―――例えば、神がいたとする。
神が本当に俺たちを見ているというのなら。
どうしてこんなにもあんたは無慈悲なんだ。
「やめるんだ…やめるんだ、ミカエルっ!!」
双子の兄である彼の声さえ届かない。天使たちは、どうしてしまったというのだろうか。
天使の手に触れた人間は次々と燃え上がった。火を消し止めるために俺たちが地上に上がってきた。天使の暴走は止まらない。
とうとう我が友は言った。
「天界へ登ろう」
反対意見を押し切った彼は、俺に言った。
「お前は来るな」
「何故だ。俺もともに行く」
「ダメだ。俺だって未来が見えるんだぞ」
彼は俺にひたすらそう言った。だけれどな。
「お前の弟がああなったのに、この戦で死ぬかもしれないから戦線離脱せよというのか?」
それは、あまりにも酷じゃないのか。
分かっているんだ。彼にとっては、弟と、同志を、同時に失う可能性さえ孕んでいるのだから。それでも俺は、彼のためになりたい。
「たとえこれで俺が死んだとしても。必ずお前の弟は正気に戻して見せる」
俺は彼に有無を言わさずにそう言ったんだ。
だから、全部覚悟の上だった。
「やめてくれ、ミカエル―――っ!!」
兄の声は私に届いていなかった。
切っ先が目の前に迫っても、彼はただ笑っていた。
その微笑みに、微かに安堵を覚えたのは事実。
そして、その瞬間に私はその安堵さえ失った。
「―――え?」
本来ならば突き刺さることのないはずの剣は、いとも簡単に彼の体を刺し貫いてしまった。
「…嘘だ…そんな…!!」
兄が泣き崩れたのを見て、私は彼に視線を向けた。
彼はやっぱりまだ笑っていた。そのガーネットのような瞳の深い赤がどんどん、光を失っていく。
恐怖。
私を襲ったのは確かにそれだった。
そして、罪悪感。
あんなに優しかった彼をこの手で刺し貫いたこと。
我らの主が、罪人を罰するために作り上げた、主の最高傑作たちの中でも、最も光を放っていた存在。
主が天使を作り出すよりもずっと前から、光と神秘の象徴として、人間の意思の中に息づいた、太陽の精霊。
「うわあああぁぁぁ――――!!」
主よ。
どうして私を止めてくださらなかったのですか。
どうして彼が消えねばならないのですか。
どうして天使は人間を殺して回っているのですか。
グロテスクと蔑まれさえしたはずの彼の姿が、灰に変わって、消えていった。
人間たちが命を重いものと呼ぶ理由。
そんな簡単なことさえ、我らは忘れてしまったのか。
輝きは今、失われた―――。