「それじゃあそろそろ始めましょうか。精々私が映える様に頑張る事ね」
エリザは槍を構えた体を左右に揺らしながらゆっくりと移動する。白野とアーチャーの間に割って入る様にしているのは彼が白野意を狙う可能性を危惧しての事だろう。白野も何時でもコードキャストを使えるように魔力を練り上げた。
(アーチャーはあの時の狙撃が自分の仕業だと言った。おそらく戦闘中も毒矢を使ってくるはず。だったら……)
状態異常を治すコードキャストと回復用のコードキャストの両方を何時でも使える様に構える白野、エリザはアーチャーがどう出るか気にしているのか直ぐには攻め込めない様だ。下手に攻めればその隙に白野を狙われかねない。特にこの場所は袋小路で長くて狭い通路との間に居るために下手に撤退も出来ないと二人の間に緊張が走る。
「へ? 今日は顔見せに来ただけだけど?」
「……流石に運営に目を付けられている身とすればこれ以上ルール違反を犯す訳にはいかない。では、先に失礼しよう」
だが二人は構えようとせず其の儘去っていく。戦闘になるかと思っていた白野は拍子抜けに感じる一方、重大な問題に気付いた。
「……どうしようエリザ。相手の情報が得られない」
相手は先程のエネミーとの戦闘を見ていたと思しきな発言をしていた。クラスがバレたのはお互い様で向こうはエリザ曰く本来の力ではないとしても宝具を見られており、アーチャーが宝具の使用制限を受けている事を知らない白野達からすれば焦りが募る。
「……
今はラニの提案を飲むしかない。其れは分かっていても抵抗があるのか頬を膨らませながらそっぽを向くエリザ。その時、不意に肩を叩かれた。
「何……」
頬を膨らませながら振り返ったエリザの頬は肩に手を置いた状態で伸ばされた白野の人差し指によって中の空気が押し出された。
「……え~と、ごめん。可愛かったから、つい……」
「ま、まあ! 私の魅力にやられたのなら仕方ないわね!」
どうやら不興を買うことは免れたらしく、逆に機嫌を良くしたエリザは鼻歌交じりに来た道を戻っていく。白野はその背中をジッと見詰めていた。
(やっぱりエリザは可愛いな。昔から……昔から? 前も思ったけど、どうしてそんな事を……?)
その疑問に答えてくれる者は居らず、失われた記憶に何かヒントがあるのではと迷う白野。自然と足が止まっていた。
「何やってるのっ! 早くあの女に例の矢を渡してご飯にするわよ! カレー好きでしょ?」
「あ、ああ! ごめんごめん、すぐ行くよ!」
確かにカレーは好きだがエリザのカレーはカレーと言って良いのかと心の中で首を傾げる白野。取り敢えず自分も手伝ったので兵器ではないはずだ。自分を安心させる為に心の中で呟きながらエリザの後を追う白野。その時、エリザが段差に躓いて転けてしまった。
「きひゃんっ!?」
顔面から倒れこんでスカートが捲れ上がったエリザ。尻を突き出す体制で固まった彼女は顔を赤らめながら白野の方を見た。
「……み、見た? パンツだけじゃなくって尾てい骨の辺りにある……」
「……いや、目を逸らしたから」
それでもパンツは見えたのか顔を赤らめている白野。エリザは急いで起き上がると服に着いた埃を手で払ったエリザは咳払いをすると早足で歩きだした。
「そ、それなら良いわっ! ……覚えて置きなさい。尾てい骨のあたりの鱗を見たら最後、私と結婚するか死ぬか選んで貰うんだから!」
「そうか。流石に死にたくないから多分結婚する方を……」
「う、うにゃああああああああっ!?」
白野は恥ずかしさを誤魔化す為に冗談を言い、エリザは言葉の途中で走り去っていく。その時の顔の赤みは今までで一番だった。
「え~と、落ち着いた? ゴメンね、軽率だった」
「……うん、もう大丈夫」
悲鳴を上げながらマイルームに戻ったエリザは布団を頭から被って羞恥心に襲われていたが漸く落ち着いたらしくモゾモゾと這い出てくる。その顔は未だ真っ赤だったが白野の顔を直視できるくらいの余裕はあるようだ。
「今回は許してあげる。でも、次にあんな冗談言ったら本気にす……本気で怒るから」
「うん、分かったよ。絶対に冗談なんかで言わない。じゃあ、ラニを探しに行こうか」
「別に良いけど先にご飯食べましょ」
エリザが差し出したのはボコボコと泡立つカレー。時折表面が蠢き手の様な形に変形して這い出ようとして沈んでいく。布団に篭る前に何やら慌てて作業していたがその結果がこれなのだろう。
「ああ、今から食べるよ」
「の、残さず食べてね?」
最近、白野も手伝っているとは言え漸く死兆星を見ずに済むほどには上達してきたエリザの料理。それが再び兵器と化したのは軽率な発言が原因と腹を括った白野は迷わずカレーを口に運ぶ。
(大丈夫っ! 鍋は小さいから精々二~三人前……)
一口食べると全身に電流が走り視界がスパークする。二口目を食べると周囲の風景が変わりまるでこの世全ての悪を煮詰めた殿の中に居る様な感覚に陥る。
「うふふ。一緒に逝きましょう?」
やがて泥の中から雪の様に白い髪と紅い瞳を持った色白の女性が現れ白野を背後から抱きとめる。そのまま泥の中に引き摺り込まれた所で景色が元に戻った。
「はっ!?」
「どうしたのよ、行き成り固まっちゃって? あっ! もしかしてあまりの美味しさに恍惚しちゃった? やっぱ私って完璧なアイドルよね、でも、少しくらいおっちょこちょいな位が人気が出るかしら?」
真剣な表情で悩みだすエリザ、その間も白野は見た事もない人達と出会い会話し、時に襲われ時に何故か顔を赤められつつ何とか生き残る事が出来た。
「お待ちしておりました。それがダン・ブラックモアのサーヴァントの所持品ですね。……では、今から彼の記憶を詠ませて頂きます」
どうやら星の巡りとやらが良いらしく矢を渡すと直ぐに詠みだしたラニ。暫し目を閉じていた彼女は目を開けるなり口を開いた。
「……緑衣に身を包み森に潜んだ彼は誇りなど捨てて毒矢を使って圧制者と戦い続けた。自らを虐げた村人達の為に圧制者と戦い、称賛を受ける事なく最後には潜み続けた森の中で討ち取られ……此処で彼の記憶は途切れています」
それはまさにアーチャーが言っていた事と符合する内容。
「……そうか。だから
思い起こすはアーチャーの”漸く覚悟が決まった”、という言葉。生前の行いから自分には正々堂々戦う事など無理だと諦めていたのだろう。そしてその正々堂々戦う事こそが彼の望み、そう悟った白野は正面から向き合う覚悟を決める一方で軽い劣等感に襲われていた。
(……此処まで来ても自分には戦うに足りるだけの願いも覚悟も決まっていない)
拳を思わず握り締めると爪が皮膚に食い込んで赤くなる。思考が暗い方向に向く中、其の肩に手が置かれ白野は思わず振り返った。
「お返し成功ね」
其れは白野がエリザにしたのと同じ悪戯。肩に置いた手の人差し指を伸ばし振り返ると頬を突く様に仕向けている。エリザの指先は尖っているので少々痛かった。
「アンタはな~んにも不安にならなくて良いの。私に全て任せておきなさい! まっ、勝ち続ければその内見つけるでしょ」
その言葉と笑顔に心が晴れていくのを感じた白野。彼の目にはエリザが何時も以上に魅力的に映っていた。
その夜、白野は再び顔も声も分からない少女の夢を見た……。
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