ディアボロス・サーガ   作:黄昏翠玉

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使命

 

一乗谷銀河。それが彼の名だそうだ。

「お前が初めてだよ、俺をソロモンと呼ばなかったのは」

「そっか。まあ、火炎侯爵とか言われても自覚ないし記憶ないし丁度よかったんじゃね?」

俺は焼き肉をつつきながらそう言った。

ソロモンと呼ばれることに嫌悪すら感じているそうで、みんな魔導師としての自分しか見てくれないと言って銀河は愚痴を言っていた。

「たまには愚痴を言う相手が必要そうだな。俺でよければ相手するぜ?」

そう言ったら、

「ほんとに!?ありがとう!もうお前のアニキっぷり変わんねえな!男気!」

はて。男気って俺はヤクザに使う言葉だと思ってたが用法が違うようだな。あとで調べなおしとこう。

高い肉ガンガン頼むアスモデウス。つーか美人さんだな。

「お前高校どこ?」

「ああ、赤竜に入学予定」

「そっか。俺もだよ、アスモデウスに強制入学させられることになってる」

「?」

『だってこの馬鹿、強い魔法使えるのにお金ないから高校行かないって言ってたんだもん!』

「しょうがないだろ!うちは3人入院してるんだぞ!」

へえ。銀河の母親はあそこにいたから、父親ときょうだいってところかな?

「…ってことは、あれか。アスモデウスさんが、赤竜の『グリモアを持ってるやつは特待生で迎えます』ってのを利用して入学させることに成功したわけだ」

『正解。あんたやっぱりキレ者ね~。そういうとこ変わってない。もしかしたら教科書先読みしちゃったりしてない?』

「あ、よく御存知で。火炎侯爵もだったんですか?」

『そうねー、彼はとにかくいろんな知識を取り込むのに貪欲だったわ。まさしく強欲の体現。でも、マンモンなんかよりよっぽど質のいい人だったの!…死んでしまったのが惜しいわ』

そっか。火炎侯爵ってそんなすげえやつだったのか。よかったな、俺の前世よ。みんなにめっちゃ慕われてるぞ。

『…ソロモンとしての銀河の仕事は多いわよ。入学したらすぐに火炎侯爵のグリモアを封印した方がいいわ』

アスモデウスはそう言った。

「なんでだ?」

『馬鹿ねぇ。そんなの…あら、ごめんなさい。あたしこれ言う資格ないみたい。自分たちで探してちょうだい』

何だ、そこまで言ってやめるんかい。

「そういうロックって自然と掛けられてるものなのか?」

『関係者しか話しちゃいけないことになってるの。話そうとすると何話そうとしてたかわからなくなるからすぐわかるわよ。話すことわからなくなったらそれはあなたには話すことが許されていない、誰かのプライベートのこと。そういう制約をどこかで交わしてる』

「なるほど。そういうもんか」

『あら、身に覚えがあるの?』

「友達の彼女の秘密を知った。誰にも言わないでねって言われて頷いたらそうなった」

『あら、それ痛かったんじゃない?』

「返り討ちにしてやったよ」

「…何のことだ?」

銀河にはわからなかったようだ。

「要するに、その子の弱みを握りたいやつが教えろって言ってきたけれど、なんだったかわかんなくなってさ。喧嘩馬鹿ばっかでさ、俺を蹴ったやつみんな骨折しちまったけど」

俺は悪くねえ。あいつらの骨がきっとスカスカだったんだ。

『あら、生身でも強靭なのは変わってないようね?人間の骨なんて一発で粉々ね~』

前言撤回。俺が悪いようだ。

「…とにかく、火炎侯爵のグリモアの封印をすればいいんだな?」

『そうね~。何においてもこれが先だわ。アモンはソロモン72柱の魔神の中でも最も強力な魔神。早く能力全部覚醒させなきゃ、天使派に見つかって死んじゃうかもしれないわ~』

アスモデウスさらっと怖いセリフ吐いたな。俺は銀河を見た。銀河も同じことを思ったらしい。

鶏肉が焼けた。冷ますために皿に採った。

「亜門、契約石は誰にも渡すなよ。お前まだ人間だからいいけど、覚醒したらたぶん契約石をとった相手の魂を地獄に叩き落としてルシフェルに捧げるってのを無意識にやるようになると思うから」

「銀河のセリフの方が意味不明で恐ろしいことだというのはわかった」

頼むからまだそれは理解させないでくれ。まあ、もうとっくに普通の生活は失ってるんだけれどさ。

『銀河、もう一つ』

「?」

『…天使たちの数が異常に増えてってる気がするのよ。そっちの情報はこっちで調べてみるけれど、情報が集まりきる前にプリンティパシウスが降りてくるかもしれないわ』

「!? 権天使が!?」

銀河の驚きようといったらすごかった。でも、熾天使とかいるんだろ?そんなに驚くことなのか?だって、下から3番目だぞ、権天使。

『プリンティパシウスっていうのはね、大天使と天使をまとめ上げてる天使。でも、ウェイトグレードが3だからって舐めてると死ぬわよ』

「…神子ランクE以上でないと死ぬ。一瞬で燃え上がって跡形も無く、な」

ちょ、それヤバいじゃん。ん?神子ランク?

「神子ランクってなんだ?」

『ウェイトグレードどれくらいに耐えられるかっていう指数よ~。10以上は放出する魔力を自力でコントロールすることができるから生き物に触れても平気なんだけれど、9以下はあんまり調節能力とかそのあたりの判断能力が高くなくてね。だから、天使が触れると生き物は死ぬの』

「…つまりあの火は、受け止めきれなかった魔力の塊?」

『そうよ~。高すぎる魔力は、使いきれないエネルギーと同じ。それが火の形で現れる。火は生き物を焼き殺す。それだけなの』

アスモデウスにはマジで感謝だな。それって要するに、一瞬触れられても大丈夫だけれど、長時間触れてると炎上するやつがいるってことじゃないか!裕也に教えてやらなくちゃ。親友が炎上するなんて御免だ。

『やっぱりキレ者ね~』

アスモデウスは俺の考えが読めるのか?さすが悪魔。

「アスモデウス、今指輪はどこに在るんだ?」

銀河が尋ねた。すると、アスモデウスは暗い表情になった。

「どうした?」

『…それがねぇ。なんだか、継承者じゃないやつのとこにあるみたいなのよ。とてもじゃないけれどあんな唯我独尊男に使われるのは嫌!アモンが転生しててよかった!あんな奴に引合されたら厳格なアモンは『焼き殺す』って言ってるレベルよ!悪魔でもあんなやつ願い下げ!!』

なんかめっちゃ怒ってる。そんな糞野郎なら振り払って、って無理か。指輪の効果って俺にもあるのか?あ、やばい。すごく気になってきた。

「なあ。指輪の効果って俺にもあると思う?」

「『…』」

2人して黙っちゃうのやめようよう。不安になってきちゃったじゃねーか。

「どう思う?」

『…簡単な命令無視ならできると思うけれど、もし『殺せ』的な命令だと振り切るのは難しいと思うわ…。早く継承者に指輪を渡さなくちゃいけない』

「火炎侯爵のグリモアを封印したら次は指輪を取り返さなきゃならないな。亜門、手伝ってくれるか?」

俺は頷いた。当たり前だろ。いや、俺のためってのが第一なんだけどさ、今他のやつと契約している悪魔たちも指輪に拘束される可能性があるんだと思う。だから、そういうのは嫌だから、手伝う。

『…その時、あなたは亜門としてじゃなく、火炎侯爵として戦線に立つことになるかもしれないわよ?』

「…それでもさ、いい奴もいるじゃんか、そいつらが指輪の使い方を誤ることで苦しむなら、指輪をぶっ壊してでも、強制するものを排除する」

『…あなたの魂の本質は変わってないわね。そういうまっすぐなところ、好きよ』

アスモデウスはそう言って笑った。チェバリはまだ俺の隣で丸くなっている。

「でも、指輪の破壊はできない」

『そうね』

「そうなのか?」

『私たちには無理。神々ならばできるわ』

「…?」

神々?神って一人じゃねえっけ?そう思ってふと、ギリシア神話やエジプト神話を思い出した。

「一神教がすべてじゃねえってことか?」

『そう。私はもともと悪霊型だったからどうしようもないけれど、ほかにも、闇にまわって陰で栄光を支える者が多く存在するわ。火炎侯爵もその一人』

アスモデウスは自嘲気味に笑った。

『変なの。あなたはもう人間なのに、あたしたちってやっぱり火炎侯爵の栄光の光に縋ろうとしてる。…亜門、あなたは皆からの重荷に耐えることはないわ。嫌だと思ったら、逃げたいと思ったら逃げていいの。そうじゃないとまたきっと、あたしたちはあなたを失う』

なんだか一気に話が重くなったな。でもきっとそれだけのことを俺の前世はしたのだろう。前世と重ねられるのは心地が悪い。俺じゃなく前世を見ているのだから。でも、心配してくれているのはよくわかる。よっぽど慕われていたんだな。

「…要するに、俺は自分第一に行動すればいいんだろ?任せとけ」

そう言って笑ったら、銀河とアスモデウスは笑った。その笑顔はどこか大人びていた。でも、なんていえばいいんだろう。すごく暗い笑顔だった。

―――たぶん、負け戦だとわかっていて、死ぬとわかってて敵陣に突っ込んでいく奴らを見送るやつらってこんな顔するんだろうな。

見送るやつの顔だって、俺は知ってる。

兄貴を見送った親父の顔そっくりだよ。

 

そのあとたくさん焼き肉食べて、銀河を家まで送って、俺も帰宅した。

グリモアを読み進めていたら烏が2羽現れた。

「おー。昼いなくてごめんな、ハルファス、マルファス」

『え。昨日来たの知ってたの?』

『こいつ起きてたぞ』

『え』

『なんですって!?アモン様!狸根入りだったんですか!?』

いやいやいや。フッと目が覚めただけだって。俺が笑うとカカ、とマルファスが嗤った。マジやめれ。

窓を開けてやるとハルファスとマルファスが入ってきた。

「で、ハルファスの契約者って?」

『あ、あのね…大工の息子なんだ!君と中学同じ』

「! 太一か!」

『うん!』

太一か。原田太一。大工の棟梁の息子で、将来は大工になるんだと張り切っている。まあ、手先があまり器用じゃなかったらしいんだが。

「…ああ、なるほど。建築系と聞いて太一が契約に踏み切ったんだな?」

『うん。僕が行き倒れてたせいもある』

「…つまりグリモア式じゃない」

『そう。契約石渡してギリギリ生きてます』

「…それがどうしてまた俺のところに?」

これが本題だろう。ハルファスは頷いた。

『天使からの強襲。僕は、建築物を城塞へ変えたりってことはできるけれど、はっきり言って戦えないんだ』

そういうことか。つまり、後衛だから前衛の盾が欲しいんだ。それで俺を盾にしたいと。

「いいっちゃいいけど、アスモデウスに死ぬなって言われたんだが」

『うん、わかってる。というか、もし君が死んだらどっちにしろ太一死んじゃう。僕の魔法はアモンよりずっと弱い』

『つか、アモンが怪我したところ見たことねえよ!強いやつは味方にしてるし硬いから切れない。柔らかいから打撃も効かないし、魔法でもダメージくらったとこ見たことねえ』

『だってアモンはドレイン能力を持ってるでしょ』

そんなん知らんわ。でもためになりそうだ、聞いとこう。

「…ところで二人はグリモアどうしてるんだ?」

『俺はグリモア水中に沈んでるから問題ねえな』

『僕は…ソロモンに預けてる。別の人と契約したからソロモンからの鎖役に置いてきた』

『ケッ!お前はソロモンを気にしすぎなんだっつーの!』

ハルファスとマルファスはよく似ているけれど、全然違うな。双子みたいだ。

「なあ、ハルファス、マルファス」

『『?』』

「ソロモンのこと、ちゃんと銀河って呼んでやってくれないか?」

『は?なんで?』

「…俺はさ、亜門って名前だから、火炎侯爵と名前は同じでどうしようもない。だから、悪魔たちがどっちを見て言っているのかはわからない。俺を呼んでいるのか、火炎侯爵を呼んでいるのか。でも、銀河は違う。ソロモンって名前だったけれど、今は銀河って名前だ。だからさ、銀河っていう人間じゃなく、ソロモンの魂だけを見てると主張してるんだ、みんな。そんな奴に、人間は心を開いたりしない」

『俺は別にソロモンに心を開いてほしいわけじゃない』

「…ハルファスとマルファスは能力が似てるから同一の悪魔とされることも多いそうじゃないか。マルファス、お前がハルファスと呼ばれる気分はどうだよ?」

『ハッ。馬鹿だとかその程度かとかしか思わねえな』

「じゃあそれと同じだな。でも俺からすれば、ああその程度なのか、なんて低能なんだ、馬鹿みたいだな、まだソロモンという死人に怯えてる引け腰の能無しだ。…そんなもんさ」

『てめえ、調子に乗るなよ』

マルファスはロングソードを俺の喉に突き付けてきた。

『お前をすぐに魔神にすることだって可能なんだぞ』

「魔神にすればいい。テメエを捕えて永久に放さねえよ。永遠に俺に遊ばれて生きろ。火炎侯爵は最も強靭な魔神らしいじゃねえか」

俺が言うと、マルファスが黙った。

『正気か?』

「さあな?でもお前ムカつくからさぁ…あ、でも、ほんとに俺がアモンなら相手の神格取り込めるんじゃね?マルファス殺せるかも!」

『ハァ!?』

「だって俺がお前を食い殺せばいいんだろ?」

マルファス完全に固まった。ん?ただの脅しのつもりで言ったんだけれどな?

『…亜門、目がマジ』

あ、マジ?ハルファスを撫でると、ハルファスは少し笑った。

『そっか…銀河って呼ばれたかったんだぁ。僕が呼んだら睨みつけてきたから怖くて呼べてなかったんだぁ』

そうだったのか…。まあ、あいつ気が強そうだからな。

「まあ、これから仲良くなりゃいいじゃん」

『うん!』

『…わかったよ…』

マルファスの声が少し熱っぽく聞こえたのは空耳だきっと。

悪魔にドMがいてたまるか。

 

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