東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第79話 神の一撃

 少し前、俺は地面に両手を叩き付けてインパクトした。そのおかげで俺の体は上に吹き飛び、迫り来る要石を回避する事が出来たのだ。一応、スペルカードにしておいた。その名も『飛拳』。『拳術』の使っている間に使用できるスペルだ。上空から天子の姿が確認出来た。

「う、そ……」

 ここからでも天子の目が見開いていくのが見える。

「ここからだ。覚悟しろよ」

 『飛拳』は両手に纏った妖力をインパクトして高速移動する事が出来る技だ。しかし、この技は他にも用途がある。それは――。

「インパクト……」

 小声で呟いた後、天子に向かって突っ込む。妖力をジェット噴射のように後ろに放ち爆発させ、空中を移動出来るのだ。

「な、何!?」

 更に目を見開いた天子は急いで剣を構える。

「神鎌『雷神白鎌創』!」

 俺も右手に小ぶりの鎌を出現させ、横に薙ぎ払った。

「さっき、壊されたのを忘れたの!?」

 鎌の動きに合わせて剣を振るった天子。先ほどはすぐに斬られてしまったが、今回はお互いにぶつかってその場で制止した。

「なっ!?」

「確か……その剣、相手の弱点属性になるんだよな?」

 驚愕している天子に問いかける。

「う、うん」

「なら、2つの属性があれば?」

「え? そ、それって! そんな事がっ!?」

 そこまで言って俺の鎌の刃に目を止める天子。

「雷? そうか! 今、緋想の剣の弱点属性は……」

「さっきは神力の弱点になったから斬られた。でも、今は雷の弱点属性だ。核となっている神力に影響はないって事」

 両腕に力を入れて天子の剣を押す。

「ぐっ……」

 緋想の剣が封じられた天子は顔を歪ませる。このまま押し切れれば――。

「このっ!」

 だが、思惑通りに行かず天子がジャンプし後方に下がった。

「うおっ!?」

 そのせいで俺の体のバランスが崩れて前のめりになってしまう。すかさず、天子が蹴りを繰り出し俺の腹に突き刺さった。その脚力のせいで思い切り吹き飛ばされる。

(ま、だ……だ!!)

 右手に持っていた鎌を左側に引いてそのまま振りかぶった。俺の鎌は小ぶりでリーチも短い。鎌としてあまり機能していないのもわかっている。でも、一つだけ――神力で創られている事を忘れてはいけない。つまり。

「う、おおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 神力を鎌に注入。イメージだ。進行形で天子との距離が開いて行く。その状況でもこの鎌の刃を当てられる。そんなイメージ。

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 ぐにゃりと鎌の柄が曲がった。ただ、それは神力のせいではない。必然的に起きた事なのだ。長い棒を振ろうとすれば棒は曲がり、先端が遅れて弧を描く。それは摩訶不思議な力が加わっていない。もちろん、俺には世界の真理を捻じ曲げるほどの力はない。なら、何故このような現象が起きたのか。決まっている。

 

 鎌の柄が最初に比べて凄まじいスピードで伸び、遠くにいる天子に鎌の刃を届けようとしているからだ。

 

「あり得ないでしょ!?」

 天子は慌てて剣で受け止めたが遠心力によって更に力を得た鎌の刃の威力を殺し切れず、横に飛ばされた。

「うおっと!?」

 鎌の勢いが強すぎて制御出来ず、そのまま鎌を投げてしまう。投げられた鎌は地面に落ちた後、元の長さに戻った。先ほど、神力を注入した事で普段なら手を離した瞬間に消えたはずなのにまだその形を留めている。時間が経てば消えるだろう。その前に拾っておこうと思い、俺は足を動かした。

「『全人類の緋想天』」

「ッ!?」

 鎌を拾う直前、遠くの方から天子の声が聞こえる。それもスペルカードを発動したらしい。その証拠に天子が吹き飛ばされた所から緋色の光が神々しく瞬いているからだ。

「チリとなりなさいっ!」

 天子が叫ぶと緋想の剣の先をこちらに向けるとそこからマスパ顔負けの赤い極太レーザーを撃ち出した。

「なっ……」

 今からどう動こうと当たる。それほどレーザーが太すぎるのだ。『飛拳』ならまだ可能性があったかもしれない。あの爆発力なら俺の体を吹き飛ばして回避出来ただろう。だが、『拳術』の効果が切れた今、『飛拳』は使えない。万事休すだ。

(それでも……)

 諦められない。これは遊びであって死にはしないだろう。決闘なのだから。しかし、決闘だからこそあるルールが発動するのだ。

『負けたら、報酬ゼロ』

 これさえなければ、俺は運命通りレーザーに飲み込まれていたはずだ。でも、報酬がゼロになってしまうと言う事は今日の収入はなし。これから、俺の大学や望と雅の高校などでお金が必要になる。今の内に貯金しておかないと後々、困る事になるのだ。

 それにここまで来て負けるなんて嫌だ。そっちの気持ちの方が大きいかもしれない。

 その気持ちに答えるように体が動き、右手と左手を前に突き出し、レーザーに掌を見せた。そして、両手に神力を纏わせる。

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 その神力を使って俺は両手を巨大化させた。3メートルを超える大きな白い手は紅いレーザーと衝突。レーザーは手を貫通する事無く、受け止めた。

「そんな……こんな事って」

 その時、向こうから天子の声が聞こえる。驚いているようだ。

「こ、のまま!!」

 今も手はレーザーを受け止め続けている。そのまま掌を上にし、レーザーの軌道をずらす。構図的に俺の真上をレーザーが直進している感じだ。指に力を入れて思い切り、上に手首を跳ね上げた。その動きに合わせて巨大な手も動き、レーザーを真上に弾き飛ばす。

「え!?」

 気付くと天子の剣がレーザーの軌道と同じように真上を向いている。きっと、レーザーの軌道が変化してしまったからだろう。

(チャンス!)

 地面に落ちていた鎌を蹴り上げる。その間に両手を真横に向けた。下にすると地面とぶつかってしまうのだ。

 蹴り上げた鎌を踵落としで柄を地に突き刺し、柄の先端を天子に向くように調整する。

「伸びろっ!」

 ジャンプしてその先端に足を乗せた瞬間、柄が伸びて一気に天子との距離を縮めた。

「そんなバカなっ!?」

 態勢を立て直していた天子が目を大きく開けて悪態を吐いている。

「神撃『ゴッドハンズ』!」

 今更だが、スペルを宣言した。スペルカードはないけど一応、しておいた方がいいと判断したのだ。その頃には天子は剣先をこちらに向けていたが、遅い。

 

 俺の手は3メートルを超える。リーチがあまりにも長かった。

 

「神拍『神様の拍手』」

 両手を大きく広げ、勢いよく閉じる。つまり――。

「あ……」

 剣を構えながら冷や汗を掻く天子を挟むように掌と掌が合う。それと同時に甲高い音が手から響き渡った。

 

「ふ、ふん! 確かに噂通りの強さのようね! 今回はこれぐらいにしておいてあげるわ!

 敗者が胸を張ってそう叫ぶ。

「えっと……はい、今日のお代」

 それをスルーするように掌を天子に差し出す俺。まだ、スキホで計算していないが高額だろう。

「はいはい、わかったわ。衣玖、準備は出来てる?」

「もちろんです」

「……それは私が負けるって思ってたって解釈するけど?」

「……では、響様こちらへ」

「何で無視するのよ!!」

 喚く天子を放って俺は衣玖さんの後に付いて行く。それを見て更に頬を膨らませる天子だったが、ちゃんと俺の後ろを歩いていた。

 

「さぁ! 好きなだけ持って行くがいいわ! 今回の報酬よ!」

 案内されたのはとても大きな建物だった。少し、驚きながら中に入り、連れて行かれた部屋には大量の木箱が置いてある。中身は――。

「さ、酒?」

「そう! 天界の酒よ!」

 天子はまた偉そうに胸を張っていた。部屋にあった木箱を開けると12本の瓶が並んでいる。1本だけ取り出してみると中には透明な液体が入っていた。

「えっと……好きなだけ貰っていいんだよな?」

 飲めないけど貰えるものは貰っておこう。

「ええ。もちろん。持てる限り持って行きなさい」

 天子は知らないようだ。決闘の報酬は絶対、『お金』じゃないとダメな事を。

「文句は言わないな? どれだけ持って行っても」

「言わないわ。そこまでケチじゃないもの」

(ふふふ……人間が持てる量なんて高が知れてるわ。どう? 私の作戦は)

 だいたい、天子の考えている事はわかる。あのニヤケ顔だ。好きなだけ持って行ってもいいとは言っているが限界がある。そう思っているに違いない。

「いいか? 文句は言うなよ?」

「いいから早くしなさい!」

「はいはい」

 俺を騙そうとした天子には少し、お仕置きが必要だろう。制服のポケットからスキホを取り出し、情報を入力。そして、部屋にあった木箱全てを『簡易スキマ』に入れた。

「――え?」

「えっと……今回の金額はこちらになります」

 呆けている天子にスキホの画面を見せてお代を提示する。

「ちょ、ちょっと待って。色々ありすぎて混乱しているわ……まず、お酒をどこにやったの?」

「酒ならこの中に」

「そして? その金額は?」

「決闘のお代」

 天子の顔がサーッと青ざめた。滑稽なり。

「お、お酒はいいわ! 私がそう言ったんだもの。でも、それが決闘のお代って言ったでしょ?」

「何言ってんだ? 決闘の報酬はお金じゃないとダメなんだよ」

「はぁっ!? ふざけないで! そんなの聞いてないわよ!」

 俺の胸ぐらを掴む天子。

「お前……依頼を入れた時、決闘の所にいれたよな?」

 幻想郷には至る所に依頼状を入れるポストが存在する。依頼者はそれに依頼状を投函する事によって俺の元に依頼が届くようになっているのだ。そして、投函する口は2つある。『雑用』と『決闘』だ。その情報は俺の所には来ない。そう言う仕様らしい。意味は分からないけど。

「ええ……入れたわ」

「その瞬間にルール事項が出ただろ? それをちゃんと読まないお前が悪い」

「そんなのって! さっき、言えばよかったでしょうが!!」

 顔を真っ赤にして天子が叫んだ。

「文句は言わないんじゃないの?」

「くっ……ああ! もう!! 衣玖、お金用意して!!」

「こちらに」

「早っ!? まさか、こうなるって予想で来てたの!?」

 衣玖さんはよくわからない人だ。素直にそう思った。

「大丈夫です。きちんと総領娘様のお小遣いから払いますので」

「ふざけんなああああああああああああああっ!!」

 天子の絶叫が木霊する。

 お代はきちんと頂きました。

 


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