エリザに痴女扱いされた少女が白野が連れて来たのは
「また何かする気なのか? エロ同人誌みたいに! エロ同人誌みたいに!」
「だ~か~ら~! 私はアンタの影があまりにも薄いからNPCかと思って調べようとしただけなの! 分かった?」
痴女改め”遠坂凛”は少々疲れた様子で弁明する。彼女は優勝候補だったので注目されており、既に食堂に居たマスターの間で噂が広がっており、人気のない屋上に連れ出したのもそれに拍車をかけていた。もしあの場で釈明していればマシだったのだろうが、慌てていて”うっかり”したのだ。
なお、白野が先程言った台詞は記憶喪失になっているのも関わらず何故か浮かんできたセリフであり、図分でも何を言っているのか分からず、もう少しマトモな事を思い出せないものかと思っていた。
「……はぁ~。私もアンタが地味だな~っ、とは思ってたけど、まさかNPCに間違われるなんてね」
「地味なのは自分の意思でないのでそれ以上は勘弁して欲しい」
切実な思いで懇願する白野。すると凛が吹き出す声が聞こえてきた。
「っぷ! あははは! ごめんごめん。アンタ達のやり取りが余りにもほのぼのし過ぎだったからつい……。そレにしても覇気がない顔ね。本当に聖杯を求めて参加した魔術師?」
「……多分そうだと思う」
参加している以上は願いがあり覚悟を決めているはずなのだが、記憶を失った今では断言できない。まるで記憶と共に覇気や闘志まで失ってしまたかのように。……いや、正確に言うならば最初からそのような物など持ち合わせておらず、参加する予定すらなかったかのようだ。
「……記憶がないっ!? アンタ、それってかなり不利よ。それに覚悟もないのに命の遣り取りなんかできるの?」
凛の言葉に白野は何も言う事が出来ない。理由も分からないまま殺し合いをしなければならない、その事実が彼の心に重く伸し掛っていた。
「ちょっと! さっきからハクノを苛めないでくれる? 敵のアンタには関係ないでしょっ!」
先程から黙っていたエリザだが、急に口を挟んだかと思うと不機嫌そうに身を乗り出して凛を睨む。それに対し凛は先程まで浮かべていた驚愕の表情から一変して冷静で諭すような表情に切り替えた。
「……そうね。まあ、これは勘違いで迷惑掛けたお詫びとしてもう一つ忠告してあげる。……アンタが死んだらサーヴァントも死ぬわよ。その子も自分も死なせたくなかったら早く覚悟を決める事ね」
「!?」
本来白野は対戦相手の候補であり、いくら弱そうでも忠告などする必要もなければ、そもそも弱いままの方が聖杯に近づく可能性が上がる。にも関わらず迷惑を掛けたからといって忠告するあたり彼女は面倒見が良いのだろう
そう言って凛は屋上から去って行き、暫く呆然としていた白野は確かめる様にエリザの方を向く。エリザは肯定する様に頷いてきた。
「……そうね。マスターのアンタが死ねば契約している私も死ぬわ。でも安心しなさい。……私は私だけの力だけでも勝ち抜くわ。アンタはうっかり殺されない様にだけ注意してなさい」
そう言って白野の横を通り過ぎていくエリザ。白野は彼女に何も言う事が出来なかった……。
「フンフフンフフ~ン♪」
場所は変わって白野のマイルーム。今其処ではエプロン姿のエリザが鼻歌を歌いながら料理をしていた。それを離れた場所で見守る白野。美少女がエプロン姿で自分に手料理を振舞ってくれる、とシチュエーションは年頃の男子には堪らないだろう。
(……臭い、辛い、酸っぱい、苦い、甘ったるい。これは新しい拷問なのだろうか? そう思えば何故かエリザを見ていると拷問が似合う気がする)
ただし、途轍もない香りが部屋中に広がっていなければ、の話だが。美味い以外のありとあらゆる臭いが混ぜ合わされ、まさに混沌とした状況。一ミリも期待できない空気の中、
「お待たせ~! エリザ特製ビーフシチューよ! いやぁ~、私って歌って踊れた戦える上に料理もできる、まさにパーフェクトアイドル! ……残さず食べてね?」
最初は自信満々に、最後は少し不安そうにしながら白野の顔を覗き込む。差し出された皿は兎に角真っ赤。少なくても白野の朧げな記憶にあるビーフシチューとは匂いも見た目も別物だ。先程までの匂いから考え、味も察する事が出来るだろう。
「……頂きます」
しかし、不安そうに手料理を食べる姿を見守る少女を前に食べないという選択肢など白野が取れるだろうか? いや、取れはしない。エリザとは今日出会ったばかりだが、命を助けられ少しだけ打ち解ける事が出来た。その繋がりは自分が誰であるか分からない彼にとって、エリザとの繋がりは唯一無二の物。故にエリザの期待を裏切るなど出来はしないのだ。
(……ぐっ!? 苦い辛い甘いエグい酸っぱい! 兎に角不味いっ!)
見ている限りでは食べれない物など使っていなかったはず。それにも関わらずエリザの料理はどうすれば此処までの不味さが出せるのか、もはや世界七不思議が世界八不思議になるレベルだ。
「ど、どうかしら? 食感にアクセントを加えるために茨を切り刻んで入れてみたんだけど」
エリザは前に乗り出し、何かに祈るかの様に白野に感想を待ち侘びている。その表情を見ていると味の感想など正直に言えるはずがなく、食べた瞬間の表情を見るに何となく気付いているのだろうから其の場任せの偽りの言葉など通じないだろう。いや、むしろ心にもないお世辞など言おうものなら怒り出しそうな雰囲気さえある。
「正直言って酷かった……」
「ッ! ……そうよね。私なんかが作った料理なんて……」
だから正直に感想を言い、それを聞いたエリザはショックを受けたのか表情を曇らせる。だが、今にも泣き出しそうな彼女に対し白野は親指を立てた拳を向けた。
「でも、一生懸命作ってくれた気持ちは伝わって来たよ。嬉しかった……」
「ハクノ……」
たちまちエリザの表情が一変し、今度は悲しみではなく嬉し涙を流しそうになる。白野はその表情を見て満足そうな笑みを浮かべると親指を立てたまま前のめりに倒れ込んだ。
「ハクノ!? ど、どうしたのかしらっ!? 後から美味しさに気付いて幸福の余りに昇天したのかしらっ!? それとも私の様な美少女の手料理を食べれた事への幸せからっ!? ……ど、どっちにしろ今のハクノって……格好良かった」
あまりの不味さに白野が気絶する中、マイルームにエリザの幸せそうな声が響いていた……。
意見 感想 誤字指摘お待ちしています