Fate/EXTRA D³   作:ケツアゴ

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第四話

 ランサーのマスターからすればそれは一瞬の出来事だった。対戦相手と少しだけアリーナで戦い、互いに切り札を使う前に終わったが勝ち目は十分にあった。だからとういう訳ではないが少し気が緩んでおり、先日の一件で後者での戦いへの罰則が厳しくなったのもあって校舎での襲撃はない、そう思っていたのだ。

 

「嬢ちゃんっ!」

 

「へ? きゃあっ!?」

 

 際の途中、急に目つきを変えたランサーに体を掴まれ宙に放り投げられた彼女は普段の強がりも忘れて思わず可愛らしい年相応の悲鳴を上げ、回転する視界で貯水タンクの上で弓を構えるアーチャーの姿を捉えた。彼女を投げたランサーはそのまま矢の様に突き進み、寸での所で躱された槍は貯水タンクの頑丈な外壁を破壊して中身を放出させた。

 

 そそてそのまま落ちていくランサーのマスター。このまま頭から激突すると思われたその時、素早くバク宙で下に回り込んだランサーにキャッチされて事なきを得た。

 

「おいおい、可愛らしい悲鳴あげるな、嬢ちゃん」

 

「五月蝿い! それより今は敵に集中しなさい!」

 

 会話の隙を突く様に数本の矢が放たれるがランサーは軽々とそれを弾き飛ばす。それを見たアーチャーは苦虫を噛み潰したような顔になる。どうやらランサーがあまりのも簡単に矢を弾いたのを見て彼の持つスキルに察しがついた様だ。

 

 『矢避けの加護』、それがランサーの持つスキルであり、相手を視界に収めてさえいれば対処可能というアーチャーの天敵とも言えるスキルであり、並行世界で紅衣のアーチャーに”弓を出すまで待ってやる”、と言ったのも只の慢心ではなかったのだろう。

 

「おいおい、勘弁してくれよ。何でそんなの持ってるかねぇ。人がたま~にやる気出したらこうだよ」

 

「はっ! 相性が悪い相手に仕掛けた自分を恨みな。てか、罰則があるのに何で襲ってきやがった? 別に俺たちは対戦相手じゃねぇだろうが」

 

「何でかねぇ。まぁ、アイツが俺と当たるまでこの気紛れは続くんだろうけどよ……」

 

 アーチャーは自分でもよく分かっていなさそうに困った様な顔で笑い肩を竦める。それを見たランサーは不機嫌そうに怪訝な表情になった。

 

「……ああん? わけ分からねぇ事言ってんじゃねーよ。こっちは相手の顔見るたびに頭がガンガン痛むんでイライラしてんだ。……テメェが先に死ぬか?」

 

「ランサー、そろそろ逃げないと運営が来るわ。下手したら私達も罰を……」

 

 先程から二人の会話を黙って聞いていたランサーのマスターだが、此処までの規模になった時点で既に運営が気付いていると悟り撤退を進言する。ランサーもそれが分かっているのかアーチャーを視界に収めたまま逃走ルートを探す。

 

「……嬢ちゃん,少し良いか? 今のままじゃ逃走中に狙い撃ちだ。だからよ……服を脱ぎな」

 

「ほぇっ!?」

 

 急に告げられた言葉にランサーのマスターは真っ赤になり、それを見たアーチャーは笑いそうになるのを堪えながら矢を番えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハクノ大変よ! 明日のカレーに必要なカレー粉がないわ」

 

「だったら今から一緒に買いに行こう。……デザートは購買の餡蜜が良いな」

 

「ほぇ? 別に作ってあげるわよ?」

 

「購買の餡蜜が良いな」

 

 餡蜜が好きな白野は好物だけは譲れないとエリザの提案を却下する。少々納得いかなさそうなエリザは”……私が作ってあげるのに”、とブツブツ不満そうにしながらも外出の準備をしだした。

 

 

「……取り敢えず寝巻きから着替えるからこっち見ないでね」

 

 そそくさとカーテンの後ろに向かったエリザに背中を向ける白野。衣擦れの音や服が床に落ちる小さな音さえ今の白野の耳には届き、頭に浮かんだ着替えの映像を顔を激しく振って消し去るも少し頬が熱くなっていた。

 

「……やっぱり意識してるんだな」

 

 エリザを死なせたくない。その理由が命を助けられた事だけではない事に何となく気付いていた白野。だが記憶がなく自分がどの様な人物だったのかでさえ分からない今では誰にかに聞かせないとしても口にする事すら躊躇いがあった。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、少しはマシな顔になったじゃない。何かあった?」

 

 購買に向かうと凛も買い物に来ており、サーヴァントは出していないが傍には居るのか視線を感じる。どうも彼女が白野の顔をジロジロ見るのが気に入らないのか何処か不機嫌そうだ。

 

「ああ、ディーバの御蔭で少しは楽になったんだ。君も夕飯の買い出し?」

 

「まあ、食べなくって良いけど習慣で食べちゃうのよね。まあ、心の栄養って所よ。……貴方の所はカレーなんだ。料理できるの?」

 

「いや、ディーバが作ってくれるんだ……」

 

 白野の言葉尻が細くなり、凛は少しだけ見掛けた事のある弁当とそれを食べる白野の様子を思い出したのか気まずそうだ。聞いてはいけない事を聞いたのに気付いたのだろう、目が明らかに泳いでいた。

 

「ふ、ふ~ん。貴方のサーヴァントは良い子ね。彼にカレーを作ってあげるんだ~」

 

 だから誤魔化すために”うっかり”駄洒落を言ってしまい、痴女疑惑と合わさって彼女の悪評は更に広がった……。

 

 

 

 

 

 

 

「……何か間抜け。いや、理由は分かるけど」

 

「急所を蹴上げてから言わないで欲しいねぇ……」

 

 ランサーがアーチャーの矢に的確に対処するには両手が空いている事が必要であり、マスターが自力で捕まっていられる速度では逃げ切れないかも知れない。其処で彼が取った策はマスターと自分を上着で結びつける、というものだった。ちなみに服を脱げとしか言わなかったので次の瞬間には蹴り上げられている。どこをとは言わないが……。

 

「……さて、トンズラこかして貰うかねっ!」

 

 アーチャーが放った数本の矢は外れた物を除いて全てランサーのマスターに向かうも全てランサーの槍で弾かれ床に落ちる。そのまま後方に飛んだランサーがフェンスに着地した時、足元が大きく揺れた。みれば先程の水に押されて少し歪んだフェンスの繋ぎ目にアーチャーの矢が刺さっていた。

 

「読めてんだよ、バーカ」

 

 再び驟雨のごとく放たれる矢は軌道を変えて四方から体勢を崩したランサーを襲う。それでも対処し続けるランサーだが、突如体が重くなりマスターからの魔力供給が乏しくなった。

 

「嬢ちゃん!? ……霧?」

 

 先程まで戦闘の興奮で気付かずにいたが本当に集中しなければ気付かないほど薄い霧が立ち込め、その霧は貯水タンクの裏に隠された小さな木から放たれていた。そして遂にランサーの胸に一本の毒矢が刺さり、ランサーは血を吐きだした。頬にかかる温かいものに気付いて振り返ればマスターの少女にも矢が刺さっており、二人は明らかに致命傷。もはや最後の足掻きも出来ないだろう

 

「……糞っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ランサーが『戦闘続行』というスキルを持っていなかったら、の話だが……。

 

 

「……最後に嬢ちゃんへの義理は果たさせて貰うぜ。突き穿つ(ゲイ・)……死翔の槍(ボルク)!!!」

 

 それは正しく最後の足掻き。死なば諸共とばかりに絶対必中の槍がアーチャー目掛けて放たれた

 




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