Fate/EXTRA D³   作:ケツアゴ

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第三話

 存在価値が無いのではなく、存在してはならない。彼に下された評価はその様な物だった。度重なる人体実験で体は蝕まれ命は削られていく。邪魔者を消す道具してしか存在する事を許されない彼の心は闇に沈むばかり。ただ、それを掬い上げてくれた人が一人だけ居た。

 

 でも、それはもう昔の話。今はもう彼女はいない、彼が彼女の息子で腹違いの弟であるレオの立場を磐石とする為に殺したからだ。負い目はあった。だから何を言われても耐える覚悟はしていた。でも、最後に投げかけられたのは怨嗟の言葉ではなく、たった一つの願い。

 

「あの子の事、頼んだわよ」

 

 その約束だけが彼―――ユリウスが存在する理由であった。

 

(……そうだ。相手がどの様な奴でも関係ない。俺はレオを地上の王とする為に殺し続ける、それだけだ)

 

 今となってはあの言葉はその様な意図だったのか疑問に思う事すらない。それ程までに彼の手は血で汚れきっていたからだ。悔やむには遅過ぎ、悔やむという選択肢すら浮かばない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハクノ、もっと近くに来て……」

 

「うん……」

 

(……そうだ。この心の底から湧き出る感情は障害を潰す為の殺気であって、決して妬ましいとかそういうのではない)

 

 木の陰からイチャイチャする今回の獲物(エリザとハクノ)を見張るユリウスは歯をギリギリと食いしばりながら手を出すのを必死に耐える。言峰によって大勢に自分の好みが暴露されたのが恥ずかしく、とかでは決してないのだ。

 

 

 

 

『……マスター殿。お主まさか……魔法使いとやらか?』

 

「私は魔術師だぞ? それも人工的な…な。(根源に至る)など夢のまた夢だ」

 

『哬哬哬哬哬! そういう意味ではないのだがのぅ。まぁ、良い。圏境だが、流石に奴の宝具とはちと相性が悪い。あの様な広範囲攻撃相手では姿が見えない事でのアドバンテージは少ないからな。此処は真正面から叩き潰す方向で良いな?』

 

「……好きにしろ」

 

 己のサーヴァントに内心舌打ちをしながらも意見を取り入れるユリウス。決して、妬ましいから正面から叩きつぶしてやりたくなったとかそう言うのではない。きっと、多分、恐らく。

 

 彼が全く美味しくない携帯食を齧る中、ハクノは見た目は美味しそうな……見た目は(・・・・)美味しそうなお弁当をエリザと身を寄せ合って食べていた。

 

(しかし意味が分からんな。……そういえば教会に居た女は魔法使いとされている奴だったはず。アサシンの言葉の意味を聞いてみるとしよう)

 

 このあと、瀕死の重傷を負ったユリウスは翌日の夕方にベットの上で目を覚ました。勿論アサシン一人では二個目のトリガーコードは取得できてない。急いでアサシンを連れてアリーナに行って何とか二個目をゲットした。

 

 

 

 

 

 恐怖という物には鮮度がある。どの様な恐怖でも、それが続けば最初の頃ほどでは無くなる。希望が絶望へと変わるその瞬間こそ真の恐怖を味わう事になる。

 

 この場に居る者達がその言葉を聞けば、彼のマスターである龍之介でさえ、何を馬鹿な事を。お前は何も分かっていない、口を揃えてそう言うだろう。

 

 

 

 この日、エリザは少し悄気た様子で料理を差し出す。高級料理という言葉で浮かべるであろうドーム状の蓋で其れで中身は見えないが、誰しもがそれに恐怖した。

 

「ゴメン、ハクノ。今日のランチなんだけど……少し失敗しちゃった」

 

 この世の終わり、食堂にいた全ての存在、言峰でさえもその言葉を聞いた瞬間に恐怖を感じ腰を抜かしてしまった。生存本能が逃げろと告げているにも関わらず体が震え逃げる事が出来ない。あの悍ましい料理を作る者が失敗と言い切る料理。いや、それを料理というのなら今まで自分達が食べてきた物は神がお作りもうした奇跡の品である。誰しもがそう思った。

 

「レオ、早く逃げますよっ!」

 

 その様な中でも最高クラスの英霊であるガウェインのみが動く事が出来た。誰しも彼こそがこの場で|二番目で勇敢な者である、そう確信した。

 

「どうして危険物として削除されないんだっ!?」

 

「ま、まさかっ! ただ不味いだけなのか……?」

 

「そうか……。味程度で動くはずがなかったんだ」

 

 そして、誰しもがこの場で最も勇敢であると認めた男、岸波白野。彼は一瞬だけ躊躇した後、蓋を取る。食堂に異常な臭気が充満し、スキルの影響で最も嗅覚の強いガウェインが泡を吹いて倒れる。そして、厳しい教育を受けてはいるものの育ちの良いレオも苦痛に顔を歪めながら胃の中の物をぶちまけた。

 

「頂きます……」

 

 其れは七色に輝く物体。あえてジャンル分けするならばスープというべき其の物体は、銀・橙・紫・金・赤・青緑・黒が混じりあっており、白野は其れを一気に流し込んだ。

 

 この瞬間、白野は知らない誰かの人生を体験した。もしかしたら其れは前世だったのかもしれないし、来世だったのかもしれない。ただ、意識を取り戻した彼はその時の記憶を完全に失っていた。

 

 

 

 

 

『――も私と同じ――なのね』

 

『大丈夫。君と――は私が助けよう』

 

『……お休み。また、明日……』

 

 

 

 

「はっ! 今、知らない場所に居たような……」

 

「あまりの美味しさに昇天しかけたのかしら?」

 

「……うん。きっとそーだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 同行する?」

 

「ええ、そうよ。先生、君達のアリーナ探索に着いて行くことになったからヨロシクね!」

 

 タイガー張り切るわよー! と藤村大河は竹刀の素振りを始めている。そもそも事の発端は凛やラニの生存から始まったマスターへの綿密な調査。其れにより発覚したアリーナでの戦闘行為等のルール違反の数々。聖杯戦争の目的は誰が優勝するかでなくどの様に進められるかなのである。だが、今のままではスムーズな進行は難しい。

 

「もー! 君達みたいな問題児は初めてよ。先生、本気で怒ってるんだから!」

 

 ならば見張りを付ければ良い、セラフはそのような結論を出したのだ。ただし、本当に着いて行くだけで戦闘には参加しない。

 

((あれ? だったらなんでタイガーは気合を入れて素振りしてるんだろう?))

 

 タイガーだからである。

 

 

 

 

 

 

 

「えーい!」

 

 エリザの槍が鳥型のエネミーを数体纏めて叩き潰す。物陰から出てきた一体が背中に襲いかかるも、ハイヒールで蹴り落とされた。

 

「すっごいわねー。あっ、お茶もう一杯貰える?」

 

 大河は白野がエリザの為に買って持ち込んだペットボトルの紅茶を飲みながら煎餅を齧る。ちなみに海苔煎餅(味噌味)だ。

 

 

 

 

 その頃、別の陣営には風紀委員の役割を与えられた上級AIが……正確には与えられていた上級AIが付いていた。

 

 

「ふん! 我が妻の事を罵るからこうなるのだ」

 

「デモサー、コノ子、余リ美味シソウジャナイヨー」




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