「俺もまだ運に見放された訳じゃなかったみてぇだな」
アーチャーはランサーと其のマスターの少女が消え去った場所を見つめながら呟く。屋上から落下したランサーはアーチャーに宝具を放つとマスターが地面に叩き付けられぬ様にその身を呈して庇い、そのまま消えていった。どうせ死ぬ身なら最後に叩きつけられても同じだと思うだろうが、それでも主を最後まで守ろうとする騎士としての誇りだったのかもしれない。
そんな彼の姿を見ながらアーチャーが思い出すのは幼い頃に憧れた勇ましい騎士の姿や英雄譚。彼らはいつも正々堂々と戦い、そして自らの信念に反する事なく生きていた。そんな彼らの行き方を羨ましいと思いつつ自分には絶対に無理だなと自嘲するアーチャー。彼の左手は手首から先が吹き飛んでおり、左胸にも深い傷が刻まれていた。
ランサーが放った最後の一撃、それは絶対必中の呪いを持っており咄嗟に飛び退いたアーチャーを追い掛ける。防御のつもりで体の前に出した左腕は防御の意味を成さず手首から先が容易に吹き飛ぶ。そのまま槍は少しも速度を落とさずアーチャーの心臓へと向かい、余波で表面を吹き飛ばすと同時に消滅した。
「……悪ぃな、嬢ちゃん」
最後に消え去ったランサーの謝罪の言葉が聞こえたが其れが空耳だったのかどうかはアーチャーには分からなかった……。
「さて、詳しい話を聞かせて貰うとしよう」
「……あっちゃー。こりゃ参ったね」
そして漸く駆付けて来た、もしくは話しかける機会を伺っていた綺礼に背後から声を掛けられ無抵抗を示すように両手を挙げる。その頬を冷や汗が伝っていた。
「あら、セイバーじゃない。どうしたのよ、不機嫌そうね」
翌日、何時もの様にアリーナに向かっていた二人は丁度購買から出てきたセイバー達と出くわす。どうもセイバーは不機嫌のようで額に皺を寄せており、マスターも少し困った様に宥めながらも何処か納得がいってないっという様子だ。
「それがだな、先ほど奏者がカレーパンを九十九個ほど求め……」
「セイバー、その話は止めてっ!?」
「何を慌てている? 別に我がライバルに知られても……はっ!」
セイバーは何かに気付いたように固まると震えながら白野を指さす。その時の彼女の顔は雨に打たれる捨て犬のようだった。
「
「ち、違うよっ!? 確かにその人の事は少し格好いいな~、とか思ってるけど、そんな理由じゃないからね。ほ、ほらっ! カレーパンばかり買い貯めしてるのが今になって少し恥ずかしくなっちゃって、それだけだからっ!」
顔を真っ赤にして叫ぶセイバーのマスター。余計に注目を集めカレーパン買いだめの件が無駄に広まっているのだが気付いていない。何処かの誰かの家に代々伝わる呪いが伝染ったかのような有様だ。
「……大丈夫。死と隣り合わせなんだから好きな物を好きなだけ食べたいって気持ちは分かるさ。だから恥ずかしがる必要なんてないよ」
「あ、有難う……」
顔を真っ赤にしてモジモジし出すセイバーのマスター。それを見たセイバーは恐ろしいものを見る目を白野に向けていた。
「……恐るべしフラグ建築力。まさか此奴が伝説の一級フラグ建築士なのかっ!?」
「え? どういう事? 痛っ!?」
セイバーの言葉にの意味が分からなかった白野が訊ねた時、急に耳に痛みが走る。見るとエリザが白野の耳を摘んで引っ張っていた。
「ほ~ら、アリーナに行くわよハクノ! じゃあね、セイバー。貴女は自分のマスターと仲良くやってなさい。私は私の……わ・た・し・の! マスターとアリーナに行くから
「ああ、また会おうぞ。……ところで奏者よ。まさかとは思うが奴に惚れたのでは無いだろうな? だったら泣くぞ? 余はっ! 余は本気でっ! 余は本気で泣くからなっ!!」
そのまま去っていく二人を見送ったセイバーは再び雨の日の捨て犬の様な瞳をマスターに向ける。今度は痴話喧嘩か、いや待て百合カップルとか誰得俺得、まさかあのマスターと三角関係っ!?、などと勝手な噂が囁かれだした。
「落ち着いてセイバー。そんなんじゃないから。……それより言い忘れちゃったね。私達の対戦相手がほかのサーヴァントに負けちゃっただなんて」
「ああ、余は非っ常に不満だ! リベンジなるかと思っていたものを台無しにしおって。……それにしてもランサーは余の顔を見るなり頭痛を感じるなど気に食わんかったが、マスターは中々の美少女だったなっ! まだ成長途中で少々ませていたが、あと数年たって奏者と同じ年頃になったら……」
「……ふぅ。これさえなかったら良い子なんだけど」
「お久しぶりですね」
「……また邪魔が入った。しかもこの前の女……」
アリーナの入口を潜ろうとした二人の前に又しても他のマスターが現れる。この前”履いていなかった”ラニだ。白野は彼女の顔を見るなりその時の事を思い出して顔が赤くなり途端にエリザが足の甲をヒールの先端で踏み抜いた。
「何を真っ赤になってるの? 別に挑発されて怒ってるわけでもないし、血が多いのかしら? ……少し抜いてあげようかしら?」
「いえ、結構ですっ!!」
「あの、もう良いでしょうか。……我が師は私に言いました。人形の私に心を与える者が現れると、貴方が其の」私に心を与える者ですか?」
「心を与える? 何を言って……」
「対戦相手の所有品をお渡しください。さすれば私が星を読みダン・ブラックモアのサーヴァントの正体を探って差し上げましょう」
情報が重要な武器になる月の聖杯戦争に置いてラニのよう相手の手助けをする様な事はありえない。ラニは疑われているのが分かっているの分かっていないのかそのまま顔を向けて去っていく。その姿を白野が見つめていると今度は脇腹に痛みが走った。
「なぁ~に見てるのかしら? ハ~ク~ノ~!」
「痛たたたたたたたたっ!?」
エリザは何処か拗ねたような顔で頬を膨らませながら肉を引き千切る勢いで脇腹の肉を抓る指の力を強める。少々やり過ぎなのではと思った白野だが怒りは湧かず、逆に自分が裏切り行為をした様な罪悪感を感じていた。
「……にしてもあの女、まるで運命の相手を見つけた様な事を行き成り言って来て。……あんなのを
「……何故でしょう。無性に”貴女に言われたくありません”、と言いたくなりました」
「……エリザ?」
「……何か文句ある?」
アリーナについた途端、エリザは白野にピッタリ寄り添う様にしながら歩き出す。戸惑う白野だったがエリザにひと睨みされて黙り込まされた。……悪い気がしなかった、というのもあるが……。
「どうしたのだ? アーチャー。少し良い顔になったではないか」
「何でもないっすよ、旦那。……少しマトモに戦う理由が出来ただけっすから」
その頃、アリーナの奥では左腕の手首から先を失ったアーチャーとその表情を見て驚きながらも笑っているダンの姿があった。
その頃、凛は自室で策を練っていた。既に相手の情報は得ており、後は弱点を考察してどう付くかを決めるだけ。
「……まあ、簡単にはいかないんだけどね」
深くため息を吐く凛。彼女程のマスターが何故此処まで気弱になっているのか?
「お任せ下さい、ご主人様ぁっ! このキャスター、ご主人様との新婚生活の為にも張り切って呪いまくりますのでっ! 漲ってきたぁぁぁっ!!」
だいたいこの空気読めないサーヴァントが理由であった。
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