東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第92話 作戦開始

「皆、話は聞いているわね?」

 響の手術が終わってから数時間後。霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗、小町の6人は博麗神社の居間に集まっていた。

「魂喰異変だっけ? 今回の異変の名前は」

 珍しく砕けた口調で咲夜が霊夢に確認する。

「ええ」

「しかし……魂を食べた分だけ蘇生出来るとは強い相手ですね」

 妖夢の一言に皆、黙ってしまった。

「でもよ? この少人数で戦って勝てるのか?」

「いい質問ね、魔理沙。正直言うわ。無理よ」

「はぁ? 無理? どうしてそう言い切れんだよ」

 霊夢の発言が納得いかないのか魔理沙が食い下がる。

「相手は何回も蘇生出来る。しかも、響の鎌が壊れるほど頑丈なの。3回は倒せるとは思うけどその時には私たちは疲れ切っているはずよ」

「なら、どうするんですか!?」

 今度は早苗が不安そうに叫んだ。無理もない。あの勘が鋭い霊夢がそう断言するのだから。

「……私たちに出来る事は響が動けるまでの時間稼ぎよ」

「お、おい? それは本気で言っているのかい? 響は絶対安静だってあの薬師が言っていただろう」

 小町の言った通りだ。響は全身の皮膚が破けてしまった。少しでも衝撃を与えると傷口が開き、包帯を紅く染めるだろう。

「わかってるわ。だから、彼の霊力を回復させるの。響が前、言っていたの。霊力は他の力と違って魔力、妖力、神力のどれかが回復するとそれと同じぐらい回復するって」

「えっと……つまり、その3つのどれかを完全回復させれば響ちゃんの霊力も回復するって事ですか?」

 早苗が首を傾げながら整理する。それに対して霊夢はただ、頷いただけだった。

「回復って言っても……そう簡単に回復しないだろう」

「私の能力を使うの? 響の時間を早めれば出来るけど」

 魔理沙と咲夜がほぼ同時に霊夢に質問する。

「いえ、咲夜の能力は使わないわ。彼の時間が狂っちゃうもの。でもね? 彼の持っている力の中で一つだけ、すぐに回復させる事が出来るの ね? 早苗」

「わ、私ですか!?」

 最初は吃驚した早苗だが、少し考える素振りを見せた後、目を見開いた。

「な、なるほど……可能かもしれません。ですが、建てるのに時間がかかっちゃいますよ?」

「確かに普通に建てれば時間がかかってしまうわ。そこで、萃香よ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 建てるって何をですか!?」

 霊夢と早苗が突っ走るので慌てて妖夢が止めに入る。他の3人も頷いていた。

「いいのよ。気にしなくても、後でちゃんと説明するから。今はとにかく、早苗がわかっていればいいのよ」

「それで萃香さんがどうしたんです?」

 妖夢を一蹴し、話し合いに戻る巫女二人。

「あいつの力を使えばすぐに建物を建てれるのよ。まぁ、問題が一つ。見つからないの」

「え? あんたの勘でもかい?」

 小町が少し、驚いた様子で聞く。

「あいつ。いつも霧状になって幻想郷中に散ってるのよ」

「ああ、反応が幻想郷中に出てるってわけだ」

 苦笑いしたまま、魔理沙が呟く。

「だから、早苗はまず萃香を探して頂戴。後の事はわかるわね?」

「は、はい!」

 元気よく返事をする早苗。

「じゃあ、全体的な作戦について説明するわ。まず、2チームに分けるの。戦闘チームと回復チーム。早苗、必要な人いる?」

「そうですね……小町さん。お願い出来ますか?」

「お? あたいかい? もちろん、力になるよ。まぁ、最初は鎌を回収して来なくちゃいけないけどね」

 小町の鎌は響が倒れた場所に置いて来てしまったのだ。

「霊夢? やっぱり、戦わなくちゃいけない状況なのか?」

 魔理沙の素朴な質問に霊夢は溜息を吐いた。

「そうなのよ。これも勘なんだけど、響がせっかく助けた幽霊のほとんどはまた妖怪に食べられているの。そろそろ、幻想郷の幽霊を食べ尽くされちゃう」

「人里に来るってわけね」

「そう言う事。戦えばきっと、本体は妖怪を私たちにぶつけて来る。その間は幽霊を食べられないでしょうから。時間稼ぎってそう意味でもあるのよ」

 響の回復する時間。妖怪たちが幽霊を食べ尽くす時間。霊夢はそう言いたいのだ。

「それじゃ、早苗と小町は響の回復に専念して。それ以外は私と一緒に」

「何か、ものすごく適当な扱いを受けてるけどやってやるぜ!」

「響が倒されたって聞いてお嬢様も妹様も紅魔館を壊しそうなくらい怒っているのよ。私も力になるわ」

「幽霊たちは何も悪くありません。その妖怪を斬ります!!」

 お互いに目を合わせる。そして、一つだけ頷いて立ち上がった。

「今回の異変は厄介よ。解決できるのは響しかいないの。だから、皆。それまで頑張って!」

 霊夢が最後に締めて作戦会議は終わった。

 霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢の4人は本体がいる森へ。

 早苗は萃香を探す為に博麗神社に残った。

 小町は能力を使って鎌を取りに。

 

 

 

 

 

 

「さてと……どうやって、探しましょうか?」

 霊夢さんの作戦通りに行けば響ちゃんはきっと、目を覚ます。だが、その作戦を実行する為には下準備が必要なのだ。

(萃香さんはお酒が好きでしたよね……あ)

 博麗神社の縁側でお茶を飲みながら考えているとこの前、響ちゃんが天界のお酒をくれた事を思い出す。やはり、落ち着いて考え事をするといいアイディアを思い付くものだ。

「響ちゃん……ごめんなさい」

 部屋で寝ている友達に謝った後、私は博麗神社の上空まで飛んだ。

「すぅ……萃香さ~ん!! お酒、要りませんかあああああああああ!!!」

 自分の出せる最大音量でそう叫んだ。能力を使ってその声を風に乗せる事によって更に遠くまで聞こえるように細工する。

「……さ、さすがにこれじゃ来ませんよね」

「お酒どこ!?」

「うわぁっ!!?」

 急に目の前に萃香さんが現れ、思わず悲鳴を上げてしまった。

「そ、そんなに吃驚しなくたっていいだろ?」

「い、いえ……本当に来るとは思っていなかったので」

「そんな事より! お酒はどこ!?」

 キョロキョロと辺りを見渡す萃香さん。ここは空中だからあるわけないのに。

「じ、実はですね? 頼みたい事があるんですよ。そのお礼として天界のお酒を、と」

「天界の酒か……1本だけかい?」

 ニヤリと笑った萃香さんが問いかけて来る。足りるわけないだろう、と言っているのだ。

(うぅ……響ちゃん、本当にごめんなさい)

 余っていて困っていると言う言葉からお酒が大量にあると考えたがもし、違っていたら響ちゃんにも萃香さんにも悪い事をした。しかし、この緊急事態だ。背に腹はかえられない。

「こ、これでどうでしょう?」

 手を開いて『5本』と提示する。

「……よし、交渉成立だ! 何をすればいい?」

 萃香さんの答えにほっと安堵の溜息を吐いた後、私は仕事の内容を言う。

「なるほど……どれくらいの大きさ?」

「そうですね。そんなに大きくなくていいです。とにかく、早急に作って頂ければ」

「うん。なら、そんなに時間はかからないはずだよ。30分もあれば」

「本当ですか!?」

 予想では2時間はかかると思っていたので驚いてしまった。

「鬼は嘘を吐かない。よし、今から取り掛かるから待っていてくれ」

「わかりました! あ、すみませんがお酒の方はもう少し後になってからお渡ししますので」

「了解」

頷いた萃香さんはそのまま、霧になって消えてしまった。

「お~い! 早苗! 帰って来たぞ!」

 下から小町さんの声が聞こえる。そちらの方を見るといつもの刃がくねくねと曲がった鎌を持ってこちらに手を振っている小町さんを発見した。

「おかえりなさい! 鎌は無事だったんですね!」

「ああ、あの妖怪たちは簡単な命令しか聞かないみたいで私たちが逃げた後、どこかに行っちゃったみたいでな。で? 鬼は見つかったのかい?」

「ばっちりです! 早速ですが、小町さんにもお願いがあるんです」

「お? 何だい?」

 首を傾げる小町さん。

「これから人里に向かいます。小町さんは人里の入り口付近で待っていてください。それと博麗神社と人里を何往復もする事になると思いますが大丈夫ですか?」

「人里? そこで何かするって事?」

「はい……急がなくてはいけません。霊夢さんたちが戦っている間に何としてでも響ちゃんを」

「わかった。まかせとけ」

 小町さんが頷いた。その後、私は博麗神社の方を見る。

(待っててね。響ちゃん……)

 私が何も知らない所で響ちゃんは戦っていた。そして、傷ついた。友達が傷ついたのを黙って見ているわけにはいかない。私は気合を入れて人里に向かった。

 


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