東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第91話 異変の始まり

「くそっ!!」

 目の前の妖怪に弾幕を放ちながら、あたいは悪態を吐いた。

 甘かった。あれだけ、注意していたから響もあそこまで無理をしていないと思っていたのだ。考えてもみろ。一振りでかなりの量の力を吸い取る鎌を3日も振り続けたら注意していても限界が来るに決まっている。わかっていた。でも、それを心の奥底に追いやっていたのだ。

「響!」

 妖怪たちの隙を突いて能力を使い、響の近くまでワープした。酷い有様だ。皮膚と言う皮膚が破け、凄まじいスピードで血の海が広がって行く。抱き起こすとあたいの服が紅く染まった。

(このままじゃ……)

 とにかく、安全な所へ移動しなくてはならない。

「グゥ!」

 能力を使おうと響を抱っこしたまま立ち上がった時、後ろから妖怪たちが飛びかかって来た。

(まずっ――)

 この距離では能力を使う前に襲われてしまう。弾幕を放っても全ての妖怪を捌き切れない。

「霊符『夢想封印』!」

 だが、8つの弾が妖怪たちにヒットして吹き飛ばした。

「れ、霊夢!?」

 あたいの隣にスペルカードを構えた霊夢が着地する。

「早く、永遠亭に!! 夢符『封魔陣』!」

 驚愕しているあたいに向かって命令した後、霊夢が2枚目のスペルを使用した。どうして、霊夢が来たのか気になるが今は響だ。能力を使って永遠亭までの距離を一歩分まで縮める。足を踏み出す直前に霊夢の右手があたいの左袖を掴んだのが見えた。

「いらっしゃい。準備は出来てるわ」

 永遠亭の入り口に着くと待ち構えていた薬師と玉兎。

「あ、ああ……」

 それに戸惑いながらもあたいは響を玉兎に渡す。

「貴女たちは中で待ってて。終わったら、知らせるから」

 薬師がそう言うと玉兎を連れて中に入って行った。

「……ふぅ」

 溜息を吐いた霊夢。やはり、あたいにくっ付いてあの妖怪たちから逃げて来たらしい。

「どうして、来たんだい?」

 今まで気になっていた事を聞いた。

「勘よ」

「勘?」

「そう、響が妖怪たちに襲われる事を何となくだけど察知してたのよ。だから今日、二人が出かけた後、ここまで来て知らせたの」

 永遠亭の中に入ろうと歩みを進めながら霊夢が答える。だが、あたいが肩を掴んで制止させた。霊夢の言葉に疑問と怒りを覚えたのだ。

「どうして……どうして、言わなかったんだい!? わかっていたら止める事だって出来たはず「出来たらしたわよ!!」」

 竹林に霊夢の絶叫が響き渡る。

「でも……私の勘は当たってしまうの。勘が言ってるの。無駄だ。絶対に起こるって。貴女だって知ってるでしょ? 博麗の巫女の能力……」

 こちらに背中を向けていたから顔は見えなかった。しかし、苦しんでいるのはわかる。つまり、勘が『何をしても起きる』事すらも予知してしまう。どう動いても結局はその出来事が起きてしまうのだ。わかっていても何も出来ない。それこそ、先ほどあたいが経験した事ではないか。

「……すまない」

「わかればいいのよ。じゃあ、私は神社に戻るから響の手術が終わったら連れて来て。永琳の許可は取ってあるから」

 あたいの手を払って霊夢は飛翔した。

「何やってんだよ、あたいは……」

 霊夢に当たっても何も変わらない。自分の情けなさに腹が立つ。その感情を溜息にして外に漏らしたあたいは永遠亭の中に入った。

 

 

 

 

 

 

「……師匠? これは?」

 ウドンゲが目を見開く。私も予想外の事が起きていて質問に答えられずにいた。

(ど、どうして……全ての血管は無事なの!?)

 皮膚はこれほどまでに破れているのに血管は全て、無傷だった。だが、そんな事があり得るのだろうか。

「と、とにかく! 全ての傷を塞ぐわよ!」

「は、はい!!」

 それから10時間後、手術は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

「え? 響に変わった所はなかったかって?」

 手術終了後、永琳の問いかけに小町が首を傾げて聞き返す。

「ええ、実は血管が無傷だったの。いえ、治ってたのよ」

 手術を終えた永琳が眉間に皺を寄せながら小町にそう聞いたのだ。

「何もなかったけど……」

「おかしいわ。彼、霊力なんて余ってなかったのに」

「霊力?」

 永琳の呟きに首を傾げる小町。

「彼ね? 霊力を傷に流す事によって超高速再生、出来るのよ」

「ああ……そう言えば、してたっけ? 確かにあたいが見た感じだと地力は全て使い切っていたはずだよ」

 昨日、響が妖怪の攻撃を喰らった後、すぐに傷が治ったのを思い出しながら小町がぼやく。

「そうよね……でも、霊力が余っていても不可能だわ」

「どうしてだい?」

「血管だけが無事って事は血管に霊力を流したって事になるの。でも、それを意識してやるには自分の体に流れている血管の場所を覚えておかなくちゃ駄目なのよ」

 永琳の話を聞いた小町が目を細める。

「それをやってのけたってのかい? 響は」

「ええ。きっと、全ての傷を治すほどの霊力がなかったから応急処置として治した。それも、本能的に……って考えるのが妥当なんだけど」

 言っている永琳自身も信じていないようだ。

「まぁ、いいわ。響を博麗神社に運んでくれる?」

「ああ、わかった」

 ベッドに横たわっている響に近づきながら小町は頷く。響は全身、包帯で巻かれていた。それを見て小町が唇を噛む。

「慎重にね。傷口、開いちゃうから」

「了解」

 響を抱っこした小町は能力を使って博麗神社に移動した。

 

 

 

 

 

「……響」

 博麗神社。響の寝ている布団の傍に霊夢がいた。その顔は辛く悲しそうな表情を浮かべている。

「ゴメンね」

 霊夢は知っていたのだ。でも、止められなかった。

「……さてと」

 響の髪を撫でた後、いつもの顔に戻った霊夢は部屋を出て行く。これからの戦いを予知して。

 

 

 

 

 

 

「で? 響の様子はどうなんだ?」

 翌日、博麗神社に遊びに来た魔理沙に今までの事を伝えた。

「生きているわ。ただ、絶対安静ね」

 魔理沙の質問に簡潔に答える。因みに小町は別の部屋で寝ていた。さすがに疲れたのだろう。

「よかった……後はこの事件だけか」

「まぁね。でも、多分私たちだけじゃ無理よ」

「応援でも呼ぶか? 早苗とか妖夢とか」

 私は首を横に振った。

「響の力じゃないと無理なの。小町が言ってたのよ。響にはあの妖怪たちを一撃で倒す力があるって」

「でも、響は……」

 そう、響は動けない。

「私に考えがあるの。メンバーを集めるから手伝って頂戴」

「お? さすがだな。誰を集める?」

「咲夜、早苗、妖夢の3人」

「わかった。私は咲夜と早苗を呼ぶから霊夢は妖夢を頼む」

「ええ……あ、忘れていたわ」

 飛び立とうとした魔理沙の襟を掴んで止めた。

「ぐえっ!? な、何すんだよ!」

 咳をしながら文句を言う魔法使い。

「この異変の名前よ」

「……やっぱり、異変なのか?」

「もちろんよ。このまま放っておけば人里にも被害が及ぶかもしれないし、それに私が動くんですもの」

「はいはい。今回の異変の名前は?」

 箒から降りた魔理沙は少し、ニヤニヤしながら聞いて来る。異変解決を楽しみにしているのだろう。

 

 

 

「魂喰異変よ」

 

 

 

 魂を喰らう妖怪。それが由来だ。

「なるほど。そりゃあ、いい! じゃあ、行って来る!」

「頼んだわよ」

「おう、まかせとけ!!」

 笑顔で飛び立った魔理沙。数秒後にはその影すら見えなくなるほど遠くに行ってしまった。

「こっちも探さなくちゃね」

 妖夢は白玉楼にいるからいつでも呼べる。小町を叩き起こして能力を使わせれば一発だ。

(でも、あいつはそうは行かないのよね……)

 溜息を吐いた後、私は飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「主人よ、いいのか? あの万屋を殺すには今がチャンスだと思うけど」

「いいよ。この異変が終わってからでも倒せるし」

 博麗神社の屋根。そこで二人の人物が会話していた。

「まぁ、俺の能力とか使えばいいけどよ……今、やった方が楽じゃね?」

「……この異変はこの幻想郷を大きく揺らす可能性があるんだよ。だから、異変解決の方が先だ」

「それならあんたがやればいいじゃんよ。俺より強いし。だからこうやってあんたの式神になったんだからよ」

「面倒」

 主の答えに溜息を吐く式神。

「全く……男のくせに女みたいな顔しやがって。あ、今は本当に女なんだっけ?」

「ああ、殺す。今、お前を」

 主が式神を睨む。

「おお、怖い怖い。やめてくれよ。そんな紅い目で俺を睨むなって」

「自業自得だ。帰るぞ」

「え? 本当に殺さないのか? あの万屋」

「……まぁな」

 主がやけに深刻そうな表情を浮かべるので式神は首を傾げるだけだった。

「じゃあな。響……今は『音無』だったな」

 下を見たまま、そう呟いた主は一瞬にして消える。

「あ! ちょ、待って!」

 置いて行かれた式神は慌てて博麗神社の屋根を降りた。

 


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