だが。
「どう? もう動けそう?」
「ああ、何とかな……」
アリスも心配しているらしい。
「じゃあ、改めて行くか!」
「箒に乗らせろよ?」
「わかってるぜ! さすがにもうあんな事は言わないって!」
魔理沙も少しは罪悪感を感じてるようで快く承諾した。
「ありがとな。皆」
突然、やってきた俺にここまで親切にしてくれる。感謝の気持ちが溢れた。
「何言ってるの。放っておいて死なれたら後味が悪いからよ」
「面白そうだからだぜ!」
「何となくね」
「そうか……魔理沙、行くぞ」
「おう!」
もう別れの挨拶なんていらない。どうせ帰れないんだ。また会えるだろう。そのまま立ち上がり、縁側から神社を出た。魔理沙も俺の後に続く。
「準備はいいか?」
「ああ、いつでも来い!」
霊夢とアリスの目の前で箒に跨る俺と魔理沙。
「全速力で行くぜ!」
「え? いや、そこまで急ぐ必要はああああああああああああ!!!」
嫌な予感がしたが時すでに遅し。息が出来ないほどの速さで箒は飛び、人里目指して加速を始める。
「……」
「どうしたの?」
「何でもないわ」
霊夢はジッとすごいスピードで人里へ向かう魔理沙と響の姿を見ていた。何故か寂しそうは表情を浮かべて。
「そう」
でも、私はそれ以上、何も聞かない。聞いたところですいすいと躱されるだけ。
「いい天気ね」
「そうね」
だから、こんな他愛もない話を続ける。
「はぁ……はぁ……」
「どうした?」
「てめーのせいだ!」
箒に乗る事、3分。俺と魔理沙は門の前にいた。正直、自分で飛べばよかった。
「は? 私、何かしたか?」
「自覚なしか」
呆れて何も言えなくなる。魔理沙はあの風圧は何ともなかったようだし仕方ないとも思える。
「だから何だよ! 教えろよ! お前のお気に入りだろ!」
「関係ないわ!? それにお気に入りでもないわ!?」
PSPは全てランダム。たまたまだ。
「ちぇ……なら、私は行くぞ?」
「はぁ!? どうして! ここまで来たなら最後まで付き合ってくれよ! 人里で一体、何すりゃいいんだよ!」
「寺子屋に慧音って奴がいるからそいつに頼れよな。あいつなら面倒見てくれるはずだぜ?」
面倒だからその慧音って奴に俺を押し付けるようだ。
「寺子屋の場所は?」
「そんなもん、人に聞け。私は行くから」
「お、おい!」
俺の言葉を無視して魔理沙は飛んで行ってしまった。
「何だよ……全く」
仕方ないので俺は門を潜った。
「待て」
潜れなかった。剣を腰に差した門番に止められてしまった。
「お前、どこから来た?」
「どこって……」
外の世界からと言うべきなのか博麗神社からと言うべきなのか。
「答えられないのか?」
「いや、そう言う事じゃ――」
「問答無用!!!」
門番はそう言うと剣を鞘から抜いた。
(これは……あれだな。うん)
俺はそっとホルスターからイヤホンを伸ばし、耳に装着する。
「うおおおお!!!」
剣を構えながら突っ込んできた。それに合わせてPSPのスリープモードを解除。更に○ボタンをプッシュする。
~ネイティブフェイス~
頭にはクリクリっとした丸い目が付いた帽子。服は紫色のスカートと中には白い長そでのシャツ。向こうは剣で攻撃してくるはず。だが、それに対して俺は素手。このコスプレにどのような能力があるかまだわからない。咄嗟に俺は右腕を動かした。
「!!!」
門番の振り降ろした剣は俺の体に触れていない。
(やっぱりか……)
おかしいと思った。これまで色々な弾幕を躱してきた。もちろん、掠った事もある。それに高い場所から落ちた事もある。それなのに――。
――どうしてPSPは壊れなかったのか?
いくら掠ったと言ってもPSPはただの機械。傷一つ、入っていないのはおかしすぎる。それだけではない。いくら使っていてもバッテリー切れを起こさないのだ。
紫は言っていた。俺は能力持ちだと。きっと、このPSPが関係しているはずだ。能力持ちだから俺を会社に入れたがっていた。
では、PSPが壊れてしまったら? 俺の能力は宝の持ち腐れとなってしまうはずだ。
もう1つ。紫は1度、このPSPに触れている。その時に細工でもしたのだろう。PSPの境界を弄って――。
「何でそんな物で……それにその恰好は何だ?」
「俺だって聞きたいぜ」
そう、俺は門番の剣をPSPで受け止めていた。