ディアボロス・サーガ   作:黄昏翠玉

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為すべきことを為せ

 

『アモン様?どちらへ?』

「グリモアにわざとらしくはさんであった住所へ行ってみる」

『そんな危険なこと!』

チェバリはそう言ったけれど、俺が紙を見せるとああ、とうなずいた。

「知ってるのか?」

『はい、そりゃもうよく知っております。なんといっても、ソロモンの転生体の住所ですから』

どうやら俺たちにソロモンとやらに会えってことのようだな。

ソロモンって古代イスラエルの王様じゃなかったっけ?ダヴィデの息子だろ?

私服が暗い色の服だから頭が目立つんだよね。ほら俺、髪がクリーム色というかアイボリーというか。チェバリは茶色だし。街中歩いてると天使派の奴らは俺を見つめてケータイをいじりだした。やべえな。天使派に捕まったらただじゃすまないから。

『どうしたのです』

「しゃべんな。魔女狩りのネタをみんなで探してんだよ」

チェバリは黙った。俺はさっさと歩道橋を渡って目的の住所へ向かった。

 

ちょっとしゃれたお店。そこの住所だったらしい。

「ここ?」

『はい』

チェバリがうなずいたので俺はその店のドアを開けた。

「あら、いらっしゃい」

女の人が声をかけてきた。へえ、カフェか。

なんだかファンタジックというか。オレンジ色の明かりもそうだけれど、内装が木っていうのはいいなあ。なんだか落ち着く。

「座って」

おかみさん、でいいのかな。その人はお冷を出してくれた。

「初めてのお客さんだわ。フクロウちゃん、お久しぶり」

『ご無沙汰しています』

チェバリはそう言って、俺を見た。

『アモン様、人型になる許可をください』

「…そんなの許可いらんだろ。なっていいぞ」

『はっ』

チェバリ、ちょっとめんどくさいな。自由にしてりゃいいだろうに。

「フクロウちゃんが連れて来たってことは、銀河へのお客様よね?」

『はい』

「ちょっと待ってて。呼んでくるから」

おかみさんはそう言って姿を消した。おかみさん大変だろうなあ、チェバリ見て驚かないってことは何度も悪魔に会ってるってことだろうから。

「ここの息子がソロモンってことか?」

『はい。現在の名は銀河だそうです』

「現在とか言われてもな。俺はソロモンを知らねえよ」

そう言ってお冷に口を付けた。

少ししたら、青っぽい髪のやつが下りてきた。

「…何の用だ」

あ、こいつ気が強そうだな。

『ソロモン、この方が貴様に会いたいとおっしゃったのだ』

俺そんなこと言ったっけ。

「…何でソロモンとしての俺に会いに来た?何が目的だ?」

「目的とかないし。ウチに送られてきたグリモアにここの住所が挟んであったんだよ。だから興味本位で来てみただけ」

「…しらばっくれんじゃねえ。お前は誰だ。ベリアルか?グラシャラボラスか?とにかく俺は、もう悪魔には関わらない。指輪は俺のところにはない!帰ってくれっ!!」

おー。こいつすげえ怒ってるじゃん。つか指輪ってソロモン王の指輪だよな?継承者のとこにあるのか?まあどこに在っても今はいいと思うけど。

俺は席を立った。

『な、どこへ行かれるのですか!?』

「だって彼嫌がってるじゃん」

でも一言だけ言っとこう。俺、そんなに気の短い方じゃないと思うけれど、今のはちょいとイラッとしたぜ。

「銀河っつったっけ。まずソロモンとしてじゃなく、銀河として俺に会ってくれたらよかったのに」

気が立ってるのはわかるけれど。

そんなんじゃ友達できねえよ?

俺は店を出た。チェバリも慌ててついてきた。

 

 

―銀河side―

何なんだあいつは。そう思ったけれど、窓の外に大天使が見えて俺はぞっとした。

今店内に客はいない。でも母さんがいる。大天使が笑って俺を見ている。

 

『かわいそうに。彼はまだ覚醒したばかりなのに』

 

誰かの声が聞こえてきた。

俺ははっとしてドアに駆け寄った。

「どうしたの、銀河?」

「母さん隠れて!天使が来てる!」

俺はそう言って外に出た。

外では、天使が人間に触れて炎上させていた。あたり一帯がパニックになっていた。

「くそっ…!ガアプ!」

契約石のアンベチュリンのチョーカーに触れてガアプを呼ぶ。

「! またたくさん天使が来たものだ」

「いいから早く!」

「分かっている」

天使が来たのがわかれば警報が鳴るはずなのに。警報が鳴らなかったのはもう天使派の所為ということにしておく。ガアプの能力で天使に襲われた被害者を病院へ運ぶ。指定病院があるんだ、そこへ。その時、さっきのアイボリーの髪のやつが見えた。

「!?」

こっちに向かってくる。チェバリの野郎は天使を足止めしている。じゃあこいつは?やっぱり俺を殺すのか?悪魔はいつもそうだ。

俺に恨みを持っているんだ。

俺を、殺したいんだ。

「っ、」

目をつぶった。殺される。でも。

「…?」

何もない。衝撃も何も。

恐る恐る目を開けると、そこにはさっきのやつがいた。

「…大丈夫か?」

そいつに問いかけられ、俺は頷いた。何なんだ。

そいつは俺から離れた。その手には、大天使の顔が思い切り掴まれていた。

「めんどくせぇ…」

そいつはポケットから簡易結束バンドを取り出した。何でそんなものがあるんだよ。

「…?」

「銀河、逃げとけ。お母さんひとりにして大丈夫なのかよ」

「…?」

わからない。わからない。お前は何者だ?

ベリアルは前線では戦わない。グラシャラボラスだって後衛だ。バアル?ちがう、バアルはこんな光じゃない、あいつは緑主体の豊穣の象徴を纏っているはずだ。

黄色?赤?

てことは、火?

「…お前、何者なんだ?」

「…俺は亜門。大亜門だ」

そう言って、そいつは手を大きく一度叩いた。天使がこっちを見る。いや、違う。

亜門を、亜門だけを、見てる。

「なっ…んなことしたらっ!」

「…俺は悪魔なんだろ?だったら気にするなよ」

ああもうわからない。わからないんだ。

お前の名は大亜門。

それは人間の名だろう?

お前は悪魔?

人間?

待って、待って、待ってくれ!!

天使が亜門に触れそうになった。亜門はその天使を殴り飛ばす。次の天使が来る。だめだ、間に合わねえよ。

「アスモデウスっ…!」

家でゴロゴロしているやつの名を呼んだ。

助けろよ。なあ。

『うるさいわねぇ』

その声と同時に、天使の首と胴が離れた。

『ソロモン。こんなに天使いるなら早く言いなさいよ。今日は高くつくわよ』

亜門とチェバリはアスモデウスを見た。アスモデウスはゆっくりと降りてきた。

『アモン様、どうして力をお使いにならないのですか』

「…わかんねえ。血を見たくなかったのかもしれない」

亜門のそんな小さな声が聞こえて、それと同時に亜門は右手を空に伸ばした。

右手首にオレンジ色のブレスレットが光っていた。亜門の姿が炎に包まれた。

やっとしっくりきた。

「…お前…火炎侯爵か…!」

炎が晴れ、アイボリーの髪から大きく張り出した琥珀色の美しい角。尖った耳。銀色の蛇の尾がのぞいている。

何なんだよ。全然色が違うじゃないか。でも、わかる。はっきりと。火炎侯爵アモンだ。

「…本当はこの姿を見せる前にお前と知り合いたかった」

亜門がそう言った。

「…もう、無理―――かな…?」

亜門は俺を見てそう言った。

「…そんなことない…!」

俺は言っていた。

「今までのやつが俺のことソロモンとしてしか見なかった。それにイラついてたんだ…!それだけなんだ!だから、だから―――」

アスモデウスが笑ったのが見えた。

「この天使を一掃したら改めて自己紹介させろ!友達になってくれ!」

「…その言葉、待ってたぜ」

亜門の話術に乗せられちまった。火炎侯爵ってこんなんだったっけか?ああ、ますます強くなってるらしいな。

アスモデウスが俺に杖を放ってよこした。

「ありがとう、アスモデウス」

『改めて言うもんじゃないわよ。あとであの子に私を紹介しなさいよ』

「はは。お前も一緒に友達になればいいだろ」

アスモデウスから杖を受け取って、天使に向けた。

「消飛べ、浄化の力すら失ったただの炎よ。マリンブレイド!」

青い魔方陣が現れて、天使に水が当たっていく。天使がばったりと倒れた。その時だ。亜門の方で、こんなつぶやきが聞こえた。

「レインステップ」

「!」

これは。アモンがたまに使っていた、恵みの雨を象徴する魔法の一つだ。

こんな高度の魔法を使えるのか。すごいな。

雨が降ってきた。天使たちがパタパタと倒れていく。

はっとして縛られた大天使を見ると、少し悲しげな表情をしていた。すると亜門が大天使に近づいて行った。

「…何するんだ?」

「…こいつ、たぶんネロアンジェだったんじゃないかな。ほら、ネロアンジェのウェイトグレード、安定しないらしいじゃん」

亜門はそう言って大天使を撫でた。すると、大天使が燃え上がった。真っ赤な炎。紅と言っていいと思う。でも、大天使は笑っていた。

炎が晴れると、そこには真っ黒な衣装の天使がいた。

『…へえ、この子、ミカエル配下だわ』

アスモデウスが言った。そうなんだ。

「…ああ、助けていただいて本当にありがとうございました」

「…何があったんだ、ネロアンジェ?」

「…ソロモン。天界の、天使の泉は知っているよね?」

「ああ」

天使の泉。そこで天使たちは身を清めて堕天を防いでいる。

「…そこに行った天使の様子がおかしくなるって聞いて、お試ししたらこのザマだよ」

亜門が首を傾げた。

「どういうことだ?」

「…それはこっちのセリフだよ…!」

ネロアンジェが驚いたように目を見開いた。

「?」

「なんで人間がいるの…!?いやそもそも、さっき僕は確かに火炎侯爵の魔力を感じたのに…!」

「間違ってないぞお前。こいつ火炎侯爵の転生体みたいだ」

俺が言うとネロアンジェは固まった。

「…ソロモン!為すべきことを為せ!これ、ミカエル様からの伝言!」

そう言ってネロアンジェは飛び立った。

「…何だったんだ?」

「…火炎侯爵っつったら最強とか言われてるディアボロだ。それが死んだだけでも驚きなのに人間に転生してる。だからだろ」

俺が答えると、アスモデウスが俺にゲンコツをかましてきた。

「なんだよ」

『あんたの仕事増えたんだよ。まったく、次から次へと問題ばかり!あたし疲れちゃったよ~!』

だらしないなあもう!

「怠惰はベルフェゴル一人で十分なんだよ!」

『今日は焼き肉食べたいよ~!ちゃんと戦ってやったんだからいいでしょ~!』

ああもう!こうなったらテコでも動かないアスモデウスだ。しょうがない、連れて行ってやろうかな。

「…俺も行っていい?」

亜門の申し出に俺はしぶしぶうなずいた。

 

まあ、まさか全額亜門が出そうとするとは思ってなかったんだけれど。

何、亜門の家金持ちなの?そりゃそうか、強欲系統は皆金持ちだ…。

 

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