「はぁっ!」
鎌を横薙ぎに振って2匹の妖怪を倒した。振る度にごっそり、力を持って行かれるが今もなお増え続ける神力のおかげでガス欠は起こしていない。
一斉に飛びかかって来たのでまた、鎌を投げて次の鎌を取りにバックステップする。丁度、右にあった鎌を手に入れて構えた。
「……」
妖怪の数は半数近くを倒している。土にする度、幽霊が拡散するので視界が狭いのはきついが、戦況はこっちに傾いていた。
「バゥ!!」
後ろから迫って来た妖怪を後ろ回し蹴りで吹き飛ばした後、近くに刺さっている鎌を蹴り上げてヒットさせる。先ほど気付いたが、一瞬でも鎌に触れば邪悪な力が得られるようで投げるに加えて鎌を蹴って飛ばすと言う攻撃方法も駆使していた。
「このっ!!」
目の前に妖怪がいない。その一瞬の隙に移動し、本体に一撃を与える。が、傷口から幽霊を少し、放出するだけで本体の魂を刈り取る事が出来なかった。そりゃそうだ。この鎌が妖怪たちの魂を刈り取る事が出来るのは妖怪たちの魂が不安定だから。でも、本体の本当の魂は最初からあった安定した魂。さすがに刈り取れないのだろう。それでも、本体に取り込まれた幽霊は少しだけだが救出できるのでよしとする。
(やっぱり、周りの奴から倒すか……)
妖怪の攻撃を躱しながら、考える。本体はあのでかさから攻撃出来ないと判断してもいい。それに出来たとしてもこっちの方が素早い。躱せるはずだ。だが、本体にも『高速回復能力』があるらしい。その証拠に先ほど付けた傷はもう消えていた。
「……あれ?」
違和感を覚えた。何だろう。さっきと何かが違う。
「おっと」
それに気を取られていたら、危うく妖怪の牙の餌食になる所だった。すぐに気持ちを切り替えて鎌をぶん投げる。間髪を入れずに鎌を補充し、どんどん妖怪を斬り倒した。だが、どうしても違和感が残ってしまう。本当に何が引っ掛かっているのだろうか。
「……あ」
そうだ。数だ。倒した妖怪の数が半数を超えた辺りから数が減っていないように見える。
「でも、何で……」
ちゃんと、鎌で攻撃して魂を刈り取っている。幽霊も散っているし、倒しているはずなのだ。
「くそっ!」
近づいて来る妖怪を鎌で牽制しながら思考を巡らせる。どうやって、妖怪を増やしたのだ。増やすにしても幽霊を食べなくてはいけないはず。何故なら、本体が取り込んだ幽霊を手下である妖怪に渡すとは思えないからだ。でも、妖怪は増え続けている。
(……そうか。そうだったのか!?)
本体は妖怪の2チームに分けていたのだ。ここにいる戦闘班と魂を回収する班に。
「魔法『探知魔眼』」
なけなしの魔力をかき集めて、一瞬だけ魔眼を開眼させた。予想は的中。本体から垂れている何本もの見えない力の糸はここにいる妖怪たちと大半、繋がっているがそれ以外の糸は遠くの方まで伸びていた。
(こいつ!)
戦いながら妖怪を作っているのだ。そして、問題の幽霊は俺が倒した妖怪から逃げた幽霊を再び、喰らう。糸は四方八方に伸びていた。どこに逃げても食べられるように配置しているのだ。よく見れば、本体の後ろからどんどん、妖怪が溢れて来ている。俺が気付かないようにこっそりと。
「くそったれ!!」
より一層、鎌を振るスピードを上げる。勝てばいいのだ。妖怪たちが増える速度より俺が妖怪を斬る倒す速度が勝ればいい。
「おらっ!」
左足を軸に体を一回転させる。鎌も円を書くような軌道を描き、周りにいた妖怪を土にした。
――ピシッ……
その時、鎌から不気味な音がする。この鎌は本来、このような強大な力は持っていない。この邪悪な力に耐えられなくなってしまったのだ。だが、俺はそれほど気にしていなかった。鎌なら複製した物がそこら中に刺さっている。例え、これが壊れてもまだ大丈夫だ。そう、思っていた。
『馬鹿者!! 今すぐ、止まれ!!』
目の前にいた妖怪に鎌の刃を突き立てようと振り上げた時、トールが叫んだ。
「え?」
咄嗟の事で俺は止まれず、妖怪の体を貫通させた。そして、勢いがあまり地面に刃を突き刺してしまう。その衝撃で鎌全体に皹が入り、砕け散った。
「なっ!?」
それとほぼ同時に周りにあった全ての鎌も同じように砕けた。俺はその光景に驚愕する。
「そ、そんな……」
震える声で呟く。
『すまぬ……説明しておくべきじゃった。あのスペルにはデメリットがあったんじゃ』
「デメリット?」
続きを聞こうとするが、妖怪が突っ込んで来たので躱す。トールも空気を読んで黙った。
「で? それはなんだ?」
数回、妖怪の攻撃を回避したら攻撃が止む。こちらの様子を伺うつもりらしい。その隙にトールに問いかけた。
『複製した鎌は本物も含めて全て繋がっておったんじゃ』
「つまり……一つが壊れたら全部、壊れるって事?」
『うむ』
まずい。非常にまずい状況だ。あの妖怪は小町の鎌じゃなくては一撃で倒せない。
『……響? 変な音、聞こえぬか?』
「音?」
そう言えば、キュイィィィンと言う甲高い音が聞こえる。前にいる妖怪から。
「ま、まさか!?」
よく見れば全員の口が白く光っている。一度だけ見た事があった。魂を撃ち込まれた時だ。
『逃げろ! あれを食らったら終わりじゃ!』
「で、でも……この距離なら撃ち込まれないんじゃないの?」
『愚か者! あれが特例だったんじゃ。多分、あの技は自分の中にある魂を装填し、発射する遠距離攻撃!!』
「っ!? 神箱『ゴッドキューブ』!!」
俺の周りに神力の箱が出現するのと魂が射出されたのはほぼ同時だった。箱と魂がぶつかった瞬間、凄まじい爆音が幻想郷に響き渡る。
「やばっ……」
箱に亀裂が入った。このままでは壊れてしまう。
『響! イメージじゃ! この箱は神力ではなく、鋼鉄で出来ていると念じろ!!』
(鉄……あのエネルギー弾にも耐えられる硬くて分厚い壁)
トールの指示通り、必死にイメージする。その途端、白かった箱が鈍色に変わり、視界が暗くなった。本当に鉄になり、光の入る隙間がなくなったのが原因だろう。
「す、すげー……」
耐え切った鋼鉄の壁は消え、妖怪たちが姿を現す。
『お主は今、我の力を使える。能力は変わらぬが今まで以上に神力を使えるのじゃよ』
「じゃ、じゃあ! 小町の鎌も?」
『それは無理じゃな。あの鎌は創る事は出来る。ただ、『小町』の鎌と言う概念を持っておらん』
つまり、形は創れるがあの鎌を創り出す事は出来ないとの事。それでは意味がない。あの鎌じゃないと『死神』にはなれないのだから。
「……まだ、あるか」
たった一つだけ。でも、いつもと同じように運に頼る事になる。それに――。
『大丈夫。今のお主ならあの妖怪たちの攻撃に耐えられるはずじゃ。それにシンクロ状態ならお主の能力が変わってしまっても今のように神力を使えるぞ?』
トールの言葉に眉間に皺を寄せた。
(普通なら使えないだろ? 指輪だってそうだし)
『今の状態は普通じゃなかろう。思い出せ。フランドールとのシンクロの時、能力を犠牲にしたじゃろ?』
「よっと……それがどうしたの?」
2匹の妖怪が左右から突進して来たので両足に霊力を流し、脚力を水増し。そして、ジャンプして躱した。着地した後、トールに続きを促す。
『本当はフランドールの能力が消え、お主が元々持っていた能力に戻ったのじゃ』
「つまり……シンクロ状態でもコスプレ出来るし指輪が使えるって事?」
『さよう』、と言ったトール。
「……仕方ない。やるしかないか」
目の前にはざっと見ても100匹は超える蘇生能力を持った妖怪。そして、巨大な本体。あいつの取り込んだ幽霊の数は計り知れない。
俺にはもう、小町の鎌はない。他人から見たら万事休す。だが、俺――いや、俺とトールは諦めていなかった。今までずっと、頑張って来てくれた霊夢たち。俺を復活させる為に人里の皆を集めてくれた早苗たち。俺の事を心配し、信仰してくれた人里の住人。
「皆の為に……負けられないもんな」
スキホからPSPとヘッドフォンを出現させ、装備。PSPを操作し、再生した。目の前に現れたスペルを掴んで宣言。
「六十年目の東方裁判 ~ Fate of Sixty Years『四季映姫・ヤマザナドゥ』!」
ここから、長い戦いになる。映姫の衣装を着た俺は妖怪たちを睨んだ。その時、強い風が吹いて俺の紅い髪を揺らした。