白野とエリザが勝利を喜ぶ中、まるでダダをこねる子供の様に喚き散らして者がいた。今回の敗者である慎二だ。
「なんでだよっ! 僕が岸波なんかに負けるはずがないのにさっ! 畜生畜生! おい、ライダー! 今すぐ立ち上がってあいつらをぶっ飛ばせよ、この大外れサーヴァント!」
「……参ったねぇ。悪いけどもう動けそうにないよ」
まるで負けた原因は全てライダーにあるとでも言いたげな、いや実際にそう思っているのだろう。地団駄を踏み、唾を飛ばしながら喚く慎二が次のターゲットにしたのは白野達だった。怒りの形相で不躾に指を突きつけながら近づく慎二は完全に頭に血が昇ってしまっているようだ。
「覚えてろよっ! 月から帰ったらお前がどこの誰か調べ上げて直ぐに……え?」
一方的に白野に喚く慎二だったがその言葉は途中で疑問符へと変わる。白野達との間を隔てるように現れた赤い壁に触れた腕が消失していたのだ。そして其れだけではなく、彼の体中が黒く変色し消滅しだした。
「なんで地上の僕の様子が分かるんだっ!? 僕が……死ぬ? ライダー! お前は僕のサーヴァントなんだから何とかしてくれよ!」
「そういうルールだっただろ? 分かってて参加したんじゃなかったのかい? シンジィ」
ライダーの体も慎二同様に消滅を始めており、この時になって慎二の表情から怒りが消え恐怖が表情すべてを染め上げる。
「電脳死なんかよくある脅しだろ? まさか本当にこんな所で……」
「舐めてんのかい? 戦争だって言っただろ。それに悪党の末路なんて惨めなもんだよ。好き勝手やってきたんだ諦めな」
この時になって白野は感じていた違和感の正体が何か確信する。薄々分かっていた事だが慎二は負けたら死ぬなど本気にしておらず、ゲーム感覚で聖杯戦争に参加していたのだ。いや、白野は本当は分かっていた。しかし其れを認めてしまえば遊び半分の慎二を相手に命をかけて戦う覚悟が揺らぐと感じていたからだ。そして今、確信に変わった事で後悔の念が襲ってきていた。
「助けてくれよ、岸波! 友達だっただろっ!?」
「し……」
縋り付く様に手を伸ばしてきた慎二に対し何か言おうとした白野。だがエリザのひと睨みで黙らされた。
「……同情しないの。たとえ本気にしてなくても負けた相手は死ぬって聞かされててアイツはアンタを負かしに来た。それが悪だと知らなくても、そんな事で罪は消えるわけじゃないの」
最後の言葉はまるで自分に言い聞かせる様に呟くエリザ」。そしてついに慎二の体は消滅目前まで達していた。
「嫌だ死にたくないっ! 僕はまだ死にたくないんだっ! だって、本当の僕はまだ八歳なのに……」
泣きながら完全に消えていく慎二。ライダーの体も既に消滅しており、白野は無言で決戦場を後にした……。
「まさか君が勝ち残るなんて……。慎二ってアレでも優勝候補の一人だったのよ? ……それにしても酷い顔。勝者の顔じゃないわね」
浮かない顔のまま校舎に戻った白野を出迎えたのは凛であった。慎二を殺したことを落ち込む白野を見下ろす彼女の瞳は冷たく思いやりの欠片もない。いずれ殺し合う関係になるかもしれないのだから当たり前と言えば当たり前なのだがそれが気に入らなかったのかエリザが姿を現して食ってかかる。
「あんたには関係ないでしょ、子リス。ハクノは人殺しをして冷静でいられるほど冷血漢じゃないだけなの。ほっておいて頂戴」
「……そうね。彼と私は敵同士ですもの。でも一応忠告してあげる。そんな事じゃ次くらいに死ぬわよ? それが嫌なら戦うだけの目的を決めなさい」
「ふん! アンタに言われなくても私がその程度のこ事なんて既に言ってあげてるの」
妙に凛に食いつくエリザ、彼女が離れて行くとその背中に向かって舌を突き出していた。
「さっ、帰るわよハクノ。ちゃんと休まないと体が持たないわ。ちゃんとご飯は作ってあげてるから食べたら寝なさい」
「……うん」
さすがにこの場面で”それって眠るってよりも気絶だと思う”等とは言えず揃ってマイルームに向かう二人。帰ってからも落ち込んでいた白野がベットの端に座って黙り込んでいるとエリザがビーフシチューと言いながら真っ赤な何かを運んできた。
「今日は自信作よ!」
口にするとネバネバと口の中にへばり付き、それでいて液体のように口の中全体に広がっていく。妙にいがらっぽくむせそうになりながらも飲み込むと漸く味が判別できた。
「ど、どうかしら?」
モジモジしながら感想を不安そうに聞いてくるエリザ。今までの味は塩っぱさ甘さ辛さ酸っぱさ不味さなど甘さ以外の味が混ぜ合わされていた
(塩っぱい甘い酸っぱい不味い。……でも、辛くない)
だが、今度は辛くない。全くと言ってほど辛くないのだ。
「上達したね、エリザ」
「本当っ!? 本当に上達してるっ!?」
無言で頷くとエリザは本当に嬉しそうに喜ぶ。その姿を見た白野の心に伸し掛った物が少し軽くなり、お腹が満たされた為か瞼が重くなった。
「あら、眠いの? 仕方ないわねぇ。食べて直ぐ寝るには良くないけど……」
エリザはベットに倒れこんだ白野に毛布を掛けると思い出したかの様に壁に近づいていく。其処には勝ち抜いた時のご褒美リストが貼られていた。
「じゃじゃ~ん! 第一回戦のご褒美は……私の歌を毎晩独占させてあげる」
(……え?)
眠くて意識が無くなりそうなのがせめてもの救いだと自分を誤魔化しながら恐怖に耐える。エリザはその様な事など気付かずに発声練習を行い、地獄が再び始まる……、
「……あれ?」
かに思えたが、聞こえてきたのは何時もの過剰な自信が過剰ではない程に美しい歌声。その歌声は心に染み渡り心の傷が癒えていくようだ。安心したのか眠気が濃くなり、もっと聴いていたいという想いとは裏腹に意識が途切れる。
(ああ、そうか。
やがて白野の意識は完全に途切れ、今思った事は起きた頃には忘れてしまっていた。
『……約束よ。思い出したら―――』
「ああ、分かったよ。何の事かまだ分からないけど―――の期待に添える様に……」
其れは何時か見た夢に出てきた少女との会話。声や顔を見聞きしてるにも関わらず判別出来なかったが、自分ととても仲が良い、それだけは確信できた白野だった……。
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