「お? サボらなかったな?」
「さすがに今回、サボったら映姫様に何されるかわからないからね……」
「それはいいんだけど……どうして、ここでお昼を食べているのかしら?」
「「気にしない気にしない」」
博麗神社の居間で俺と霊夢、加えて小町が仲良くお昼ご飯(俺が作ったチャーハンだ)を食べていた。
「で? どこから行くつもりだい?」
口にチャーハンを運びながら質問する小町。
「白玉楼にしようと思う」
「ああ、あそこなら幽霊がどうなったか知っていてもおかしくないね」
「そう言うのは食べてからにして頂戴」
「「はーい」」
霊夢に注意され、俺と小町は黙ってチャーハンを食べ進める。
「「ご馳走様でした」」
「お粗末様。小町、行くぞ。霊夢、後片付け頼んだ」
「了解」「わかったわ」
小町は立ち上がり、霊夢は空になった皿を集め始めた。
「白玉楼だったね?」
「ああ、ちょっと待ってろ」
コートを羽織ってからスペルを取り出す。
「移動『ネクロファンタジア』!」
紫のコスプレに変わり、スキマを開いた。
「ほぅ。これはすごいね。コピー能力かい?」
「まぁ、似たようなもんだ。そう言えば、お前の能力ってなんだっけ?」
「『距離を操る程度の能力』。つまり、こういう事さ」
縁側に出た小町がもう一度、足を前に出すと消えた。ここと白玉楼の距離を『一歩』分にまで縮めたのだ。
「うわ……スキマの意味ないじゃん」
「そうかい? 結構、面白いけど」
今度は俺の開いたスキマから顔を出す小町。
「遊ぶな」
「いや~、ごめんごめん」
『よいしょっと』と言いながら出て来た。
「そのままでいいよ。今からそっちに行くから」
「はいはーい」
また、スキマを通って白玉楼に向かう小町だったが、その時向こうで妖夢の声が聞こえた。小町に文句でも言っているのだろう。
「じゃあ、行って来る」
「行ってらっしゃい」
霊夢に軽く挨拶して俺もスキマを潜った。
「……さて、私も準備しないと」
響が去った後、博麗神社の居間で霊夢が呟く。3人分の茶碗を台所に運んでからスペルカードや陰陽玉を保管してある部屋に入った。
「……どう思う?」
「う~ん、難しくなったって事だけは言える」
白玉楼で話を聞き終わった俺と小町は適当に空を飛びながら話していた。
「白玉楼の幽霊の数は減っていない……つまり、こっち側でしか起きていない事になる」
幽々子の言っていた事を要約する。小町も同じように解釈していたのか何も言わなかった。
「そして、あの妖夢の証言……外に逃げ出した幽霊が消えた事だ」
「それが一番、決定的だね。でも、それじゃあ範囲が広すぎてどこから探せばいいか困っちゃうね~」
何ともやる気のない小町である。
「でも、そこまでこっち側に幽霊っていたか? ほとんど見ないけど」
「ああ、見える幽霊は比較的、力が強い方なんだ。弱い幽霊は普通の人間には見えないけどちゃんといるよ」
「ふ~ん……魔法『探知魔眼』!」
左目を青くした俺は森を見てみる。小町の言っていた事は本当のようで小さな力を点々とだが確認出来た。
「……」
「ん? どうしたんだい?」
小町の問いかけを無視して俺は南の方向を凝視する。小さな力がたくさん、集まっていたのだ。
(何であんなに?)
その数はここからでも百は超えていた。多すぎる。
「っ!? そう言う事かよ!!」
霊力を更に合成し、その方向に急いだ。
「ちょ! 待って!?」
遅れて小町も追って来るがそれどころではなかった。
(凄まじいスピードで数が減ってる……何かに襲われているのか!)
「小町! 距離を縮めてくれ! 間に合わない!!」
「ど、どこまで!?」
「ざっと、300メートル!!」
「了解!」
俺の手を握った小町が能力を発動。現場の近くまでワープする事に成功した。
「な、何だよ……これ」
地面に降り立った俺は唖然とする。
目の前で幽霊が奇妙な妖怪に食べられていたからだ。
何とも言えない。言葉では表す事の出来ない二足歩行の妖怪だった。そんな妖怪が数匹で大量の幽霊を食べているのだ。
「何だい……あの妖怪は?」
「わかんないけどあれが幽霊を減らしていた原因に間違いない」
そこで1匹の妖怪がこちらに気付いた。すぐに後ろにいた妖怪たちに向かって吠え、知らせる。
「どうする?」
「もちろん……戦う! 神鎌『雷神白鎌創』!」
小ぶりの鎌を創造し、妖怪たちに突進する。
「ガゥ!」
妖怪の中でも一番、体の大きい奴が一つ吠える。すると、他の妖怪たちは下がった。まるで、リーダーとその部下ような関係だ。
「珍しいね。妖怪が社会を築いてるなんて……一旦、止まりな」
「ぐぇっ!?」
距離を縮めて俺の背後まで近づいた小町がコートの襟を掴んで俺を制止させた。
「な、何すんだ!」
「あたいにもわからないような妖怪だ。警戒しておいて損はないと思うよ?」
だが、進行形で幽霊はあの妖怪たちに食べられているのだ。
「で? 何か作戦は?」
止めたからにはあるに違いない。襟を離した小町の方を見て質問する。
「え? ないけど?」
「ないのかよ!!」
思わず、ツッコんでしまった。
「でも、相手を観察してからの方が勝率も上がるとは考えた。あんたから見てどう思う? あの妖怪」
リーダーは俺が仕掛けて来ないとわかると幽霊を食べ始めた。幽霊たちも逃げようとしているみたいだが、妖怪の方が素早いのですぐに捕まってしまうらしい。
「そこまで強くないと思う。妖力も少ないし……幽霊を食べる度に少しだけど増えて行くから早めに倒さないと取り返しのつかない事になるかも」
「じゃあ、私が弾幕でフォローするから直接、攻撃出来る?」
「どっちかって言うと弾幕より肉弾戦の方が得意だな」
弾幕は大量に撃って2~3発当たればいいと考える。だが、地力の少ない俺からしたら力の無駄遣いは極力避けたい。
「オーケー。それで行こう。まずはリーダーから仕留めるよ」
「おう」
いつの間にか小町が俺を引っ張っている。相当、戦いに慣れているみたいだ。リーダーもこちらが動こうとしている事に気付いたらしく、構えた。俺は姿勢を低くして鎌を片手にダッシュする。
「ガッ!」
よく分からない吠え方をした妖怪だったが、凄まじいスピードで俺に向かって来た。鎌の刃に雷を纏わせ、左目に魔力を集中させる。
「ふっ……」
タイミングを見計らい、鎌の柄を地面に突き刺してジャンプ。妖怪の上を飛び越えて後ろを取る。
「バゥッ!?」
妖怪が振り返った頃には鎌の刃は妖怪の腹を切り裂いていた。
(くっ……浅い)
手の感触から判断し、急いで妖怪の方を見る。
「ガルッ!!」
目の前に妖怪の牙が迫って来ており、俺は焦った。このままでは噛み付かれる。
「キャウン!」
だが、妖怪の顔面を小銭の弾幕が襲って吹き飛ばした。
「小町!」
「ほら! 今の内だ!」
小町の言う通り、妖怪はフラフラしている。軽い脳震盪を起こしているようだ。
「拳術『ショットガンフォース』!」
右手の鎌を消して両手に妖力を纏わせる。
「おらっ!」
やっと、正気に戻った妖怪の左頬に右拳を入れた。ドン、と言うインパクト音と共に妖怪の体も跳んで木にぶつかる。
「飛拳『インパクトジェット』!」
連続で宣言し、低空飛行でまだ空中にいた妖怪の下に潜り込む。
(これで!)
「雷撃『サンダードリル』!」
右手に神力で創ったドリルで妖怪の腹を狙う。しかし、それに気付いた妖怪が体を動かしてドリルの先端は腹ではなく首にヒットしてしまった。
「なっ!?」
腹ならまだ死ななかったはずだ。でも、首を抉られてしまったら妖怪とは言え、さすがに死んでしまう。殺す気のなかった俺は目を見開いて驚愕する。
「……」
地面に倒れた妖怪の亡骸を前に俺は呆けていた。だが、次の瞬間には景色が変わる。
「大丈夫かい?」
後ろから小町の声が聞こえた。きっと、能力を使って俺を移動させたのだろう。
「あ、ああ……」
「仕方ないさ。相手は妖怪だったんだ」
そう言う事ではない。相手が妖怪だからと言う理由で殺しては駄目なのだ。
「……あれ?」
その時、違和感を覚えた。
「どうしたの?」
「リーダーが倒されたら普通、部下たちは逃げるか襲って来るはずだろ? でも、今でも部下たちは幽霊を食べてる」
「それはおかしい……って! お、おい! あれを見なっ!」
小町が慌てた様子で指を指した。
「な、何だ? あれは」
リーダーの亡骸から一筋の白い光が浮かんで来て破裂する。その刹那、リーダーの足が動き始めた。
「た、確かリーダーは死んだはずじゃ!」
「魔眼でも生気は感じられなかったから死んだ! なのに……どうして!?」
「ガルルルル……」
ゆっくりと体を起こした妖怪のリーダーは俺と小町を睨んだ。