Fate/EXTRA D³   作:ケツアゴ

2 / 37
第一話

 彼が目を覚ますと其処は学園の保健室のベットだった。鼻につく薬品の匂いに清潔なシーツが目に入り、染み一つないカーテンが開かれると、

 

「其処には一目見ただけで恋に落ちてしまうような真紅の美少女が立っていたのであった、丸。漸く起きたのね、子豚。さっさと起き上がりなさい。聖杯戦争は既に始まっているのよ! ……まったく、私のような美少女サーヴァントを引き当てておきながら覇気がない奴ね」

 

 其処には先程出会ったばかりの真紅の少女が非常に残念な雰囲気を醸しながらビシッと指差して来ていた。取り敢えず先程の発言を聞かなかった事にした彼はベットから起き上がる事にした。

 

「……聖杯戦争?」

 

 サーヴァント、聖杯戦争、その二つの何方にも聞き覚えがない。いや、自分の名前以外の殆どが記憶から抜け落ちていた。その様子を察したのか自信満々に立っていた少女は明らかに狼狽し出す。

 

「ちょ、ちょっと!? まさか記憶喪失って奴っ!? と、とりあえず殴れば治るのかしら?」

 

 何時の時代のテレビの映らなくなった時の治し方だろうか。取り敢えず彼に近づいた彼女がポカポカと仕草は可愛らしいが途轍もない力で彼に殴りかかったその時、慌てた様子の白衣の少女が入ってきた。

 

「バ、バーサーカーさんっ!? 何やってるんですかっ!?」

 

「何って、子豚が記憶喪失みたいだから治そうとしてたのよ、桜」

 

「記憶喪失…ですか? そんな馬鹿な。確かに予選中は記憶を剥奪されて別の記憶を植えつけられますが、本選に進めば記憶の返還がされる筈なのに……」

 

 慌てて駆け寄ってくる少女に彼は見覚えがあった。確か友人の様な関係だった間桐真二の妹の桜だったと記憶している。

 

「私はムーンセル所属の支援型AIの間桐桜です。苗字は参加者の中からランダムに頂くことになっていますので間桐慎二さんとは特に関係ありませんよ」

 

「……にしても記憶喪失なのは不安ね。まあ、良いわ。私が取り敢えず基本的な事を説明してあげる。感涙して感謝なさい!」

 

 真紅の少女は貧相な胸を張ると自信満々といった様子で口を開いた。

 

「まずは聖杯だけど……ま、まあ、なんでも願いが叶う凄い物なの! 聖杯戦争は其れをかけて戦うトーナメント方式の決闘……だったかしら? サーヴァントは過去の英雄だと思ってくれれば良いわ。七つのクラスがあるけど……まあ、覚えておく必要はないわね!」

 

 非常に小ざっぱりとした説明だ。説明前の自信満々な態度と違って説明中曖昧な記憶を思い出しながら適当に言っている感じがする。おそらく彼女自身もよく理解していないのだろう。

 

「それで君のクラスは? そもそも何処の何ていう英霊なんだ?」

 

「私のクラス? よく訊いてくれたわね! ふふふ、私のクラス、それは……歌姫(ディーバ)よ!」

 

 先程から桜が狂戦士(バーサーカー)だと呼んでいたので本当のクラスはそっちなのだろうし、今も桜がそんなクラスなどないと言いたそうな顔をしているが、自信満々にしているので何も言えない彼であった。

 

「そして私の名前なんだけど、ヤノーシュ山に誉れ高き、高貴なる龍の娘! エリザ……もう少し子豚を見定めてから名乗らせて貰うわね。英霊の正体を現す真名は弱点や能力を判断する材料になるもの」

 

 殆ど名乗ったも同然だが、あえて指摘しない彼は参加者に配布される連絡用の端末を桜から受け取るとディーバと共に保健室から出ていこうとする。どうやら記憶はどうにもならず、時間を置いて様子を見るしかないようだ。

 

「……ちょっと待ちなさい。貴方の名前を訊いていなかったわ。私にばかり名乗らせるなんて失礼でしょ」

 

 そういえばそうだったと思い出した彼は慌てて振り返るとパートナーとして共に戦う事になるディーバに握手を求めて手を差し出す

 

 

「……白野。岸波白野。よろしく、ディーバ」

 

「……よ、よろしく頼むわ」

 

 ディーバは育ちが良さそうな口ぶりから察するにどうやらロクに男の手を握った事もないらしく、一瞬躊躇するもおずおずと手を差し出し、恥ずかしそうにしながら手を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 本線の舞台も予選と同じ月海原学園らしく、白野は屋上で深く溜息を吐く。ディーバの話では生き残れるのは優勝者たった一人らしく、”私がサーヴァントなんだから安心なさい”、と彼女が言うも自分が何の目的で参加したのかさえも思い出せない現状では殺し合いの覚悟など出来るはずがない。

 

(……そういえばディーバはどんな願いがあるのだろうか?)

 

 今は霊体化して姿を消しているパートナーの願いを気にした時、誰かが屋上にやって来た。視線を向けるとそこにいたのはツインテールの少女、明らかに学生服ではない赤い服を着ているのが特徴だろうか。彼女は白野に気付くと興味深そうに近付いて来た。

 

「へぇ、よく出来ているわね。そういえば詳しくチェックしてなかったわ」

 

 何を思ったか彼女は白野の顔をベタベタ触りだす。見知らぬ少女に触られた事で白野は抵抗すらできない程に動揺してされるがままだ。

 

「わっ! 体温まで上がるんだ。さて、服の下はどうなって……」

 

 そしてついに服のボタンに手が掛けられた時、先程から黙っていたディーバが姿を現し白野の腕を掴んで引き剥がす。その表情は白野以上に動揺していた。

 

「……へ? サーヴァントって事は貴方NPCじゃ……」

 

「……ち、痴女! 出会って間もない男の服を脱がす痴女がいるわぁぁぁっ!! 助けてお父様ぁぁぁっ!! 変態が居るぅぅぅぅっ!!」

 

 そのまま白野を掴んだまま必死の形相逃げて行くディーバ。後には痴女呼ばわりされた少女が残された。

 

 

「だ、誰が痴女よぉぉっ!!」

 

『まあ、あれなら痴女って呼ばれてもしょうがねぇって、嬢ちゃん』

 

「うっさいっ!」

 

 其処に居ないはずの誰かの誂う声に反応した少女は頭から湯気を出しそうな勢いで怒り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ、ここまで逃げれば安心……よね?」

 

 ディーバが白野を連れて逃げ込んだのは各参加者に与えられるマイルームの中。此処は外からは隔絶された空間であり、痴女も追いかけて来ないだろう。安心したのかその場にヘタリ込んだディーバにはマイルームの様子を眺める余裕が出来た。

 

「……なによ、この地味な部屋」

 

 シャワールームにベットが二人分あるなど泊まる分には問題ないはずだが、それでもディーバには満足できる内装ではないようだ。

 

「……少なくても猫脚の浴槽は欲しいわね。勿論、毎回新しい血液に交換しなきゃ。取り敢えず適当なマスターやNPCを襲って血液を搾り取りましょ、子豚」

 

「……え?」

 

 まるで当然の様に出てきた言葉に白野の頭は真っ白になる。それを見たディーバは怪訝そうな顔をしていた。

 

「何茫然としているのよ? 子豚。この美しさと若さを保つには必要な事なんだから仕方ないでしょ? むしろ光栄なことじゃない。この私の美しさの糧になれるんだから」

 

 岸波白野には記憶がない。だが、人としての倫理だけははっきり覚えていた。

 

「……それは間違っている。そんな事をしたら駄目だ」

 

 

 だから、その言葉は何の迷いなくディーバに向けられた……。

 

 

 

 

 

 

 

 




意見 感想 誤字指摘お待ちしています

次回、エリちゃんはやっぱりチョロイン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。