Fate/EXTRA D³   作:ケツアゴ

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第九話

「まだ迷っているようだな少年」

 

「旦那……」

 

 決戦場へ降りて降りて行くエレベーターの中、ダンは静かな声で白野に問い掛ける。それを横で聞いたアーチャーは一寸止めようとするも思い直した様に黙り込み図星を刺された白野は黙ったままだった。

 

「……」

 

「君を見ていると、ある男を思い出すよ」

 

 ダンが話しだしたのは戦場で知り合ったとある戦医の事。ダンの様に軍人として戦争に参加している訳でもない彼は誰が見ても戦争を憎み悲しんでいた。その様な男が何故戦場に居るのか?、それが気になったダンは彼に問い、こう帰って来た。

 

『その”何故か”を知るためです。戦争が人から何を奪うのか。それを知りたい。戦争を知らなければ戦争を憎むことはできないから……』

 

「少年よ、もし生き残れたら覚えて置くと良い。結果とは過程の残留物に過ぎず、後悔とは轍に咲く萎びた花だ。私には愛した妻がいたが、任務に従事し戦争に生きた今となっては面影や仕草すらない。だが、私の様な人間に人並みの幸せなど望めるはずもなく、後悔などしとらんよ」

 

 エレベーターが到着した事を示す振動が伝わると共にダンは言葉を其処で止める。だが、蔦の生い茂った廃墟の街のような決戦場を見て歩きながら再び口を開いた。

 

「これが最後の言葉だ。己の人生に恥じない行動のみが行動による憂いから自らを解き放つ術である。後悔するような生き方はせぬようだ」

 

「……ったく、俺にとっても耳の痛ぇ話だな、そりゃ。……さぁ~て、お喋りの時間は此処までだ。旦那の言う通り後悔のない戦いを始めようじゃねぇかっ!」

 

 ダンの言葉に苦虫を噛み潰したような顔をしながらアーチャー離れない動作で左腕に固定した弓を構える。エリザも黙って槍を構え、互いに相手が動き出すのを待つばかり。

 

「それっ!」

 

 やはりと言うべきか堪えきれずに先に動いたのはエリザ。アーチャーの下まで一気に駆け寄ると勢いよく横薙ぎに振るわれた槍は空を切り、風を切り裂く音に反応したエリザが槍を回転させると数本の矢が弾かれて地に落ちた。

 

「あ~、やっぱこうなるよな」

 

 建物のベランダの手すりに飛び乗ったアーチャーは頬をポリポリ掻きながら呟く。今の矢は彼本来の弓の腕で放つ矢と比べればお粗末な物だ。

 

「どーも不調のようね。まあコッチからすれば都合が良いんだけど……」

 

 槍の絵で肩をポンポン叩きながら呟くエリザ。どうやらアーチャーの不調を見抜いているらしく、その視線はアーチャーの失われた左手を捉えていた。本来の彼は右手に弓を固定して左手で射っていた。だが左手の手首から先が無くなった今では右手で(逆の手)で射っている。

 

「って事は……今がチャ~ンス!!」

 

 そのままアーチャーよりも高く跳び槍を振り下ろすエリザ。しかし彼女の槍はベランダのみを破壊し、上空に飛び掛ったアーチャーの矢が迫る。とっさに飛び退くも矢尻が掠り、エリザの白い肌に血が滲んだ。

 

「乙女の柔肌をよくもっ! ってか、正々堂々戦うんじゃなかったのっ!?」

 

「いやいや、正せ堂々戦うとは言ったよ? でもさ、俺って弓兵(アーチャー)な訳で、弓の間合いで戦うのは当然じゃん。まっ、罠とか毒使わなかっただけでさ……」

 

「うるさーい! ハクノ! 此奴に私の嫌いな物を教えてやりなさいっ! 反逆! 脱走! 口ごたえ!」

 

「エリザー。自分で言ってるよ?」

 

 地団駄を踏みながら叫ぶエリザだが粗大に自爆した事を指摘されて顔を逸らす。その姿を見たアーチャーが必死に笑いを堪えていた。

 

(いやいや、仲が良いねぇ。あ~あ~、これが殺し合いでなけりゃ傍で見ていてぇんだがな。……そういう訳にはいかねぇか)

 

 未だ恥ずかしそうにそっぽを向くエリザに矢を向けるアーチャーの顔からは先程までの軽薄な様子が消え去り戦士の物となっている。そして全て急所狙いの数発の矢が放たれた。

 

「エリザ!」

 

 白野の叫びで矢に気付いたエリザは則天で矢を避けるも次々と打ち出される矢に体勢を整える暇もなく地面をゴロゴロと転がる。土埃でドレスが汚れ体中にも土が付いた。

 

「……最っ悪!」

 

 咄嗟に身を隠した木の陰で一息付いて悪態を零すエリザ、放たれた矢は木に阻まれエリザに届かない。

 

「……甘いぜ、お嬢ちゃん」

 

 木の横を通り過ぎそのまま地面に刺さると思われた矢は急に曲がりエリザへと向かう。矢は急所を庇う為に交差した腕の皮を破り肉に深々と突き破った。

 

「ッ!」

 

「ほらほら、どんどん行くぜっ!」

 

 次々と放たれる矢は放物線を描きながらエリザへと向かって行く。このままでは一方的に嬲られるだけと判断したエリザはその背中に竜の翼を広げ一気に飛び立つ。その体目掛けて次々と矢が放たれ弾ききれなかった物が体に刺さるもエリザの速度は落ない。本来ならば怯むような痛みでも狂化スキルによって動けるのだ。

 

「heal!」

 

 そして深刻なダメージは白野が回復させる。やがてアーチャーまで迫ったエリザは肩を貫く矢を無視してやりを突き出すが紙一重で躱されマントだけを貫いた。砕けたガレキが飛び散り、アーチャーは壁から壁を飛び跳ねながら矢を放つ。

 

「……それは特別性だぜ」

 

 その矢は矢尻の代わりに分銅が取り付けられており命中したエリザの右翼に衝撃が走り空中でバランスを崩したエリザ目掛けて矢が放たれた。

 

「甘いのよっ!」

 

 エリザは飛び散ったガレキを槍をスイングさせてラーチャーへと飛ばす。ガレキは矢を落とすだけでなくアーチャーにも迫り、今まさに矢を放とうとしていた手を上空に向かせ矢を見当違いな方向に放たせる。

 

「これで終わりっ!」

 

 バランスを崩しつつも何とか手すりの端に着地したアーチャー目掛けて投げられたのは槍。槍そのままアーチャーの心臓を穿とうと向かっていき、今の体制では避けられない。

 

「やべっ……」

 

 だが、先ほどエリザが弾いたガレキが当たっていたのかアーチャーの足場は崩れ槍は壁に深く突き刺さる。相手が獲物を失った今がチャンスと弓を構えるアーチャー。だが矢を放つよりも早くエリザはアーチャーの懐に飛び込み鋭く尖った爪を突き出していた。咄嗟に手すりに手を伸ばして体をずらしたアーチャー。だが、エリザの爪は左手を捉え、弓の固定が解ける。

 

「これで互いに獲物なし。なら、アーチャーよりバーサーカー(貴方より私)の方が有利よね」

 

「ぐっ!」

 

 エリザの手はアーチャーの首を掴み、反対の手が顔面に突き刺さる。先程までのお返しとばかりに猛打が放たれアーチャーの整った顔を歪めていった。

 

「がっはっ!」

 

「良いわよ良いわよ。もっと苦しみなさい。あ~、やっぱり痛めつけるのって最こ……ッ!?」

 

 だが大振りの一撃を放とうとしたエリザの腕が急に止まる。その肩には先程上空に放たれた矢が刺さっていた。

 

「……ったく、ヒヤヒヤしたぜ。見事に引っ掛かったな嬢ちゃん。……こちとらとっくに慣れてんだよ(・・・・・・・・・・・・・・)!」

 

 アーチャーは腰に差していた短刀を抜くとエリザの首筋へと目掛けて振るう。白刃が光を反射して煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おいおい、そんなの有りかよ」

 

 アーチャーの短刀は確かにエリザの首を捉えている、だが刃は首に出現した竜の鱗によって阻まれどれだけ力を入れても通らなかった。

 

「恋のビートはドラゴンスケイルぅ! ……って所かしら? ハクノ今よ!」

 

「分かっているっ!」

 

 白野の打ち出した魔力の弾は槍が突き刺さた壁に命中し、そのまま槍はエリザの手に収まる。片手で槍を受け取ったエリザはそのままアーチャーを空中に放り投げた。

 

「其処でとくと見てなさい、ハクノ。この勝利、貴方に捧げるわ!」

 

 体を反転させ壁を蹴って加速したエリザは槍を構えアーチャーへ向かって行き、アーチャーももう一本の短剣を抜くとエリザ同様に壁を蹴ってエリザへと向かう。二人の体は交差し、地に降り立ったエリザの頬に赤い線が走る。

 

 

 

「……旦那、すまねぇ」

 

 そして、アーチャーは抉られた脇腹から地を止めどなく流しながら地面に叩き付けられた。

 

 

 

 

 

「……すまんなアーチャー。私は何もしてやれなかった」

 

 体の消去が始まり死を目前としても怯える事なく威風堂々と立つダンが放ったのはアーチャーへの謝罪。それに対し上半身だけ起こしたアーチャーはヘラヘラと笑いながら肩を竦めてみせた。

 

「な~に言ってんですかぃ、旦那。一人で戦わせてくれてっ頼んだのは俺ですぜ? それにどうせこの腕じゃ勝ち抜く事は無理だったんだ。なら、餓鬼の頃に憧れた騎士様の真似事が出来ただけで俺は満足だわ」

 

「……そうか。いやはや、何度も言うが本当にいい顔になったなアーチャー。……さて、少年。これは死にかけの年寄りからの助言だが……迷いなく進むことだ。それが君が乗り越え、これから乗り越えるであろう対戦者へのせめての手向けとなる。まあ、余計なお世話かもしれんがね」

 

 もう既にダンの体は殆ど消えており、最後に彼は微笑んだまま上を見上げる。

 

(……長い事待たせたな。私も今すぐ行くぞ)

 

 やがて完全に消えていくダン。その目が最後に捉えたのはエリザの姿だった。

 

 

 

(……あの娘、やはり……いや、その様な筈がないな……)

 

 最後にダンが誰を思い出したのか。そのような事など白野達が知れるはずもなく、二回戦はこうして幕を閉じた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、旦那ぁ! 俺、そろそろ我慢できそうにねぇよ! あの子を使ったCOOOOOLなアートを早く作りてぇんだっ!」

 

「そうですねぇ。ですが運営の目も厳しいですし、都合よく弱った所に出食わせれば見付かる前に確保できるのですが……」

 

 そして悪魔達の狂宴が始まろうとしていた……。

 

 

 

 

 




活動報告でこれが終わったあとの連載のアンケートしています 前回、感想がいつもより来てて嬉しいです

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