「貴方はどうも興味深い。死を覚悟して挑んだのでもなく、電脳死などタダの脅しに過ぎないとタカをくくって遊び半分で参加している様でもない。実に不思議です。……どうして聖杯戦争に参加したのか今度で良いので教えて頂きたいものです。では、お食事中ですので僕はここで」
レオはそう言うと先程歩いてきた方向へと向かっていく。どうして向こうから来て向こうに戻っていくのか気になった白野だが、直ぐにその答えが出た。風上だったからである。
匂いだけで彼を退散させるエリザの手料理がどれだけ凄いのか。その答えは誰にも分からない。ただ一つ言えるのは其れを四苦八苦しながらも食べ進める白野が更に凄いという事である。
そしてそのまま立ち去るかに見えたレオだったが、突如方向を変えて歩き出す。白野はそのままエリザの弁当を食べるのに集中しなければならず、エリザもその姿をジッと眺めているので気が付いていないのだが、突如立ち止まった先には凛の姿が有り、レオの顔を忌々しオスに睨みながら立ち上がった。
「おや、こんにちわ。貴女が遠坂さんですね? その様な場所で何をしているのですか?」
「はっ! 最初から気がついていた癖に白々しいわね。そういう嘘も西欧財閥の時期盟主としての教育で身に付けたの」
「おや、人聞きが悪い。僕は人の性癖に何も言う気がないだけですよ。食堂で聞いていましたよ。貴方、彼の服を出会い頭に脱がそうとしたそうではないですか。いや、別に何も言いませんけど」
「思いっきり言ってんじゃないのっ! てか、私はそんな性癖じゃな~い!!」
凛は不機嫌そうな足取りでその場を去って行き、レオはなぜ怒られたのか全く分かってなさそうな所を見ると悪気や性癖に何か言う気など本当に無かったようだ。
「……どうして彼女は怒ったのでしょうか?」
「いえ、私にも分かりません。所であのサーヴァントの手作り弁当……あれを弁当と言って良いのか迷う所ですが、私もアレに刺激されて久しぶりに料理を作りたくなりました」
「おやガウェインは料理も出来ましたか。では、今日は食堂ではなく貴方の手料理を楽しむと致しましょう。ああ、メニューは楽しみにしたいので秘密でお願いしますね」
この次の日、レオは兄に対し、”しばらくジャガイモとワインビネガーは口にしたくありません”、と語る事となる。
「それで白野、今日のメニューはどれが一番美味しかった? 私としてはガチョウ肉のボロネーゼかポテトサラダが自信作なんだけど」
「……南瓜のグラタン、かな?」
ハッキリ言ってどれも同じ色で同じ味だったのだがグラタンは食感が一番マシだったのでどれが一番マシだったか選ぶとなるとグラタンだった。
「そう? なら、今度から毎回入れてあげるわね」
「……うん。嬉しいよ、エリザ」
嬉しそうに笑って張り切るエリザの姿を見ていると、”弁当はもう作らなくて良い”、等と言えるはずがなく、マシな食感のものが少しでも容量を取るならば其れは其れで良いかと判断して何も言わない事にした白野。既に胃もたれは極限にまで達し、今すぐベットで眠りたい気分だ。
「あっ! 今からシャワー浴びるから入ったら駄目よ? ていうか、覗いたら刺し殺すから」
しかしそれは叶わぬ願いだ。白野のマイルームにはシャワールームは有るが脱衣室はなく、代わりにカーテンがある程度。純情でお嬢様育ちらしいエリザはたかがカーテン一枚挟んだ所に男が居る場所で着替えなどしたくなくシャワーを浴びている時は白野に部屋から出て行かせた上で長時間待たすのだ。
なお、逆に白野が少し待たせただけでもゴキゲン斜めになるのを少し不条理に思っているのは絶対に秘密である。
「……はぁ」
「あら、どうしたの?」
「いや、ちょっと……」
溜息の理由は胃もたれだけではない。レオに掛けられた言葉が心に重圧となって伸し掛っているのだ。
(命のやり取りをする覚悟もなく、かと言って命など取られはしないと楽観的な考えも出来ない。こんな事で慎二に勝てるのだろうか?)
マイルームの扉にもたれ掛かりながら空を眺める白野は再び深く溜め息を吐く。風に当たりたくなった白野はが窓を開けた時、背後から声が掛けられた。
「貴方は何者ですか?」
「……は?」
話しかけて来たのは左右で違う模様のニーソックスを履いたメガネの少女。茶色の肌と物凄く跳ね返った前髪、人形を思わせる無表情が特徴的な美少女だ。彼女の質問の意味が分からなかった白野は思わず疑問符を上げるが少女の表情はまったく変わらない。
「私は出場者の星を詠み過去を見てきました。しかし、貴方の過去は霧がかかったかの様に全く分からない。もう一度聞きます。貴方は何者ですか?」
一方その頃、白野を部屋の外で待たせてシャワーを浴びながらエリザは考え事をしていた。
「……やっぱりあの事よね」
レオとの会話の後から白野の様子がおかしくなった事に気付いていた彼女は直ぐに溜息の理由に思い当たった。生前、他人の痛みなど分からなかった彼女からすれば途轍もない進歩だ。もっとも、何とか少しだけでも理解できる対象は今の所白野だけであり、他の人間は理解しようとすら思わないのだが。恐るべきは一級フラグ建築士、と言った所か。
「よし! 聖杯戦争に挑む目的が思い出せないなら、私が其の理由を与えてやれば良いのよっ!」
思い立ったら吉日とばかりに寝巻きに着替えたエリザは紙に何やら書いた上でその上に紙を張っていく。すべての作業を終えた彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、それを振り払うかのように頬を何度か叩くと勇んで扉を開けた。
「入って来なさい、ハクノ!」
勢いよく扉を開けたエリザの視界には白野と見慣れぬ少女の姿。そして白野が開けた窓から吹き込んできた一陣の風が少女のスカートを翻す。エリザは猫模様のパジャマでスカートではなかった為にパンツを見られなかったが、少女はエリザの普段着以上に丈の短い服だった為に全て顕になる。そう、彼女は穿いていなかったので”全て”がだ。
「……え~と、なんで穿いてないの……?」
「今日はこの辺で失礼します。それと質問の答えですが……必要有りませんから」
エリザだったら白野を殺しているであろう目に遭っても少女は無表情を崩さない。反対に白野とエリザは真っ赤になっているのにだ。
「……申し遅れました。私はラニ=Ⅷと申します。以後お見知りおきを」
ラニはそのまま立ち去っていき、しばし呆然としていた白野はエリザより早く復活すると今で固まっている彼女を連れてマイルームに入っていた。
「……お休み」
「ああ、お休み」
いろいろありすぎて一気に疲れた白野はシャワーを明日に回して寝る事にした。なにか壁に張っている様だが披露から聞く気にならずそのまま睡魔に身を任せる。エリザも先程の光景のせいで其れについて話す気力がなくなっていた。
『私、―――っていうの。宜しく×……貴方のお名前は?』
(……夢?)
白野はまるで映像を見るような感覚で夢を見ていた。砂場で遊んでいた幼い姿の白野に同じくらいの年代の少女が近寄ってくるのだが何故か顔が認識できない。ただ、とても懐かしい気がした。
「~~♪」
「……ん。懐かしい夢を見た気がするけど……覚えてないな」
「あら、起きたのね。ちょうど良かったわ、アレを見なさい!」
翌朝、白野が起きると美しい歌声が聞こえてきた。重い瞼を開けてみると発声練習をしているエリザの姿が見える。初めて聞く彼女の歌声に聞き惚れていると白野に気がついたのかエリザの歌声が止む。少し惜しいなと思っている白野に対しエリザは誇らしそうな顔をしながら壁に貼った紙を指さした。
「え~と、『ご報美』リスト?」
「そう! 聖杯戦争を一回勝ち抜くごとに私がご褒美をあげるわ。それなら参加する理由としては十分でしょう? いえ、十分よね!」
どうやら全く覚えのない『ご報美』という言葉は『ご褒美』の誤字らしい。盛大に誤字をしているリストを指し示すエリザがあまりにも誇らしそうで指摘する気にはならなかったのだが。
「一回勝つごとにご褒美が何か隠している紙を剥がすから楽しみにしてなさい、ハクノ。でも、一回戦突破のご褒美が何か聞きたい? 聞きたいわよね? 其処まで泣いて頼むなら教えてあげるわ!」
「まさか角で突くとか爪で引っ掻くとか尻尾で叩く、とかじゃ無いだろう? まあ、流石にそんな喜べない物じゃないか」
「……え~と、そうだ! やっぱりお楽しみはとっておかないといけないわね! あっ、文字が気に入らないから気書き直すわね!」
エリザの慌てようを見るとどうやら図星だった様だ。明らかに動揺して目を逸らしながら紙を剥がした時、隠す為の紙が剥がれて白野が言った事が書かれているのが見え、七回戦突破の所にはブレにブレた文字で『ほっぺにキ(これ以上は汚くて読めない)』、と書かれていた。
「あっ! とりあえず朝ご飯を食べに行きましょう! 私、パスタが食べたいわ!」
「ああ、そうだね」
これは見なかった事にしたほうが良いのかな?、と考えながらも白野はマイルームから出る。すると廊下に人集が出来ていた。
「奏者よ、あれに参加してはいかんのか?」
「取り敢えず様子見と行きましょう、ご主人様。タダで情報ゲットできそうですしぃ?」
「身を乗り出し過ぎだ、マスター。落ちたらどうする、もう少し下がり給え」
どうやら校庭で騒ぎが起きているらしく、他のマスターとサーヴァントは其れを観察しているようだ。気になった白野も窓から眺めると三組のマスターが向き合っていた。
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