嘆息を吐きながらベットに腰を下ろす白野、頭に浮かぶはありす達の事だ。この聖杯戦争のルール上、優勝者ただ一人を除く全ての者が死ぬのは分かっていた。其れでもあの様な幼い少女の最後が無残過ぎる終わり方なのには憤りを感じざるを得ず、自分の無力さに情けなくなってくる。
「ハクノ……」
暫くベットに座って暗い顔をしていた白野は突如頭を掴まれ横向きに寝かされた。頭を乗せているのはベットではなく柔らかく暖かい肌色の物。横目で上を見れば羞恥で顔を紅潮させたエリザの姿があった。
「三回戦突破のご褒美……。疲れてるでしょ? 今日は寝なさい。そうやって元気になってアイツ等を倒すわよ。溜め込んでいる感情は全部敵にぶつけなさい。……取り敢えず子守唄を歌ってあげるから」
エリザの歌声と膝枕によって次第に瞼が重くなる白野。ありす達との戦いや新郎によって彼の体力は既に限界を迎えており、直ぐに眠りに落ちる。その寝顔は安らかなものだった。
前倒しで行われる事になった四回戦の決戦まで、あと少し……。
運営から渡された龍之介達の戦闘映像。その内容は彼らの作品同様に吐き気を催す醜悪さだった。キャスターの持つ本から生まれる異形の怪物、ヒトデやタコを合わせた様な不気味な海魔達はキィキィと耳を劈く様な鳴き声を上げながら対戦相手であるガトーのサーヴァントに迫る。恐らくアーチャーだろうと思われるサーヴァントから驟雨のごとく放たれる矢は次々と怪物達を射抜くもキャスターに届く前に怪物が盾となって阻まれた。
そして近距離で放とうとしたその時、射抜かれて死に絶えた海魔の血肉が蠢き新たな海魔へと変わる。伸ばされた触手はアーチャーの手足を拘束し動きを封じる。まさに数の暴力というべきだろう。無数の海魔に群がられたアーチャーは最後には知恵も名誉もない怪物によって其の美しく精悍な顔を恥辱と苦痛に塗れさせながら死んでいった。
「……」
アーチャーの最後に同じ女性として思う所があったのか映像の途中でエリザは目を逸らし震えながら白野の手に自分の手を置く。その体は小刻みに震えていた。
「……なんなのよ、アレ。私もあんな目に遭うかも知れないっていうの……?」
恐怖から少しでも目を逸らす為なのか頭を抱えて震えだしたエリザ。震える歯がぶつかり合ってガタガタと音を立て、微かに瞳は涙が滲んでいる。
「……大丈夫。二人が力を合わせれば絶対にアイツを倒せる。それに君をあんな目に合わせたりしないよ」
白野はエリザを抱きしめ励ますように優しく抱きしめる。やがてエリザの体の震えは収まり、潤んだ目で白野を見上げていた。
「……ねぇ、ハクノ。私、貴方に真名を教えるわ。……お願いだから嫌わないでね」
エリザは先程とは違う恐怖に苛まれながらゆっくりと唇を動かした……。
そして他の者が三回戦を行う中、繰越で行われる事になった第四回戦決戦。度重なるマスター狙いで危険視された龍之介への放置を危ぶんだ運営の判断で行われるこの決戦の場に向かうエレバーターの中、エリザはそっと白野の手を握っていた。
「あれぇ~? 何、君達ってと出来てるの? だったらさぁ、仲良く同じアートの材料にしてあげよっか?」
「結構だ。お前の言うアートなんて芸術なんかじゃない。ただ人間を冒涜してるだけだ」
白野の言葉に不満そうにする龍之介の隣ではキャスターが魚を思わせるギョロギョロとした目でエリザをジッと見ていた。
「おや、これは失礼ですな。芸術の良さが分からぬとは凡愚なマスターに引き当てられたものですなぁ。その様な者がマスターでは真名を教えた時に何か言われたのでは?」
「……あのランサーといい、貴方も私を予想出来てるみたいね」
「ええ、それは勿論。ねぇ、血の伯爵婦人エリザベート・バートリー殿?」
エリザベート・バートリー、吸血鬼カーミラのモデルとされた女性で数多くの女をチェイテ城に監禁の上で拷問し、その血を浴びて美しさを保とうとした、と言われている。時には親に実の娘の皮をはがせた、等の記述も残っており、最終的に逃亡に成功した少女が法王庁に駆け込んだ事で悪事が露見し、裁判の末に牢に入れられた。
真名を言い当てられた事でエリザの握り拳が震え、龍之介の目は輝いていた。
「マジッ!? すっげぇ!! 超リスペクトだぜっ!!」
隔てる壁に触れながら目を蘭蘭と輝かせる龍之介。次々と繰り出され拷問に関する質問に対し、エリザは静かな声で言った。
「……黙りなさい。私はそんな挑発には乗らないわ。貴方の言う通り私はエリザベート・バートリー。冷血で残酷な貴族令嬢よ。悪を悪と知らず、それが罪だと言われてもどうして罪だとさえ理解出来なかった。全部理解した頃には全部手遅れだったわ。……でも、ハクノはそんな私を受け入れてくれたの」
『エリザがやった事は悪い事だ。話を聞いただけでもそれは分かる。でも、今のエリザの事だってよく分かっている。君は少し気が強くってお調子者で……頑張って料理を作ってくれたり歌ってくれたり自分を守る為に頑張ってくれる優しい子だ』
やがてエレベーターの振動が止まり決戦場に到着した事を告げるブザーが鳴る。エレベーターから降りた二組は睨み合い相手の出方を伺っていた。
「旦那ぁっ! 一気に決めちまえぇっ!!」
その叫びが引き金となりキャスターの本が光り輝き無数の海魔が出現する。金切り声を上げながら殺到する海魔に対しエリザは翼を広げて天高く舞い上がった。海魔達は遥か高い場所で佇むエリザ目掛けて触手を伸ばし体液を吐きかけるも届かない。
「ずっりぃ~! 降りて来いよ~!」
「……
龍之介の挑発に反応したかのように急降下するエリザ。ただし超音波のブレスを吐き続けながらだ。海魔立ちはキャスターを守るように彼の体に山の様に覆い被さり、エリザはその山に正面から突っ込む。衝撃で海魔達の殆どは吹き飛ばされ血飛沫が周囲に飛び散り、エリザも多少の抵抗を受けたのか少々傷を受けている。そして彼の正面には身を守る海魔はいない。
「さあ、さっさと終わらせてシャワーにするわっ!」
「ふふふ、甘いですな」
槍を構えて飛び掛ってくるエリザを前にしてもキャスターの余裕は崩れない。周囲に散らばった肉片や血だまりが蠢き再び海魔が召喚される。だが、その数は本来の数よりも少ない。召喚の贄となる血液すべたがエリザの体に集まり彼女の魔力へと変わっていたからだ。
「
「おのれおのれおのれおのれおのれ匹夫めがぁぁぁぁぁっ!!!!」
横薙ぎに振り払われる槍とエリザの背中に飛び掛る海魔達。先に届いたのはエリザの槍だった。キャスターは横っ面に槍の一撃をくらい、吹き飛ばされて地面をバウンドする。その瞬間、海魔達は消え去りエリザは槍を大きく回転させた。
「さぁ! 存分に魅せてあげる! これが私の……」
そして二人の間を隔てる壁が出現しエリザの動きは止まる。地面に叩き付けられたキャスターの首は折れ曲がっていた。
「あ~あ、やられちった。でも、最後に面白いものが見れたし別にいっかなぁ……」
龍之介は首が折れ曲がって倒れながら全身が黒ずんで分解されていくキャスターと分解されていく自分の体を見ながら満足そうに笑い、そのまま消え去った。
かくして四回戦を無事に突破した白野達。そしてこの戦いを通して二人の絆はより強くなった……。
「わ、私の取って置きの見せ場はぁっ!? ねぇ、私の見せ場はどうなってるのぉっ!?」
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