終わる事のない地獄。それは戦い続ける事かもしれないと私は思った。
「はぁ……はぁ……きょ、響は?」
八卦炉を持つ手に力が入らない。息を荒くしたまま、霊夢に質問した。
「わ、わからないわよ……勘が働かないんだから」
お札を投げながらそう言い放つ霊夢。勘が働かないとは珍しい。
「咲夜、見て来て」
「無茶言わないで。こっちだってそろそろ、能力すら使えなくなりそうなんだから」
そう言いながらも華麗にナイフ投げている姿は限界を感じさせない。さすが、メイド長。
(疲労から変な事を考えるようになってるな……)
「はぁっ!!」
前方で妖夢の威勢のいい声が聞こえる。だが、剣は妖怪に躱され空を切っていた。疲れのせいでスピードが落ちているらしい。
「それで? スペルはどれぐらい余ってる?」
霊夢からの不意の問いかけに私は首を横に振った。もう、全てではないが攻撃力のある奴は使い切ってしまったのだ。
「右に同じ」
「右に同じです」
「じゃあ、私も右に同じ」
確かに私の左側に全員いるが少し、まずい状況なのではないだろうか。ピンチになった時に対処する事が出来ない。
「全く、無駄にスペルが多い魔理沙がガス欠を起こすなんて」
「なっ!? 仕方ないだろう!? 残ってるのは妖精相手に使った奴しか残ってないんだよ!!」
懐中電灯とか鬼ごっことか。
「まぁ、本当に駄目になった時に使って」
「使ってどうにかなるのか? こいつら」
話通り、妖怪たちは蘇生した。そして、強い。一匹一匹が相当な力を持っていたのだ。何とか、数匹殺したが数は減るどころか増え続けている。
「時間稼ぎって大変ね」
「だな」
霊夢の呟きに頷いた時、妖怪が一斉に飛びかかって来た。
(使うしかないのか! 懐中電灯を!?)
使っても前にいる奴にしか効かないし、効いても数秒も持たないだろう。
「鎌鼬『鎌連舞』」
その時、後方から聞き覚えのある声でスペルを宣言。目の前にいた妖怪が一斉に土になってしまった。
「ったく……遅すぎるぜ」
髪は紅いがその姿に見覚えがある。そう、響だ。
「すまんな、待たせて」
こちらを見て笑う響。その手には小町の鎌が握られていた。
――少し前。博麗神社にて。
俺はトールとシンクロした。
「きょ、響ちゃん? いや、髪が紅いからトールさんですか?」
トールとの魂交換を見た事のある早苗が質問する。
「響だ。この前のは交換だけど今回はシンクロだから」
「何か違いがあるんですか?」
「それは移動しながら説明する!」
早苗の疑問を一蹴し、空を飛ぶ。
「皆さん! 本当にありがとうございました! 皆さんのおかげで元気になりました!!」
空中で境内にいる人里の皆に挨拶する。すると、ちらほらと応援の声が聞こえた。多分、早苗が異変の事を話したのだろう。
「あたいの能力は使わないのかい?」
早苗と小町が俺の両隣りに並ぶ。小町の問いかけに俺は首を振る事によって答えた。
「少し、体の調子も見たいし今、霊夢たちの所にワープして邪魔になったから困るだろ?」
そう言いつつ、俺は霊夢たちが戦っていそうな方向に向かって移動を始める。だが、俺は首を傾げた。
(『ミドルフィンガーリング』で鋭くなってるとはいえ……こんなに勘が働くものなのか?)
まぁ、当たっていなくては意味がない。そう、思った時だった。
「響ちゃん? どうして方向がわかったんですか?」
「……何となく」
早苗の台詞から勘が当たっている事がわかる。俺の疑問は更に深まるばかりだった。
「で? 交換とシンクロ……まず、どうしてシンクロしなくちゃいけなかったんだい?」
隣を飛行する小町。早苗もこくこくと頷いて促していた。
「……俺は鎌を振り過ぎて地力を全て使い果たしちまった。神力が増えてもすぐにガス欠を起こす事も目に見えてる。そこで魂交換しようと最初は思ったんだ。今、トールの神力は増え続けているからな」
「最初は?」
そのキーワードを聞いて小町の目が細くなる。
「早苗は知っているだろ? 魂交換するとこの体の能力は『創造する程度の能力』になるって」
「は、はい。トールさんが言っていました。あ……」
何か気付いたようで早苗の口が開いた。
「そう、能力が変わっちゃ駄目なんだ。この体の所有権が変わってしまうと能力が変化する。それを阻止するためには俺がその権利を握ってなきゃいけない。そして、思いついたのさ。シンクロを」
「本題だね。交換とシンクロの違いは? 今の所、わかっているのは体の所有権を響が握っているかいないかだけど」
「魂交換は魂ごと、入れ替えるんだ。そうすれば、所有権はトールに移って能力も変わる。で、シンクロは魂と魂を共鳴させてトールの力を俺の力として使う事が出来るようになるんだ」
上手く言葉に出来ない。それを証明するかのように二人は眉間に皺を寄せた。
「えっと……つまり、シンクロをすれば響ちゃんはトールさんの力を自由に使える事が出来るようになる、と?」
「まぁ、だいたい合ってるかな? 所有権が変わらなければ能力も変化する事もないし、俺が使える神力も増え続けてる。現在進行形でな」
更に新たなスペルも唱えられるようになるのだ。その後のデメリットが何か気になるが今はそんな事を言っている場合ではない。
「あ、そうだそうだ。響? これ、知ってるかい?」
何かを思い出したのか小町が1枚のスペルカードを見せて来た。それを見て、俺は目を見開く事になる。
「小町。皆を安全な場所に。早苗も付いて行ってやれ」
鎌を構えたまま、後ろを見ずに指示を出す。
「わ、私も援護します!」
早苗が叫ぶ。
「駄目だ! きっと、妖怪たちはお前を標的にする! 庇い切れない!!」
言っちゃなんだが、いない方が俺としては戦いやすい。
「……わかりました」
声でわかる。早苗は肩を落としたまま、小町の能力でワープした。気配が消えたのだ。
「さて……これが本体か」
妖怪たちが本体を取り囲むように陣形を取っている。
「待ってろよ。でかぶつ。お前の魂、刈り取ってやる」
まずは下準備が必要だ。懐から1枚のスペルカードを取り出して唱えた。
「創造『神力複製術』!」
これがトールとのシンクロによって唱える事が出来るスペル。対象は小町の鎌。頭の中でそう、宣言するとまわりにたくさんの鎌が出現し、地面に突き刺さった。いつも創るような物ではなく、本物と同じ効果を持った鎌だ。つまり、これら全てが『死神の鎌』。
「――ッ!」
本体がそれを見て、目を見開いた。どうやら、声は出せないらしい。そう、思った刹那――
『あたしの邪魔をするなあああああ!!』
何やら、あの巨体から考えられないような可愛らしい声が直接、頭に届く。
(……もしかして)
本体は気付いていないのだ。自分の姿に。きっと、能力が暴走してしまったのだろう。
「なら、倒すんじゃなくて助けなきゃな」
俺は能力が暴走して皆に迷惑をかけた事がある。
「さてと……」
手に持っていた鎌を両手で握った。妖怪たちが唸りながら俺を威嚇する。
「戦闘、開始」
そう呟いた瞬間、俺は片手に持ち直してから鎌を投げた。縦ではなく横に。こっちの方が当たり判定が大きいからだ。俺の手から離れた事により、力を失いつつある鎌だったが妖怪の魂を刈り取るには問題ない。それほど、妖怪の魂は不安定なのだ。一気に5匹の妖怪を土にした俺は近くに刺さっていた鎌を掴み、引っこ抜く。その動作に合わせて妖怪が突っ込んで来た。いや、そう仕向けたのだ。引っこ抜いた勢いで妖怪を斬りつけ土にする。
「さぁ、どっからでもかかって来い。魂強奪犯」
くねくねと刃が曲がった鎌を本体に向けて俺はそう言い放った。