Fate/EXTRA D³   作:ケツアゴ

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第五話

 目を覚ました白野が時計を見るとあのビーフシチューという名の何かを食べてから一夜明けており、栄養だけは良好だったのか体調は頗る良い。彼が寝ていたのは二つあるベットの内質素な方で、寝心地が良さそうなフカフカしたベットを見ると其処にエリザの姿はない。シャワー室から水音が聞こえてくるからシャワーを浴びているのだろう。

 

「エリザ、其処に居るのか?」

 

「ハクノ!? アンタ、もう起きて……い、一旦部屋から出て行きなさいっ!」

 

 有無を言わせぬ迫力の声にたじろいだ白野は部屋から出ていき、入室の許可が出てのはそれから三十分後だった。

 

「や、やっぱり年頃の男女が一緒の部屋で暮らすのだから一定のルールが必要だと思うの。え~と、まずはシャワー中は恥ずかしいから白野は部屋から出て行く事。それとレディの寝顔を覗き込まない事。ま、まぁ、後は必要に迫られたら追加するとして。今からアリーナに行くわよ!」

 

 アリーナに行く、其の言葉を聞いた白野は気が重くなるのを感じた。先程まで忘れているかの様に自分を誤魔化していたが、これから殺し合いを行うのだという現実が重く伸し掛って来ている。聖杯にどれだけの価値が有るかは知らないが、他の大勢を殺してまで手に入れるべき物なのか。そういった気持ちがずっと張り付いているのだ。

 

 

 勿論、だからと言って自分が死んでも良いという訳でもないし、エリザを死なせたくないという思いもある。出会った当初は物騒な事を言い残虐な一面を見せたが、同時に年頃の無邪気な少女の面も見ている。

 

「何やってるのよっ! 私を待たせないで頂戴っ!!」

 

「ああ、ごめん。いま行くよ、エリザ」

 

 故に白野は覚悟など全く決らないまま聖杯戦争(殺し合いの場)に足を踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「……出たわね。昨日の屈辱をはらさせて貰うわ」

 

 アリーナに入って三十分くらい経った頃、二人の耳には昨日聞いた羽音が聞こえてくる。周囲に視線をやると昨日エリザを追い詰めた蜂の姿をしたエネミーが三体。既に臨戦態勢に入っているのか羽から耳障りな音を立てながら何度も針を突き出す。それに対しエリザは臆するどころか八重歯を出して好戦的な意味を浮かべる。

 

「それじゃあ、行くわよ!」

 

 エネミー達は二人の周囲をグルグル飛び回りながら今にも襲いかかろうとする。実際、どれか一体に攻撃を仕掛ければ他の二体が襲いかかるのだろう。白野がそれを察して緊張する中、エリザは何も考えていないのか一番近くに居た一体目掛けて飛びかかり、空中に居る上に小柄にも関わらず中心を貫き消滅させる。だが、周囲を旋回していた二体目三体目がそれに反応するかの様に動き出した。

 

「甘いわよっ!」

 

 二体目が背後に迫ると同時に着地したエリザはターンを決める様に振り返り、その勢いを利用して槍を叩き付けた。二体目のエネミーは衝撃で砕けて消滅し、その隙に懐に三体目が潜り込む。槍で攻撃するには近過ぎる距離から一気に加速するエネミー。だが、前方へと向かっていたその体は突如打ち上げられる。エリザの尻尾が鞭の様にしなって打ち飛ばしていた。

 

 

「ふふん! マスターさえ傍に居ればアンタらなんて楽勝なのよ。見ていてくれたかしら? ハクノ!」

 

「ああ、凄かったよエリザ」

 

 腰に手を当てて得意げに平たい胸を張るエリザ。白野が素直に賞賛の言葉を送るとますます嬉しそうな顔になって其の場でクルクルと舞うように回りだした。

 

「そうでしょ? 当然でしょ? 当たり前でしょ? なんたって私はムーンセル一のスーパーアイドルですもの! 貴方も私の魅力に気付いた? まぁ、仕方のない話よね、ふふん!」

 

「そういえばエリザってどうしてアイドルに憧れているんだ?」

 

 少なくても英霊などと呼ばれる様な存在とアイドルという職業の接点が分からない。故に出た素朴な疑問だったのだが、エリザは訊いて欲しかったらしく、待っていました、とばかりに話し始めた。

 

 

「知りたい? 当然知りたいわよね? なんたって超絶美少女の私の事だもの! それは私が英霊になって日本のアイドルの事を知った時の事、衝撃を受けたわっ! ああ、なんて素晴らしいの、アイドル! 可愛い事が、チヤホヤされる事が職業なんてっ! まさに私に相応しい職業じゃない!」

 

「あれ? さっきから疑問に思っていたのだが……まだアイドルじゃないのにナンバーワンを名乗っているんだ?」

 

「……うっ! そ、それはまぁ……絶対なれるから早めに名乗っても良いかなぁって」

 

 それは訊いてはいけなかった事なのだろう。エリザは露骨に目を逸らすと冷や汗を流す。とても気不味い空気が流れる中、

 

 

「なんだ! 君まで本選に出場しているんて、何かズルでもしたのかい?」

 

「……シンジっ!?」

 

 空気読めない声が聞こえてきた。……いや、気不味い空気を払拭するという事においては絶好のタイミングの空気を読んだ声というべきだろうか。事実、この声のおかげで自然と話題を変える事が出来た。反応して振り返ってみると其処に居たのは予選において偽りの記憶を与えられて送った学園生活で友人だった間桐慎二。ワカメみたいな髪型をして嫌味な印象を与える笑みを浮かべている。

 

 

「おや、知り合いかい? シンジ!」

 

 そして大きく胸を開けて谷間を覗かした赤いコートを着て、腹の上で二本のベルトを使って止めた目つきの悪い美女だった。顔の所に古傷があるが其れを打ち消すほどの美貌に強気な眼。まさに姉御という言葉が人の姿をとったというべき彼女こそが慎二のサーヴァントなのだろう。

 

「なんか僕の説明適当なんですけどっ!?」

 

「ねぇ、ハクノ。このワカメ、何言っているの? 訳が分からないんだけど」

 

「何だってっ!? 誰がワカメだよ、このチビっ!」

 

「誰がチビよっ! この海産物っ! バーカバーカ!」

 

「バーカバーカバーカ!」

 

「あ~! あ~! 馬鹿の言葉なんか分かりませ~ん!」

 

 プロローグで自分も同じような事を言っておいて素知らぬ顔のエリザ。彼を指さして馬鹿にした様に鼻で笑うエリザに対し慎二はムキになって反応する。直ぐ様低レベルで同レベルの言い争いが始まり、エリザは耳を塞いで声を上げ、慎二は前に乗り出して地団駄を踏みそうな勢いだ。

 

 

「あはははは! アンタも苦労するねぇ。まっ、餓鬼の世話ってのは大変なもんさ。慣れれば楽しくなるもんだよ?」

 

「……そう、なのか?」

 

 豪快に笑って白野の背中をバンバン叩く慎二のサーヴァント。何故か妙に高い説得力を感じた白野が納得仕掛けた時、そのやりとりに気付いたのか二人が睨んできた。

 

「ちょっと! なんでそんな奴と仲良くやってるのよっ! ま、まさか胸なのっ!? 大きい胸が良いのっ!?」

 

「お前もだぞ、ライダー(・・・・)! ……あ」

 

「あ~! 自分からクラス言ってる~! バーカバーカ!」

 

 本来ならば隠しておくべきクラスを叫んでしまった慎二。慌てて口を塞ぐも時既に遅し。エリザは再び指をさして慎二を笑い、ライダーは額に手を当てて深い溜め息を吐くと二丁拳銃を抜いた。

 

 なお、エリザには彼の事を馬鹿にする資格はない。まあ、敵の前でないだけマシなのだろうが……。

 

「シンジィ。アンタ、なにやってんだい? これは報酬弾んで貰わなきゃいけないよ」

 

「分かってるよ! 金なら幾らでも払ってやるからさっさとぶちのめせっ!」

 

「あいよー! 金さえ貰えてりゃ幾らでも働いてやるさ。さてと、ムーンセルの介入が入る前に遊んであげるよ、背も胸も小さいお嬢ちゃん」

 

 ライダーはエリザの胸に視線を送ると鼻で笑い、エリザのこめかみがピクリと反応した。

 

「はんっ! こっちこそ遊んであげるわ、オ・バ・サ・ン」

 

 エリザは槍の切っ先をライダーに向け、今まさに女のプライドを賭けた戦いが始まろうとしていた。

 

 




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